猫とのご縁、おつなぎします。~『あわせ屋』ミケさんと猫社の管理人~

香散見羽弥

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巡りあわせ③

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「大丈夫死んでないよーん」
「いや、死んでないんかい!」


 思わずツッコんでしまった。
 今の流れは転生させる前触れっぽかったではないか。

 いや、死んでないのをがっかりしているわけではないけれども、ちょっと期待きたいしていた分なんだか恥ずかしい!


 そんな紡生つむきを見て、アメは面白そうにキャラキャラと笑った。


「普通に頭を打って気絶しちゃったからつれてきたんよ」
「そ、そうなんだ。とりあえずよかった……です」


 ほっと胸をなでおろす。

 頭の中はなにも整理がついていないけれど、死んでいないのならひとまず安心(?)だ。


「そ、それじゃあ、ここはどこなんですか?」
「ここ? ここは『あわせ屋』よ」

「あわせ屋?」
「そ。猫社ねこしゃの下請けってところね!」

「下請け……?」
「そそ。実働部隊って感じ!」


 全然話が見えてこない。

 というか神という割に話し方が妙に俗っぽいのが気になって頭に入ってこない。



「アンタな、雑過ぎるだろ。ちゃんと説明してやれよ」


 首をひねっていると、アメの後ろから落ち着いた男の人の声 が聞こえた。

 視線を向けると、縁側えんがわにいた三毛猫が呆れたようにアメを見ていた。
 珍しく黒の多い子で、シュッと鼻筋の通ったイケにゃんさんだ。


「そんないうならミケが説明してよね」
「事故を起こしたのはアンタだろ」
「そうだけどさー。でも説明するの苦手なのよねー」
「……はあ」


 おどけたアメにため息を吐いた三毛猫は紡生の近くまで歩いてきた。


「おいアンタ。こいつが悪かったな。オレはミケ。あわせ屋をしている。あわせ屋ってのはな――」


 ミケの話によればあわせ屋は猫社に祈られたこと、例えば「迷子の猫をさがしてほしい」なんて願いを叶える実働部隊みたいなものらしい。
 あわせ屋があるからこそ猫社は「猫との縁結び神社」と呼ばれるようになったのだとか。


「な、なるほど。ということはあなたも神様なんですか?」
「いや、オレはあやかしだ」
「へえ、あやかし。……はあ!?」


 一拍遅れて目を見開く。


「え、お、おばけってこと!?」


 さっと青くなってミケをみるけれど、どこもおかしいところなんてない。
 透けてもなければ、血を流してもいない、いたって普通の猫だ。


「おばけとあやかしは別物だ。おばけ……もとい幽霊は死んで魂だけの存在。あやかしは人間が規定した枠から外れた存在だが生きている。まあそういうもんだって思えばいい」
「は、はあ……」
「分かってねえって顔だが続けるぞ。ここにつれてきたのはアンタの怪我けががこいつだからだ」


 ミケはアメを視線で指した。
 つられてみてみると、アメはなぜか目を反らしてそわそわと体をくねらせている。


「えーっとね、その……うーん」
「おい、ちゃんと言え」
「分かってるわよ~」


 ミケにせっつかれたアメが言うには、願いを叶えてあげようと気持ちが先走った結果、ミケを猫社の上空――つまり紡生の頭上――に呼び出してしまったらしい。


座標ざひょうが狂ったのよ。寝不足でさ~。いや~うっかりうっかり! やっちゃった~。なはは!」
「オレは昼食に作った唐揚げを運んでいたときに呼び出されて、あの通りだ」
「……唐揚げ」


 つまりあのとき落ちてきた猫はミケで、ミケと一緒に落ちてきた熱いモノの正体は唐揚げだったってことか。


(そりゃあいい匂いがしたわけだし、熱かったわけだよ……)


 紡生は改めて顔をおおって脱力してしまった。
 死因が唐揚げによるものとか恥ずかしすぎるし、嫌すぎる。


「本当に、死んでなくてよかった……」
「アハハ、ごめ~んね?」
「アメ、笑ってすますな。それからオレの唐揚げも弁償べんしょうしろ」
「えーーー!? それもあたしのせいになるの!?」
「当然だ。アンタのミスなんだから」
「う~~~!」


