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小ネタ集
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『起きてる?』
いつも通り、先に眠った加賀さんの顔を眺めていた。
横になって体を丸めて眠っている姿が可愛い。寝顔が可愛い。寝息が可愛い。さらさらの髪が横に流れて、おでこが見える。可愛い。胸が痛くなるくらい愛しい。毎日、そう思う。
幸せだ。これも毎日思う。
加賀さんを見つめながら、愛しさに包まれて、幸せを嚙みしめて、そのうち気がついたら眠っている。
加賀さんと暮らすようになって、眠りの質が、明らかによくなった。ここ最近は、大体が、起きたら朝だ。途中で目が覚めることがない。
のだが、今日は違った。
体を触られる感覚。胸を、撫でさすられている。一気に覚醒した。仰向けに寝ていた俺の上に、上半身だけかぶさるようにして眠っている加賀さんが、俺の胸を、揉んでいる。
目は、つむっている。寝ぼけているのかもしれない。これはこれで、可愛い。
ほほえましくてクスクス笑っていると、胸を揉んでいた手が、下へ移動した。笑えなくなった。手のひらで俺の股間を包み込むと、やわやわと揉みしだき始めた。
「か、加賀さん? 寝てる? 起きてる?」
返事がない。でも、起きている。絶対起きている。これは、誘われているに違いない。
まだ外は暗い。多分二時か、三時かその辺り。明日は平日だし、こんな中途半端な時間に起きて、セックスしようなんて珍しいこともあるものだ。
期待で胸を高鳴らせていると、加賀さんの手の動きが止まった。
すー、すー、と安らかな寝息が聞こえる。
俺の股間を握ったまま、可愛い顔で眠っている。
ひどい。
股間の準備を万端に整え、性欲を煽っておきながら、一人で眠ってしまうなんて。
襲ってしまえ。と思わないでもない。
でも俺は、そこまで図太くない。
目を固く閉じて、寝たふりを開始した。
〈おわり〉
『俺の』
「アイスが食べたい」
倉知が言った。
「今?」
「今です。なんか急に食べたくなった」
「もう夜だけど」
「ですよね。どうしよう」
可愛いな。なんだよお前は、子どもか?
可愛くて仕方がないので、二人で買いに行くことにした。
歩いて数分のコンビニでアイスを買った。
レジで釣銭を受け取り、コンビニを出た途端、倉知が俺の右手をつかんだ。
「ん、何?」
「今の、絶対変ですよね」
「今のって?」
「おつりの渡し方です」
そう言われて、記憶を巻き戻してみる。首を傾げた。
「別に、普通じゃない?」
ていうか、この手はなんだよ、と言いたい。振りほどこうとしても、離してくれない。がっちりつかまれている。
「手を握るっていうか、こう、両手で包み込むっていうか……、俺、いつも思ってたんですけど、レジの人が女の人のとき、加賀さん大体手、触られてますよね」
倉知が俺の手を両手で握りしめて、口を尖らせた。さっきの店員は男なのだが。わかっているのだろうか。
「そう? よく見てるね」
皮肉のつもりだったが、倉知は自信に満ちた返事をした。
「見てます。俺はいつでも加賀さんのこと、見てます」
「お、おう」
「そうだ」
パッと顔を輝かせて倉知が声を上げた。
「今度から俺が支払いします」
「え」
「そうすれば手、触られないで済む」
「別に、そんな気にすること?」
「気にします。いやです、だって俺の手ですから」
愛しそうに目を細める倉知に「いやいや」とツッコミを入れる。
「お前の手じゃないよ」
「えっ」
「俺の手だよ」
「えー?」
「なんだよその不満そうな顔は。誰がどう見ても俺の手だろ」
「そうですけど、そういう意味じゃなくて」
しょんぼりする倉知の頭を、空いているほうの手で撫でて、笑った。
「ごめん、お前のだよ。そんでこれは俺の、な」
握り合わせていた倉知の手を持ち上げて、指に軽くキスをした。
「……へへ」
倉知が満足そうに微笑む。深夜に近い時間帯で、周りに人がいないからこそできることだ。
手を繋いだままマンションに向かう。
深夜のデートもたまにはいい、と思った。
〈おわり〉
『寝ろ』
倉知がスマホばかり見ている。今時の若者らしいといえば、らしい。でも倉知らしくない。
食事中に見るとか、会話中に見るとかじゃない。だからまあいいか、とは思うが、気にはなる。
ちょっとした隙に、スマホを見ている。嬉しそうに、口元をほころばせてスマホを見る姿は、若干不安を感じる。誰かと何か、やり取りをしているのかもしれない。俺より大事なものでもできたとか?
