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夜の饗宴
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〈加賀編〉
仕事を終え帰宅すると、父から荷物が届いていた。何か送ったとは聞いていない。なんだろう、と思いながら封を開ける。中に入っていたものを段ボールから取り出して、一瞥すると、そっと元に戻し、もう一度、送り主を確認した。
何回見ても父の名前だし、実家の住所になっている。間違いなく父から送られたものなのだが、意味がわからない。
「なんでした?」
俺の横に屈んで、倉知が手元を覗き込んでくる。
「なんでもない」
慌てて蓋を閉じる。
「え、光太郎さんからですよね」
「うん、まあ、そうだと思うけど、いや、そうなんだろうけど」
歯切れの悪い俺の科白に、倉知が物わかりのいい顔で腰を上げた。
「ご飯、食べましょうか」
「お、おう」
見られたくないものだと判断したのか、それ以上荷物の中身を追求しなかった。本当にいい子で目頭が熱くなるのだが、これはこれで居心地が悪い。そもそもなぜ父がこんなものを送ってきたのか謎だし、一人でこのモヤモヤを抱えているのも気持ちが悪い。
「知りたくないの?」
飲み干した缶ビールをテーブルに置いて、頭を掻きながら切り出した。
「え、何がですか?」
カレイの煮つけを完璧な作法で食べていた倉知が、ポカンとして手を止めて、聞き返した。
「さっきの箱の中身」
「ああ、あの荷物ですか」
そんなことには興味がないし、忘れていた、という顔だ。
「知られたくないのかと思って」
「いや、知られたくないっていうか、意味わかんなくて。見なかったことにしようと思ったけど、やっぱ共有してよ」
「なんですか?」
父があんなものを送ってきたのが知れると、威厳を損ねるというか、イメージが崩れるというか、とにかく倉知の中でマイナスになるのは間違いない。でも、自分一人で抱えるにはあまりにも謎が深くてしんどい。
「あのな」
「はい」
「その、え……」
「え?」
キラキラの純粋な目が、俺を見る。顔を覆ってその視線を遮断し、声を振り絞る。
「エプロンなんだよ」
「エプロン」
「うん」
「なんだ、もっと変なものかと思った」
「違う、変なんだよ。充分変なんだよ。とりあえず見て」
段ボールの蓋を広げて、倉知を手招いた。
「はあ、エプロン? え、なんかすごい、フリフリですけど」
「だよね、明らかに女物っていうか今時女でも着るかってくらい少女趣味だよな」
真っ白で、上半身の部分がハートにかたどられ、フリルがこれでもかとついた恥ずかしいデザインのエプロンだ。
「どうして光太郎さんがこんなエプロンを送ってきたんでしょうか」
「俺もそれを知りたい」
「それにしてもすごいですね。なんか、可愛い」
倉知が何か思いついた顔で俺を見た。
「お前その顔……。やめろ、そんな目で俺を見るな」
「ご厚意を無駄にはできません。はい、着ましょう」
ナイロンをはいで、エプロンを取り出すと、俺に差し出した。顔が、にやけまくっている。
「親父は倉知君に着てほしいんだと思う。うん、きっとそうだ。そうに違いない」
「そう、ですかね」
なんでまんざらでもない顔になるんだよ。
「でも俺、加賀さんが着たとこ見たい」
「いやいやいや……、俺よりお前のほうが似合う。可愛い。絶対可愛い。もうどうせなら裸エプロンにしてよ」
「はだか、エプロン……って?」
想像して吹き出してしまったが、実際つけると確実にエロい。俄然、実物が見たくなった。
「よし、じゃんけんにしよう。最初はグー」
合図もなしに唐突にじゃんけんを始めると、倉知が慌てて乗っかってくる。倉知の父から、倉知はじゃんけんで必ず最初にパーを出す、と聞いていた。何かのときに使ってよ、と言われていたことを思い出したのだ。
父の言った通り、倉知はパーを出した。
