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9話 処刑
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そこは暗闇の世界だった。
空には真っ黒な雲がかかっていてお月さまの明かりさえ無い。
不安にかられ心細い思いをしながらも私は必死に前を歩く。きっといつかは誰かに会える。お城に帰ることが出来るって。
でも、歩けど歩けど見えるのは暗闇の世界だけ。時折フクロウの鳴き声が聞こえ、その度驚きのあまり身体を震わせる。
早くお城に帰りたい。涙ぐみながらしばらく歩いて行くと、不意に甘い香りが鼻腔をくすぐる。
これはお花の匂い?
私は花の匂いがする方向に向かって走り出す。
すると、突然、向かっていた方向から泣き叫ぶ声が聞こえて来た。
幼い男の子の声。でも、私よりは少し大人っぽい声色だった。
森を抜けると、開けた場所に出る。そこは沢山の墓石が佇んでいた。すぐにそこが霊園だと分かった。
そして、そこで一番大きな墓石の前で一人の男の子が泣き崩れている姿が見えた。
男の子があまりに悲しそうに泣きじゃくっているので私は胸が締め付けられるような想いにかられた。
「なにをそんなに泣いているの?」
私は優しく男の子に声をかける。
男の子はビクッと身体を震わせると、驚いたように私に振り返る。
「君は、誰?」
何故か男の子の顔が見えなかった。しかし、声はハッキリと聞こえた。
「私の名前は……」
自己紹介しようと名前を口にしかけた瞬間、私の意識は闇の深淵に沈んでいった。
突然、頭に強い衝撃を受け、私は目覚めた。
「早く起きろ、魔女めが!」
男性の怒声が耳をつんざいた。
何が起こっているの?
私が声を出そうとした瞬間、突然、喉に焼けるような痛みを感じた。何度声を絞り出そうとしても呻き声一つ発することも出来ない。
「立て! 今からお前を連行する。大人しくついて来るんだ!」
誰なの? 何をそんなに怒っているの?
私は訳が分からず言われるがまま立ち上がる。目の前に蝋燭の明かりを近づけられ、眩しさに目をしかめる。
そして、ようやくそこで私は違和感に気付いた。
異様に視界が狭い。鉄の感触が頭部全体を覆い尽くしていた。その上何故か喉が焼けるように痛み、声を発することも出来ない。
更に最悪なことに私の両手には手枷がはめられていた。これでは罪人そのもの。
何が起こっているの?
その時、私は頭に鈍痛を覚えた。悪夢のような記憶が溢れ返って来る。
思い出したわ⁉ 私はニーノに鉄仮面を被せられ入れ替わられてしまったんだ!
私は自分がニーノではなくミアであることを怒声を張り上げた男性に訴えようと試みるも声を出そうとする度に喉が焼けそうになるほどの激痛が走った。
「ぐずぐすしていないで歩け!」
怒声を張り上げた男性は手枷に繋がった鎖をグイッと引っ張る。勢い余って私は石畳の上に倒れ込んでしまった。
倒れた衝撃で全身に痛みが走る。あまりの痛みに呼吸が困難になるも、私は無理矢理立たされる。
止めて! 酷いことはしないで! そう叫ぼうとするも、相変わらず声を発しようとする度に喉が焼き切れそうになるほどの激痛が走った。
何とかして私がミアであることを証明しなければならない。
その時、私は門番をしていたリック君とガレンさんのことを思い出す。
あの二人ならきっと私のことを分かってくれる。
そう思った次の瞬間、怒声を張り上げた男性の顔が蝋燭の明かりでハッキリと見えた。
〈リック君にガレンさん……⁉〉
先程から私に怒声を張り上げていたのはガレンさんで、私の手枷に伸びる鎖を掴んでいたのはリック君だった。
二人はいつもの様な笑顔ではなく、汚物でも見るかのような目で私を見下ろしていた。
深い絶望感が私を打ちのめした。微かな希望は粉々に砕け散ったことを知る。
〈あの優しかった二人はもういないの? それともこれが彼等の本性だったの? 今まで私によくしてくれていたのは、単純に私がこの国の姫で聖女だったから……?〉
「早くしろ!」
憎悪に引きつった表情でガレンさんは私に怒声を張り上げた。
それでも私はガレンさんに真実を伝えようと視線を送る。声は出なかったが、口の動きだけで何とか言葉を紡ごうと試みた。
「ええい、そのおぞましい顔を近づけるな!」
腹部に強い衝撃を受け、私はうずくまる。ガレンさんにお腹を足蹴りされ、あまりの痛みに呼吸が出来なくなった。
「何度も言わせるな。立て!」
本当はそのまま倒れていたかったのだけれども、私は強引にリック君に起き上がらされる。
「くそ魔女めが。死ぬ時まで手間をかけさせるんじゃねえよ!」
忌々し気にそう吐き捨てるリック君の言葉で私はようやく自分に差し迫っていた事態を把握する。
私はあれからどのくらい気を失っていたのだろうか?