そんなわけあるか。
トイレから戻ると、やはりスマホを眺めていた。気配を殺し、ソファに腰掛ける倉知の背後に忍び寄り、覗き込む。
画面に映っていたのは、ゲームでもLINEでもメールでもなく、俺の写真だった。
「おい」
「うわあっ」
倉知が跳ねた。
「何、なんで俺の写真見てんの。本人ここにいるよ」
「すいません、あまりに可愛くて」
頬を赤らめて照れ臭そうに言った。
「ちょっともっかい見せて」
手を出すと倉知が躊躇した。
「消さないから」
優しく言うと、倉知はホッとした様子でスマホを差し出した。
画面を見る。俺だ。寝ている俺だ。ただそれだけ。別に、裸でもないし、ただ寝ているだけのつまらない写真だ。
「なんなの?」
「可愛くないですか?」
「うん可愛い。めっちゃ可愛いな俺。なんて言うと思うか」
「よく見てください。寝顔が、すごく可愛いんです」
むきになられても困る。どれだけじっくり見ようとも、自分の寝顔を見ても可愛いなんて感想が出るはずもない。
「勝手に撮ってすいません」
無言になった俺を、怒ったのかと勘違いした倉知が神妙な顔で謝った。
「俺にも撮らせろよ」
「え」
「俺もお前の寝顔を持ち歩きたい」
「は、はあ」
「よし、今日は俺より先に寝ろ」
「え、でも、いつも加賀さん、先に寝ちゃうじゃないですか」
確かに、布団に入ると眠るモードに切り替わり、おやすみ三秒だ。でも、ベッドに入らなければ起きていられる。
「寝ろ。今すぐ寝ろ」
倉知をベッドに押し込んで、かたわらに立ち、携帯を構えた。
「さあ、とびっきりの可愛い寝顔を俺にくれ」
「あの、見られてたら寝にくいです」
「目ぇ閉じてたら眠くなるって」
素直に目を閉じたが、顔が険しい。眠るまで待つしかない。
ベッドに腰掛け、そばで見守っていると、あくびが出た。まずい、眠い。硬い表情で寝たふりをする倉知を見ていると、睡魔が襲ってきた。
気がつくと朝だった。倉知はとっくに起きていて、ベッドに一人。
急いで携帯を確認した。寝ている間に小人さんが倉知の寝顔を激写してくれていたり。は、しなかった。
自分の寝つきの良さをこれほど呪ったことはない。
〈おわり〉
いつも通り、先に眠った加賀さんの顔を眺めていた。
横になって体を丸めて眠っている姿が可愛い。寝顔が可愛い。寝息が可愛い。さらさらの髪が横に流れて、おでこが見える。可愛い。胸が痛くなるくらい愛しい。毎日、そう思う。
幸せだ。これも毎日思う。
加賀さんを見つめながら、愛しさに包まれて、幸せを嚙みしめて、そのうち気がついたら眠っている。
加賀さんと暮らすようになって、眠りの質が、明らかによくなった。ここ最近は、大体が、起きたら朝だ。途中で目が覚めることがない。
のだが、今日は違った。
体を触られる感覚。胸を、撫でさすられている。一気に覚醒した。仰向けに寝ていた俺の上に、上半身だけかぶさるようにして眠っている加賀さんが、俺の胸を、揉んでいる。
目は、つむっている。寝ぼけているのかもしれない。これはこれで、可愛い。
ほほえましくてクスクス笑っていると、胸を揉んでいた手が、下へ移動した。笑えなくなった。手のひらで俺の股間を包み込むと、やわやわと揉みしだき始めた。
「か、加賀さん? 寝てる? 起きてる?」
返事がない。でも、起きている。絶対起きている。これは、誘われているに違いない。
まだ外は暗い。多分二時か、三時かその辺り。明日は平日だし、こんな中途半端な時間に起きて、セックスしようなんて珍しいこともあるものだ。
期待で胸を高鳴らせていると、加賀さんの手の動きが止まった。
すー、すー、と安らかな寝息が聞こえる。
俺の股間を握ったまま、可愛い顔で眠っている。
ひどい。
股間の準備を万端に整え、性欲を煽っておきながら、一人で眠ってしまうなんて。
襲ってしまえ。と思わないでもない。
でも俺は、そこまで図太くない。
目を固く閉じて、寝たふりを開始した。
〈おわり〉
『俺の』
「アイスが食べたい」
倉知が言った。
「今?」
「今です。なんか急に食べたくなった」
「もう夜だけど」
「ですよね。どうしよう」
可愛いな。なんだよお前は、子どもか?
