BOYS

aika

文字の大きさ
7 / 61

♡『決別』 (SIDE 渡里 優羽)

しおりを挟む





「渡里。ずっとお前のことが好きだった。」



院長の言葉が脳内でリピートされる。

何度も何度も。




「俺と付き合ってほしい。」




まさか。院長が僕のことを・・・?
想定外の彼の告白に、完全に思考停止してしまっていた。



院長の白衣姿って、こんなにカッコ良かったっけ・・・
毎日見ているはずなのに、至近距離で見る彼の男らしさに圧倒される。




先日自分が後輩に告白した時のことを思い出していた。
情けないくらいに周りくどく、振られた時の言い訳を同時に口にしているような
愛の告白。


僕は、自分が傷つきたくなかっただけなんだ。
振られて当然。
今、はっきりとそうわかった。




それに比べて院長のこの真っ直ぐさは、なんだろう。
男らしくて、誠実で、真摯な気持ちが直に伝わってくる。

上司と部下。
断られた場合、気まずくなるし、下手したら訴えられるかもしれない。
そんな状況なのに。

逃げも隠れもしない、彼の真っ直ぐな姿勢に、僕はクラクラしてしまった。



「急にこんなこと言って悪かった。返事はいつでもいいから。」


彼は優しくそう言った。





逃げるように職場を後にして、急いで駅へ向かう。
ドキドキとうるさいほどに脈打つ鼓動は、早歩きのせいじゃない。


院長が、見たこともない男の顔で、僕を見ていた。

彼の瞳に気圧されて、逃げ出してきてしまった。

初めて彼を、男として意識した。



あんなにかっこ良くて優秀な人が、僕を好きだなんて・・・っ
パニックになりそうな自分をなんとか抑え込んで、電車に乗りこむ。


顔が熱い。


どうしよう。

明日院長とどんな顔で会えばいいんだ。


「院長は誰より男らしくて、最高にかっこいいんです!!」
雪人ゆきとがいつも言っている言葉を思い出す。
今まで全く気付かなかった。


「雪人君の・・言う通りだ・・・っ」







そのまま帰る気になれなくて、じんの新居近くの駅で電車を降りた。

ーーー仁に、会いたい。

昔から、落ち込んだり、何か困ったことがあると、いつも仁が話を聞いてくれた。
自然と足が彼の家へ向かっている。

考えてみたら、誰かに愛の告白をされたのは初めてだった。
自分のことを好きになってくれる人なんて、一人もいないと思っていた。

ーー仁に、今すぐ会いたい。

パニックになっている僕をなだめて、落ち着かせてくれるのは、仁だけだから。



彼の新居は実家から3駅離れた町で、見知った住宅街だ。
新居のマンションが見えてきて、ホッとしている自分に気付く。

もうすぐ仁に会える。

自分を抱きしめてくれた、彼の温かい腕を思い出す。
ふとマンションから出てくる人影が目に入った。
足が止まる。




「仁~、アイス買ってもいい?」


「ダメって言ってもどうせ買うだろ。」


「ねぇ~、この前俺が言ってた、お菓子も買ってくれる?」


けいは、ちゃんと飯食わなくなるからなぁ。」


「いいじゃん、仁~お願い~。俺、良い子にしてるじゃん。」



仁と蛍君。
甘えた声で、仁の腕に抱きつく彼。



「じゃあ、今日だけ特別。」


仁が、彼の頭をポンポンとあやすように撫でた。



雷に打たれたような衝撃が、頭から足下へ抜けていった。


仁が、彼の頭を撫でた。
いつも僕にするように。


蛍君が今居る場所は、僕の特等席だったはずだ。

彼をあやすように微笑む仁を見て、気づいてしまった。
初めて自覚した。
醜くてドロドロとした感情が、胸の奥で膨れていく。


声をかけることなんて、出来そうになかった。
僕はそのまま来た方向へと足を向け、早足で歩き出した。







しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中  二日に一度を目安に更新しております

ふたなり治験棟

ほたる
BL
ふたなりとして生を受けた柊は、16歳の年に国の義務により、ふたなり治験棟に入所する事になる。 男として育ってきた為、子供を孕み産むふたなりに成り下がりたくないと抗うが…?!

処理中です...