【kindleセルフ出版するため、12/20頃、全編公開を終了予定】巻き戻りの転生者は、腐女子と共にハッピーエンドを取りに行く!

たいよう一花

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四章 転生人生三周目

4-1 二人のリスタート

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 暗転のち、二人の人生はまたもや、巻き戻った。

 慟哭どうこくを色濃く引きずりながらチェレステが目を開けると、目前にトリスタンの姿があった。

 出会った頃の、小さなトリスタンの姿が。

 周囲は草原。すぐそばには木立こだちが見え、豊かな自然が広がっている。そして梢の遥か向こう側には、聖王家の所有する別荘、優美な緑風館りょくふうかんの屋根が覗いていた。まぎれもなくここは、二人が出会った精霊の地だ。

「トリス……」
「チェル……」

 二人はお互いの目を見交わし、ほんの数秒放心したのち、ひしと抱き合った。

「ああ、トリス、トリス! 痛かっただろ、苦しかっただろ、トリス!」

 チェレステはトリスタンの背中をさすりながら、咽び泣いた。

「チェル……もう大丈夫だ。今はもう、何ともない。私の方こそ……おまえにどれほど心痛をかけたか……すまない、チェル」

 泣きじゃくるチェレステを、トリスタンはその小さな体で包み、慰めた。
 お互いのぬくもりが、この世界でただ一つの拠り所のような気がした。

 抱き合ううちに次第に落ち着きを取り戻し始めた二人は、やがて現状の把握に乗り出した。
 どうやら二人は、初めて出会う瞬間に巻き戻ったらしい。

 チェレステは十一歳、トリスタンは九歳の、子供時代の初夏に。

「今回はここからか……。もどかしくはあるが、たっぷり時間がある。対策が充分に取れそうだ。それに……」

 トリスタンは自分の小さな手を眺め、次にチェレステに笑顔を向けながら言った。

「一人ではなく、目の前におまえがいる。この瞬間からのスタートで良かった」

「うん。俺もそう思う。もし一人だったら、気が狂いそうになってただろうな」

 チェレステはトリスの手を両手で包みながら、続けた。

「……トリス、今回で、最後にしよう。まずはマレフィクだ。あいつを何とかしよう」

「マレフィク? アナイアレイト伯爵の息子か? わがままで幼稚で陰湿な」

 そう言ってトリスタンは、眉間にしわを寄せ、顔を歪ませた。虫唾むしずが走る、と言わんばかりに。
 あどけない子供の姿をして高い声でしゃべるトリスタンに、大人の表情と言葉が交じっているのを見て、チェレステはクスクスと笑った。

「トリス、すごく可愛い。何度も子供のトリスを目の前で見れるなんて、ある意味これ、お得な状況だな」

「ハハ、それはこっちのセリフだ、チェル。前回が終幕して残念だが、少年のおまえの愛らしさには、格別の風情がある。さあ、もっとよく見せてくれ。キスしてもいいか?」

 声変わり前の美しいボーイソプラノでそう言われ、チェレステはこの奇妙な現象に頬を緩ませた。求めに応じ、すぐさまチュッとトリスの唇にキスをして、肩に手を置く。

「今はここまでね、トリス。あとでゆっくりしよう。今は、話しておかなきゃいけないことがある」

 チェレステはトリスタンと手を繋ぎ、木立の奥へと、歩みを進めた。

「さあ、一緒に、ループをやっつけに行こう」

「そうだな。共に立ち向かおう」

 今回は、一人で悩まなくていいのだ。
 二人、手を取り合って共に困難を乗り越えていける。
 強い気持ちが胸に芽生え、勇気があふれ出すのを感じた。
 その思いを共有しながら、二人は木立の奥、精霊の地の深い深いふところへと、入っていった。
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