可愛くて仕方がないので、二人で買いに行くことにした。
歩いて数分のコンビニでアイスを買った。
レジで釣銭を受け取り、コンビニを出た途端、倉知が俺の右手をつかんだ。
「ん、何?」
「今の、絶対変ですよね」
「今のって?」
「おつりの渡し方です」
そう言われて、記憶を巻き戻してみる。首を傾げた。
「別に、普通じゃない?」
ていうか、この手はなんだよ、と言いたい。振りほどこうとしても、離してくれない。がっちりつかまれている。
「手を握るっていうか、こう、両手で包み込むっていうか……、俺、いつも思ってたんですけど、レジの人が女の人のとき、加賀さん大体手、触られてますよね」
倉知が俺の手を両手で握りしめて、口を尖らせた。さっきの店員は男なのだが。わかっているのだろうか。
「そう? よく見てるね」
皮肉のつもりだったが、倉知は自信に満ちた返事をした。
「見てます。俺はいつでも加賀さんのこと、見てます」
「お、おう」
「そうだ」
パッと顔を輝かせて倉知が声を上げた。
「今度から俺が支払いします」
「え」
「そうすれば手、触られないで済む」
「別に、そんな気にすること?」
「気にします。いやです、だって俺の手ですから」
愛しそうに目を細める倉知に「いやいや」とツッコミを入れる。
「お前の手じゃないよ」
「えっ」
「俺の手だよ」
「えー?」
「なんだよその不満そうな顔は。誰がどう見ても俺の手だろ」
「そうですけど、そういう意味じゃなくて」
しょんぼりする倉知の頭を、空いているほうの手で撫でて、笑った。
「ごめん、お前のだよ。そんでこれは俺の、な」
握り合わせていた倉知の手を持ち上げて、指に軽くキスをした。
「……へへ」
倉知が満足そうに微笑む。深夜に近い時間帯で、周りに人がいないからこそできることだ。
手を繋いだままマンションに向かう。
深夜のデートもたまにはいい、と思った。
〈おわり〉
『寝ろ』
倉知がスマホばかり見ている。今時の若者らしいといえば、らしい。でも倉知らしくない。
食事中に見るとか、会話中に見るとかじゃない。だからまあいいか、とは思うが、気にはなる。
ちょっとした隙に、スマホを見ている。嬉しそうに、口元をほころばせてスマホを見る姿は、若干不安を感じる。誰かと何か、やり取りをしているのかもしれない。俺より大事なものでもできたとか?
そんなわけあるか。
トイレから戻ると、やはりスマホを眺めていた。気配を殺し、ソファに腰掛ける倉知の背後に忍び寄り、覗き込む。
画面に映っていたのは、ゲームでもLINEでもメールでもなく、俺の写真だった。
「おい」
「うわあっ」
倉知が跳ねた。
「何、なんで俺の写真見てんの。本人ここにいるよ」
「すいません、あまりに可愛くて」
頬を赤らめて照れ臭そうに言った。
「ちょっともっかい見せて」
手を出すと倉知が躊躇した。
「消さないから」
優しく言うと、倉知はホッとした様子でスマホを差し出した。
画面を見る。俺だ。寝ている俺だ。ただそれだけ。別に、裸でもないし、ただ寝ているだけのつまらない写真だ。
「なんなの?」
「可愛くないですか?」
「うん可愛い。めっちゃ可愛いな俺。なんて言うと思うか」
「よく見てください。寝顔が、すごく可愛いんです」
むきになられても困る。どれだけじっくり見ようとも、自分の寝顔を見ても可愛いなんて感想が出るはずもない。
「勝手に撮ってすいません」
無言になった俺を、怒ったのかと勘違いした倉知が神妙な顔で謝った。
「俺にも撮らせろよ」
「え」
「俺もお前の寝顔を持ち歩きたい」
「は、はあ」
「よし、今日は俺より先に寝ろ」
「え、でも、いつも加賀さん、先に寝ちゃうじゃないですか」
確かに、布団に入ると眠るモードに切り替わり、おやすみ三秒だ。でも、ベッドに入らなければ起きていられる。
「寝ろ。今すぐ寝ろ」
倉知をベッドに押し込んで、かたわらに立ち、携帯を構えた。
「さあ、とびっきりの可愛い寝顔を俺にくれ」
「あの、見られてたら寝にくいです」
「目ぇ閉じてたら眠くなるって」
素直に目を閉じたが、顔が険しい。眠るまで待つしかない。
ベッドに腰掛け、そばで見守っていると、あくびが出た。まずい、眠い。硬い表情で寝たふりをする倉知を見ていると、睡魔が襲ってきた。
気がつくと朝だった。倉知はとっくに起きていて、ベッドに一人。
急いで携帯を確認した。寝ている間に小人さんが倉知の寝顔を激写してくれていたり。は、しなかった。
自分の寝つきの良さをこれほど呪ったことはない。
〈おわり〉
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