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Ⅲ.倉知編
背徳
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好きだ、という加賀さんの科白を、脳内で何度も再生した。抱きつかれ、身震いするほど嬉しかった。
いいのだろうか。自分がこの人にふさわしいとは思えない。ただの高校生なのに。こんな人が、俺を。
暗くなる思考を止めたのは、加賀さんの手だった。俺の背中をぽんぽんと叩いている。
「シャワーしたら?」
笑いを含んだ声。そうだ、俺は今全裸だった。しかも下半身は精液で汚れていて、勃起までしている。きっととっくに気づかれている。にわかに顔が熱くなった。
「すいません、加賀さんの服、汚したかも」
「いいよ。それより」
加賀さんが下半身をすり寄せてくる。
「俺もおっきくなってきた」
自嘲気味に笑って、俺の耳に口をつけて囁いた。
「触る?」
体に電流が走った。飛び退いて、立ち尽くす。動けない俺を差し置いて、加賀さんは自分の股間に手を突っ込んでポジションを直している。
「でもなんかお前、無茶しそうだな」
「だ、大事に扱いますので」
全裸で直立する俺を、加賀さんは愉快そうに笑って見ている。股間に手を入れたまま、背中を壁に預け、じっと俺を見る。やけに艶っぽい。みぞおちの辺りが変な具合に痛んだ。
加賀さんの視線が、俺の下半身に移動した。つられて自分もそこを見た。さっき一度達したのに、元気そのものだ。
見られることに、もう羞恥心はなかった。それに、見たい。すごく、見たい。加賀さんの裸を見たくてたまらなかった。
男の体は見慣れている。部室の着替えは嫌でも目に入るし、合宿で一緒に風呂に入ることもある。散々見てきた。
今まで男の体を見て、何か不純な感情を抱いたことは一度もない。
だけどこの人は。他の人と全然違う。
「倉知君、お手」
加賀さんが手のひらを俺に向けた。犬のようにお手をした手が、加賀さんの股間に導かれた。スウェットの中に突っ込まれ、すぐに指先が温かいものに触れた。
一度、唾を飲み込む。別になんてことはない、自分にもついているもののはずなのに。
握らされて、気が動転しそうだった。妙に、すべすべで気持ちがいい。
形を確かめながら手を上下させる。硬くなりつつあるそれは、完璧な形をしている。調子に乗って撫でさすっていると、加賀さんが俺の胸に頭をすり寄せてきた。
「ちょっと気持ちいい」
はあ、と吐く息が色っぽい。下半身が、疼く。
「加賀さん」
「ん」
「脱いで貰っていいですか? 全部見たい」
上目遣いで見てくる。その目が俺から逸れた。
「いいけど、お前、時間大丈夫? 帰らないと怒られるんじゃ」
「別に遅くなっても怒られません。信用されてるんで」
用意された食事を無駄にすることだけは許されないが、他は放任なのがうちの方針だ。男だからというより、姉二人も同じで、特に門限はない。
「はぐらかさないで、脱いで」
「俺普通のおっさんだよ? おっさんの裸だよ? 見たいの?」
「おっさんじゃないです」
目を見て断言する。おっさんに分類する年齢でもないし、見た目も高校生と間違われるくらいだから、若い。
何をためらうことがあるのか、なかなか脱ごうとしない。
もう待てない。
握っていたものから手を離し、Tシャツをめくり上げた。乳首が見えて、思わず腰が引ける。
「ちょ、わかったわかった。脱ぐから。お前、先、垂れてるぞ」
俺の股間を見やって、加賀さんが服を脱ぐ。もう何が垂れようが構わない。この人の裸から目を離すのがもったいない。
凝視する俺を警戒しつつ、下も脱ぐ。半分勃ち上がったそれは想像以上に美しい。本当に、完璧だった。上から下まで眺めて、感動した。脚も長いし、スタイルがいい。まさに眼福だ。
「加賀さん」
耐えきれずに抱きついた。素肌同士が触れ合うと、気持ちよくてそれだけで達しそうになる。
どうすればいいのか、わからない。
「なあ、倉知君」
のんびりとした余裕のある声で俺の背中を撫でた。温度差が少し悔しい。
「なんですか」
