悪役令嬢の金魚のフンが返り討ちにされ美味しく食べられた話

犬っころ

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第五章 破滅への輪舞曲

70 相手の泣き顔にしか興奮できない

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「本当は、どうされたいの?」

 囁きは甘く、それでいて鋭利な刃のように心臓を抉る。
 耳元に落ちるその響きだけで、体の奥底を支配される感覚に襲われた。

 レオナールは唇を強く噛み、首を横に振る。
 意地だ。拒絶の意思を示さなければ、自分が自分でなくなる気がした。

「関係無いっ……」

 震える声。吐き出した瞬間、虚しく胸に跳ね返る。

「私はね、相手の泣き顔にしか興奮できない人間なんだ」
 ヴォルフリートの声はあくまで穏やかで、だからこそ残酷だった。

「君に希望がないなら――いつも通りやらせてもらうよ。
 関係値の築けていないDomとSubがキツいプレイをすれば……Subはただ苦しいだけ。いいのかい?」

 脳裏に浮かんだのは、呼吸を奪われるような圧迫。
 痛みに塗りつぶされ、涙すら乾くような惨めな光景。
 恐怖と絶望が絡み合い、レオナールの体は小刻みに震えた。

「……やだ」

 喉から洩れた声は、抵抗ではなく祈りに近かった。

「じゃあ、どうされたいの? ――Say教えて

 命令。背筋を這う感覚に抗えない。
 頭の中に警鐘が鳴り響くのに、体の奥から湧き上がるのは「従わなければならない」という衝動だった。

 観念したように、レオナールは息を吐き、言葉をこぼす。

「……優しくされたい、男のSubでも許して、……痛くしないで、頭撫でて……沢山褒めて……」

掠れた声。幼子の願いのように拙く、脆く。
 その告白は、彼がどれほど自分のSub性を嫌悪してきたかを示すと同時に――心の奥底で救いを求め続けてきた残酷な証だった。

 ヴォルフリートの瞳が、わずかに揺れる。
 泣き顔しか愛せないはずなのに、今目の前で縋るように必死で願いを吐き出すこの姿は、あまりに愛おしすぎた。

 「……そうか」
 ヴォルフリートは小さく笑みを浮かべ、震えるレオナールの髪にそっと手を伸ばした。

 月明かりに照らされた銀髪を指先で梳きながら、囁く。

Good boyよくできました

 その一言で、レオナールの肩の力がふっと抜ける。
 とろんと潤んだ瞳が、子犬のように縋る色を帯びる。
 必死に抵抗していたはずなのに、褒められるだけでここまで無防備に緩んでしまう――その姿が、ヴォルフリートにはたまらなく甘美だった。

 ――今すぐ抱き潰したい。
 泣き顔を見たい。
 この喉を震わせて、自分だけの名を呼ばせたい。


 「……君に触れたい」
 低く、熱に濡れた声。

「……いやだ」
 レオナールはかろうじて首を振る。けれど、その拒絶には力がなかった。

「少しだけでいいんだ。……セックスはしない」

 囁きは甘く、切実で、逃げ場を与えない。
 “だから、ね?”
 その一言が最後の楔となり、レオナールの抵抗はあっけなく崩れた。

 気づけば、冷たい指先が制服のボタンを外していた。
 力なく払いのけようとする手は、ヴォルフリートの掌に絡め取られ、簡単に制される。

 ――あっという間だった。

 月明かりが差し込む窓辺。
 白いローブを纏ったヴォルフリートの影の前で、自分だけが無防備に晒されていく。
 冷たい夜気に肌が震え、心臓が暴れる。

 羞恥と恐怖が入り混じるその感覚に、レオナールは思わず顔を逸らした。
 頬が熱く、視線が合わせられない。
 それでも月光は容赦なく彼を照らし、裸の上半身を淡く浮かび上がらせた。

「……恥ずかしい……」

 小さく呟いたその声さえ、ヴォルフリートの耳には甘美な音楽のように響いた。
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