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第六話
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「親が親なら子も子のようね。本当に、役に立たないわ」
頭に上った血を少しでも下げようと、パルメは、パタパタと扇子で風を起こした。最近腰回りに肉が付きやすくなり、運動不足も相まって、肉襦袢をまとっている。いくら扇いでも一向に体は冷めない。
「貴女達、必死さが足りないのではなくて?折角見目の良い娘を手にしているのだから、もっと頭を使いなさい!」
淑女らしからぬ激しさで怒鳴るパルメに、取り巻きをしている面々も悔しさに唇を噛む。彼女達とて、手をこまねいてきたわけではない。長年、王家と縁続きになることを望み、手塩にかけて娘を育ててきたのだ。見た目も年齢も下り坂のパルメに貶されて気分が良いものではない。
魔力量の多さが力と見なされるこの国では、第三王子と言えども、王位継承の可能性が多いにある。このまま、みすみすポッと出の新参者に優良物件を攫われるのは、悔しくてたまらないし、きっと、何か他に手があるはずだ。
沈黙が続く中、
「ヘインズ公爵夫人、その幼女を、まだ魔力の扱いが不安定なアルペジオ殿下の生きる魔力吸収リングと考えてはいかがでしょうか?」
ある伯爵夫人が、手を挙げて発言した。その言葉に、暗い顔をしていた取り巻き達も息を吹き返す。
「そうですわ!十二歳で、成人男性の百倍にも及ぶ魔力量に耐えたアルペジオ殿下のことですもの。成人を迎える頃には、そんな小娘がおらずとも、魔力を自由自在に操られるはず!」
「三歳の幼女が、子を成せるようになるまで、最低でも十年以上はかかることでしょう!」
「それまでには、我々の娘達も王妃たるに相応しい資質があると証明いたします」
「年齢の釣り合った妙齢の女性を目の前にすれば、殿下とて男。歳の離れた小さな婚約者など、直ぐに忘れてしまいますわ!」
「本当に……閨教育が始まる頃には……ねぇ……ふふふふふ」
暗に『男の欲を満たしてやれば良い』と囁く悪知恵の働く貴婦人達は、その後も次々に姑息で卑怯な手段を提案していく。
パルメは、その案に、少し心が揺らいだようだ。
もし仮に、アルペジオが短命だとしても、産まれた子供が跡を継ぐのだから、生母の実家が力を持てることに変わりない。
「なるほど。では、貴女達の娘が、アルペジオ殿下を篭絡出来るほど魅力的な貴婦人になれることをねがっておりますわ。ほほほほほ」
パルメの機嫌が幾分直ったことで、お茶会の雰囲気は、一瞬和らいだ。
しかし、
「それに、今後、どんな『不慮の事故』に巻き込まれて、その婚約者が死ぬか分かりませんものねぇ」
と言葉を続けたことで、参加者達は、恐怖にヒュッと息を呑んだ。それでは、まるで暗殺予告ではないか。
たとえ我が子が第三王子の婚約者についたとしても、パルメの意に沿わぬ行動をした場合、消されることもありうるのか?ただの冗談と一蹴することも出来ぬまま皆帰宅の途についたが、パルメの底しれぬ恐ろしさを知り、寒気が抜けない。
その夜、
「今日の茶会はどうだった?」
と夫に問われ、妻として、娘を持つ母として、彼女達は考え抜いた挙げ句、異口同音に、
「あまり体調が優れず……暫く、娘を連れて、領地に帰ってもよろしいでしょうか?」
と言葉を絞り出すので精一杯であった。
頭に上った血を少しでも下げようと、パルメは、パタパタと扇子で風を起こした。最近腰回りに肉が付きやすくなり、運動不足も相まって、肉襦袢をまとっている。いくら扇いでも一向に体は冷めない。
「貴女達、必死さが足りないのではなくて?折角見目の良い娘を手にしているのだから、もっと頭を使いなさい!」
淑女らしからぬ激しさで怒鳴るパルメに、取り巻きをしている面々も悔しさに唇を噛む。彼女達とて、手をこまねいてきたわけではない。長年、王家と縁続きになることを望み、手塩にかけて娘を育ててきたのだ。見た目も年齢も下り坂のパルメに貶されて気分が良いものではない。
魔力量の多さが力と見なされるこの国では、第三王子と言えども、王位継承の可能性が多いにある。このまま、みすみすポッと出の新参者に優良物件を攫われるのは、悔しくてたまらないし、きっと、何か他に手があるはずだ。
沈黙が続く中、
「ヘインズ公爵夫人、その幼女を、まだ魔力の扱いが不安定なアルペジオ殿下の生きる魔力吸収リングと考えてはいかがでしょうか?」
ある伯爵夫人が、手を挙げて発言した。その言葉に、暗い顔をしていた取り巻き達も息を吹き返す。
「そうですわ!十二歳で、成人男性の百倍にも及ぶ魔力量に耐えたアルペジオ殿下のことですもの。成人を迎える頃には、そんな小娘がおらずとも、魔力を自由自在に操られるはず!」
「三歳の幼女が、子を成せるようになるまで、最低でも十年以上はかかることでしょう!」
「それまでには、我々の娘達も王妃たるに相応しい資質があると証明いたします」
「年齢の釣り合った妙齢の女性を目の前にすれば、殿下とて男。歳の離れた小さな婚約者など、直ぐに忘れてしまいますわ!」
「本当に……閨教育が始まる頃には……ねぇ……ふふふふふ」
暗に『男の欲を満たしてやれば良い』と囁く悪知恵の働く貴婦人達は、その後も次々に姑息で卑怯な手段を提案していく。
パルメは、その案に、少し心が揺らいだようだ。
もし仮に、アルペジオが短命だとしても、産まれた子供が跡を継ぐのだから、生母の実家が力を持てることに変わりない。
「なるほど。では、貴女達の娘が、アルペジオ殿下を篭絡出来るほど魅力的な貴婦人になれることをねがっておりますわ。ほほほほほ」
パルメの機嫌が幾分直ったことで、お茶会の雰囲気は、一瞬和らいだ。
しかし、
「それに、今後、どんな『不慮の事故』に巻き込まれて、その婚約者が死ぬか分かりませんものねぇ」
と言葉を続けたことで、参加者達は、恐怖にヒュッと息を呑んだ。それでは、まるで暗殺予告ではないか。
たとえ我が子が第三王子の婚約者についたとしても、パルメの意に沿わぬ行動をした場合、消されることもありうるのか?ただの冗談と一蹴することも出来ぬまま皆帰宅の途についたが、パルメの底しれぬ恐ろしさを知り、寒気が抜けない。
その夜、
「今日の茶会はどうだった?」
と夫に問われ、妻として、娘を持つ母として、彼女達は考え抜いた挙げ句、異口同音に、
「あまり体調が優れず……暫く、娘を連れて、領地に帰ってもよろしいでしょうか?」
と言葉を絞り出すので精一杯であった。
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