悪役令嬢の金魚のフンが返り討ちにされ美味しく食べられた話

犬っころ

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第四章 ヴォルフリートの裏の顔

59 プライドの塊

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Good boyよくできました

 その一言が落ちた瞬間だった。
 ほんの少し褒められただけなのに、恐怖と歓喜がないまぜになった感覚が全身を駆け巡る。皮膚の下を熱が駆け抜け、心臓が耳の奥で爆ぜるように脈打つ。息が浅くなり、頭は酩酊したようにぼうっと霞み、理性の歯止めが一瞬で吹き飛ばされた。

ビリビリと肌を撫ぜ、かぁっと全身が熱くなっていくこの感覚は未だかつて感じたこともない。

 レオナールの体は、意思とは裏腹に震えながらも――圧倒的なDom性に全てを委ねたがっていた。
 ……命令して。従って。開いて。褒めて。満たしてほしい。
 そんな惨めで抗えない願望が、脳裏に赤裸々に浮かび上がってしまう。

「セーフワードとNGコマンドは?」

「……セーフワードは紅茶。NGは……エロくなるもの全部」

 その声はかすれ、喉の奥から搾り出すようだった。
 「紅茶」――アナスタシアを象徴する優雅で日常的な響き。場違いで笑ってしまうほど俗っぽいからこそ、セーフワードにふさわしい。

Subに許可を取らずにプレイに及ぶと犯罪行為に該当する、そしてセーフワードとNGコマンドを尋ねる事が犯罪かそうでないか左右する大きな要因になる。

 言い終えると、ヴォルフリートは「よくできました」とでも言いたげに、白い指をレオナールの髪に差し入れた。撫でる仕草は驚くほど優しく、大事なものとでも言わんばかりの触れ方だ。その手先もレオナールと体温を分け合ったかのように温かさを取り戻していた。

Kneelニール

 「お座り」「跪け」を意味するその言葉に、レオナールの体は考えるより先に反応していた。

ヴォルフリートの膝から降り、彼の足の間に膝を折り――正座を崩したように、ぺたりと腰を落とす。背筋はどこか甘えを孕んで丸まり、視線は泳ぎ、肩は小さく震えていた。

 目は惚けて潤み、荒い呼吸が吐息となって重なる。だが先程までの危うく乱れた呼吸とは違う。そこには、命令に従うことで得られる安堵と、支配に身を委ねる快感が確かに刻まれていた。

Lookこっち見て

 甘く囁かれた命令に、レオナールの首が勝手に動いた。
 視線の先には、相変わらず端正で気品を湛えたヴォルフリートの顔がある。だが――その美貌の奥に潜む残念な性癖を知っているからこそ、どこか危うくてたまらない。

Sub Dropサブドロップには入ったことある?」

 穏やかな声が重く響く。
 Sub Dropサブドロップ――本来なら強烈なGlareグレアを受けたり、アフターケアを怠ったり、Domとの相性が悪いときに引き起こされる。
 だが一方で、体調不良や欲求不満が続いた結果でも起こり得る。軽度のものなら気づかれずにやり過ごされることもあるが、放置されれば命に関わるほど危険な症状へ進行することさえある。

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