8 / 63
アカズキン(狼×女主/狩人×女主/ヘタレ/擬人化/ロリ)
初めての場所_2
しおりを挟む目の前に出されたのは、ベーコンエッグとトースト。そして嗅いだことのある匂いの黄色い液体。恐らくコーンスープだろう。サラダボウルに乗せられた野菜達は瑞々しく、こんがりと焼かれたパンは、美味しそうな焦げ目の上にバターが乗っており、半分溶けたソレは非常に良い匂いを醸し出していた。
「オレンジジュースとミルク、どっちにする?」
「んー……オレンジジュース!」
ノイは出来るだけ子どもっぽく、明るく喋るよう努めた。
「はい、どうぞ。……ミルクもきちんと飲まなきゃダメよ?」
「は、はぁい」
「もう……。昨日はよく眠れた?」
「えっ……ま、まぁまぁよ」
「そう? 気のせいかしら? 少し顔色が悪いように見えるのだけれど」
「き、きっ、気のせいよ! だから、うん! 心配しないで!」
「……なら良いのだけれど。夜更かしはダメよ?」
「分かってる! ……あー! お腹空いちゃった! いただきまーす!」
微妙な空気を誤魔化すように、ノイ、は大袈裟に食事をし始めた。
パリパリと音を立ててレタスを咀嚼し、トマトを嚙み潰す。パンはジャムも添えられていたが、敢えて塗らずにバターの風味を楽しんだ。
「あ、そうそう。ノエルにお願いがあるの。」
「なぁに? ……か、母さん」
「お母さんの姉さんのところに、あの葡萄酒と、パンを届けてくれないかしら? 熱で身体が自由に動かなくて、困っているみたいなの」
「姉さん? おばあちゃんじゃ、なくて?」
「何を言ってるの? おばあちゃんなら、この家にいるじゃない」
「……おやおや、みんな早いねぇ。おはよう」
「お母さん、おはよう」
「おはようノエル」
「おは、よう……」
ノエルのお母さんに『お母さん』と呼ばれた老婆が、【おばあちゃん】であることは明らかだった。
"話が……違う……?"
ノイの知っている赤ずきんは、おばあさんの元へ向かう筈だ。葡萄酒とパンを持って、途中で狼に会って花を摘むという道草を食い、おばあさんの元へ。その間に食べられて狼が成り代わり、お腹の中のおばあさんを助ける。
登場人物は、赤ずきんとその母、おばあさんに狩人、そして狼だ。母親のお姉さんなど、存在しない。
"これ……勝手に話が出来上がってる……? もしくは、ウタが話を捻じ曲げている、か……"
真実は分からない。が、どちらにしろ、赤ずきんとなったノイに選択肢は無い。その【お姉さん】とやらに、葡萄酒とパンを届けなければ。ノイにも本物のノエルにも、明日が来ないのだ。
"ケープだとか登場人物の一部だとか、細かいところは、忠実なのに、ね……"
「これが念のための住所よ。……と言っても、何度も行っているから平気かしら?」
「えっ、あっ、ちょうだい! そ、その、一応、ね。は、はは……」
「……変な子ね? まぁ良いわ。最近変な人が多いみたいだから。気をつけてちょうだい」
「えぇ、分かったわ。ご飯を食べ終わったら、すぐに行くから」
ノイは、これからどう話を進めて行くか、キーパーソンとなるおばあちゃんが、母の姉に変わったことで、どう影響するのか、他の狼や狩人はどうなっているのか、考えを巡らせながらご飯を食べた。
「あ、そういえば……住所、って、森の奥じゃない、よね?」
「あらやだ、覚えていないの? 隣町じゃない、あんなに何度も行ったのに、忘れちゃった?」
「あ、はは。最近忘れっぽくて。あはは、はは」
「……まぁ、最近は行っていなかったものね、嫌がって。そういえば、どうして行くのを嫌がったの?」
「う、うーん……。その、気分じゃなかった……かも……?」
誤魔化しきれたかどうかは怪しいところだが、急いで食べ進める。
"どうしよう、なんか、知っている話と全然違うんですけど!?"
ノイは大きな不安を胸に抱えながら、母の姉の元へ向かう為の準備を始めた。
3
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
私が美女??美醜逆転世界に転移した私
鍋
恋愛
私の名前は如月美夕。
27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。
私は都内で独り暮らし。
風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。
転移した世界は美醜逆転??
こんな地味な丸顔が絶世の美女。
私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。
このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。
※ゆるゆるな設定です
※ご都合主義
※感想欄はほとんど公開してます。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果
ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。
そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。
2023/04/06 後日談追加
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる