猫とのご縁、おつなぎします。~『あわせ屋』ミケさんと猫社の管理人~

香散見羽弥

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紡生の仕事

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「おっ! 紡生ちゃんおつ~!」


 あわせ屋に戻るとやけに上機嫌じょうきげんなアメに迎えられた。

 紡生の足元に体を寄せ、すりすりゴロゴロの嵐だ。


「初仕事達成おめでとー! いやー! やっぱり紡生ちゃん雇ってよかったわ! ミケじゃ解決できないところまで手が届いて感謝マシマシだし、神様力かみさまぢから上がっちゃう~!」
「か、神様力?」


 なんだかぞくな物言いに困惑こんわくしていると、アメの身体が光を放ち始めた。


「うわっ!? なに、転移!?」
「いんや? よく見て、転移とは違う光でしょ?」


 言われてみれば、転移の光とは違う穏やかで柔らかい黄色の光だった。


「これが神様力かみさまぢからよ! 神力しんりきって聞いたことない?」
「神力? ……って霊力れいりょくとか通力つうりきとか言われる不思議な力のこと?」


 神様とかあやかしとかには人智を超えた力があると聞いたことがある。

 というか、小説やマンガだとおなじみの設定だ。


「そうそう。一般的にはそう呼ばれているやつね。でも神力って響きが可愛くないじゃん? だからあたしは神様力って呼んでるの!」


 キュピっとポーズをとるアメに思わずずっこけてしまう。


「ギャルなんですか?」
「マインドはオールウェイズギャルよ! 最強にかわいい自分でいたいもの!」
「あ、はい」


 反射的に返事はしてしまったがイマイチ納得がいかない。

 というか、アメは本当に神様……で合っているのだろうか?


(本当に俗っぽいんだよね……)


 やたらと横文字を使うし、きゃぴきゃぴしている。
 どちらかというとギャルに育てられたギャルっぽい猫といったところだ。

 とはいえふとした瞬間に神様ぜんとした雰囲気ふんいきを纏うものだから、イマイチ掴み切れない。


(でもまあ、これならこれで親しみやすいからいいんだけど)


「ていうかそう言うのって勝手に違う言葉にしたらダメとかないんですか?」
「あはは、そんなのないない! 大枠の神ルールをまもっていれば大体のことは自由だよん」
「はあ」
「まあそれはいいとして」
「あ、はい」


 神ルールという神様たちの取り決めは一応あるのか、と考えているとアメの咳払いで意識が戻される。


「この神様力はね~、人間が神に感謝するともらえるものなのよん。神の力の源になるの。あたし達が願われたものを叶えるのはさ、これをもらうためという部分が大きいんだよね~」


 アメが言うには神様は大きな力を持っているが、人間から感謝されなくなると存在できなくなってしまうらしい。

 よくわからないが人に認知され、敬われ、畏れられてこそ、神様たり得るのだとか。


「だから恩恵を与えるわけで、人間には感謝されてなんぼなのね。で、ここからが問題なんだけど……」


 アメは内緒話をするように声を潜めた。


「今まであわせ屋ってあたしとミケだけでやって来たんだけどさ、向き不向きってあるじゃん? 今回みたいにケガをしている子が対象だとなかなかうまいこと終わらなくてね」


 げんなりとしたアメに首をかしげる。


「どういうことですか?」
「ケガした子を送り届けるとね、大抵混乱と後悔が残りやすくて感謝の量が減っちゃうんよね。だから猫の保護以外にも飼い主が素直に感謝を抱けるようにフォローしなきゃなんだけどさ……ほら。ミケってだから。今日一日一緒にいて気づいたんじゃない?」
「……ああ」


 紡生は今日のミケの姿を思い出した。


「……そういえば私以外と話しているところ、見なかったなぁ」


 今日出会った相手と言えば赤堀が思い浮かぶが、ミケが赤堀と話しているところなど見かけなかった。

 そもそも赤堀の前に姿を見せたかどうかも怪しい。
 帰りのあいさつだって、必要性を感じないと言われてしまったくらいだ。

 そんなミケが飼い主……つまり人間のフォローをしているところなんて想像ができない。


「ケガなしの子ならミケが届けても感謝は伝わってくるんだけど、今回みたいなのはどうしても回収率が悪かったんだよね。でも、あたしとしてはそれじゃ困るわけ」


 アメは「そもそも神社に願ったことが叶ったとして、神様の助力じょりょくのおかげって考える人も少ないから」とぼやきながら頬を膨らませた。


「得られるはずの感謝を取り逃すのは神としては死活問題なわけ。ただでさえ働き手不足なのにさぁ~。ほんっと困る~」


 げっそりとしたアメは特大のため息を吐いた。
 心なしか顔色が青い気がする。


「でもね、だからこそ考えました!」


 しょげていたアメはすぐに気持ちを切り替えて紡生と向き合った。


ってね! だから紡生ちゃん!」
「へ!? は、はい!?」


 急に手を掴まれて声が裏返る。


「これからこの手の仕事はさ、紡生ちゃんに任せようと思ってるからよろしくね!」
「この手の仕事っていうと……」
「ケガ猫の保護と飼い主の不安解消ね! んで受け取れる感謝を増やしてほしいの!」
「え、えええ~~~!?」


 今度は紡生が青くなる番だった。


「ムリムリムリ! ムリですよ! 私励ますとか苦手ですもん! なに言っていいか分かんない!!」
「そんなことないと思うけどなぁ。少なくともミケよりはうまいと思うよ!」
「そりゃあそうかもしれないですけど!」


 ミケと比べられたらそりゃあコミュニケーション能力は上だという自負じふはある。
 けれどそれとこれとは別問題だ。


「っていうか猫ちゃんを見つけられる力とかないですし、自信もないですし!」
「だいじょーぶ! もちろん猫探しはミケにやらせるつもりだし、紡生ちゃんとミケは基本セットで動いてもらうよ! それなら大丈夫っしょ?」
「セ、セット!? って、そう言えばミケさんは!?」


 先に帰ってきていたミケの姿を探すが見当たらない。
 あわよくばミケにも反対してもらえたらと思ったのに。


「ああミケね。あの子疲れたって部屋に引きこもっちゃって。寝てるんじゃない?」
「寝てるって……私を置いて先に帰ったくせに?」
「まあミケはあやかしだからね」


 アメはコロコロと笑うだけで気にした素振りもない。
 どうやらあやかしは「そういうもの」らしい。


「それでも昔よりはマシになったんだけどね。それはともかく、じゃあ紡生ちゃん。決定ってことで、よろしくね!」
「あっ! ちょ、ちょっとアメちゃん!?」


 アメは納得のいっていない紡生を置いてどろんと消えてしまった。

 神とはいえ、アメもまた猫。
 気ままな気質は変えられないのだろう。


「ど、どうしろと」


 上司も猫、同僚も猫。
 しかもお互い我が道を行くというスタイル。

 どうやらあわせ屋は協調性というものが皆無かいむな職場らしい。


「……選択肢、間違えたかな」


 紡生は中途半端に上がった手もそのままに、この先を思ってため息を吐いたのだった。

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