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自覚
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「若いと覚えも早いなあ!」
根津さんが稼働している印刷機の音に負けないように声を張り上げた。
月曜日中に欲しい、と頼まれた商工会のチラシの印刷を割り込みで対応してもらっている。すぐ持っていけるように俺も手伝っていた。
「無理言ってすみません」
「いやいや、こんなもんだよ。ホラ、持ってけ」
「ありがとうございます!」
ひと縛り五百枚を八つ、四千枚のチラシを台車に乗せる。その上にA2サイズのポスター百枚を置いた。
時刻は午後四時。どうにか約束を果たせそうだ。
営業車にチラシの山を乗せ、俺は商工会の宮本さんの元へ急いだ。
外回りにも慣れてきたと思う。運転することで市街地の道路も随分覚えた。
五十川さんとの関係も最初に比べたら良好で、なんというか、仕事が俄然楽しい。
商工会議所に着き、ふたたびチラシとポスターを台車に乗せる。包装の上に貼っている見本ポスターの「地ビールフェスタ」の文字がガタガタと揺れる。
「お世話になりまーす、馬場印刷です」
事務の女性が、「はーい」と顔を上げる。
「どこに置きましょう?」
「どうしようかしら…」
宮本さんは不在のようだった。
「地ビールいいですね」
「運営側は飲めないのがつらいです」
納品書に印鑑をもらい控えを渡すと、「よかったら来てくださいね」と刷ったばかりのチラシを一枚もらった。
「ありがとうございます、毎度」
校正などで何度も目にしたから、日付も開始時刻も十分知っている。市の花火大会に合わせて、地ビールと地元のB級グルメを楽しもうという企画だった。
楽しそうだよな、実際。五十川さんを誘ってみようかな。
帰りの車の中で、どう誘えばオーケーをもらえるか想像してみたが、結局、会社に着くまで考えても承諾してくれるイメージはできなかった。
断られるのなら簡単に想像できるのにな。
車から降りて印刷所に顔を出す。根津さんに「戻りました!」と声をかけると、「あいよー」と手を上げて応えてくれた。
今日の仕事をどこでキリをつけようかと考えながら事務所へ向かう。
名刺のオーダーも来てたっけ。メールだけ返して作業は明日かな。
ぼんやりしていたつもりはないのだが、出入り口のドアのところで五十川さんとぶつかった。
「わっ」
「すまん」と言った表情は強張っていた。
「どうしたんですか?」
「あ…いや…今、帰ってきたのか?」
「はい」
「誰かとすれ違ったりは?」
「すれ違う?…印刷所で根津さんに声をかけてから戻ったんですけど誰ともすれ違いませんでしたよ?」
「そうか」
普通じゃない。五十川さんが慌てているのは珍しい。なにかトラブルだろうか。
「何かあったんですか?」
「……どろぼう」
俯いて発せられた声はやっと聞こえるくらいだった。
「泥棒?!」
「っグループホームのパンフレットにミスが見つかって、それで、急いで根津さんに印刷機止めてもらうよう伝えに行って、なんだかんだしゃべって、十分くらい事務所を空けてたんだ」
「誰もいなかったんですか?」
「誰もいなかった。今日は奈美枝さんがいないから社長が娘の保育園の迎えに行ってて、そのまま帰るって五時前に出てったから」
そうだった。奈美枝さんの実父が骨折したらしく様子を見に行くと言っていた。
「不在の隙に空き巣に入られたってことですか?! 荒らされてたり、なにか盗まれてるんですか!」
「荒されてはないが…ベティが、盗まれた!」
ベティ?
「泥棒じゃなきゃ、なんだ? 神隠しか? …自分で歩いて出て行ったとか?」
ええ?!