まさか、今日は聖女就任式? だとすれば、私の処刑日でもあるということ。
これから私は処刑場に連行される。
そして、魔女の処刑方法は火刑。
私はこのまま二人に処刑場まで連行され、愛する民衆の前で燃やされてしまう。
たちまち歯の根が合わなくなるほどガチガチと痙攣が始まった。恐怖は一瞬で全身を駆け巡った。
こうして私は薄暗い地下牢から引きずり出された。
外に出ると、いつもとは違う光景に目をしかめた。見慣れた光景がとてつもなく歪んだ世界に見えたのだ。
柔らかな朝陽が私を照らす。
そう言えば、私、ニーノと朝陽を一緒に見るって約束をしたっけ。
今なら分かる。ニーノはこのことを予見していたのだ。
処刑場にはきっと私に成り代わったニーノもいるはず。
その時、私達はあの時の約束を果たすことになるだろう。
気づけば、私は城下町の石畳の上を歩いていた。
私がリック君に引きずられるように歩かされていると、周囲から怒号が響いて来る。
「薄汚い魔女め、女神の裁きを受けるがいい!」
「骨どころか魂まで燃やし尽くされるがいい!」
「〇ね! 〇んでしまえ!」
後は似たようなニュアンスの罵声を浴びせかけられた後、無数の投石が私に襲い掛かった。
石が足に、肩に、腕に当たり、その都度私は激痛に顔を歪ませる。
皮肉なことに鉄仮面のおかげで顔の傷だけは免れることが出来た。
私を連行しているリック君とガレンさんは民衆の暴挙を止めようともせず素知らぬ顔で歩き続けている。
すると、何故か突然怒号と投石が止んだ。
その代わりに歓声が沸き起こった。
大勢の騎士に守られ、お父様が現れた。その後ろに聖女のドレスを身に纏ったニーノを連れて。
「これより魔女の処刑を執り行う!」
お父様の言葉に過剰反応した民衆から大歓声が沸き起こる。
「魔女よ、聖女ミアたっての慈悲に感謝するがいい。最期に遺言を聞いてやる。何か言い残したいことがあれば申すがいい」
ニーノが私に発言を許したの? それは何故? でも、これが助かる最後のチャンスであることに変わりは無い。
私は必死に声を絞り出そうとするが、やはり声を発しようとするだけで喉に焼き切れるような激痛が走った。
「何だ、なにもないのか? せっかくの慈悲を無にするとは不届きな奴め」
違うの、お父様! 声が出ないだけなの。ミアは私なの。お願い、気付いて!
声が出せないのはきっとニーノが何かしたせいに決まっている。声が出せないと分かっているから私に発言の許可を与えて弄んでいるに違いない。
私はそこまで恨まれるようなことをしたんだろうか?