「うし、勝った」
お父さん、ありがとう、と両手のこぶしを握り合わせる俺を、倉知が呆然と見ている。
「あれ、え、負けた……?」
「じゃあ早速着てみようか。はい、脱いで」
「え?」
「え、じゃない。裸エプロンの約束だろ」
「約束、しましたっけ?」
「うん、ほら、脱いで脱いで。下着も全部だぞ」
急かすと、倉知が渋々服を脱ぎ始めた。
こんな馬鹿げたことで、妙に舞い上がっている。ニヤニヤが止まらない。全裸になった倉知が両膝をついて、ひらひらのエプロンを持ち上げて憂鬱な顔をした。
「裸にこれって……」
「いいから、早く着けろよ」
困惑しながらエプロンを着ける倉知を、口元を手で覆ってガン見した。なんでこいつはこんなに素直なんだ? 普通、裸エプロンなんていう屈辱は、何がなんでも拒否するだろう。じゃんけんで負けていたのが俺なら、なんとでも言いくるめて回避していた。
「あの……、加賀さん」
「うん」
「短いから、その、見えちゃいます」
恥ずかしそうに、途方に暮れたように、裾を引っ張って股間を隠そうとする仕草に、自分の中で何かが音を立てて弾けた。頭を抱えて、「うわー」と悲鳴を上げた。
「……くそっ、なんなんだよ」
こんなものを送りつけて、何がしたいのか意味不明すぎて怖いが、とにかくこれだけは言いたい。
「親父、愛してる……!」
フローリングを転げまわる俺をしばらく放置した倉知が、おずおずと申し訳なさそうに呼び止めた。
「加賀さん、あの」
がばっと起き上がり、呼吸を整えたあとで咳払いをして、片膝をついた状態で、精一杯決め顔を作って倉知に向き直る。
「うん、何?」
「これ、やっぱり俺じゃなくて、加賀さん宛てだと思います」
「なんでそうなる。お前にぴったりだ。それはお前のために作られた芸術品だ」
「でも、小さいし、はず、恥ずかしいです。もう脱いでいいですか?」
射るような俺の視線に気づき、倉知が床にしゃがみこんだ。フリルで必死に股間を隠す姿が、そそるどころの話じゃない。
「お前、何? なんなの? なんでそんな可愛いの? 抱かれたいの?」
「えっ? いや、違います、抱かれたくないです」
「そこはっきり言うのかよ」
しょんぼりと肩を落とすと、ズボンのポケットで携帯が震えた。いいところで邪魔が入った。舌を打ってから、携帯を取り出して画面を見ると、珍しい人物からの着信だった。
『久しぶりだね、二人とも元気にしてる?』
ハルさんが言った。
「うん、何? 親父になんかあった?」
『えー、ないよ。元気元気。ねえ、荷物届いた?』
笑いを含んだ声。ハッとした。そうか、そうだったのか。
「ハルさんの犯行だな?」
『可愛いでしょ?』
いたずらっ子の笑みが、目に浮かぶようだった。
『衝動買いしちゃったんだけど、私、全然似合わなくて』
「待って、でもこの伝票、親父の字なんだけど」
段ボールに張りついている送り状の字を、もう一度確認した。父の字に見える。だから、疑いもしなかった。まさか父も加担しているのか、と思ったが、あの人はこんな馬鹿げたいたずらには絶対乗らない。
『それ私が書いたんだよ。筆跡真似たの。上手い?』
「は? そこまでする?」
するのだ。この人はいたずらが大好きで、普通は考えられないところに労力と時間をかけ、全力で人を驚かせようとする。
『で、どっちが着たの?』
着たと決めつけた言い方に、一瞬反応が遅れた。
『どっちでもいいけど、写真撮って送ってよ』
ちら、と倉知を見る。脱いでいい、と許可していないからか、律儀に裸エプロンのまま正座して待っている。
「着ると思う?」
ハルさんは間を置かずに「着たでしょ」と断言した。
「ハルさん、一言だけ言わせて」
ため息をついてから、言った。
「グッジョブ」
電話の向こうで、あはははは、と大笑いする声が聞こえた。
電話を切ると、困った顔の倉知と目が合った。
「えっと、これ、ハルさんが?」
「なあ、倉知君」
「は、はい」
「お前、ちゃんとノーが言える大人になれよ」