「お、落ち着いてください!」
混乱している五十川さんの顔を覗き込む。
冗談を言っているのではないとわかるのだが、それにしても、飛躍しすぎている。笑ってはいけないが、動揺している五十川さんの発想が意外にファンタジーで微笑ましい。
いつものクールさからのギャップでかわいいとすら思えた。
「落ち着いていられるか!」
真剣に怒鳴られ、思わず「すみません」と謝る。かわいいとか思っている場合じゃない。
「俺も探しますから、きっとどこかに置き忘れてるんですよ」
すがるような眼差しを向けられ、安心させてあげなければと、思った。無意識に伸ばしかけた腕に気付いて慌てて離れた。
「一旦、事務所に入りましょう」
なぜか動悸がうるさい。
俺とは反対に、少し落ち着いたらしい五十川さんは、「…そうだな」と言って先を歩いていく。
「でも本当に心当たりは全部探したんだぞ」
べつに慰めようとしただけで他意はないし、なにをこんなに焦ってんだ。
「弥田?」
「あ…こ、行動を順番に思い出してみましょうよ」
「行動ったって、先方から電話がかかってくるまではデスクに置いてたし、」
俺はどうにか内心を落ち着けてベティを探すことに集中した。
「電話を受けて、そのまま印刷所に向かった。だからベティはデスクに置きっ放しだった」
「急いでた勢いで転がしたとか?」
デスク周りのフロアを探すがクマのぬいぐるみは落ちていない。
「無意識でベティを持って根津さんのところへ行ったとか?」
印刷所へ行き、根津さんにも聞いてみたが「ベティ? 知らねえなぁ」とあっさり言われてしまった。
三十分ほど社内を探したがどこにも見当たらない。
「…もう、いいよ。悪かったな仕事まだ残ってるんだろ」
「でも…大丈夫ですか?」
「大丈夫。俺、帰るな」
全然、大丈夫そうじゃない。
ベティはどこへ行ったのだろう。本当に泥棒が? クマのぬいぐるみを?
五十川さんはふらふらと事務所を出て行った。いつも真っ直ぐな姿勢が頼りなく丸まっている。
もう笑えない。心配だが、引き止めたとしても俺にはどうすることもできない。
もやもやとしながら仕事を片付けるしかなかった。
***
その日の夜、日付も変わろうとする時間に会社用のスマートフォンが鳴った。着信は社長からだった。
「弥田、起きてたか?」
「ふぁい。どうにか」
「悪いが…頼まれてくれないか」
「なんです?」
「まず、うちに来い。場所は会社の裏手だ。門灯はつけておく」
「は? 今からですか?」
「緊急事態だ。弥田は五十川と仲良くなりたいんだろ、人助けだから」
「五十川さんが関係してるんですか?」
「まあ、説明するのも面倒だから早く来い」
「えっ! ちょっ、と…」
言いたいことだけ言って通話は切れた。
え? えええ!?
緊急事態という言葉と、五十川さんの帰り際の様子を思い出して、スウェットによれたTシャツという部屋着のまま着替えもせずに自転車に乗っていた。
湿度の高い夜で息苦しいほど空気が重い。風もなくて汗がまとわりつく。
社長の家はすぐにわかった。玄関のチャイムを鳴らすと、しばらくして「早かったな」とドアが開く。
「なにごとですかぁ」
「これ」、と目の前に差し出されたのはクマのぬいぐるみ。
「っベティ?!」
「夕方、事務所に寄った時に娘が勝手に持って帰ってきたみたいなんだ。娘はもう寝てるし、今夜は奈美枝もいないから俺が持ってくこともできねえし。電話かけても五十川出ねえし」
「持って行けと?」
「ここまで来たんだ行ってくれるよな? いやぁ、見たことのあるクマだなぁとは思ってたんだけど、まさかと思うだろ」
「そう、ですね」
はじめて触れたクマは思った以上にふわふわで、これが五十川さんの精神安定剤になっている理由もわかる気がした。
どこか所在無さげなベティを紙袋に入れてハンドルにかける。
五十川さんのマンションへ向かいながら、会社用のスマートフォンと社長から教えてもらった私用の番号を交互に鳴らしてみたが留守番電話に切り替わるばかりだった。
寝てるのかもな。
ベティを早く返してあげたいが、すでに寝ているのなら逆に今の時間は迷惑なんじゃないかとも思う。
「絶対、困ってるから」と社長は断言していたが、深夜に自宅に来られるほうが困るに違いない。ペダルを漕ぐ足がためらいがちになる。
