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第八章『二つの村』
第六十三話『三つ目の入口』
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二つの村の人々により本来の姿を取り戻した女神像は、ナシャの目から見ても、とても誇らしげな表情に見えた。
仲間とともに女神を守護する役割の一翼を担うことができたことが嬉しくも感じていたが、それが本来の目的ではないことに気付き、ハーシマを見てみた。
ハーシマがナシャの視線に気付き「な、なにか、ありましたか?」と聞いてきたので、この周囲に潜魔窟の入口がありそうな遺跡の有無について情報がないか確認してみた。
「め、女神様からは特になにも……」
ハーシマがいつもの猫背をより丸めて恐縮するので、思わずナシャは笑った。
見上げると満点の星空が見えた。
涼気が戦闘後の火照った身体を冷やし、僅かな気だるさを知覚させる。
このまま綺麗な星空を見ながら夜営しようかとも思ったが、荷物はほぼウト村に置いてあることを思い出し、つい溜め息が漏れた。
翌朝。
何とかウト村に戻り、昼近くまで泥のように眠っていたナシャとハーシマ。
空腹を感じて目を覚ますと、食堂からは食欲を刺激する香りが漂ってきていた。
ほぼ同時に食堂に二人が姿を見せたのに気付いたウルは「寝坊助ども、ようやく起きたか」と笑った。
「ウ、ウルさんは早いですね」
女神が憑依していたとはいえ、元々の体力は少ないハーシマはまだ疲労が抜けきっていないという表情だった。
「おっさんになると、勝手に目が覚めるもんなのさ」
お茶を飲みながら、ウルが目の前の山菜の炒め物を口にした。
胃の負担を避けつつ自然と身体が求める滋養を取り入れることで、老齢に差し掛かっているウルの肉体を維持していた。
「さて、食事をしたらまた女神像の祭壇に行ってみようか」
牛乳を一息に飲み干したナシャが、山鳥の丸焼きにかぶり付いた。
「そのことだが、にぃちゃんたちが夢見ていた時に色々と話を聞いてみたら、祭壇から東に少し離れたところに、昔は洞があったらしい。そこを見てみよう」
「わかった。助かる」
元々の気質なのか、それとも訓練で培ったものなのか、ウルは次の展開を考える術に長けているとナシャは感じていた。
ハーシマも判断が早くなってきているし、ナシャは、味方として二人の存在が心強く思えた。
女神像に向かう道すがら、二つの村の住人が参道整備に勤しんでいる姿が見えた。
人々は口々にナシャたちへの礼を言い、賛辞に慣れていないハーシマを大いに照れさせた。
「わ、私でも、人の役に立てることが、あ、あるんですね」
引っ込み思案で自信のなさが服を着て歩いているような性格のハーシマにとって、初めて自分を認められそうだと感じられた。
「ねぇちゃんは実力はある。問題は気持ちだ。いい尻してるんだから自信持て」
そう言っていつものように手を伸ばそうとしたが、また耳鳴りがしてはたまらんと考えて躊躇した。
「尻の良し悪しは私にはわからんが、ハーシマ殿は初めから私たちにとって大事な戦力だ。自信を持ってほしい」
少しデリカシーに欠ける一言を差し置いても、ハーシマは二人が自分のことを認めてくれていることが、何よりも嬉しかった。
三人は、女神像の祭壇にたどり着くと付近にある洞を探し始めた。
すると、とある岩に違和感を感じたウル。
しばらく入念に調べたものの何も発見できなかったことから、ハーシマに魔力による検知をさせると、確かにそこには魔法により擬態した岩があった。
他の遺跡と同様に、解放を意味する古代魔法文字を詠唱すると、岩は音もなく消え去り、洞がぽっかりと口を開いた。
洞の中には、予想通り遺跡があり、その一角にある部屋には、やはり潜魔窟の入り口があった。
くぐってみると、予想通り、ナシャとハーシマが元の場所に戻り、ウルだけが中に残ることになった。
「これで、それぞれ一人ずつしか入れない潜魔窟の入口を見つけたわけだ」
中からウルが戻ってきた。
「そうだな。私としては挑戦してみるのも一興と考えるが、ハーシマ殿はどう思う?」
ナシャは、努めて優しく聞いてみた。
「わ、私は、す、少し怖いですけど、ひ、一人で頑張ってみたいです」
ハーシマは初めての単独行動を想像して、やや顔をひきつらせたものの、力強く宣言した。
「なら決まりだな。とりあえず遺跡を少し調べたらウェスセスに戻るか」