「どこまでする? ていうかお前、俺に挿れたい? 挿れられたい?」
質問の意味が、よくわからなかった。
加賀さんが苦笑する。
「やっぱそうか。なんとなくそうだろうと思ってたけど」
「なんですか?」
「ん、まあいいや。ゴムもないし」
「ゴム? って?」
「コンドーム」
彼女持ちの部員が以前、それを見せびらかしていた。いつどうやって何に使うものかは一応わかっている。でも今それが必要な理由がわからない。
「お前の頭の上に疑問符が浮かんでるのが見えるわ」
そう言われて、俺は自分の頭の上を見上げてしまった。すかさず加賀さんが吹き出す。
「また今度でいいか。今はとりあえず」
言いながら俺の下腹部を無造作に握ってきた。驚いて、「うわ」と変な声が出た。
「お前のしたいようにしていいよ」
「え、いいんですか?」
「うん、いいよ」
加賀さんが右手を上下させた。体を密着させ、喉元に吸いついてくる。目眩がした。息が上がる。
加賀さんはクスクス笑いながら右手を動かして、耳に噛みついてきた。
俺は無様に呼吸を荒くし、加賀さんの体にしがみついた。
「か、加賀さん、ストップ!」
したいようにしていいと言ったくせに。したいようにされている。加賀さんの舌が、耳の中に侵入してきたところで、目の前が白くなる。
再びの射精感。
「あ、ごめん。ていうか早いな。二回目なのに」
「……ひどいです」
「ごめんて。可愛いからつい」
本当に悪いと思っているのか、加賀さんは手を動かし続けている。先のほうばかりを責めてくる。出したばかりで敏感になっているそこが、痺れて、疼く。
「なん、なんで、加賀さん……っ」
「可愛いから?」
答えになっていない。少し乱暴に、加賀さんを壁に押しつけた。手から俺のペニスが零れ落ち、精液の糸が引く。顔が熱くなった。
この人の手が、俺のものを。
「シャワーするか、一緒に」
何度も「はい、はい」と同意した。一緒にシャワーなんて、すごい経験だ。
二人で風呂場に入ると、即座に後ろから抱きしめた。いてもたってもいられない。
「声響くから、静かにな」
色気を含んだ囁きが、風呂場に響く。黙ってうなずいた。
「ほら、洗ってやるから離せ」
後ろの俺をふりほどこうとするが、離れてやらない。鎖骨に触れる。胸、腹、と撫でさすり、堪能した。
本人はおっさんと言うが、絶対に違う。綺麗な肌だ。滑らかで、適度に筋肉がついていて、贅肉はない。どこもかしこも、整っている。
「倉知君」
「したいようにさせてください」
「はい」
とにかく全身、触ってやろうと思った。後ろから、あらゆる場所を撫でた。そのうち股間に血がみなぎり、本日三度目の勃起を果たす。
「マジかよ」
加賀さんの尻に、硬くなったものが触れている。もう照れがなくなった。好きだから、こうなる。開き直ることにした。
「やべえ、俺も勃った」
囁く声。肩越しに加賀さんの股間を覗き込む。完全に起き上がったペニスも、やはり綺麗だった。
「素股してみる?」
「すまた?」
「いやいや、やっぱやめよう。確実に声出るし」
声が。何かはわからないが、楽しそうだ。
「なんですか、やりましょう」
「急に男らしくなるなよ。もういいから早くこすってイカせろよ」
「素股がいいです。素股しましょう。すまた……、素股と酢豚って似てますね」
「……お前、それ他の奴に言うなよ」
ていうか声でかい、と文句を言う加賀さんのペニスを後ろから捕獲した。体が強張ったのは一瞬だった。すぐに力が抜けて、後ろにいる俺に体重を預けてくる。
二人の裸に、シャワーが降り注いでいる。風呂場の鏡に加賀さんの濡れた下半身が映っている。なまめかしい呼吸音が、耳をくすぐった。それだけで充分に刺激的なはずなのに、欲求はエスカレートしていく。
顔が見たい、と思った。
「加賀さん、床に座りましょう」
「ん、なんで?」
「顔が見たいんです」
少し間を置いて、鏡に気づいた加賀さんが「お前、むっつりか」とみぞおちを肘でついた。痛みにうめく俺の手からすり抜けいく。
「したいようにさせてくれるって言ったのに」
「もう時間もないし、腹も減ったし、頑張ってイカ
せてくれよ」
加賀さんは浴槽の縁に腰を下ろし、股を広げて股間を指差した。あられもない格好に、自然と前屈みになる。タイルにうずくまる俺の肩にかかとを載せて、加賀さんが言った。
「フェラする?」
「ふぇ?」
「ふぇって……、え?」
「え?」
なんのことかわからなかった。加賀さんが困った顔で俺を見つめる。
「どうやったらお前みたいな純粋な男子高校生が出来上がるんだ」
「純粋、なんですかね」
元々、性的なことにはあまり興味がなかった。友人の間で貸し借りされるエロ本やAVのたぐいを、俺だけはいつも借りなかった。そんなことより筋トレでもしていたほうが、実がある。
「……まあ、性欲がないわけじゃないよな。何回復活するんだよって感じだし」
「違うんです」
「何が」
「俺だってこんなの、自分でびっくりしてます。多分、加賀さんだから……、加賀さんのせいです」
「せいって。ごめんな」
笑いながら謝られて、慌てて言い訳をする。
「すいません、悪い意味じゃなくて」
「いいよ、わかる。でもなんか、真っ白な奴を穢すみたいで気が引けてきたな」
ぎく、とした。やめる、と言い出す気がしたから、急いで叫んだ。
「穢してください!」
加賀さんが唖然とする。
「お願いです、やめないで。俺のこと、穢してください」
加賀さんが慌てて唇に人差し指をあて、「しー」とやって、笑った。
「わかったよ。じゃあ穢そうかな。舐めてくれる?」
「はい、え? どこをですか?」
加賀さんが自分の股間に目を落とす。
「え?」
そこを、舐める? もしかしてからかわれているのだろうか。
「無理ならいいよ。いきなり男の舐めろって言っても難しいよな」
それはそうだ。無理だ。男の、なら。この人のなら。話は別だ。
「いいんですか? 舐めても」
「できる?」
「加賀さんなら全身舐めれますよ」
胸を張って答えると、加賀さんは「こええ」と笑って怯えてみせた。
「じゃあ、いただきます」
股間の前で手を合わせる俺を見て、今度は真顔で「こええよ」と怯えた。
「食べるなよ、舐めるだけだからな」
「わかってますよ」
勃起しているペニスをそっとつかんで、顔を近づける。本当に不思議だ。嫌悪感がないなんて。
「この辺な、裏の。こう、やってみ」
加賀さんの指が伸びてきて、根元から先のほうへなぞる。言われた通りに舐めてみた。濡れたペニスはなんの味もしない。
「カリのとこ、ここ」
俺の髪に指をからめ、頭を股間に押しつけてくる。見上げると、目が合った。
「はは、すげえ背徳感。胸が痛むわ」
俺を見下ろす加賀さんの目が、恍惚としていた。
まさか、この人のこんな顔を見られるなんて思っていなかった。
異常にエロい。
もっと、エロい顔をさせたい。
加賀さんに言われるままに、ひたすら舐めて、咥えた。口の中で、はち切れそうに、硬くなっていく。俺の股間も限界にきている。舐めている側が、こんなに興奮してもいいのだろうか。
「あ、イキそう。ちょっと離して」
俺の口の中から引き抜くと、唾液で濡れたペニスを自分でしごき始めた。
「かかるから、離れろよ」
左手が俺の顔面をどけようとする。この特等席から動きたくなかった。「嫌です」と言ってから、「かけてください」と付け足した。
「……なんで急に、そんな上級者になってんの?」
よくわからないが感心された。動かない俺を見て、加賀さんはすぐに諦めた。手の動きが早くなる。
「目に入るかも。目ぇ瞑ってて」
「嫌です。見たいです、加賀さんのイク顔」
う、と加賀さんがうめく。温かい精液が俺の顎に飛んできた。首と胸にも降りかかる。
精液なのに。汚いなんて、微塵も思わなかった。最高に、綺麗な表情が見られた。全身に愉悦が広がり、触ってもいないのに、三度目の絶頂を迎える。
加賀さんが俺の股間を見ながら、ふう、と息を吐き、申し訳なさそうな顔で「ごめん」と呟いた。
「ほんとごめんな、こんなことさせて。悪い大人に捕まったよな」
「そんなことないです。絶対ない。俺、なんかすごく今、幸せです」
後悔して欲しくない。加賀さんを腕の中に掻き抱いた。すぐにぽんぽんと背中を叩かれ、「うん、わかったから離して。自分の精液ってきつい」と訴えられた。
「シャワー、するか」
当初の予定通り、そうすることにした。
いいのだろうか。自分がこの人にふさわしいとは思えない。ただの高校生なのに。こんな人が、俺を。
暗くなる思考を止めたのは、加賀さんの手だった。俺の背中をぽんぽんと叩いている。
「シャワーしたら?」
笑いを含んだ声。そうだ、俺は今全裸だった。しかも下半身は精液で汚れていて、勃起までしている。きっととっくに気づかれている。にわかに顔が熱くなった。
「すいません、加賀さんの服、汚したかも」
「いいよ。それより」
加賀さんが下半身をすり寄せてくる。
「俺もおっきくなってきた」
自嘲気味に笑って、俺の耳に口をつけて囁いた。
「触る?」
体に電流が走った。飛び退いて、立ち尽くす。動けない俺を差し置いて、加賀さんは自分の股間に手を突っ込んでポジションを直している。
「でもなんかお前、無茶しそうだな」
「だ、大事に扱いますので」
全裸で直立する俺を、加賀さんは愉快そうに笑って見ている。股間に手を入れたまま、背中を壁に預け、じっと俺を見る。やけに艶っぽい。みぞおちの辺りが変な具合に痛んだ。
加賀さんの視線が、俺の下半身に移動した。つられて自分もそこを見た。さっき一度達したのに、元気そのものだ。
見られることに、もう羞恥心はなかった。それに、見たい。すごく、見たい。加賀さんの裸を見たくてたまらなかった。
男の体は見慣れている。部室の着替えは嫌でも目に入るし、合宿で一緒に風呂に入ることもある。散々見てきた。
今まで男の体を見て、何か不純な感情を抱いたことは一度もない。
だけどこの人は。他の人と全然違う。
「倉知君、お手」
加賀さんが手のひらを俺に向けた。犬のようにお手をした手が、加賀さんの股間に導かれた。スウェットの中に突っ込まれ、すぐに指先が温かいものに触れた。
一度、唾を飲み込む。別になんてことはない、自分にもついているもののはずなのに。
握らされて、気が動転しそうだった。妙に、すべすべで気持ちがいい。
形を確かめながら手を上下させる。硬くなりつつあるそれは、完璧な形をしている。調子に乗って撫でさすっていると、加賀さんが俺の胸に頭をすり寄せてきた。
「ちょっと気持ちいい」
はあ、と吐く息が色っぽい。下半身が、疼く。
「加賀さん」
「ん」
「脱いで貰っていいですか? 全部見たい」
上目遣いで見てくる。その目が俺から逸れた。
「いいけど、お前、時間大丈夫? 帰らないと怒られるんじゃ」
「別に遅くなっても怒られません。信用されてるんで」
用意された食事を無駄にすることだけは許されないが、他は放任なのがうちの方針だ。男だからというより、姉二人も同じで、特に門限はない。
「はぐらかさないで、脱いで」
「俺普通のおっさんだよ? おっさんの裸だよ? 見たいの?」
「おっさんじゃないです」
目を見て断言する。おっさんに分類する年齢でもないし、見た目も高校生と間違われるくらいだから、若い。
何をためらうことがあるのか、なかなか脱ごうとしない。
もう待てない。
握っていたものから手を離し、Tシャツをめくり上げた。乳首が見えて、思わず腰が引ける。
「ちょ、わかったわかった。脱ぐから。お前、先、垂れてるぞ」
俺の股間を見やって、加賀さんが服を脱ぐ。もう何が垂れようが構わない。この人の裸から目を離すのがもったいない。
凝視する俺を警戒しつつ、下も脱ぐ。半分勃ち上がったそれは想像以上に美しい。本当に、完璧だった。上から下まで眺めて、感動した。脚も長いし、スタイルがいい。まさに眼福だ。
「加賀さん」
耐えきれずに抱きついた。素肌同士が触れ合うと、気持ちよくてそれだけで達しそうになる。
どうすればいいのか、わからない。
「なあ、倉知君」
のんびりとした余裕のある声で俺の背中を撫でた。温度差が少し悔しい。
「なんですか」
「どこまでする? ていうかお前、俺に挿れたい? 挿れられたい?」
質問の意味が、よくわからなかった。
加賀さんが苦笑する。
「やっぱそうか。なんとなくそうだろうと思ってたけど」
「なんですか?」
「ん、まあいいや。ゴムもないし」
「ゴム? って?」
「コンドーム」
彼女持ちの部員が以前、それを見せびらかしていた。いつどうやって何に使うものかは一応わかっている。でも今それが必要な理由がわからない。
「お前の頭の上に疑問符が浮かんでるのが見えるわ」
そう言われて、俺は自分の頭の上を見上げてしまった。すかさず加賀さんが吹き出す。
「また今度でいいか。今はとりあえず」
言いながら俺の下腹部を無造作に握ってきた。驚いて、「うわ」と変な声が出た。
「お前のしたいようにしていいよ」
「え、いいんですか?」
「うん、いいよ」
加賀さんが右手を上下させた。体を密着させ、喉元に吸いついてくる。目眩がした。息が上がる。
加賀さんはクスクス笑いながら右手を動かして、耳に噛みついてきた。
俺は無様に呼吸を荒くし、加賀さんの体にしがみついた。
「か、加賀さん、ストップ!」
したいようにしていいと言ったくせに。したいようにされている。加賀さんの舌が、耳の中に侵入してきたところで、目の前が白くなる。
再びの射精感。
「あ、ごめん。ていうか早いな。二回目なのに」
「……ひどいです」
「ごめんて。可愛いからつい」
本当に悪いと思っているのか、加賀さんは手を動かし続けている。先のほうばかりを責めてくる。出したばかりで敏感になっているそこが、痺れて、疼く。
「なん、なんで、加賀さん……っ」
「可愛いから?」
答えになっていない。少し乱暴に、加賀さんを壁に押しつけた。手から俺のペニスが零れ落ち、精液の糸が引く。顔が熱くなった。
この人の手が、俺のものを。
「シャワーするか、一緒に」
何度も「はい、はい」と同意した。一緒にシャワーなんて、すごい経験だ。
二人で風呂場に入ると、即座に後ろから抱きしめた。いてもたってもいられない。
「声響くから、静かにな」
色気を含んだ囁きが、風呂場に響く。黙ってうなずいた。
「ほら、洗ってやるから離せ」
後ろの俺をふりほどこうとするが、離れてやらない。鎖骨に触れる。胸、腹、と撫でさすり、堪能した。
本人はおっさんと言うが、絶対に違う。綺麗な肌だ。滑らかで、適度に筋肉がついていて、贅肉はない。どこもかしこも、整っている。
「倉知君」
「したいようにさせてください」
「はい」
とにかく全身、触ってやろうと思った。後ろから、あらゆる場所を撫でた。そのうち股間に血がみなぎり、本日三度目の勃起を果たす。
「マジかよ」
加賀さんの尻に、硬くなったものが触れている。もう照れがなくなった。好きだから、こうなる。開き直ることにした。
「やべえ、俺も勃った」
囁く声。肩越しに加賀さんの股間を覗き込む。完全に起き上がったペニスも、やはり綺麗だった。
「素股してみる?」
「すまた?」
「いやいや、やっぱやめよう。確実に声出るし」
声が。何かはわからないが、楽しそうだ。
「なんですか、やりましょう」
「急に男らしくなるなよ。もういいから早くこすってイカせろよ」
「素股がいいです。素股しましょう。すまた……、素股と酢豚って似てますね」
「……お前、それ他の奴に言うなよ」
ていうか声でかい、と文句を言う加賀さんのペニスを後ろから捕獲した。体が強張ったのは一瞬だった。すぐに力が抜けて、後ろにいる俺に体重を預けてくる。
二人の裸に、シャワーが降り注いでいる。風呂場の鏡に加賀さんの濡れた下半身が映っている。なまめかしい呼吸音が、耳をくすぐった。それだけで充分に刺激的なはずなのに、欲求はエスカレートしていく。
顔が見たい、と思った。
「加賀さん、床に座りましょう」
「ん、なんで?」
「顔が見たいんです」
少し間を置いて、鏡に気づいた加賀さんが「お前、むっつりか」とみぞおちを肘でついた。痛みにうめく俺の手からすり抜けいく。
「したいようにさせてくれるって言ったのに」
「もう時間もないし、腹も減ったし、頑張ってイカ
せてくれよ」
加賀さんは浴槽の縁に腰を下ろし、股を広げて股間を指差した。あられもない格好に、自然と前屈みになる。タイルにうずくまる俺の肩にかかとを載せて、加賀さんが言った。
「フェラする?」
「ふぇ?」
「ふぇって……、え?」
「え?」
なんのことかわからなかった。加賀さんが困った顔で俺を見つめる。
「どうやったらお前みたいな純粋な男子高校生が出来上がるんだ」
「純粋、なんですかね」
元々、性的なことにはあまり興味がなかった。友人の間で貸し借りされるエロ本やAVのたぐいを、俺だけはいつも借りなかった。そんなことより筋トレでもしていたほうが、実がある。
「……まあ、性欲がないわけじゃないよな。何回復活するんだよって感じだし」
「違うんです」
「何が」
「俺だってこんなの、自分でびっくりしてます。多分、加賀さんだから……、加賀さんのせいです」
「せいって。ごめんな」
笑いながら謝られて、慌てて言い訳をする。
「すいません、悪い意味じゃなくて」
「いいよ、わかる。でもなんか、真っ白な奴を穢すみたいで気が引けてきたな」
ぎく、とした。やめる、と言い出す気がしたから、急いで叫んだ。
「穢してください!」
加賀さんが唖然とする。
「お願いです、やめないで。俺のこと、穢してください」
加賀さんが慌てて唇に人差し指をあて、「しー」とやって、笑った。
「わかったよ。じゃあ穢そうかな。舐めてくれる?」
「はい、え? どこをですか?」
加賀さんが自分の股間に目を落とす。
「え?」
そこを、舐める? もしかしてからかわれているのだろうか。
「無理ならいいよ。いきなり男の舐めろって言っても難しいよな」
それはそうだ。無理だ。男の、なら。この人のなら。話は別だ。
「いいんですか? 舐めても」
「できる?」
「加賀さんなら全身舐めれますよ」
胸を張って答えると、加賀さんは「こええ」と笑って怯えてみせた。
「じゃあ、いただきます」
股間の前で手を合わせる俺を見て、今度は真顔で「こええよ」と怯えた。
「食べるなよ、舐めるだけだからな」
「わかってますよ」
勃起しているペニスをそっとつかんで、顔を近づける。本当に不思議だ。嫌悪感がないなんて。
「この辺な、裏の。こう、やってみ」
加賀さんの指が伸びてきて、根元から先のほうへなぞる。言われた通りに舐めてみた。濡れたペニスはなんの味もしない。
「カリのとこ、ここ」
俺の髪に指をからめ、頭を股間に押しつけてくる。見上げると、目が合った。
「はは、すげえ背徳感。胸が痛むわ」
俺を見下ろす加賀さんの目が、恍惚としていた。
まさか、この人のこんな顔を見られるなんて思っていなかった。
異常にエロい。
もっと、エロい顔をさせたい。
加賀さんに言われるままに、ひたすら舐めて、咥えた。口の中で、はち切れそうに、硬くなっていく。俺の股間も限界にきている。舐めている側が、こんなに興奮してもいいのだろうか。
「あ、イキそう。ちょっと離して」
俺の口の中から引き抜くと、唾液で濡れたペニスを自分でしごき始めた。
「かかるから、離れろよ」
左手が俺の顔面をどけようとする。この特等席から動きたくなかった。「嫌です」と言ってから、「かけてください」と付け足した。
「……なんで急に、そんな上級者になってんの?」
よくわからないが感心された。動かない俺を見て、加賀さんはすぐに諦めた。手の動きが早くなる。
「目に入るかも。目ぇ瞑ってて」
「嫌です。見たいです、加賀さんのイク顔」
う、と加賀さんがうめく。温かい精液が俺の顎に飛んできた。首と胸にも降りかかる。
精液なのに。汚いなんて、微塵も思わなかった。最高に、綺麗な表情が見られた。全身に愉悦が広がり、触ってもいないのに、三度目の絶頂を迎える。
加賀さんが俺の股間を見ながら、ふう、と息を吐き、申し訳なさそうな顔で「ごめん」と呟いた。
「ほんとごめんな、こんなことさせて。悪い大人に捕まったよな」
「そんなことないです。絶対ない。俺、なんかすごく今、幸せです」
後悔して欲しくない。加賀さんを腕の中に掻き抱いた。すぐにぽんぽんと背中を叩かれ、「うん、わかったから離して。自分の精液ってきつい」と訴えられた。
「シャワー、するか」
当初の予定通り、そうすることにした。
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真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
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