どうしたものかと迷っているうちにマンションに着いてしまい、来てしまったなら怒られることを覚悟しようと腹をくくった。
歓迎会後のにがい記憶のあるマンションのエントランスで五十川さんの部屋番号を押す。反応はない。
もう一度呼び出そうか、帰ろうか、ぐずぐずしていると、インターフォンの向こうで声がした。
『はい』
「あっ夜分にすみません、弥田です」
『なんだよ』
紙袋からベティを取り出してカメラに向る。
「ベティ、見つかりました」
***
部屋のドアにもたれて五十川さんは待っていた。お互いに何も言わなかった。
俺がベティを差し出すと壊れやすいものを扱うようにそっと受け取った。その仕草で、どれだけベティを大切にしているのか分かる。
「社長の娘さんが持って帰ってたそうです」
五十川さんが絞り出すように、「よかった」と言ってその場にしゃがみこむ。社長の言うとおり持って来て良かったと思った。
五十川さんはベティで充電でもするかようにしばらく動かなかった。
どう声をかけていいのかわからず、丸まった背中をじっと見つめる。
なんだか妙に緊張している。
「…ありがとな」
上目遣いにどきりとした。
「い、いえ」
「馬場に押し付けられたんだろ」
「社長は娘さんが寝てるから動けなかったみたいで…電話、かけたんですよ? 社長も、俺も」
「あー、スマホ。鞄の中に入れっぱなしだ」
よろりと立ち上がり、「なんか飲んでいくか?」と聞かれる。
「いえ、遅いし…帰りますね」
「そっか。助かった」
静かな微笑みだった。寂しそうで、思わず手が伸びた。一体、どこに触れようとしたのか。
我にかえって、伸ばしてしまった手のひらでベティを撫でる。
「はじめてベティ触ったんですけど、ふわふわですね!」
「…情けないよな、こんなぬいぐるみがないと駄目とか」
「そんなこと! ないです!!」
「うるせえよ」
「スミマセン…でも、本当に…上手く言えないんですけど」
ああ、どうしよう。これって、なんだか。
「悪い悪い、気にすんな。気を付けて帰れよ」
「はい…また、明日」
「おう、おやすみ」
「おやすみなさい」
胸が苦しい。閉じていくドアに後悔しかない。
あぁあ! 俺のバカ! せっかく誘ってもらったのをなんで断ってるんだよ!
***
五十川さんのことが、気になる。
そりゃ、クマのぬいぐるみと外回りに行く姿が気にならないわけないし、どうやったら仲良くなれるのかと入社してから気にし続けてきたわけだけど。
けど…なんというか、「気になる」の意味合いが違ってきたというか。ただ、どう違ってきたのかを突き詰めて考えることはできない。
踏み込んではいけない領域だと、思考にストップをかけている自分がいる。
先に進めることのできない気持ちなのに頭から離れてくれなくて、その日はなかなか寝付けなかった。
短い眠りですぐ朝を迎え、悶々としたまま出社した。
どんな振る舞いをすればいいのかと思い悩む俺に対し、「はよ」と五十川さんはいつも通りに声をかけてくる。
「昨日は悪かったな」
相変わらずの澄ました表情なのに、特別なことなどないのに、どうしてこんなにドキドキするのか。
一瞬たじろいだ隙に、「五十川! 昨日はすまん!」と社長の声がして五十川さんの視線は逸れてしまった。
「…娘の持ち物くらい把握しとけよ」
「そう怒るな。ちゃんと弥田が届けたんだろう」
「業務外でパシリにしてんなよ、パワハラで訴えられても知らねえぞ」
「弥田はそんなことしねえよ、な!」
「は、はい」
「ったく」と五十川さんは眉間にしわを寄せ、社長は得意そうに笑った。
五十川さんと社長の関係は謎だ。従業員と経営者という以上の信頼関係があるようで、俺としては羨ましい。
そうなんだ! 俺が目指していたのはまさに二人のような関係性だ!
心の内で握り拳を突き上げる。
俺は五十川さんから信頼されたいだけなのだ。別にドキドキしたいわけじゃない。
「…おい、弥田?」
「へ? あ、はい!」
いつの間にか社長の姿は消えていて、五十川さんが俺を見ている。
「貸しがあるの嫌だからさ。飯、奢るよ。食いたいもんあるか?」
ドキドキしたいわけじゃない。はずなのに。
「なんっでもいいです!」
「安い定食屋の昼飯にするぞ?」
「五十川さんの行きつけですか?」
「まぁな」
「そこにしましょう!」
昼飯を一緒に食べられる日が来るなんて!