「え」
倉知の前にあぐらをかいて座ると、剝き出しの膝小僧を撫でながら言った。
「心配になってきた。嫌なことは嫌、無理なことは無理って言えよ」
「結構言うタイプですよ、俺」
「じゃあなんで黙ってそんなもん着るんだよ。嫌じゃないの?」
着ろ、と言っておいて、そんなもん呼ばわりするのもおかしな話だが、倉知はしれっとして答えた。
「じゃんけんで負けたからですよ」
後ろめたくて目を逸らし、ごめん、と心の中で謝りつつ、じゃんけんの癖を教えるのはまた今度にしよう、と思った。
「それに、加賀さんが着てほしそうだったし、俺、加賀さんの言うことならなんでも聞きます」
「なんでも?」
思わず声が高くなる。
「いや、大体のことは、です」
倉知がまずいという顔で急いで訂正したが、聞こえないふりをした。撫でていた膝小僧から内腿に手を移動させながら、言った。
「じゃあその格好のまま、抱かせてよ、今すぐ」
わかりました、とすべてを委ねてくる倉知を想像した。しょうがない人だな、と少し呆れた顔をした倉知が、肩をすくめて快活に返事をする。
「ノーです」
「……は?」
「俺、ちゃんとノーが言える大人になりますね」
ああして、こうして、と脳内で予行練習を始めたというのに、この仕打ち。
墓穴を掘る、とはまさにこのことだ。辞書で「墓穴を掘る」の項目を調べたら、今のこの一連のやり取りが出てくるだろう、というくらい華麗な墓穴の堀り具合だった。
「ご飯、途中だし食べましょう」
倉知が俺の肩をぽん、と叩いてから立ち上がった。ぎょっとして、倉知の動きを目で追った。自分の今の格好を失念しているのだろうか。いや、わかっていて、誘っている。
ごく、と喉を鳴らした。俺に背を向けて、無防備な尻をさらすなんて。
「もう一回、いただきますしましょうか」
「する。いただきます」
後ろから飛びついた。エプロンの隙間から手を突っ込んで乳首を捕獲すると、倉知が悲鳴を上げた。
夜の饗宴は、始まったばかりだ。
〈おわり〉
仕事を終え帰宅すると、父から荷物が届いていた。何か送ったとは聞いていない。なんだろう、と思いながら封を開ける。中に入っていたものを段ボールから取り出して、一瞥すると、そっと元に戻し、もう一度、送り主を確認した。
何回見ても父の名前だし、実家の住所になっている。間違いなく父から送られたものなのだが、意味がわからない。
「なんでした?」
俺の横に屈んで、倉知が手元を覗き込んでくる。
「なんでもない」
慌てて蓋を閉じる。
「え、光太郎さんからですよね」
「うん、まあ、そうだと思うけど、いや、そうなんだろうけど」
歯切れの悪い俺の科白に、倉知が物わかりのいい顔で腰を上げた。
「ご飯、食べましょうか」
「お、おう」
見られたくないものだと判断したのか、それ以上荷物の中身を追求しなかった。本当にいい子で目頭が熱くなるのだが、これはこれで居心地が悪い。そもそもなぜ父がこんなものを送ってきたのか謎だし、一人でこのモヤモヤを抱えているのも気持ちが悪い。
「知りたくないの?」
飲み干した缶ビールをテーブルに置いて、頭を掻きながら切り出した。
「え、何がですか?」
カレイの煮つけを完璧な作法で食べていた倉知が、ポカンとして手を止めて、聞き返した。
「さっきの箱の中身」
「ああ、あの荷物ですか」
そんなことには興味がないし、忘れていた、という顔だ。
「知られたくないのかと思って」
「いや、知られたくないっていうか、意味わかんなくて。見なかったことにしようと思ったけど、やっぱ共有してよ」
「なんですか?」
父があんなものを送ってきたのが知れると、威厳を損ねるというか、イメージが崩れるというか、とにかく倉知の中でマイナスになるのは間違いない。でも、自分一人で抱えるにはあまりにも謎が深くてしんどい。
「あのな」
「はい」
「その、え……」
「え?」
キラキラの純粋な目が、俺を見る。顔を覆ってその視線を遮断し、声を振り絞る。
