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かつての少年は おまけ ※
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※前話のつづき。微エロ。
〈加賀編〉
酔っている。
とは思う。
二次会のカラオケでもずっと上機嫌で、よく笑い、よく喋った。
普通に酔っ払いだ。おかしい。普通すぎるのだ。第一形態のキス魔にすらなっていない。
俺が隣にいるのに、キスを迫らない。ただ、手を繋いだり、肩をくっつけたり、どこかが触れ合っていれば安心するらしかった。
酔っ払いのくせに、わきまえている。
なぜだ。
酔うと性欲を制御できなくなる倉知が、いやに冷静なのが不可解でならなかった。酔っ払いを演じているふうでもない。普通に、酔っていた。楽しい酔い方の見本のようだった。
日にちが変わる前に解散し、終電に揺られ、帰途につく。
みんなの前でキスを披露することも、押し倒されることもなく、帰りの電車でも大人しかった。
本当に何事もなく、無事に帰宅してしまった。してしまったというと、何か波乱を期待していたみたいだが、一応安堵はしている。俺は倉知と違って人前でイチャつくことに快感を覚えたりしない。
気がかりなのは、今後第二形態であるセックスマシーンにメタモルフォーゼする瞬間が、ちゃんと訪れるのかということだ。
近頃、もしやという気はしていた。
倉知は徐々に、酒に強くなっている。
いや、別に、悲観することじゃない。人前で痴態を晒す心配がなくなるのは、いいことだ。
マンションに到着すると、玄関を施錠し、「今日は偉かったな」と誉め言葉を用意して振り返る。倉知が両手を広げて立っていた。
「ギュッてさせてください」
「ん」
靴を脱ぎ散らかし、胸の中に飛び込んだ。抱きすくめてくる腕の力が、優しい。二人きりになった途端、がっつくだろうという予想も外れてしまった。抱きしめるだけで、他に何もない。
「酔ってるよね?」
「ちょっとだけ。ほろ酔いです。酔わないようにセーブしてました」
俺を抱きしめたまま、体を左右にゆらゆらと揺らし、「大人っぽいですか?」と訊いた。
「うん、なんかお前、めっちゃ理性的だな」
「強いて言えば、ウコンのおかげかもしれません」
「え、ウコンにそんな効能ある? 二日酔いになりにくいとかじゃないの?」
「二日酔いにもならないし、理性も保ちます」
ウコンがそれほど有能とは思えない。おそらく、お得意のプラシーボ効果だろう。
おかしくなってきた。
笑い声を上げると、倉知も一緒になって、笑い出す。
酔っ払いらしく無意味に笑い続けたあとで、「そういや」と口火を切った。
「倉知君って、キスだけで勃起しないんだっけ?」
「えっと、はい、しませんよ」
「はは。どれどれ」
ちゅ、と唇を軽く吸った。
「どう?」
「確かめてください」
倉知がとろんとした目で俺を見て、下半身を押しつけてきた。
密着し、触れ合うだけのキスを連続三回したあと、至近距離で視線を合わせ、鼻先をくっつけて、呼んだ。
「七世」
「ん……、はい」
「めっちゃ勃ってる」
倉知は無言だった。負け惜しみを言うこともなく、無言で笑っている。
ああ、今から抱かれるなと悟った直後。
やけに凛々しく、爽やかな笑みを浮かべたまま、素早く俺を抱き上げて、寝室に向かう。
コートもスーツも着たままでベッドに寝かされた。お互いに下半身だけ剥き出しになると、一言も漏らさずに体を繋げ、暗闇で快楽を貪った。
果てた倉知が、俺の上で息を荒げている。
髪に触れた。よしよしとやってから、耳に口をつけ、「好き?」と囁いた。
「好き」
囁き返した倉知が、体を起こす。
腕を伸ばし、ナイトスタンドの灯りを点けた。見下ろしてくる。観察されている。ゾクゾクした。
「なんで電気点けたの?」
「見たいからです」
言いながら、ネクタイを緩めてくれた。それから、ボタンを一つ二つと上から順番に外し、胸元をはだけさせると、動きを止めた。
俺の中に入ったままの倉知自身が、グ、と大きくなったのがわかった。
そりゃそうだよな、と力なく笑う。
大好きな加賀さんの、大好きなスーツ姿だ。一回で終わるわけがない。
「加賀さん、大好き」