「わかった。じゃあ昼前には戻る」
外回りへ出かける五十川さんを、「行ってらっしゃい」と笑顔で送り出した。
見た目だけでは分からないが、なんとなく昨日までとは違う気がする…のは、ただの俺の願望だろうか。
遅れて出社してきた奈美枝さんに、「顔がだらし無い」と注意されるまで俺は無自覚ににやついていた。
「お父さんは大丈夫でしたか?」
「思ったより元気だったわ、明日には退院して自宅療養になるみたい」
「よかったですね」
「母はどうせならもっと入院してればいいのにって言ってる…それより、昨日はうちの娘が迷惑かけちゃったんだって?」
「レアな五十川さんを見れました」
「あらあら…ふーん、それでさっきのだらし無い顔?」
「どういう意味ですか」
「どうもこうも、仲良くなれそうでよかったわねぇ」
「な、仲良くだなんてそんな…」
いや、そうだよ! 最初に比べたら奇跡といっていいかもしれない!
「物好きね。あんなカタブツのどこに好きになる要素があるのか理解できないわ」
好き?
「そんなことっ、一言も言ってないじゃないですか!」
「やーねぇ、ムキにならないでよ」
「だって、そんな…す、好きとか。俺はただ、五十川さんとは仲良くなりたいだけ…です、し」
「えー? 好きだから仲良くなりたいんじゃないの? 嫌いな人と仲良くなりたいなんて思わないじゃない」
言われてみればそのとおりで。
「五十川くんが友情を育む姿なんて想像できないけど。気長に頑張ってね」
「…友情」
「違うの?」
「いっいえ!」
「いいのよいいのよ、茶化してごめん」
奈美枝さんは何を心得たのか、うんうんと頷いている。
何か誤解をされているがどこをどう訂正すればいいのか分からない。
好きって、別に。特別な意味じゃない。だって、五十川さんは男だし。気になるのは、少し変わった人だから。だから、好きかもしれないけど、違う。
午前中、「違う」を念仏のように唱えて過ごした。その効果か、帰ってきた五十川さんから、「飯行くぞ」と声をかけられても平常心でいられた。
ほ、ほら。いつも通り!
外は弱く雨が降っていた。
傘を片手に持ち、ベティが濡れないよう胸元に抱く五十川さんにそわそわする。
「歩いていける距離なんですか?」
「あぁ」
俺の通勤経路とは反対側の道を並んで進んでいく。
「いつも食べに行ってるんですか?」
「だいたい。弥田は? 今までどうしてた?」
「コンビニですね。この辺りに店があるって知らなかったんで」
「コンビニ飽きるだろ。見えた、あそこ」
会社から五分ほどの距離にその食堂はあった。「蛤食堂」という暖簾が出ていても素通りしてしまいそうな地味さだ。
軒下で傘をたたみ、「…へび? 食堂ですか?」と尋ねる。五十川さんは素っ気なく「はまぐり」と応えて暖簾をくぐった。
外観とは違って店の中は繁盛している。
「いらっしゃーい、空いてる席へどうぞ」
座敷席と椅子席が半々の店内は、ほぼ満席だ。
「お冷とおしぼりはセルフな、あと小鉢は向こう」
「なんか…懐かしい感じの店ですね」
「ばあちゃん家みたいな?」
「ああ! まさに、そんな感じです」
五十川さんの表情が微かに緩む。気を許してくれているのでは…と思った途端に平常心ではいられなくなった。
「俺はだいたい日替り定食なんだけど、カツカレーとか親子丼も美味いぞ」
向かい合って普通に話しかけられているだけなのに、今の俺にとっては拷問のようだ。
「迷いますね…俺も日替りにしときます」
「おばちゃーん! 日替り二つ」
なんでこんなに意識してしまうんだろう。
「俺なんかに教えてよかったんですか」
「はあ?」
五十川さんは俺の言っている意味が分からないようだった。
「これから、俺もここに食べに来るかもしれませんよ」
「勝手にすりゃいいだろう、変なこと気にすんだな」
いいんですか! 知りませんよ! 俺のこともっと警戒しとかないと…好きに、なっちゃいますよ!