「エプロンなんだよ」
「エプロン」
「うん」
「なんだ、もっと変なものかと思った」
「違う、変なんだよ。充分変なんだよ。とりあえず見て」
段ボールの蓋を広げて、倉知を手招いた。
「はあ、エプロン? え、なんかすごい、フリフリですけど」
「だよね、明らかに女物っていうか今時女でも着るかってくらい少女趣味だよな」
真っ白で、上半身の部分がハートにかたどられ、フリルがこれでもかとついた恥ずかしいデザインのエプロンだ。
「どうして光太郎さんがこんなエプロンを送ってきたんでしょうか」
「俺もそれを知りたい」
「それにしてもすごいですね。なんか、可愛い」
倉知が何か思いついた顔で俺を見た。
「お前その顔……。やめろ、そんな目で俺を見るな」
「ご厚意を無駄にはできません。はい、着ましょう」
ナイロンをはいで、エプロンを取り出すと、俺に差し出した。顔が、にやけまくっている。
「親父は倉知君に着てほしいんだと思う。うん、きっとそうだ。そうに違いない」
「そう、ですかね」
なんでまんざらでもない顔になるんだよ。
「でも俺、加賀さんが着たとこ見たい」
「いやいやいや……、俺よりお前のほうが似合う。可愛い。絶対可愛い。もうどうせなら裸エプロンにしてよ」
「はだか、エプロン……って?」
想像して吹き出してしまったが、実際つけると確実にエロい。俄然、実物が見たくなった。
「よし、じゃんけんにしよう。最初はグー」
合図もなしに唐突にじゃんけんを始めると、倉知が慌てて乗っかってくる。倉知の父から、倉知はじゃんけんで必ず最初にパーを出す、と聞いていた。何かのときに使ってよ、と言われていたことを思い出したのだ。
父の言った通り、倉知はパーを出した。
「うし、勝った」
お父さん、ありがとう、と両手のこぶしを握り合わせる俺を、倉知が呆然と見ている。
「あれ、え、負けた……?」
「じゃあ早速着てみようか。はい、脱いで」
「え?」
「え、じゃない。裸エプロンの約束だろ」
「約束、しましたっけ?」
「うん、ほら、脱いで脱いで。下着も全部だぞ」
急かすと、倉知が渋々服を脱ぎ始めた。
こんな馬鹿げたことで、妙に舞い上がっている。ニヤニヤが止まらない。全裸になった倉知が両膝をついて、ひらひらのエプロンを持ち上げて憂鬱な顔をした。
「裸にこれって……」
「いいから、早く着けろよ」
困惑しながらエプロンを着ける倉知を、口元を手で覆ってガン見した。なんでこいつはこんなに素直なんだ? 普通、裸エプロンなんていう屈辱は、何がなんでも拒否するだろう。じゃんけんで負けていたのが俺なら、なんとでも言いくるめて回避していた。
「あの……、加賀さん」
「うん」
「短いから、その、見えちゃいます」
恥ずかしそうに、途方に暮れたように、裾を引っ張って股間を隠そうとする仕草に、自分の中で何かが音を立てて弾けた。頭を抱えて、「うわー」と悲鳴を上げた。
「……くそっ、なんなんだよ」
こんなものを送りつけて、何がしたいのか意味不明すぎて怖いが、とにかくこれだけは言いたい。
「親父、愛してる……!」
フローリングを転げまわる俺をしばらく放置した倉知が、おずおずと申し訳なさそうに呼び止めた。
「加賀さん、あの」
がばっと起き上がり、呼吸を整えたあとで咳払いをして、片膝をついた状態で、精一杯決め顔を作って倉知に向き直る。
「うん、何?」
「これ、やっぱり俺じゃなくて、加賀さん宛てだと思います」
「なんでそうなる。お前にぴったりだ。それはお前のために作られた芸術品だ」
「でも、小さいし、はず、恥ずかしいです。もう脱いでいいですか?」
射るような俺の視線に気づき、倉知が床にしゃがみこんだ。フリルで必死に股間を隠す姿が、そそるどころの話じゃない。
「お前、何? なんなの? なんでそんな可愛いの? 抱かれたいの?」
「えっ? いや、違います、抱かれたくないです」
「そこはっきり言うのかよ」
