泣く男

いち こ

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泣き屋誕生⑦

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では、春香が助手になったら? 
 
それは全く考えたことがない。想像もしようがなかった。二人とも故意に、その話題を避けてきたのかもしれない。
どうするか? 良い考えは浮かんで来そうになかった。
 
                  三

次の日の十四時に、俊のスマホが鳴った。出ると安井教授からだった。
 その日は月曜日で、毎週月曜日と金曜日は安井は午前中、教育研究科で精神医学の講義をしていた。

午後は、論文の下調べや教え子たちに面接による指導を行っていた。
「話したいことがある。直ぐに来い」
 
慌てて、心理臨床棟の五階にある安井教授の研修室に行くと、春香も来ていた。
安井は二人の論文を見て、怒りが天に達する感じであった。
 
安井の研究室に入る途端に罵声を浴びせられた。
「馬鹿野郎! 紙屑を提出しやがって」
 
安井は二人の論文を床に叩きつけると、そのまま、革靴でギュギュッと踏み潰した。
「あほ! 能なし! あほあほあほあほあほあほあほ。糞野郎! 糞女!」
 
俊は春香の顔を見る。春香も、理解ができない顔をしている。論文の出来が悪い状況は分かる。だが、どこが悪いのか、何を直せば良いかが分からなかった。
 
俊が恐る恐る質問をする。
「先生。申し訳ございませんが、どこが悪いのか、ご指摘を願えませんか?」
 
安井は憤怒の顔をして、いよいよ取り付く島もない感じになった。
「俺が、普段から念押している注意点だ! 分からないのか! 何年、俺の指導を受けている! それが守られていない!」
 
事例だ。すぐに俊は、ピンと来た。
しかし、事例を多く加えれば加えるほど、論文の客観性が低くなる気がした。エビデンスがない。恐る恐る語ってみた。

「でも、提出した論文はリサーチをやって、十分に数値上の証明ができていると思います」
 抗議の声を聞いて安井の顔面が赤くなる。怒りが頭に上がってきている雰囲気だった。

「お前は、俺に反抗するのか? 指導教官に反抗するのか?」
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