悪役令嬢の金魚のフンが返り討ちにされ美味しく食べられた話

犬っころ

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第五章 破滅への輪舞曲

74 可愛い君が悪い

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 ヴォルフリートは、絶頂の果てに沈み、サブスペースへ堕ちて眠り込んだレオナールの頬に、指先をそっとすべらせた。

白い。
それでいて生きた体温のにじむ肌は、汗を纏った絹のように指を吸い寄せる。触れただけで赤みを帯び、痕のように染まっていくのが堪らなかった。

伏せられた睫毛の奥にある大きな瞳を思い出す。怯えにも似た揺らぎを帯び、すぐに涙を溜めてしまう小動物のような目。そこに映される自分を思うだけで、胸の奥が鋭く疼く。小さな鼻。かすかに開いた唇。噛み破りたいほど甘美な柔らかさ。

だが欲しいのはそれだけじゃない。
細い腰の弧、淡く色づいた乳首、昂ぶりに濡れて脈打つ性器。
そして奥に隠された狭間――その全てが、ヴォルフリートの欲望を焚きつけ続ける。

「……君の全部を、私のものにする」

掠れた声は熱に焼かれた誓いのようで、それでいて宣告でもあった。
半年、焦がれるように求め続け、ようやく抱きすくめた。ようやく捕まえた。

――逃がすものか。

これからさらに自分好みに染める。声も、表情も、仕草も、喘ぎも。
過去の女やDomの影を消し去り、レオナールという存在を、自分ひとりの色に塗り替えていく。

Domとは、矛盾に満ちた生き物だ。
支配したい。跪かせたい。泣かせたい。思い通りにしたい。
けれど――そのSubからの信頼なしには、すべてが砂上の楼閣にすぎない。

従わせることでしか得られない愛情。
痛みと快楽の境界でだけ結ばれる絆。
その二つが重なった瞬間だけが、真実の熱を生む。

「明日は、飛び切り気持ちいいセックスを教えてあげる」

眠りに落ちた少年の耳朶へ囁く。
その声は甘美に響きながら、逃げ場を断つ宣告でもあった。

ヴォルフリートは知っている。
これは救いではない。支配でも愛でも、もっと歪んだもの。

ヴォルフリートは眠り込んだ少年の髪を撫でながら、静かに思いを巡らせた。

――明日は印をつけよう。
レオナールが、誰のものか一目で分かるように。

王室御用達の職人に最優先で仕上げさせた特注の首輪がある。艶やかな黒革に鋭い銀の留め金。あれを、この細く繊細な首に嵌める瞬間を思い描くだけで、胸の奥が灼けるように熱を帯びる。

こいつは私のモノ

その主張を、他のDomたちの目に焼き付けてやりたい。

二度と抑制剤などに逃げ込ませはしない。
薬で感情を押し潰すなど、愚かしい錯覚だ。抑制剤は欲望を封じるのではなく、ただ一時的に覆い隠すだけ。熱は消えず、渇きは残る。

薬に逃げるのならば次からは私に逃げるといい。

そして二度と離れられなくしてやる。

こんなにも意地悪がしたくなるのも可愛い君が全て悪い。



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