しばらくして定食を運んできたおばちゃんが、「一人じゃないの珍しいわね」と話しかけてくるのを、「こいつ、春からうちで働いてるんです」と紹介してくれただけで、生きててよかったと本気で思ってしまった。
根津さんが稼働している印刷機の音に負けないように声を張り上げた。
月曜日中に欲しい、と頼まれた商工会のチラシの印刷を割り込みで対応してもらっている。すぐ持っていけるように俺も手伝っていた。
「無理言ってすみません」
「いやいや、こんなもんだよ。ホラ、持ってけ」
「ありがとうございます!」
ひと縛り五百枚を八つ、四千枚のチラシを台車に乗せる。その上にA2サイズのポスター百枚を置いた。
時刻は午後四時。どうにか約束を果たせそうだ。
営業車にチラシの山を乗せ、俺は商工会の宮本さんの元へ急いだ。
外回りにも慣れてきたと思う。運転することで市街地の道路も随分覚えた。
五十川さんとの関係も最初に比べたら良好で、なんというか、仕事が俄然楽しい。
商工会議所に着き、ふたたびチラシとポスターを台車に乗せる。包装の上に貼っている見本ポスターの「地ビールフェスタ」の文字がガタガタと揺れる。
「お世話になりまーす、馬場印刷です」
事務の女性が、「はーい」と顔を上げる。
「どこに置きましょう?」
「どうしようかしら…」
宮本さんは不在のようだった。
「地ビールいいですね」
「運営側は飲めないのがつらいです」
納品書に印鑑をもらい控えを渡すと、「よかったら来てくださいね」と刷ったばかりのチラシを一枚もらった。
「ありがとうございます、毎度」
校正などで何度も目にしたから、日付も開始時刻も十分知っている。市の花火大会に合わせて、地ビールと地元のB級グルメを楽しもうという企画だった。
楽しそうだよな、実際。五十川さんを誘ってみようかな。
帰りの車の中で、どう誘えばオーケーをもらえるか想像してみたが、結局、会社に着くまで考えても承諾してくれるイメージはできなかった。
断られるのなら簡単に想像できるのにな。
車から降りて印刷所に顔を出す。根津さんに「戻りました!」と声をかけると、「あいよー」と手を上げて応えてくれた。
今日の仕事をどこでキリをつけようかと考えながら事務所へ向かう。
名刺のオーダーも来てたっけ。メールだけ返して作業は明日かな。
ぼんやりしていたつもりはないのだが、出入り口のドアのところで五十川さんとぶつかった。
「わっ」
「すまん」と言った表情は強張っていた。
「どうしたんですか?」
「あ…いや…今、帰ってきたのか?」
「はい」
「誰かとすれ違ったりは?」
「すれ違う?…印刷所で根津さんに声をかけてから戻ったんですけど誰ともすれ違いませんでしたよ?」
「そうか」
普通じゃない。五十川さんが慌てているのは珍しい。なにかトラブルだろうか。
「何かあったんですか?」
「……どろぼう」
俯いて発せられた声はやっと聞こえるくらいだった。
「泥棒?!」
「っグループホームのパンフレットにミスが見つかって、それで、急いで根津さんに印刷機止めてもらうよう伝えに行って、なんだかんだしゃべって、十分くらい事務所を空けてたんだ」
「誰もいなかったんですか?」
「誰もいなかった。今日は奈美枝さんがいないから社長が娘の保育園の迎えに行ってて、そのまま帰るって五時前に出てったから」
そうだった。奈美枝さんの実父が骨折したらしく様子を見に行くと言っていた。
「不在の隙に空き巣に入られたってことですか?! 荒らされてたり、なにか盗まれてるんですか!」
「荒されてはないが…ベティが、盗まれた!」
ベティ?
「泥棒じゃなきゃ、なんだ? 神隠しか? …自分で歩いて出て行ったとか?」
ええ?!