しょんぼりと肩を落とすと、ズボンのポケットで携帯が震えた。いいところで邪魔が入った。舌を打ってから、携帯を取り出して画面を見ると、珍しい人物からの着信だった。
『久しぶりだね、二人とも元気にしてる?』
ハルさんが言った。
「うん、何? 親父になんかあった?」
『えー、ないよ。元気元気。ねえ、荷物届いた?』
笑いを含んだ声。ハッとした。そうか、そうだったのか。
「ハルさんの犯行だな?」
『可愛いでしょ?』
いたずらっ子の笑みが、目に浮かぶようだった。
『衝動買いしちゃったんだけど、私、全然似合わなくて』
「待って、でもこの伝票、親父の字なんだけど」
段ボールに張りついている送り状の字を、もう一度確認した。父の字に見える。だから、疑いもしなかった。まさか父も加担しているのか、と思ったが、あの人はこんな馬鹿げたいたずらには絶対乗らない。
『それ私が書いたんだよ。筆跡真似たの。上手い?』
「は? そこまでする?」
するのだ。この人はいたずらが大好きで、普通は考えられないところに労力と時間をかけ、全力で人を驚かせようとする。
『で、どっちが着たの?』
着たと決めつけた言い方に、一瞬反応が遅れた。
『どっちでもいいけど、写真撮って送ってよ』
ちら、と倉知を見る。脱いでいい、と許可していないからか、律儀に裸エプロンのまま正座して待っている。
「着ると思う?」
ハルさんは間を置かずに「着たでしょ」と断言した。
「ハルさん、一言だけ言わせて」
ため息をついてから、言った。
「グッジョブ」
電話の向こうで、あはははは、と大笑いする声が聞こえた。
電話を切ると、困った顔の倉知と目が合った。
「えっと、これ、ハルさんが?」
「なあ、倉知君」
「は、はい」
「お前、ちゃんとノーが言える大人になれよ」
「え」
倉知の前にあぐらをかいて座ると、剝き出しの膝小僧を撫でながら言った。
「心配になってきた。嫌なことは嫌、無理なことは無理って言えよ」
「結構言うタイプですよ、俺」
「じゃあなんで黙ってそんなもん着るんだよ。嫌じゃないの?」
着ろ、と言っておいて、そんなもん呼ばわりするのもおかしな話だが、倉知はしれっとして答えた。
「じゃんけんで負けたからですよ」
後ろめたくて目を逸らし、ごめん、と心の中で謝りつつ、じゃんけんの癖を教えるのはまた今度にしよう、と思った。
「それに、加賀さんが着てほしそうだったし、俺、加賀さんの言うことならなんでも聞きます」
「なんでも?」
思わず声が高くなる。
「いや、大体のことは、です」
倉知がまずいという顔で急いで訂正したが、聞こえないふりをした。撫でていた膝小僧から内腿に手を移動させながら、言った。
「じゃあその格好のまま、抱かせてよ、今すぐ」
わかりました、とすべてを委ねてくる倉知を想像した。しょうがない人だな、と少し呆れた顔をした倉知が、肩をすくめて快活に返事をする。
「ノーです」
「……は?」
「俺、ちゃんとノーが言える大人になりますね」
ああして、こうして、と脳内で予行練習を始めたというのに、この仕打ち。
墓穴を掘る、とはまさにこのことだ。辞書で「墓穴を掘る」の項目を調べたら、今のこの一連のやり取りが出てくるだろう、というくらい華麗な墓穴の堀り具合だった。
「ご飯、途中だし食べましょう」
倉知が俺の肩をぽん、と叩いてから立ち上がった。ぎょっとして、倉知の動きを目で追った。自分の今の格好を失念しているのだろうか。いや、わかっていて、誘っている。
ごく、と喉を鳴らした。俺に背を向けて、無防備な尻をさらすなんて。
「もう一回、いただきますしましょうか」
「する。いただきます」
後ろから飛びついた。エプロンの隙間から手を突っ込んで乳首を捕獲すると、倉知が悲鳴を上げた。
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〈おわり〉
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