アルカポネとただの料理人

AAKI

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Menue3-2

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 シセロ区に居を構えるエポナのアパートに、久しく熱と香りが灯る。

 台所の周囲を除いてまだ引っ越しの荷物が置かれている程度に、自室での活動は限定されていた。寝て起きて、身だしなみを整え、ケロッグ社のコーンフレークを食べるだけの場所。そんな感じでしかなかった。

 それを2年近くも続けていたのだから、エポナ自身も呆れてしまう。この先も続くという問題からは目を逸らす。

「えー、何があったかな」

 冷蔵庫を開いて、どんな材料が残っていたかを調べた。内容物に、久しく熱と香りが灯るはずだった。

 しかし、庫内から漂うのはカビっぽさを感じさせる水の匂いと萎びた土の香り。

「……」

 無駄にした物はないにせよろくな材料もないことがわかり、エポナは頭を抱えるのだった。あるのは乾物のペンネぐらいだ。こうなると買い物に行かなければならないわけだが、外にいるカポネ達のことを考えて気が引けてしまった。

 小さくため息をついて、エポナはベストを引っ掛けて財布をポケットに突っ込み出発する。

「ん? どうした?」

 部屋を出ると、やはりカポネ達が佇んでいて聞いてきた。

「買い物」

 エポナは短く答えると、ついてくる暇を与えずさっさと歩いて行ってしまう。それでもカポネとオバニオンの追従から逃れることはできず、両脇にギャングのそこそこ大物を引き連れてしまうことになった。

 ついてくるなと言っても無理だとわかっているので諦めて、裏通へ入り――月に一度とは言えここ最近行きつけになったお店へと向かう。

 周囲の皆が困るかと思っていたが、エポナの予想とは違うことになる。

「アルおじさん!」

 子供が駆け寄ってきて、カポネに嬉々として話しかけるのだ。

 服はボロく、笑う口に歯抜けが並ぶ。ツギハギだらけのシャツは、もはや元の生地がどれだったのかさえわからないほどである。細い体を振って近づいてくる姿を見るだけで、骨が折れてしまわないか心配だ。

「おう、とーちゃんは良くなったか?」

「うん! ありがとね、アルおじさん!」

 カポネの問いに、近づいてきた男の子は笑顔で答えた。あのカポネが子供に懐かれているという事実に、加えて人助けらしきことをした可能性を理解でき、驚きのあまり目を見開いてしまっている。

 流石にその反応は失礼じゃないかと、カポネも苦い顔をしてエポナを見つめる。

「お前……」

「アルおじさんの部下?」

「え。あぁ、まぁ……」

 カポネの言葉を遮るように、男の子が怖いもの知らずにも言った。エポナは、自分への問いに戸惑いつつも概ねは間違えていないので生返事を返した。

「そっかー。アルおじさんのところで働けて良いなぁ」

「はぁ? そうなのか?」

 続く男の子の言葉に、エポナはいささか実感が沸かず端切れの悪い台詞を返す。しかし考えてみれば、マフィアやギャングを毛嫌いしていることの不快感を除いて割と待遇は良い。

 ときには覚悟してしまったことを後々後悔したりもするが、仕事自体は忙しくてもやり甲斐はあるし、給料も別に悪くない。

「うーん、あながち間違いではないか」

「だからぼくも、大きくなったらアルおじさんのところで働くね!」

「そ、そうか……」

 男の子が満面の笑みで宣言したため、エポナもそれとなく答えることしかできなかった。本職がどうあれ、人助けをしているという点は褒めるべきなのだろう。

 複雑な思いを胸にエポナは、男の子と別れお店へと向かうのだった。

「お前なぁ、ギャングだって人間だぜ? 親子二人で生きてて、親父さんが病気で動けなかったらなんとかしてやりてぇだろ」

 歩きながら、カポネは弁解するかのように事情を説明していった。

 人道的なことのように思えるが、カポネとはそこそこ長い付き合いになるエポナである。

「ふぅん。で、その親父さんに何を頼むんだ?」

 何か裏があるぐらいのことわかった。

「全く、お前、そういうのはもう少し黙っとかないと長生きできねぇぜ」

 無駄にさといエポナを揶揄やゆして、カポネが呆れたように笑った。

 そんな様子をオバニオンが眺めているので、エポナも目を逸らすのだった。酒の密売に関わることだとわかり、これ以上は触れるまいと脳みそが警告したのである。

 今の仕事でさえ嫌悪が募っているというのに、新しい犯罪に加担させられるなどまっぴらごめん。

「あー、はいはいッ。私は何も聞かなかった」

「オッケー、それで良い。お利口ちゃんだ」

 エポナが黙るサインを出し、またカポネはからかって言った。

 そうこうしているうちに3人は、裏通りにあるケチで噂のお店へとたどり着いた。

 老齢の夫婦が営んでいる街に根ざした雑貨屋で、こじんまりとしながらも下手なお店より食材など揃っている。数が多くない分、やはり客数と需要は絞らなければならないためケチっぽく感じられるのだろう。

「ここか。辛気臭ぇとこだな。なんだ、あの店員の顔」

 確かにカポネの言う通り、裏通りにあって灯りや装飾なんてない地味な店構えだ。店員だって、どこに華があるのかもわからない渋皮。

「無愛想だが良い人達だよ」

 店主と店員のお爺さんお婆さんは決して悪人ではないので、エポナは苦笑交じりにフォローしておいた。少し年はいっているが、今亡き両親の代わりのようにさえなっていた。
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