俺の頬を撫で、ほろ酔いの倉知が、甘く、みだらに微笑んだ。
〈おわり〉
〈加賀編〉
酔っている。
とは思う。
二次会のカラオケでもずっと上機嫌で、よく笑い、よく喋った。
普通に酔っ払いだ。おかしい。普通すぎるのだ。第一形態のキス魔にすらなっていない。
俺が隣にいるのに、キスを迫らない。ただ、手を繋いだり、肩をくっつけたり、どこかが触れ合っていれば安心するらしかった。
酔っ払いのくせに、わきまえている。
なぜだ。
酔うと性欲を制御できなくなる倉知が、いやに冷静なのが不可解でならなかった。酔っ払いを演じているふうでもない。普通に、酔っていた。楽しい酔い方の見本のようだった。
日にちが変わる前に解散し、終電に揺られ、帰途につく。
みんなの前でキスを披露することも、押し倒されることもなく、帰りの電車でも大人しかった。
本当に何事もなく、無事に帰宅してしまった。してしまったというと、何か波乱を期待していたみたいだが、一応安堵はしている。俺は倉知と違って人前でイチャつくことに快感を覚えたりしない。
気がかりなのは、今後第二形態であるセックスマシーンにメタモルフォーゼする瞬間が、ちゃんと訪れるのかということだ。
近頃、もしやという気はしていた。
倉知は徐々に、酒に強くなっている。
いや、別に、悲観することじゃない。人前で痴態を晒す心配がなくなるのは、いいことだ。
マンションに到着すると、玄関を施錠し、「今日は偉かったな」と誉め言葉を用意して振り返る。倉知が両手を広げて立っていた。
「ギュッてさせてください」
「ん」
靴を脱ぎ散らかし、胸の中に飛び込んだ。抱きすくめてくる腕の力が、優しい。二人きりになった途端、がっつくだろうという予想も外れてしまった。抱きしめるだけで、他に何もない。
「酔ってるよね?」
「ちょっとだけ。ほろ酔いです。酔わないようにセーブしてました」
俺を抱きしめたまま、体を左右にゆらゆらと揺らし、「大人っぽいですか?」と訊いた。
「うん、なんかお前、めっちゃ理性的だな」
「強いて言えば、ウコンのおかげかもしれません」
「え、ウコンにそんな効能ある? 二日酔いになりにくいとかじゃないの?」
「二日酔いにもならないし、理性も保ちます」
ウコンがそれほど有能とは思えない。おそらく、お得意のプラシーボ効果だろう。
おかしくなってきた。
笑い声を上げると、倉知も一緒になって、笑い出す。
酔っ払いらしく無意味に笑い続けたあとで、「そういや」と口火を切った。
「倉知君って、キスだけで勃起しないんだっけ?」
「えっと、はい、しませんよ」
「はは。どれどれ」
ちゅ、と唇を軽く吸った。
「どう?」
「確かめてください」
倉知がとろんとした目で俺を見て、下半身を押しつけてきた。
密着し、触れ合うだけのキスを連続三回したあと、至近距離で視線を合わせ、鼻先をくっつけて、呼んだ。
「七世」
「ん……、はい」
「めっちゃ勃ってる」
倉知は無言だった。負け惜しみを言うこともなく、無言で笑っている。
ああ、今から抱かれるなと悟った直後。
やけに凛々しく、爽やかな笑みを浮かべたまま、素早く俺を抱き上げて、寝室に向かう。
コートもスーツも着たままでベッドに寝かされた。お互いに下半身だけ剥き出しになると、一言も漏らさずに体を繋げ、暗闇で快楽を貪った。
果てた倉知が、俺の上で息を荒げている。
髪に触れた。よしよしとやってから、耳に口をつけ、「好き?」と囁いた。
「好き」
囁き返した倉知が、体を起こす。
腕を伸ばし、ナイトスタンドの灯りを点けた。見下ろしてくる。観察されている。ゾクゾクした。
「なんで電気点けたの?」
「見たいからです」
言いながら、ネクタイを緩めてくれた。それから、ボタンを一つ二つと上から順番に外し、胸元をはだけさせると、動きを止めた。
俺の中に入ったままの倉知自身が、グ、と大きくなったのがわかった。
そりゃそうだよな、と力なく笑う。
大好きな加賀さんの、大好きなスーツ姿だ。一回で終わるわけがない。
「加賀さん、大好き」
俺の頬を撫で、ほろ酔いの倉知が、甘く、みだらに微笑んだ。
〈おわり〉
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