あなたの世界で、僕は。

花町 シュガー

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リクエスト番外編

2

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[アーヴィング × リシェ]
※後日談とリクエスト後のもの。ここまでの話で一番新しい時間軸です。

【side: リシェ】







「……ん…」

ぼんやり目を開けると、カーテンの隙間から日の光が入り込んでいた。

(いま、なん…じ……)

身体は石のよう動かなくて、なんとか首を回して時間を確認する。

発情が来てどれくらい日にちが過ぎたんだろう?
意識が朦朧としていた分、全てが曖昧。
いつもそう、発情の後は重い気怠さと時を渡ったような不思議な感覚に陥る。

(そして……目が覚めるのは、いつも僕が先)

隣を見ると、寝息を立ててる番。

日常ではアーヴィング様の方が先に起きてることが多いのに、発情の後は逆転する。
それが、結構楽しみだったり……して。

(かっこいいなぁ)

整った眉に切れ目の顔。
燃えるような色の瞳は、今は目蓋の裏に隠されている。
大きな腕は僕を抱きしめるように腰へ回されていて、伝わってくるあたたかな温度がまた眠気を誘う。

この身体に、自分は何時間か前までずっと愛されていた。

「っ、」

無意識に締まったのか、トロリとしたものが後孔から流れてくる感覚。
ナカには、アーヴィング様から出されたものがたくさん残っている。


(赤ちゃん…できる、かな……)


体調が回復した後、アーヴィング様から「子について話し合おう」と声をかけられた。
勿論僕は子どもが欲しくて、それはもしかしたら〝Ω〟という性がそうさせるのかもしれないけど、でも貴方との子はきっと宝物になるだろうし許せる限りたくさんの子に恵まれたらと伝えた。
すると、顔を真っ赤にしながら「自分も同じだ」と言ってくれて。

……けれど、

何度か発情の時を迎えたりそれ以外でもセックスしたりして身体を繋げて、幾度となくその種を僕のナカに出してくれているのだけど

ーー中々、妊娠しない。


『体調が回復して1年も経ってないし、身体がまだ本調子じゃないのかもしれないよ。絶対、大丈夫だからね』と声をかけてくれるロカ様。
『焦りは禁物です、落ち着いていきましょう』と言ってくれる医師。

(……正直、ここで躓くのは考えてなかったな)

あの時は国を守るので精一杯で、まさかその傷が妊娠に響くとは思ってもみなかった。

ロカ様は無事子を出産し、現在育児にてんてこまい。
僕も一緒にお世話して日々笑いをもらっている。
世継ぎとなる子はまだまだ本当に小さくて、これからこの方がセグラドルを引っ張っていく存在になるのかと思うと抱く手が震えた。
今の国王陛下であるラーゲルクヴェスト様も大変喜ばれて、国民もみんなお祭り騒ぎで。
今はまだ子を産んで間もないから、次の子を成すときは少し間隔を空けるようにと医師からの指示があったらしい。


……嗚呼、僕は。


「~~っ、」

今更過去を後悔しても遅いけど、こんな未来が来るならもっと自分の身体を大事にしていればよかった。
パドル様のことを、証拠がなくても誰かに伝えていれば。
僕がパドル様を〝怖い〟と思っていなければ、もっと強ければ、もっと勇気があったならば……
ロカ様を驚かせずに守ることだって、自分はΩとしての役割を果たすことだって、できていたかもしれない。

まさか、本当にまさか、こんな明るい未来がやってくるなんて思わなかった。
運命の人とちゃんと番(つが)えて、こうやって腕の中で目を覚ませるなんて…幸せなこと……


『焦るなリシェ。
俺たちは、まだ共に過ごす時間が短い。だから、きっとふたりの時間を大切にしろと子が言ってるんだ。
大丈夫、ゆっくり来てくれるさ』


(アーヴィング…さま……)

時々泣きそうになる僕に気づいてくれ、元気付けるように背中を撫でてくれる。
どうして不安になる瞬間がわかるんだろう?
アーヴィング様ももしかしたら王族やいろんな人から何か言われてるのかもしれないのに、それを一切口にすることがない。
いつも、優しくて大きくて、強い身体で寄り添ってくれている。


「……」


グッと腹に力を入れ、後孔から再びトロッと溢れるのを感じながら、重い身体を引きずりベッドの上目指して移動する。
胸元に埋もれていた顔は、アーヴィング様の首、顔を通過して頭の上が見えるくらいまで上がっていって。

「ん…しょっ、はぁ……」

普段は見えない頭のてっぺん。
僕の方がずっと背が低いから、あまり触れない髪に触れられる数少ない瞬間。
お互い寝ているから背なんて関係なくて、今は移動した分僕の方が高い位置にいて。

そのまま、さっき僕がされてたようにアーヴィング様の頭を僕の胸元に押し付けるよう抱きしめた。

僕の、大切な大切な番。
今でも信じられないと思うくらいの奇跡を乗り越えて、こうして隣にいる。



ポツリ

「アーヴィング、さま」




名前を呼ぶだけで泣きそうになってしまう、朝。




(あぁそうか。

こういうことに慣れたら、子は来てくれるのかな?)


「まだ母さんは泣き虫だ」と。
「もう少し強くなってからね」と。

そんなことを、どこかで言っているのだろうか?

(ふふ、可愛い…なぁ……)

すぅっと目を閉じると、いよいよ本格的にやってきた睡魔。
それに抗うことなく身を任せて、体の力を抜いて。


あたたかなふんわりした時間の中。

大きな身体が立てる寝息を感じながら、また夢の中に落ちていったーー












~fin~

※ロカの子が1歳を過ぎた頃にリシェも妊娠するような未来を考えています。ご安心ください。
世継ぎくんとは2歳差。お兄さんとして面倒を見てくれて、兄弟のように育っていったら可愛いだろうなぁと想像します。



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