両片思いの幼馴染

kouta

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読書の秋編

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 約束の木曜日。波留斗は上島と共に、駅前の大きな本屋に行った。
 実はこの書店は最近出来たばかりで、波留斗は一度しか行ったことがなかった。

「文庫本のコーナーはこっちだよ」

慣れた様子で、上島は波留斗を文庫本コーナーに案内する。

「先輩はここ良く来るんですか?」
「そうだね。僕は紙派だから。週に一回は来ているよ」
「先輩も紙の本が好きなんですね」
「宇佐美君も?」
「はい。紙の方が、読み返しがしやすくて……」
「わかるよ。推理小説は特にそうだよね」

やはり、上島との会話は余計なストレスがなく弾みやすい。読書あるあるを語り合いながら、最新作のコーナーを二人で物色する。

「あ、これ文庫本になってたんだ」

上島は単行本の時から気になっていたという文庫を手に取った。波留斗はそのタイトルをみて思わず『あ』と声をあげた。

「宇佐美君、読んだことあるの?」
「はい……その先生の本、大好きで」
「そうなんだ。僕も好きだよ。表現が繊細で読んでていつも惹き込まれるよ」

上島の感想を聞いて、波留斗は自分が褒められたような喜びに包まれた。その著者が、連の母親というとても身近で唯一自分がプライベートでもよく知っていてお世話になっている人物だったからだ。思わずにっこりとほほ笑んで何度も頷いてしまうのだった。



 本屋で物色した後、波留斗達は本屋のすぐ隣にある喫茶店に入った。
 上島は珈琲を頼み、波留とはウインナーコーヒーを頼んだ。砂糖もミルクも入れずに美味しそうに珈琲を口に運ぶ上島の姿は様になっていた。

「宇佐美君は本当に読書が好きなんだね」
「上島先輩程じゃないですよ……普段はあまり読まない方ですし」
「そう? 結構読んでる方だと思うけどな」

『僕の弟は全然本読まなくてさ』と寂しそうに視線を落とす上島。波留斗はその気持ちがわかる気がした。波留斗の周りの人間で読書家なのは菜摘しかいないからだ。

「俺で良ければいつでも話し相手になりますよ」

だから気づけば自然とそう口に出していた。それを聞いた上島は嬉しそうに微笑んだ。『本当? 嬉しいなぁ』と声を弾ませた後にあらたまって上島が波留斗の目を見つめる。

「……宇佐美君。これからは、名前で呼んでもいいかい?」
「良いですよ」
「ありがとう……僕の事も名前で呼んでいいから」
「えっと……」
「ああごめん。言ってなかったね。誠っていうんだ」
「誠先輩ですね。わかりました」

名前で呼ばれて、上島は嬉しそうに微笑んだ。波留斗は少し気恥ずかしい気持ちになりながらウインナーコーヒーを啜る。


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