42 / 49
リクエスト番外編
2
しおりを挟む[アーヴィング × リシェ]
※後日談とリクエスト後のもの。ここまでの話で一番新しい時間軸です。
【side: リシェ】
「……ん…」
ぼんやり目を開けると、カーテンの隙間から日の光が入り込んでいた。
(いま、なん…じ……)
身体は石のよう動かなくて、なんとか首を回して時間を確認する。
発情が来てどれくらい日にちが過ぎたんだろう?
意識が朦朧としていた分、全てが曖昧。
いつもそう、発情の後は重い気怠さと時を渡ったような不思議な感覚に陥る。
(そして……目が覚めるのは、いつも僕が先)
隣を見ると、寝息を立ててる番。
日常ではアーヴィング様の方が先に起きてることが多いのに、発情の後は逆転する。
それが、結構楽しみだったり……して。
(かっこいいなぁ)
整った眉に切れ目の顔。
燃えるような色の瞳は、今は目蓋の裏に隠されている。
大きな腕は僕を抱きしめるように腰へ回されていて、伝わってくるあたたかな温度がまた眠気を誘う。
この身体に、自分は何時間か前までずっと愛されていた。
「っ、」
無意識に締まったのか、トロリとしたものが後孔から流れてくる感覚。
ナカには、アーヴィング様から出されたものがたくさん残っている。
(赤ちゃん…できる、かな……)
体調が回復した後、アーヴィング様から「子について話し合おう」と声をかけられた。
勿論僕は子どもが欲しくて、それはもしかしたら〝Ω〟という性がそうさせるのかもしれないけど、でも貴方との子はきっと宝物になるだろうし許せる限りたくさんの子に恵まれたらと伝えた。
すると、顔を真っ赤にしながら「自分も同じだ」と言ってくれて。
……けれど、
何度か発情の時を迎えたりそれ以外でもセックスしたりして身体を繋げて、幾度となくその種を僕のナカに出してくれているのだけど
ーー中々、妊娠しない。
『体調が回復して1年も経ってないし、身体がまだ本調子じゃないのかもしれないよ。絶対、大丈夫だからね』と声をかけてくれるロカ様。
『焦りは禁物です、落ち着いていきましょう』と言ってくれる医師。
(……正直、ここで躓くのは考えてなかったな)
あの時は国を守るので精一杯で、まさかその傷が妊娠に響くとは思ってもみなかった。
ロカ様は無事子を出産し、現在育児にてんてこまい。
僕も一緒にお世話して日々笑いをもらっている。
世継ぎとなる子はまだまだ本当に小さくて、これからこの方がセグラドルを引っ張っていく存在になるのかと思うと抱く手が震えた。
今の国王陛下であるラーゲルクヴェスト様も大変喜ばれて、国民もみんなお祭り騒ぎで。
今はまだ子を産んで間もないから、次の子を成すときは少し間隔を空けるようにと医師からの指示があったらしい。
……嗚呼、僕は。
「~~っ、」
今更過去を後悔しても遅いけど、こんな未来が来るならもっと自分の身体を大事にしていればよかった。
パドル様のことを、証拠がなくても誰かに伝えていれば。
僕がパドル様を〝怖い〟と思っていなければ、もっと強ければ、もっと勇気があったならば……
ロカ様を驚かせずに守ることだって、自分はΩとしての役割を果たすことだって、できていたかもしれない。
まさか、本当にまさか、こんな明るい未来がやってくるなんて思わなかった。
運命の人とちゃんと番(つが)えて、こうやって腕の中で目を覚ませるなんて…幸せなこと……
『焦るなリシェ。
俺たちは、まだ共に過ごす時間が短い。だから、きっとふたりの時間を大切にしろと子が言ってるんだ。
大丈夫、ゆっくり来てくれるさ』
(アーヴィング…さま……)
時々泣きそうになる僕に気づいてくれ、元気付けるように背中を撫でてくれる。
どうして不安になる瞬間がわかるんだろう?
