七人のバ美肉 ~美少女V事務所を立ち上げたら、オッサンたちしか来なかった~

椎名 富比路

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第一章 百合美少女事務所を立ち上げようとしたら、バ美肉ばかりが生まれた

第3話 OYA・KATAの夢

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 元親方とは思えない発言が、椛島さんから飛んできた。

「女装、ですか?」

「ボクね、昔から、女の子の服装に、憧れていたんスよ」

 ダンディな見た目からは、想像もできない。

「でもね。ウチ、関取の家系でしょ? 言い出せなかったんスよ」

 たしかに椛島親方の一族は、昭和から代々受け継がれている関取の一家だ。
 息子さんが二人いるが、どちらも関脇で今でも活躍している。

「昔テレビで、相撲取りのかくし芸大会って、あったじゃないスか。当時前頭だった若手がね、花魁の衣装を着てね、出ていたんスよ。うらやましいなって、ずっと思っていました。ウス」

 元親方が、子どものようにはにかむ。

 一方で、当時の親方は第一線級横綱【潮乃岩しおのいわ】だった。服装も、ダンディあふれるロングコートで、渋い役どころばかりやらされていたという。

「潮乃岩に愛嬌なし」と、世間からは思われていたのだ。

 オレだって思っていた。

「なんかね、ちぐはぐさを、ずっと感じていたんス。ボクは、もっと、可愛い服が着たいなって。リボンつけて、ローファー履いて」

 いたずらがバレた少女のような口調で、親方は心境を語る。
 
「子どもも独立したし、部屋も弟子に譲ったっス。後は、自分のやりたいことに、熱中したいんスよ。ウス」

「そうですかぁ」

 驚きだ。まさか椛島さんのイメージが、家系や世間によって作られたものだったとは。

「でも、ボクは、大きくなりすぎたっス。サイズがないんスよね。化粧も、全然できなくて」

 それで彼は、Vのアバターに救いを求めたのだ。

「ご家族に、了解とかは?」

「離婚してきました。ウス」

 オレは、息を呑む。

「いや、そこまで悲壮感漂う話じゃなくてですね。円満離婚ス」

 元親方が、離婚届のコピーを見せてくれた。

 離婚に円満もなにも、あるかわからんが。

「奥さん、どない言うてはったん?」

「離婚しなくてもいいから、おやりなさいって言われてきました。ですが、どこでバレるかわからないので、傷が浅いうちに、円満に別れようと、ボクが切り出したっス」

 奥さんとは別れたが、家族関係はずっと続けるという。あくまでも、自分のやることで迷惑をかけないようにするための、身辺整理らしい。

「財産分与とかは、済ませてあります。Vのアバターを作るための費用などは、問題ないので」

 そこまでの覚悟と準備を、してきたってわけだ。

「どうして、そんなにまでVで活動をしたいんですか?」

 Vチューバーなんて、親方の年代だと知らない人のほうが多いだろう。
 
「娘が教えてくれました。あの子だけは、協力的なんですよ」

 そこから色々と自分でも見てみて、Vという存在に憧れを抱くようになったそうだ。

「なってみたいですか?」

「スキって以外に、理由は言えません。女装がスキってだけで、どこまで通用するかわかりませんが、やってみたいんです」

「いいじゃないですか。やりましょう」
 
 なんか、感動してしまった。

 こんなにもVに情熱を注げる人にこそ、Vをやってもらいたい。

 見た目の要望などを聞き、アバター開発に。

 こうして、ガンカタ系V、【OYA・KATA】が完成した。
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