怒りよりも悲しみが勝った。
すると、突然、ニーノが前に出ると、スタスタと私の前に歩いてきた。
そして、私から奪ったペンダントを取り出すと、それを密かに私の眼前に近づけた。
蛇の眼のような文様が施された蒼色の宝石から妖し気な光が放たれた。
空には真っ黒な雲がかかっていてお月さまの明かりさえ無い。
不安にかられ心細い思いをしながらも私は必死に前を歩く。きっといつかは誰かに会える。お城に帰ることが出来るって。
でも、歩けど歩けど見えるのは暗闇の世界だけ。時折フクロウの鳴き声が聞こえ、その度驚きのあまり身体を震わせる。
早くお城に帰りたい。涙ぐみながらしばらく歩いて行くと、不意に甘い香りが鼻腔をくすぐる。
これはお花の匂い?
私は花の匂いがする方向に向かって走り出す。
すると、突然、向かっていた方向から泣き叫ぶ声が聞こえて来た。
幼い男の子の声。でも、私よりは少し大人っぽい声色だった。
森を抜けると、開けた場所に出る。そこは沢山の墓石が佇んでいた。すぐにそこが霊園だと分かった。
そして、そこで一番大きな墓石の前で一人の男の子が泣き崩れている姿が見えた。
男の子があまりに悲しそうに泣きじゃくっているので私は胸が締め付けられるような想いにかられた。
「なにをそんなに泣いているの?」
私は優しく男の子に声をかける。
男の子はビクッと身体を震わせると、驚いたように私に振り返る。
「君は、誰?」
何故か男の子の顔が見えなかった。しかし、声はハッキリと聞こえた。
「私の名前は……」
自己紹介しようと名前を口にしかけた瞬間、私の意識は闇の深淵に沈んでいった。
突然、頭に強い衝撃を受け、私は目覚めた。
「早く起きろ、魔女めが!」
男性の怒声が耳をつんざいた。
何が起こっているの?
私が声を出そうとした瞬間、突然、喉に焼けるような痛みを感じた。何度声を絞り出そうとしても呻き声一つ発することも出来ない。
「立て! 今からお前を連行する。大人しくついて来るんだ!」
誰なの? 何をそんなに怒っているの?
私は訳が分からず言われるがまま立ち上がる。目の前に蝋燭の明かりを近づけられ、眩しさに目をしかめる。
そして、ようやくそこで私は違和感に気付いた。
異様に視界が狭い。鉄の感触が頭部全体を覆い尽くしていた。その上何故か喉が焼けるように痛み、声を発することも出来ない。
更に最悪なことに私の両手には手枷がはめられていた。これでは罪人そのもの。
何が起こっているの?
その時、私は頭に鈍痛を覚えた。悪夢のような記憶が溢れ返って来る。
思い出したわ⁉ 私はニーノに鉄仮面を被せられ入れ替わられてしまったんだ!
私は自分がニーノではなくミアであることを怒声を張り上げた男性に訴えようと試みるも声を出そうとする度に喉が焼けそうになるほどの激痛が走った。
「ぐずぐすしていないで歩け!」
怒声を張り上げた男性は手枷に繋がった鎖をグイッと引っ張る。勢い余って私は石畳の上に倒れ込んでしまった。
倒れた衝撃で全身に痛みが走る。あまりの痛みに呼吸が困難になるも、私は無理矢理立たされる。
止めて! 酷いことはしないで! そう叫ぼうとするも、相変わらず声を発しようとする度に喉が焼き切れそうになるほどの激痛が走った。
何とかして私がミアであることを証明しなければならない。
その時、私は門番をしていたリック君とガレンさんのことを思い出す。
あの二人ならきっと私のことを分かってくれる。
そう思った次の瞬間、怒声を張り上げた男性の顔が蝋燭の明かりでハッキリと見えた。
〈リック君にガレンさん……⁉〉
先程から私に怒声を張り上げていたのはガレンさんで、私の手枷に伸びる鎖を掴んでいたのはリック君だった。
二人はいつもの様な笑顔ではなく、汚物でも見るかのような目で私を見下ろしていた。
深い絶望感が私を打ちのめした。微かな希望は粉々に砕け散ったことを知る。
〈あの優しかった二人はもういないの? それともこれが彼等の本性だったの? 今まで私によくしてくれていたのは、単純に私がこの国の姫で聖女だったから……?〉
「早くしろ!」
憎悪に引きつった表情でガレンさんは私に怒声を張り上げた。
それでも私はガレンさんに真実を伝えようと視線を送る。声は出なかったが、口の動きだけで何とか言葉を紡ごうと試みた。
「ええい、そのおぞましい顔を近づけるな!」
腹部に強い衝撃を受け、私はうずくまる。ガレンさんにお腹を足蹴りされ、あまりの痛みに呼吸が出来なくなった。
「何度も言わせるな。立て!」
本当はそのまま倒れていたかったのだけれども、私は強引にリック君に起き上がらされる。
「くそ魔女めが。死ぬ時まで手間をかけさせるんじゃねえよ!」
忌々し気にそう吐き捨てるリック君の言葉で私はようやく自分に差し迫っていた事態を把握する。
私はあれからどのくらい気を失っていたのだろうか?
