【kindleセルフ出版するため、12/20頃、全編公開を終了予定】巻き戻りの転生者は、腐女子と共にハッピーエンドを取りに行く!

たいよう一花

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二章 転生人生二周目

2-4 秘密の交流 2

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(あのときは目撃者がいなかったから事故という扱いになっていたけど、俺は突き落とされたんだ。マレフィクに)

 ひと気のない階段を、手すりに縋って一歩一歩、ゆっくり上がっている時だった。あと少しで踊り場に着くというときに、マレフィクが現れ、目の前に立ちはだかった。踊り場の壁には採光ガラスがはめ込まれていて、そこから明るい日差しが降り注いでいた。その光が、マレフィクにより遮られ、影を落とす。その瞬間。

――おまえさえいなければ、トリスタンは僕のものなのに。

 マレフィクはそう言って、手すりを掴んでいたチェレステの手を払い、ひらいた両手を勢いよく突き出してきた。その手には、不気味な暗い影がまとわりついていた。
 逆光でマレフィクの表情はわかりづらかったが、それでも、その一瞬、チェレステは確かに見た。

 マレフィクが醜く顔を歪め、憎しみを向けてくるのを。
 明確な殺意を持って、チェレステの手すりを掴む手を払い、突き落とすのを。

 思い出す度、体中がこわばり気分まで悪くなってくる。それでも、チェレステは繰り返し、記憶を辿った。今回の二周目では、あの「事故」を回避しなければならないからだ。

(あのとき俺は、二年間の記憶を失った。不思議なのは、すべて思い出せないのではなく、覚えている部分もあったことだ。記憶の欠落は、部分的だった。明確に抜け落ちていたのは……トリスとの記憶だ)

 もしかしてマレフィクは、何か邪悪な魔法を使って俺を呪ったのかもしれない――チェレステはそう考え、記憶をたぐり寄せた。

(マレフィクの手には暗い影がまとわりついていたし、奇妙な気配が出ていた。たぶんあれは……何かの魔法だ)

 この世界には魔法がある。
 その性質は多種多様で、おおむね血筋によって受け継がれてゆく。
 一般人はあまり魔法に長けていないが、高位貴族になればなるほど、強い魔法と魔法力を具えて生まれてくる。
 トリスタンの闇の魔法も、その一つだ。
 闇の魔法は沈静効果を持つため、主に精神的な治癒に使われる。本来なら、チェレステが一周目で体験したような、他者を害する目的で使われることはないが、使い方によっては有害な魔法にもなり得る。あの時は狂ってしまったトリスタンにより歪められたのだろう、非常に危険な魔法に変貌してしまっていた。

 同様に、マレフィクにも何らかの魔法の力があり、それが他者を害する性質のものだとしたら、あのときチェレステはその力によって記憶を失ったのかもしれない。

 しかし現時点では、明確な証拠は何一つない。
 
 少しでも真相に近づくため、チェレステはこの一年半マレフィクに関する情報を集めてみた。しかし子供であるチェレステに出来ることは限られているため、知り得たのはごく表面的なことだけ。

 彼の名前は、マレフィク・アビスアール。アナイアレイト伯爵の第二子。金髪碧眼で眉目秀麗、眩しいほど華やかな容貌をした美少年だ。
 アビスアール家は、トリスタンのステラデューク家と、昔から親交がある。
 一方、チェレステとの接点は、マレフィクと同級生だった以外、何もない。マレフィクの父親が治める伯爵領は、チェレステの父が治めるウェード男爵領から遠いし、両家の間に交流は一切なかった。チェレステはマレフィクと、王都の学園に入って初めて会ったのだ。

(階段から突き落とされる前にマレフィクが放った言葉……。あいつはトリスを好きだった……のかもしれない。そしてあいつはなぜか、俺とトリスの交流を知っていたらしい……)

 なぜかはわからない。
 真相を突き止めるために、マレフィクを視界に収めてスマホで検索をかけてみようかと思ったこともあるが、アナイアレイト伯爵領は遠い。まだ子供のチェレステが単独で行くことはできないし、行けたとしても、マレフィクに気付かれずに近づくことは難しいだろう。もしこちらの存在に気付かれたら、どんな危険があるか予測もつかない。
 そのためチェレステは、起こり得る事態に対して回避および防御策をとることにした。

 まず、今回は学園には入学しない。
 そして、マレフィクと何らかの形で遭遇し襲われた際に備えて、防御を固めておく。

 この世界には、身を護るための特殊な魔法やアイテム、霊薬が数多く存在する。幸いチェレステには、どんなものが役に立つのか、それを入手するためにはどうすればいいか、よく知っていた。一周目の経験がある上に、前世から持って来た豊富な知識を所持しているからだ。奇妙かつ幸運なことに、前世で夢中になったゲーム「フジョルト」に登場したアイテムはほとんど、今生きているこの世界にも存在している。
 それらの知識に加え、一周目の人生で知り得た知識と技術を合わせれば、護身に使えるアイテムを豊富に揃えることができるはずだ。その準備は、着々と進んでいた。

「どうしたの、チェル? 真剣な顔で黙り込んで」

 チェレステはハッとして考え事を中断させた。
 王都の学園に入る話を、トリスタンとしていたことを思い出す。

「あ、ごめん。何でもない。そうか、トリスは、王都の学園に行くための勉強で、忙しいんだね」
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