ウルの一言に二人は頷くと、ハーシマは遺跡調査を始めた。
火をおこし、遺跡調査を待ちながら、ナシャは新たな冒険に心を踊らせている自分に気が付いた。
仲間とともに女神を守護する役割の一翼を担うことができたことが嬉しくも感じていたが、それが本来の目的ではないことに気付き、ハーシマを見てみた。
ハーシマがナシャの視線に気付き「な、なにか、ありましたか?」と聞いてきたので、この周囲に潜魔窟の入口がありそうな遺跡の有無について情報がないか確認してみた。
「め、女神様からは特になにも……」
ハーシマがいつもの猫背をより丸めて恐縮するので、思わずナシャは笑った。
見上げると満点の星空が見えた。
涼気が戦闘後の火照った身体を冷やし、僅かな気だるさを知覚させる。
このまま綺麗な星空を見ながら夜営しようかとも思ったが、荷物はほぼウト村に置いてあることを思い出し、つい溜め息が漏れた。
翌朝。
何とかウト村に戻り、昼近くまで泥のように眠っていたナシャとハーシマ。
空腹を感じて目を覚ますと、食堂からは食欲を刺激する香りが漂ってきていた。
ほぼ同時に食堂に二人が姿を見せたのに気付いたウルは「寝坊助ども、ようやく起きたか」と笑った。
「ウ、ウルさんは早いですね」
女神が憑依していたとはいえ、元々の体力は少ないハーシマはまだ疲労が抜けきっていないという表情だった。
「おっさんになると、勝手に目が覚めるもんなのさ」
お茶を飲みながら、ウルが目の前の山菜の炒め物を口にした。
胃の負担を避けつつ自然と身体が求める滋養を取り入れることで、老齢に差し掛かっているウルの肉体を維持していた。
「さて、食事をしたらまた女神像の祭壇に行ってみようか」
牛乳を一息に飲み干したナシャが、山鳥の丸焼きにかぶり付いた。
「そのことだが、にぃちゃんたちが夢見ていた時に色々と話を聞いてみたら、祭壇から東に少し離れたところに、昔は洞があったらしい。そこを見てみよう」
「わかった。助かる」
元々の気質なのか、それとも訓練で培ったものなのか、ウルは次の展開を考える術に長けているとナシャは感じていた。
ハーシマも判断が早くなってきているし、ナシャは、味方として二人の存在が心強く思えた。
女神像に向かう道すがら、二つの村の住人が参道整備に勤しんでいる姿が見えた。
人々は口々にナシャたちへの礼を言い、賛辞に慣れていないハーシマを大いに照れさせた。
「わ、私でも、人の役に立てることが、あ、あるんですね」
引っ込み思案で自信のなさが服を着て歩いているような性格のハーシマにとって、初めて自分を認められそうだと感じられた。
「ねぇちゃんは実力はある。問題は気持ちだ。いい尻してるんだから自信持て」
そう言っていつものように手を伸ばそうとしたが、また耳鳴りがしてはたまらんと考えて躊躇した。
「尻の良し悪しは私にはわからんが、ハーシマ殿は初めから私たちにとって大事な戦力だ。自信を持ってほしい」
少しデリカシーに欠ける一言を差し置いても、ハーシマは二人が自分のことを認めてくれていることが、何よりも嬉しかった。
三人は、女神像の祭壇にたどり着くと付近にある洞を探し始めた。
すると、とある岩に違和感を感じたウル。
しばらく入念に調べたものの何も発見できなかったことから、ハーシマに魔力による検知をさせると、確かにそこには魔法により擬態した岩があった。
他の遺跡と同様に、解放を意味する古代魔法文字を詠唱すると、岩は音もなく消え去り、洞がぽっかりと口を開いた。
洞の中には、予想通り遺跡があり、その一角にある部屋には、やはり潜魔窟の入り口があった。
くぐってみると、予想通り、ナシャとハーシマが元の場所に戻り、ウルだけが中に残ることになった。
「これで、それぞれ一人ずつしか入れない潜魔窟の入口を見つけたわけだ」
中からウルが戻ってきた。
「そうだな。私としては挑戦してみるのも一興と考えるが、ハーシマ殿はどう思う?」
ナシャは、努めて優しく聞いてみた。
「わ、私は、す、少し怖いですけど、ひ、一人で頑張ってみたいです」
ハーシマは初めての単独行動を想像して、やや顔をひきつらせたものの、力強く宣言した。
「なら決まりだな。とりあえず遺跡を少し調べたらウェスセスに戻るか」
ウルの一言に二人は頷くと、ハーシマは遺跡調査を始めた。
火をおこし、遺跡調査を待ちながら、ナシャは新たな冒険に心を踊らせている自分に気が付いた。
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