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オマケのアゼル
しおりを挟む魔王というものは孤独だ。その強すぎる魔力故に皆恐れて距離をとる。
伴侶が欲しいと願っても、強すぎる魔力に馴染める相手などいるはずもない。調べても歴代の魔王に伴侶を得られた者はいなかった。挑戦した者はいたようだが、相手が魔王の魔力に耐えきれず廃人になった、という内容だった。
妻が欲しい。もし得られたら寿命を与えて死ぬまで離さないのに。
そんなことを考えていたところに、人間達が勇者を召喚したという報告を受けた。勇者は魔王にとって脅威となり得る。育つ前に殺すのが鉄則だ。とはいえ、無益な殺生は更なる争いを産むだけなので、アゼルは勇者のみを殺せる機会を伺っていた。
人間の群れから勇者が一人で離脱したとの速報を受け、アゼルは浮遊し、その者の背後に降り立った。
目の前で、その人間は崖下に向かって地面を蹴るところだった。
「!?」
追いかけ、空中を浮遊し、勇者を抱きとめる。痩せ細った身体、やつれた面差し。生きる気力などないとばかりに虚ろな目。そんな勇者とは思えない勇者はアゼルを見上げ、笑った。
「地獄から迎えに来てくれたの?」
伸ばされた手がアゼルのツノを確かめるように撫でる。
「・・・・・」
殺さなくても死にそうなコレが、勇者。
「もう、消えたい。全部忘れたい。全部終わらせたい」
「・・・・・」
顔を真っ赤に染めて泣き始める、まるで小さな子供のようなコレが、勇者。
「今すぐ俺を殺して」
魔王であるアゼルの魔力に怯えて殺せと喚く者は見たことがある。だが、腕の中の人間はアゼルに触れていることなど関係ないとばかりに、別のモノに嫌気が差したから殺せと泣く。
もしかしたら───
彼なら自分を受け入れられるのではないだろうか。
「君の名前は?」
「由良。三嶋 由良」
「そうか、では、その名前ごと全て忘れなさい」
キョトンとして、彼は不思議そうにアゼルを見つめる。
「大丈夫、目覚めたら全て忘れているでしょう」
記憶の重石となるように、新しい名前を考えてやらなくては。
意識を失い、脱力した温もりを腕に抱き、アゼルは城へ戻った。
「君の名前は、ミーシア」
少しだけ顔色の良くなった青年に、アゼルは名前を与えた。色々考えたが思いつかず、結局元の三嶋 由良に近い名前になってしまったが、まぁ、大丈夫だろうと信じることにする。
「ミーシア。俺はミーシア。アンタは?」
名前を問われるなど、いつぶりだろう。
「私はアゼルですよ、ミーシア」
「アゼル…、アゼルね」
アゼルの名前を噛み締めるように繰り返し呼んで、嬉しそうに笑う。そんな彼が可愛すぎた。衝動的に接吻をしそうになり、アゼルは飛び跳ねるように離れる。
「…?」
「まだ本調子じゃなさそうですね、今は休みなさい」
アゼルのリアクションが分からないという顔をするミーシアを寝かしつけて、アゼルは嘆息する。
理性がいつまで持つかは分からないが、絶対彼を妻にする。
理想は愛し愛される夫婦だ。
【完】
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