「お、落ち着いてください!」
混乱している五十川さんの顔を覗き込む。
冗談を言っているのではないとわかるのだが、それにしても、飛躍しすぎている。笑ってはいけないが、動揺している五十川さんの発想が意外にファンタジーで微笑ましい。
いつものクールさからのギャップでかわいいとすら思えた。
「落ち着いていられるか!」
真剣に怒鳴られ、思わず「すみません」と謝る。かわいいとか思っている場合じゃない。
「俺も探しますから、きっとどこかに置き忘れてるんですよ」
すがるような眼差しを向けられ、安心させてあげなければと、思った。無意識に伸ばしかけた腕に気付いて慌てて離れた。
「一旦、事務所に入りましょう」
なぜか動悸がうるさい。
俺とは反対に、少し落ち着いたらしい五十川さんは、「…そうだな」と言って先を歩いていく。
「でも本当に心当たりは全部探したんだぞ」
べつに慰めようとしただけで他意はないし、なにをこんなに焦ってんだ。
「弥田?」
「あ…こ、行動を順番に思い出してみましょうよ」
「行動ったって、先方から電話がかかってくるまではデスクに置いてたし、」
俺はどうにか内心を落ち着けてベティを探すことに集中した。
「電話を受けて、そのまま印刷所に向かった。だからベティはデスクに置きっ放しだった」
「急いでた勢いで転がしたとか?」
デスク周りのフロアを探すがクマのぬいぐるみは落ちていない。
「無意識でベティを持って根津さんのところへ行ったとか?」
印刷所へ行き、根津さんにも聞いてみたが「ベティ? 知らねえなぁ」とあっさり言われてしまった。
三十分ほど社内を探したがどこにも見当たらない。
「…もう、いいよ。悪かったな仕事まだ残ってるんだろ」
「でも…大丈夫ですか?」
「大丈夫。俺、帰るな」
全然、大丈夫そうじゃない。
ベティはどこへ行ったのだろう。本当に泥棒が? クマのぬいぐるみを?
五十川さんはふらふらと事務所を出て行った。いつも真っ直ぐな姿勢が頼りなく丸まっている。
もう笑えない。心配だが、引き止めたとしても俺にはどうすることもできない。
もやもやとしながら仕事を片付けるしかなかった。
***
その日の夜、日付も変わろうとする時間に会社用のスマートフォンが鳴った。着信は社長からだった。
「弥田、起きてたか?」
「ふぁい。どうにか」
「悪いが…頼まれてくれないか」
「なんです?」
「まず、うちに来い。場所は会社の裏手だ。門灯はつけておく」
「は? 今からですか?」
「緊急事態だ。弥田は五十川と仲良くなりたいんだろ、人助けだから」
「五十川さんが関係してるんですか?」
「まあ、説明するのも面倒だから早く来い」
「えっ! ちょっ、と…」
言いたいことだけ言って通話は切れた。
え? えええ!?
緊急事態という言葉と、五十川さんの帰り際の様子を思い出して、スウェットによれたTシャツという部屋着のまま着替えもせずに自転車に乗っていた。
湿度の高い夜で息苦しいほど空気が重い。風もなくて汗がまとわりつく。
社長の家はすぐにわかった。玄関のチャイムを鳴らすと、しばらくして「早かったな」とドアが開く。
「なにごとですかぁ」
「これ」、と目の前に差し出されたのはクマのぬいぐるみ。
「っベティ?!」
「夕方、事務所に寄った時に娘が勝手に持って帰ってきたみたいなんだ。娘はもう寝てるし、今夜は奈美枝もいないから俺が持ってくこともできねえし。電話かけても五十川出ねえし」
「持って行けと?」
「ここまで来たんだ行ってくれるよな? いやぁ、見たことのあるクマだなぁとは思ってたんだけど、まさかと思うだろ」
「そう、ですね」
はじめて触れたクマは思った以上にふわふわで、これが五十川さんの精神安定剤になっている理由もわかる気がした。
どこか所在無さげなベティを紙袋に入れてハンドルにかける。
五十川さんのマンションへ向かいながら、会社用のスマートフォンと社長から教えてもらった私用の番号を交互に鳴らしてみたが留守番電話に切り替わるばかりだった。
寝てるのかもな。
ベティを早く返してあげたいが、すでに寝ているのなら逆に今の時間は迷惑なんじゃないかとも思う。
「絶対、困ってるから」と社長は断言していたが、深夜に自宅に来られるほうが困るに違いない。ペダルを漕ぐ足がためらいがちになる。