まさか、今日は聖女就任式? だとすれば、私の処刑日でもあるということ。
これから私は処刑場に連行される。
そして、魔女の処刑方法は火刑。
私はこのまま二人に処刑場まで連行され、愛する民衆の前で燃やされてしまう。
たちまち歯の根が合わなくなるほどガチガチと痙攣が始まった。恐怖は一瞬で全身を駆け巡った。
こうして私は薄暗い地下牢から引きずり出された。
外に出ると、いつもとは違う光景に目をしかめた。見慣れた光景がとてつもなく歪んだ世界に見えたのだ。
柔らかな朝陽が私を照らす。
そう言えば、私、ニーノと朝陽を一緒に見るって約束をしたっけ。
今なら分かる。ニーノはこのことを予見していたのだ。
処刑場にはきっと私に成り代わったニーノもいるはず。
その時、私達はあの時の約束を果たすことになるだろう。
気づけば、私は城下町の石畳の上を歩いていた。
私がリック君に引きずられるように歩かされていると、周囲から怒号が響いて来る。
「薄汚い魔女め、女神の裁きを受けるがいい!」
「骨どころか魂まで燃やし尽くされるがいい!」
「〇ね! 〇んでしまえ!」
後は似たようなニュアンスの罵声を浴びせかけられた後、無数の投石が私に襲い掛かった。
石が足に、肩に、腕に当たり、その都度私は激痛に顔を歪ませる。
皮肉なことに鉄仮面のおかげで顔の傷だけは免れることが出来た。
私を連行しているリック君とガレンさんは民衆の暴挙を止めようともせず素知らぬ顔で歩き続けている。
すると、何故か突然怒号と投石が止んだ。
その代わりに歓声が沸き起こった。
大勢の騎士に守られ、お父様が現れた。その後ろに聖女のドレスを身に纏ったニーノを連れて。
「これより魔女の処刑を執り行う!」
お父様の言葉に過剰反応した民衆から大歓声が沸き起こる。
「魔女よ、聖女ミアたっての慈悲に感謝するがいい。最期に遺言を聞いてやる。何か言い残したいことがあれば申すがいい」
ニーノが私に発言を許したの? それは何故? でも、これが助かる最後のチャンスであることに変わりは無い。
私は必死に声を絞り出そうとするが、やはり声を発しようとするだけで喉に焼き切れるような激痛が走った。
「何だ、なにもないのか? せっかくの慈悲を無にするとは不届きな奴め」
違うの、お父様! 声が出ないだけなの。ミアは私なの。お願い、気付いて!
声が出せないのはきっとニーノが何かしたせいに決まっている。声が出せないと分かっているから私に発言の許可を与えて弄んでいるに違いない。
私はそこまで恨まれるようなことをしたんだろうか?
怒りよりも悲しみが勝った。
すると、突然、ニーノが前に出ると、スタスタと私の前に歩いてきた。
そして、私から奪ったペンダントを取り出すと、それを密かに私の眼前に近づけた。
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