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ハイカブリ(同居人×女主/王子×女主/複数/媚薬/歪/二穴)
始まりの始まり_2
しおりを挟む「あの、私は行かなくても良いのでしょうか?」
「寧ろ、行かない方がいい。──それと、敬語じゃなくていい。違和感があるからね」
「あ……ごめんなさ……ごめん、シア」
「そう。それで良い」
ニッコリとシアの顔は、そのまま見つめていたら見惚れてしまうほどの美形だった。
「だーもう! だから! フレリアは貴方にゃやりません!」
「私はこの国の第一王子です! その私が、迎えると言っているのですよ?」
「フレリアにはまだ早い! 帰ってくれ!」
外からランスの怒鳴る声が聞こえる。開いた窓からだ。カーテンを靡かせる風と共に、ランスともう1人、男性の声が入ってきた。
"え、何? 王子? 王子が登場する話なの?"
それだけでは、まだ何の物語なのか察することは出来ない。もう少し、詳しい情報がなければ。
兄が2人いる物語。そして王子。あの白鳥の話には、兄の数が足りない。青髭は、一人ではなかったっけ。
いや、そもそも、兄が2人いる物語とは限らない。先の赤ずきんだって、母の姉妹の旦那なんて、イレギュラーな人間が出てきたのだから。今回も、そんなイレギュラーな存在がいるかもしれないのだ。
「はぁ……窓は閉めておいたほうが良かったね」
シアは大きく溜息を吐くと、申し訳なさそうな顔でフレリアの顔を見た。
「シア? 聞いても、良いかな」
「なんだい?」
「あ、座ってね。ベッドに。構わないから」
パンパンと空いているスペースを叩き、シアに座るよう促す。応えるようにシアはベッドへと腰をかけた。
"私は、フレリア。そう、フレリア……"
「えっと、ランスと言い争い? をしている方は誰なの? ランス、とても苛々しているようだけど」
仲の良い友人に話しかけるように、ノイはフレリアとしての振る舞いを模索しながらシアへ質問した。
「……そうだね、私たちのことを覚えていないのだから、あの方のことを覚えていないのも当然ですね」
「あの方……」
「名前は、【ギルバート】です。この国の、王子」
「王子……えっ、本当に王子!?」
「えぇ。何か?」
「あっ……う、ううん。そ、それで?」
「ギルバートは、貴女、フレリアに恋をした。そして、ある日勝手に貴女のその指に指輪をはめ、『指輪がピッタリあったのだから、貴女は私の花嫁だ!』そう言って、貴女を連れ去っていった」
「はっ……はぁ?」
「信じられないでしょう? 自分勝手過ぎて」
「……本当に」
かなりぶっ飛んだ性格の王子のようだ。窓の外では、今もまだランスとギルバートの言い争う声が聞こえる。
「それで、私達、私とランスが、貴女を拐い返した。王子には、名ばかりでも婚約者がいたからね。王は納得していなかったから、お咎めなく連れ帰ることが出来た。その時、指輪を外して、投げつけてやったよ」
「……有り難う、なんだかスカッとしたわ」
「いいえ。それくらいはしないと。あの日はパーティーがあってね。二十四時の城の鐘の音を合図に、上手くことが進んで良かった」
「……二十四時……外したピッタリの指輪……パーティー……帰る、私……」
「どうかした?」
「えっあっ、何でも……」
「パーティーだったから、貴女の大事にしていた、お母様のドレスを着ていてね。それも一緒に持って帰ることが出来たから、万々歳だよ」
「母の形見のドレス……パーティーに、着ていた……」
"まさか……"
ノイは、ゴクリと唾を飲み込んだ。そして、自分が想像した物語かどうかを確かめる為、一つ質問をした。
「……庭に、ハシバミの木はあって?」
「思い出したのかい!? あぁ、あるよ! フレリアが家に来た日に植えた木だ!」
ノイは自分の予想が当たったことに、喜びながら思った。
"フレリアのお母様……どうか私をお守りください"
そして、小さな声で呟いた。
「……灰かぶりね」
「なんだい?」
「なんでもないの。ゴメンなさい、やっぱり、思い出せないわ」
窓の外ではまだ、二人の声が響いていた。
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