 どうやら神であるアメよりも、あやかしのミケの方がしっかりしているらしい。


(神様とあやかしなのに……)


 コントのようなやり取りを見ていると怒る気も失せてくる。

 やがてこってりと絞られたアメは、しょんぼりと耳を伏せて紡生の枕元へとやってきた。


「巻きこんじゃってごめんなさい。お詫びに貴女の願いを叶えてあげようと思います!」
「え?」
「コムギだっけ? 脱走しちゃったんでしょ? 猫社はお参りすると迷子になった猫を帰してくれるって話を聞いたから来たんじゃないの?」
「あっ! そうだコムギ!!」


 いろいろありすぎて忘れていたけれど、コムギの無事の帰還を祈って猫社に来たのだった。
 こうしちゃいられない。すぐにでも探しに行かなければ。


「っうぅ」


 勢いよく起き上がると、たんこぶが脈を打つような痛みを主張してきた。
 あまりにも痛くて、そのまま布団の上にうずくまる。


「ああほら、ダメだよ急に動いちゃ」
「でもじっとなんてしていられないよ! きっと今も怖い思いをしてる……。一秒でも早く見つけてあげなくちゃ!」
「そうはいってもその怪我じゃあ動くのも精いっぱいじゃん? ムリはよくないよ~」
「これくらいなんともないです!」


 めまいもするし、泣きそうなほど痛いけれど、こんなのコムギの恐怖に比べたらなんてことない。
 紡生は意地いじで立ち上がった。


「コムギは大切な家族なの。家族が迷子だっていうのに、のんびりしているなんてできないよ!」
「分かった分かった~。ちいとばかし落ちつき給えよ~」


 アメは鬼気きき迫る顔で詰めよる紡生をゆるく肉球で抑えた。


「貴女の気持ちは分かったよん」
「なら!」
「でもダ~メ。頭へのダメージは甘く見ちゃいけないって。知り合いの神に治癒ちゆをお願いするから、治るまでは絶対安静にしてな~」
「でも……!」

「はいはい。結論を急がなーい」


 再び肉球で口をふさがれる。


「コムギのことはすぐにでもえん辿たどって見つけてあげるから心配しなくていいよん。下手に探し回るよりよっぽど早く見つかるしね。だから貴女はこのまま家に帰って寝てな~。ね?」


 紡生としては寝ている場合じゃないのだが、アメの圧に頷くしかできない。
 神様からの圧に人間では対抗できないのだろう。

 しっかりと頷いたのを見たアメは満足そうに笑った。


「見つけたらミケに届けさせるからさ。ミケもそれでいいっしょ?」
「ああ」
「よーし。じゃあまずは家まで送るか~」

「え? 家まで送るって」
「よいしょー!」


 手を合わせるように肉球を合わせたアメの身体が、突然光り出した。
 その光はミケが降ってくる前の光と同じものだ。

 嫌な予感がして自分の身体を見ると、やはりというかなんというか、同じ色の光に包まれていた。

 もしかしなくてもミケを猫社に送ったように紡生も送るつもりなのだろう。
 座標がどうのと言っていた、アレである。

 さあっと血の気が引いた。


「ま、まって!? 自分で! 自分で帰れますから!」
「大丈夫大丈夫。今度は間違えないからさ!」


 慌てて止めようとするも笑顔で流されてしまった。
 その間にも光は強くなり、やがて視界が光でいっぱいになる。


「じゃあまた今度ね! バイバーイ!」
「うああああ!?」


 そんなマイペースな声が聞こえたかと思うと、内臓がヒュっと浮かぶような違和感いわかんを覚えた。
 ジェットコースターに乗っているかのような浮遊感ふゆうかんだ。

 けれどそれも一瞬で、次の瞬間には着地した感覚があった。


「…………?」


 恐る恐る目を開けると自宅の玄関に座り込んでいた。
 どうやら無事に帰ってきたらしい。


「……はあああ」


 緊張が解けて体の力が抜ける。
 というか腰が抜けてしまったようで、しばらく立ち上がれそうにない。

 紡生はその場にゴロンと寝ころんだ。


「…………もう二度と体験したくないなぁ」


 なんだかどっと疲れた。

 急激な眠気に襲われて、自分の身体なのに指の一本すら動かすことができない。
 紡生はそのまま気絶するように意識を失ったのだった。


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