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ハイカブリ(同居人×女主/王子×女主/複数/媚薬/歪/二穴)
始まりの始まり_3
しおりを挟む"そうなの……灰かぶりなの……"
それならば、自力でどうにかするしかない、ノイはそう思った。シンデレラであれば、まだ魔法使いがやってくる。しかし、灰かぶりには魔法使いは存在しない。主人公が、自力でのし上がり、最後には継母と姉に直接ではないが仕返しをする。
──しかし、おかしい。継母も姉もいないのだ。いるのは変わりにとても親身になってくれる、兄二人──。
「……ねぇ、えっと、貴方達のお父様は……?」
「父は商人でね。なかなか家にいることは少ないよ。でも、フレリアのことは、とても可愛がっていた。本当の娘のようにね」
「……では、お母様……は?」
気になるが、聞きたくないような気もする継母について。仲が悪いかもしれないが、兄がこの状態ならば、大丈夫かもしれない。もしかしたら、存在そのものもないかもしれない。
「母? 母かい? ……そうか、フレリアのその姿を見て一番悲しむのは、母かもしれないね」
「……え?」
プッと吹き出すようにしてシアが笑う。
「……アンタいい加減にしなさいよ……! 王子だからなんなの! 娘はやらないよ、とっとと帰った帰った!」
外から、一際大きな声が入り込む。女性の声だ。とても怒っている、怖い。
「……噂をすればなんとやら、だね。母だよ、あれが」
──バタン!
大きくしたからドアの閉まる音がする。恐らく玄関のドアだ。ドタドタと階段をのぼる音が大きくなり、それはそのままどんどんと近づいてくる。
ドンッ──!
「フレリア!」
勢い良く開けられた部屋のドア。今にもタガが外れそうだ。
「ひゃっ……!」
余りの勢いに驚いて声が出る。
はぁはぁと息を切らせて目の前に立っていたのは、ふくよかな女性だった。──見たことはない、女性。
「あの馬鹿は追い返したからね! もう大丈夫だよ。……ったく、本当に懲りないんだからあの馬鹿王子は……」
遠慮なく王子に向かって【馬鹿】と呼ぶ、この豪快な女性。この女性が【継母】ということなのだろうか。
「母さん、落ち着いてください」
「あ……あぁ、すまなかったねフレリア。熱はどうだい? 下がったかい? 無理しちゃあダメだよ。あぁそうだ、林檎を貰ったんだよ、剥いてきてあげるからね、食べな」
「あ……有難う……ございます……」
「……? 変な子だね、急にしおらしくなって。まだ熱があるのかい?」
「あ、あの……」
「母さん、落ち着いて聞いて欲しいんだけれど」
「何だい急に……」
「フレリアなんだけれど……どうも、熱のせいなのか、記憶を失ってしまって……」
「……はぁ!?」
思わず身体を引いてしまうような、大きな声が先程から部屋に響く。驚きを隠しきれない母親に向かって、シアが段階を踏んで一つ一つ説明をした。……とても信じられないだろう。突然記憶をなくすだなんて。
「……で? 本当に何も覚えていないのかい?」
「……はい」
「……仕方ないねぇ、取り敢えず、ゆっくり休みな」
「すみません」
「気にするんじゃないよ。……あ、しかし、あの約束も忘れたのかい?」
「あの……約束……?」
「シアかランス、どっちかと結婚するって話だよ!」
「母さん! そんな約束はしていないだろう!?」
「あれ、違ったかねぇ? まぁいいさ、林檎剥いてくるからね、待ってな」
大きく笑って、継母候補は部屋から出て行った。
「まぁ……母さんはいつもあんなんだ。気にしないように」
"なんだか……なんだかとても拍子抜けしたわ……。意地悪な人なんて、誰一人いないじゃない……"
この世界は灰かぶりでも、家族は主人公となるフレリアに対して冷たくもなく、意地悪もしない。寧ろ、とても優しく、血の繋がりがない他人でも、本当の家族のように接してくれていた。きっと、きっとこの兄二人とその母が、あの意地悪な継母と姉の想定なのだ。
"でも、ちょっと……約束は気になるかも……"
チラリ、とシアの方に目をやると、ぷいと目を逸らされた。微かに見える耳は、どこか赤みを帯びているような気がした。
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