どうしたものかと迷っているうちにマンションに着いてしまい、来てしまったなら怒られることを覚悟しようと腹をくくった。
歓迎会後のにがい記憶のあるマンションのエントランスで五十川さんの部屋番号を押す。反応はない。
もう一度呼び出そうか、帰ろうか、ぐずぐずしていると、インターフォンの向こうで声がした。
『はい』
「あっ夜分にすみません、弥田です」
『なんだよ』
紙袋からベティを取り出してカメラに向る。
「ベティ、見つかりました」
***
部屋のドアにもたれて五十川さんは待っていた。お互いに何も言わなかった。
俺がベティを差し出すと壊れやすいものを扱うようにそっと受け取った。その仕草で、どれだけベティを大切にしているのか分かる。
「社長の娘さんが持って帰ってたそうです」
五十川さんが絞り出すように、「よかった」と言ってその場にしゃがみこむ。社長の言うとおり持って来て良かったと思った。
五十川さんはベティで充電でもするかようにしばらく動かなかった。
どう声をかけていいのかわからず、丸まった背中をじっと見つめる。
なんだか妙に緊張している。
「…ありがとな」
上目遣いにどきりとした。
「い、いえ」
「馬場に押し付けられたんだろ」
「社長は娘さんが寝てるから動けなかったみたいで…電話、かけたんですよ? 社長も、俺も」
「あー、スマホ。鞄の中に入れっぱなしだ」
よろりと立ち上がり、「なんか飲んでいくか?」と聞かれる。
「いえ、遅いし…帰りますね」
「そっか。助かった」
静かな微笑みだった。寂しそうで、思わず手が伸びた。一体、どこに触れようとしたのか。
我にかえって、伸ばしてしまった手のひらでベティを撫でる。
「はじめてベティ触ったんですけど、ふわふわですね!」
「…情けないよな、こんなぬいぐるみがないと駄目とか」
「そんなこと! ないです!!」
「うるせえよ」
「スミマセン…でも、本当に…上手く言えないんですけど」
ああ、どうしよう。これって、なんだか。
「悪い悪い、気にすんな。気を付けて帰れよ」
「はい…また、明日」
「おう、おやすみ」
「おやすみなさい」
胸が苦しい。閉じていくドアに後悔しかない。
あぁあ! 俺のバカ! せっかく誘ってもらったのをなんで断ってるんだよ!
***
五十川さんのことが、気になる。
そりゃ、クマのぬいぐるみと外回りに行く姿が気にならないわけないし、どうやったら仲良くなれるのかと入社してから気にし続けてきたわけだけど。
けど…なんというか、「気になる」の意味合いが違ってきたというか。ただ、どう違ってきたのかを突き詰めて考えることはできない。
踏み込んではいけない領域だと、思考にストップをかけている自分がいる。
先に進めることのできない気持ちなのに頭から離れてくれなくて、その日はなかなか寝付けなかった。
短い眠りですぐ朝を迎え、悶々としたまま出社した。
どんな振る舞いをすればいいのかと思い悩む俺に対し、「はよ」と五十川さんはいつも通りに声をかけてくる。
「昨日は悪かったな」
相変わらずの澄ました表情なのに、特別なことなどないのに、どうしてこんなにドキドキするのか。
一瞬たじろいだ隙に、「五十川! 昨日はすまん!」と社長の声がして五十川さんの視線は逸れてしまった。
「…娘の持ち物くらい把握しとけよ」
「そう怒るな。ちゃんと弥田が届けたんだろう」
「業務外でパシリにしてんなよ、パワハラで訴えられても知らねえぞ」
「弥田はそんなことしねえよ、な!」
「は、はい」
「ったく」と五十川さんは眉間にしわを寄せ、社長は得意そうに笑った。
五十川さんと社長の関係は謎だ。従業員と経営者という以上の信頼関係があるようで、俺としては羨ましい。
そうなんだ! 俺が目指していたのはまさに二人のような関係性だ!
心の内で握り拳を突き上げる。
俺は五十川さんから信頼されたいだけなのだ。別にドキドキしたいわけじゃない。
「…おい、弥田?」
「へ? あ、はい!」
いつの間にか社長の姿は消えていて、五十川さんが俺を見ている。
「貸しがあるの嫌だからさ。飯、奢るよ。食いたいもんあるか?」
ドキドキしたいわけじゃない。はずなのに。
「なんっでもいいです!」
「安い定食屋の昼飯にするぞ?」
「五十川さんの行きつけですか?」
「まぁな」
「そこにしましょう!」
昼飯を一緒に食べられる日が来るなんて!