アーヴィング様ももしかしたら王族やいろんな人から何か言われてるのかもしれないのに、それを一切口にすることがない。
いつも、優しくて大きくて、強い身体で寄り添ってくれている。
「……」
グッと腹に力を入れ、後孔から再びトロッと溢れるのを感じながら、重い身体を引きずりベッドの上目指して移動する。
胸元に埋もれていた顔は、アーヴィング様の首、顔を通過して頭の上が見えるくらいまで上がっていって。
「ん…しょっ、はぁ……」
普段は見えない頭のてっぺん。
僕の方がずっと背が低いから、あまり触れない髪に触れられる数少ない瞬間。
お互い寝ているから背なんて関係なくて、今は移動した分僕の方が高い位置にいて。
そのまま、さっき僕がされてたようにアーヴィング様の頭を僕の胸元に押し付けるよう抱きしめた。
僕の、大切な大切な番。
今でも信じられないと思うくらいの奇跡を乗り越えて、こうして隣にいる。
ポツリ
「アーヴィング、さま」
名前を呼ぶだけで泣きそうになってしまう、朝。
(あぁそうか。
こういうことに慣れたら、子は来てくれるのかな?)
「まだ母さんは泣き虫だ」と。
「もう少し強くなってからね」と。
そんなことを、どこかで言っているのだろうか?
(ふふ、可愛い…なぁ……)
すぅっと目を閉じると、いよいよ本格的にやってきた睡魔。
それに抗うことなく身を任せて、体の力を抜いて。
あたたかなふんわりした時間の中。
大きな身体が立てる寝息を感じながら、また夢の中に落ちていったーー
~fin~
※ロカの子が1歳を過ぎた頃にリシェも妊娠するような未来を考えています。ご安心ください。
世継ぎくんとは2歳差。お兄さんとして面倒を見てくれて、兄弟のように育っていったら可愛いだろうなぁと想像します。
66
あなたにおすすめの小説
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
孕めないオメガでもいいですか?
月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから……
オメガバース作品です。
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
白い部屋で愛を囁いて
氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。
シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。
※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。
森で助けた記憶喪失の青年は、実は敵国の王子様だった!? 身分に引き裂かれた運命の番が、王宮の陰謀を乗り越え再会するまで
水凪しおん
BL
記憶を失った王子×森の奥で暮らす薬師。
身分違いの二人が織りなす、切なくも温かい再会と愛の物語。
人里離れた深い森の奥、ひっそりと暮らす薬師のフィンは、ある嵐の夜、傷つき倒れていた赤髪の青年を助ける。
記憶を失っていた彼に「アッシュ」と名付け、共に暮らすうちに、二人は互いになくてはならない存在となり、心を通わせていく。
しかし、幸せな日々は突如として終わりを告げた。
彼は隣国ヴァレンティスの第一王子、アシュレイだったのだ。
記憶を取り戻し、王宮へと連れ戻されるアッシュ。残されたフィン。
身分という巨大な壁と、王宮に渦巻く陰謀が二人を引き裂く。
それでも、運命の番(つがい)の魂は、呼び合うことをやめなかった――。
ふしだらオメガ王子の嫁入り
金剛@キット
BL
初恋の騎士の気を引くために、ふしだらなフリをして、嫁ぎ先が無くなったペルデルセ王子Ωは、10番目の側妃として、隣国へ嫁ぐコトが決まった。孤独が染みる冷たい後宮で、王子は何を思い生きるのか?
お話に都合の良い、ユルユル設定のオメガバースです。
【完結済】極上アルファを嵌めた俺の話
降魔 鬼灯
BL
ピアニスト志望の悠理は子供の頃、仲の良かったアルファの東郷司にコンクールで敗北した。
両親を早くに亡くしその借金の返済が迫っている悠理にとって未成年最後のこのコンクールの賞金を得る事がラストチャンスだった。
しかし、司に敗北した悠理ははオメガ専用の娼館にいくより他なくなってしまう。
コンサート入賞者を招いたパーティーで司に想い人がいることを知った悠理は地味な自分がオメガだとバレていない事を利用して司を嵌めて慰謝料を奪おうと計画するが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる