電車の男ー同棲編ー番外編

月世

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裏1201ー同棲編ー ※

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※リバです。


〈加賀編〉

 誕生日当日。帰宅するとカレーが用意されていた。食後には小さなホールケーキ。ろうそくを年の数だけ差そうとする倉知を止めて、二等分して完食する。二人で洗い物を片付けて、風呂に入るか、となったのだが、ここで倉知がギクシャクし始めた。
 風呂はほぼ毎日一緒に入っているし、今更、と思うのだが、変に意識するからこうなる。
「今日は別々に入りませんか?」
「なんで?」
「なんでって、その……」
「誕生日なのに別々って。俺は悲しい」
 悲しいという単語に反応して、倉知がハッと顔を上げた。そして唇を噛んで、苦悩の末、服を脱いだ。警戒心が透けて見える。俺が何もしないように、速攻で真っ裸になるとさっさと風呂場に飛び込んだ。
「待てこら。今日は俺の好きにさせろ」
 追いかけて、シャワーで体を流す倉知の背中に抱きついた。
「風呂場は駄目ですって」
「なんで」
「前も言いましたけど、声が……っ、あっ、やめて」
 後ろから手を伸ばし、両方の乳首をつまんで押しつぶすようにして揉んだ。硬く尖った突起を指先で弄びながら肩甲骨に歯を立てる。
「う、ちょっと、待って」
 小さく身震いをして俺の手を引きはがそうともがく。風呂場の鏡に、倉知の苦悶の表情が写っている。自然と股間に目がいった。頭をもたげるペニスが、脈打っているのが目視でもわかる。
「たまんねえな。なあ、風呂はあとにしてベッド行くか」
「えっ」
「つーかなんで風呂入ろうとしてんの? 今からヤるのに」
「あの、どうしてもやりますか?」
「はあ? 当たり前だろ。誕生日プレゼントなんだから」
 シャワーを止めて、倉知の手を引いて脱衣所に出た。
「でも俺、プレゼントちゃんと用意しましたよ?」
「ちょっと待て、なんか罰ゲームみたいな感覚になってない?」
「それは誤解です」
 倉知が寒そうに身をすくめながら股間を両手で隠している。バスタオルで体を包みこむようにして濡れた体を拭いてやった。
「俺に抱かれるのがそんなにイヤか?」
 暗い声が出た。男として、拒絶されているように感じてしまう。倉知が眉を下げて俺を見てから目を逸らす。
「だって」
「うん、だって?」
 倉知の身体を拭きながら、辛抱強く待った。
「だって、加賀さん、上手だし、俺、気持ち良すぎてわけわからなくなるし、その、絶対下の名前呼ぶつもりでしょ? 自分がどんなふうになるか想像できなくて怖くて」
「もっかい言って」
「え? えっと、何をですか?」
「上手って」
「じょう、ず?」
「加賀さん上手って言って」
「またそんな、変態っぽいこと……」
 頬を染めて困った表情で途方に暮れる倉知が、可愛くて理性が切れる寸前だ。
「やべえ、そそる」
 下から顔を近づけ、倉知の顎に吸いついた。二回、三回と音を立てて吸ってから、舌で顎の先から耳の下のラインを、丁寧に舐め上げた。倉知の身体がぶるぶると震える。歯を食いしばって声を出さないように、耐えている。その姿も、可愛い。
「七世」
 名前を呼ぶ。倉知が小さく声を上げて、しまった、という感じで、手で口を押えた。倉知は「七世」と名前で呼ぶと、異常に興奮する。呼んだだけで勃起して、ろくに刺激を加えずに達してしまう。セックスのときに呼ぶとどうなるのか試してみたが、暴発して挿入どころじゃなかった。
 挿れられるのに弱い自覚もあって、名前で呼ばれることを覚悟しているから、とにかく怖いのだろう。気持ちはわかる。
 優しく頬を撫でて、軽くキスをしてから言った。
「どんなふうになっても俺が面倒看るから。安心して気持ちよくなれよ」
 倉知の目が赤く充血している。そして力ない動作でうなずいた。
「寝室行くか」
「……はい」
 全裸のまま、寝室に移動した。スタンドライトを灯すと、ローションを用意して、倉知をベッドに座らせた。緊張が伝わってくる。幾度となく体を重ねてきたが、逆はまだ回数が少ない。チャンスをうかがってはいるが、そういう空気になるとごまかしたり、逃げられたりする。不公平だ、とも思うが、誕生日にはこうやって必ず機会がやってくる。だから文句も言わずに甘んじている。
 ふと、倉知の指輪が視界に入る。俺の指輪はサイドテーブルのケースの中。手を伸ばして、ケースをつかむ。倉知が俺の動きを目で追っている。指輪をはめると、どこか誇らしげに微笑んだ。
 肩にゆっくり体重をかけて寝かせると、上にまたがった。大きくなっている倉知のペニスが、尻に当たる。軽く揺すると体をびくつかせて俺の膝をつかんで、動きを止めようとする。
「うっ、か、加賀さん、入っちゃいます」
「入れさせないよ?」
 尻の下で、硬度を増す。必死で堪えている。可愛い。顔を撫でて、視線を合わせた。目が潤んでいる。
「七世」
 身体がこわばり、緊張で肩が上がる。はは、と笑いが漏れた。
「どれだけ呼んだら慣れるかな」
「慣れません。だって、加賀さんの声、色っぽい」
「色っぽい? そう?」
 顔をつかんで鼻先をくっつけて、もう一度名前を呼ぶ。
「七世」
「ん……っ」
 頬を紅潮させ、目をきつくつむった。
「七世」
 耳に口を寄せる。息を吹きかけると体をびくつかせて荒い息を吐く。耳たぶを、軽く噛む。舌でなぞりながら、「七世」としつこく繰り返した。倉知の体が小刻みに震えている。
 首筋にキスをする。鎖骨、胸、腹、と吸いついては名前を連呼していると、下腹部に到達する頃に、我慢の限界を迎えた。目の前で吐き出される白い液体。
 息を乱し、顔を隠す倉知の体が痙攣をやめない。
「気持ちいい?」
 吐精したばかりの先端を、丁寧に舐めてから、軽く吸った。倉知が体をよじって小さく叫ぶ。
「あっ……、う、か、加賀さん、もう」
「挿れる? 全然ほぐしてないよ」
 股を割り開き、人差し指でつついてやると、ぎゅ、と力を込めたのが見えた。
「自分で、……したから、大丈夫」
 最後のほうは消え去りそうな小声でそう言った。
「自分でしたの? いつの間に? どうやって?」
 倉知が顔を隠した腕を少し持ち上げて、俺を見る。顔が赤い。
「今度、自分でほぐすとこ見せて」
「……変態」
「うん、否定はしない」
 笑って、ローションを手に取った。倉知がその気配を察知して、大きく息をつく。ローションを塗り込まれるのは、俺もいまだに慣れない。妙な緊張感がある。
「力抜いて。息吐いて」
 少しでもリラックスさせようと精一杯優しい声色で呼びかけた。倉知は深呼吸をしてから、俺にしがみついてきた。二人が繋がる部分にローションを滴らせ、硬くなった自分自身をあてがった。
「あっ」
 先が触れただけで、倉知が裏返った声を出す。
「加賀さん、加賀さん……っ」
 しがみついた肩に、爪が食い込んでくる。俺の体を引き寄せて、腰を動かし、自分から飲み込もうとしている。倉知の顔を、確認した。どろどろに溶けそうな、エロくさい顔。
「やべえ。可愛くてしょうがない」
 倉知が下から押し上げる動きと、俺が上から挿入する動きが重なって、二人の身体が瞬時に深く、合わさった。倉知が声を上げ、体を痙攣させる。反り返ったペニスが揺れて、ほんの少しの精液が飛んだ。
「今軽くイッた?」
 倉知は俺にしがみついたまま答えない。一生懸命呼吸をしながら、何かと戦っている。目が虚ろだ。
「七世」
 静かに呼ぶと、倉知がハッとなって俺を見た。目が合うと、下唇を噛んで切なそうな表情に変わる。
「加賀さん、好きです」
「うん」
 うなずいて、腰を揺する。
「俺も好きだよ」
「んっ、う、は、はぁ、あっ、加賀さ、んっ……」
 倉知が舌足らずな喘ぎを漏らす。
「七世、可愛い」
「やっ、あっ、だめっ」
 名前を呼んだだけで、締めつけが一気にきつくなる。
「すげ、きっつ……、ちょっと緩めて」
 動きを止めて息をついて、倉知の太ももを撫でる。倉知は首を左右に振って、腰を突き上げてくる。
「加賀さん、気持ちいい、もっと、動いて、お願い」
 涙で潤んだ目と、上気した頬。耳まで赤くして、甘ったるい鼻にかかった声で訴えてくる。理性の手綱が緩むには十分すぎる刺激だった。
 倉知の体を抱きしめて、腰を振る。七世、七世、とねちっこく名前を呼ぶ。倉知は泣きながら体をのけ反らせ、何度も絶頂に達した。
 この貴重な時間を、精一杯楽しみたい。射精感に抗いながら、慎重に、優しく抱いた。体中に口づけて、倉知の痴態を楽しんだ。今日は俺の誕生日。特権を行使しなければ。
 さいわい、倉知の体力は無尽蔵。ついでに絶倫だから性欲もなかなか衰えない。貪欲に、俺を欲してくれる。
「気持ちいい?」
 声もなく、コクコクと小さく同意する倉知に、思わず笑顔になる。
「加賀さん上手って言って」
 俺の下で悶えて喘ぐ倉知に、腰を打ちつけながら言った。倉知が汗だくになりながら俺を見上げる。半開きの口から漏れ出るのは、艶めかしい吐息だけ。腰を持ち上げて、倉知の弱いところを意識して突いた。体が波打ち、引きつった悲鳴が出た。
「七世、加賀さん上手は?」
 大きく抜き差しをしながら、倉知の返事を待つ。与えられる快感に夢中になっている。羞恥心をかなぐり捨て、自分のペニスを握りしめて、叫ぶように言った。
「きもちい、加賀さん、じょう、ず……っ、じょうず……」
 泣きながら、熱に浮かされたように反復する。健気な倉知の頭を撫でて、「よくできました」と褒めた。濡れた体を掻き抱いて、穿つ。快楽を、貪る。倉知の泣き叫ぶ声。強烈に締めつけられて、上りつめ、果てた。
 俺の下で息を弾ませる倉知が、小さく「加賀さん、好き」と呟いたのが聞こえた。
 愛しさで、胸が熱くなる。
「ああもう、めっちゃ可愛いな、お前」
 抱きしめて、頬ずりをする。ずっと、こうしていたい。
「毎日誕生日なら最高だな」
 つい、本音が出た。倉知が弱々しい動作で俺の背中に手を回し、しがみついてきた。
「別に、誕生日じゃなくても……」
「え、今なんつった?」
 急いで体を起こして、倉知の顔を見下ろした。倉知は慌てて俺から目を逸らした。涙で濡れた睫毛を、恥ずかしそうに震わせている。
「いいの?」
「な、何がですか」
「誕生日じゃなくても抱かせてくれる? 今度から逆?」
「そんなこと言ってな……、ちょっ、なんで大きくしてるんですか。ていうかもう、抜いてください」
「抜かずの二発目いくか」
「え……、え? あの、嘘でしょ」
「本当です。愛してるよ」
 日付けが変わって誕生日が終わっても、止められない。抱かずにはいられない、可愛い俺の七世。

〈おわり〉
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