「わかった。じゃあ昼前には戻る」
外回りへ出かける五十川さんを、「行ってらっしゃい」と笑顔で送り出した。
見た目だけでは分からないが、なんとなく昨日までとは違う気がする…のは、ただの俺の願望だろうか。
遅れて出社してきた奈美枝さんに、「顔がだらし無い」と注意されるまで俺は無自覚ににやついていた。
「お父さんは大丈夫でしたか?」
「思ったより元気だったわ、明日には退院して自宅療養になるみたい」
「よかったですね」
「母はどうせならもっと入院してればいいのにって言ってる…それより、昨日はうちの娘が迷惑かけちゃったんだって?」
「レアな五十川さんを見れました」
「あらあら…ふーん、それでさっきのだらし無い顔?」
「どういう意味ですか」
「どうもこうも、仲良くなれそうでよかったわねぇ」
「な、仲良くだなんてそんな…」
いや、そうだよ! 最初に比べたら奇跡といっていいかもしれない!
「物好きね。あんなカタブツのどこに好きになる要素があるのか理解できないわ」
好き?
「そんなことっ、一言も言ってないじゃないですか!」
「やーねぇ、ムキにならないでよ」
「だって、そんな…す、好きとか。俺はただ、五十川さんとは仲良くなりたいだけ…です、し」
「えー? 好きだから仲良くなりたいんじゃないの? 嫌いな人と仲良くなりたいなんて思わないじゃない」
言われてみればそのとおりで。
「五十川くんが友情を育む姿なんて想像できないけど。気長に頑張ってね」
「…友情」
「違うの?」
「いっいえ!」
「いいのよいいのよ、茶化してごめん」
奈美枝さんは何を心得たのか、うんうんと頷いている。
何か誤解をされているがどこをどう訂正すればいいのか分からない。
好きって、別に。特別な意味じゃない。だって、五十川さんは男だし。気になるのは、少し変わった人だから。だから、好きかもしれないけど、違う。
午前中、「違う」を念仏のように唱えて過ごした。その効果か、帰ってきた五十川さんから、「飯行くぞ」と声をかけられても平常心でいられた。
ほ、ほら。いつも通り!
外は弱く雨が降っていた。
傘を片手に持ち、ベティが濡れないよう胸元に抱く五十川さんにそわそわする。
「歩いていける距離なんですか?」
「あぁ」
俺の通勤経路とは反対側の道を並んで進んでいく。
「いつも食べに行ってるんですか?」
「だいたい。弥田は? 今までどうしてた?」
「コンビニですね。この辺りに店があるって知らなかったんで」
「コンビニ飽きるだろ。見えた、あそこ」
会社から五分ほどの距離にその食堂はあった。「蛤食堂」という暖簾が出ていても素通りしてしまいそうな地味さだ。
軒下で傘をたたみ、「…へび? 食堂ですか?」と尋ねる。五十川さんは素っ気なく「はまぐり」と応えて暖簾をくぐった。
外観とは違って店の中は繁盛している。
「いらっしゃーい、空いてる席へどうぞ」
座敷席と椅子席が半々の店内は、ほぼ満席だ。
「お冷とおしぼりはセルフな、あと小鉢は向こう」
「なんか…懐かしい感じの店ですね」
「ばあちゃん家みたいな?」
「ああ! まさに、そんな感じです」
五十川さんの表情が微かに緩む。気を許してくれているのでは…と思った途端に平常心ではいられなくなった。
「俺はだいたい日替り定食なんだけど、カツカレーとか親子丼も美味いぞ」
向かい合って普通に話しかけられているだけなのに、今の俺にとっては拷問のようだ。
「迷いますね…俺も日替りにしときます」
「おばちゃーん! 日替り二つ」
なんでこんなに意識してしまうんだろう。
「俺なんかに教えてよかったんですか」
「はあ?」
五十川さんは俺の言っている意味が分からないようだった。
「これから、俺もここに食べに来るかもしれませんよ」
「勝手にすりゃいいだろう、変なこと気にすんだな」
いいんですか! 知りませんよ! 俺のこともっと警戒しとかないと…好きに、なっちゃいますよ!
しばらくして定食を運んできたおばちゃんが、「一人じゃないの珍しいわね」と話しかけてくるのを、「こいつ、春からうちで働いてるんです」と紹介してくれただけで、生きててよかったと本気で思ってしまった。
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