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第九章『それぞれの潜魔窟』
第六十六話『成長する戦士』
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テマスの外れにある鉱山近くの遺跡にある、戦士だけが入ることのできる潜魔窟の入口。
そこを潜ったナシャは、途端にリルンスやドーフェの群れに襲われた。
単独で集団を相手にするには、背後を取られないこと、囲まれないこと、複数から同時に攻撃されないこと、これらを意識する必要がある。
ナシャは壁を背にしながら弱そうな個体を確実に一撃で仕留め、少しずつ数を減らすことを心掛けた。
慌てることなく、淡々と、まるで作業をしているかのように黙々と命を刈り取っていく。
命を賭して突進してナシャにしがみつこうとしたドーフェを無理に振り払うことなく、腹に膝蹴りを叩き込み、追撃を試みたもう一体のドーフェの頭蓋にメイスを叩き込む。
ナシャは自らの死を糧に、戦闘に対する意識を変えていた。
以前は、相手を叩きのめし、圧倒することで優位性を確保することを心掛けていた。
しかし現在は、命を確保することを最優先にしていた。
何が自分の命を危険に晒す行為となるのか?
何が自分の命を奪う攻撃となるのか?
どうすれば、命を落とすことなく、危機的状況を脱することができるか?
防衛を常としていた歩兵師団長の立場では、時に自らの命をなげうってまで国を守ることを考えなければならない状況があったことを考えると、現在の立ち位置はずいぶんと違っていることに気付いたのだ。
まず守るべきは己の命。
それができなければ、何人も守ることはできないのだ。
兵士として血の滲むような鍛錬に耐え、実戦を潜り抜けてきたナシャは、戦士としての実力は元々高かった。
それが、潜魔窟を知り、自らの死を経験し、闘技場で自信を取り戻したことで、ナシャは一回りも二回りも大きく成長していた。
気持ちを平静に保ち、ありのままの戦況から現在取るべき最善の手段を講じて敵を撃破する。
豊富な経験に裏打ちされたナシャの行動は無駄がなく、的確だった。
魔物の群れを傷一つ負うことなく片付けると、ナシャは出現した宝箱を蹴飛ばして罠の有無を確認すると、出てきた物についてはウルもハーシマもいない状況では価値判断がつかないので、無造作に背負い袋の中に突っ込んだ。
その後もロックターやジトルといった強敵が出現したが、これも問題なく退け続けた。
二階層目と三階層目に続く通路は、ハーシマからの合図より少し早く開くことができていた。
ウルからもすぐに反応があったので、ナシャは二人に後れを取っていないことに安堵した。
――――
ハーシマから野営の申し出があったころ、ナシャはちょうど死霊戦士を倒したところだった。
潜魔窟で散った冒険者は死体食いに遺体を食われる運命にあるが、一部は死してなお潜魔窟の呪いによって朽ちた身体のまま生かされ、潜入してきた冒険者へ恨みをぶつける存在となり果ててしまう。
強さは生前の冒険者に依存するものの、呪いの力によって肉体的な強化が図られているので、十分な強敵と言える存在だった。
ただ、ナシャは、これを事もなげに退けた。
ナシャは蛮族との戦闘に習熟しているため、人との戦闘に関する経験値は比類なきものと言ってよかった。
乱取りでドレープに敗北したものの、ドレープとて余裕のある勝利ではなかった。
ナシャが感じているより、魔王の討伐を果たした勇者との実力差はないのだ。
ナシャは簡易テントを建て、食事の準備を整えた。
ヤタガ王国に伝わる寒風を利用した乾燥食料の作り方をハーシマの冷却魔法により再現し、湯をかけることで調理した料理が再現できるようにしてみたが、ハーシマとウルの反応から、それが上手くいったことを知り、ナシャは一人微笑んだ。
食事を終えたナシャは、後片付け済ませると、ゆらゆらと揺れる焚火を見つめながら大きな気に背を預け、眠りについた。
そこを潜ったナシャは、途端にリルンスやドーフェの群れに襲われた。
単独で集団を相手にするには、背後を取られないこと、囲まれないこと、複数から同時に攻撃されないこと、これらを意識する必要がある。
ナシャは壁を背にしながら弱そうな個体を確実に一撃で仕留め、少しずつ数を減らすことを心掛けた。
慌てることなく、淡々と、まるで作業をしているかのように黙々と命を刈り取っていく。
命を賭して突進してナシャにしがみつこうとしたドーフェを無理に振り払うことなく、腹に膝蹴りを叩き込み、追撃を試みたもう一体のドーフェの頭蓋にメイスを叩き込む。
ナシャは自らの死を糧に、戦闘に対する意識を変えていた。
以前は、相手を叩きのめし、圧倒することで優位性を確保することを心掛けていた。
しかし現在は、命を確保することを最優先にしていた。
何が自分の命を危険に晒す行為となるのか?
何が自分の命を奪う攻撃となるのか?
どうすれば、命を落とすことなく、危機的状況を脱することができるか?
防衛を常としていた歩兵師団長の立場では、時に自らの命をなげうってまで国を守ることを考えなければならない状況があったことを考えると、現在の立ち位置はずいぶんと違っていることに気付いたのだ。
まず守るべきは己の命。
それができなければ、何人も守ることはできないのだ。
兵士として血の滲むような鍛錬に耐え、実戦を潜り抜けてきたナシャは、戦士としての実力は元々高かった。
それが、潜魔窟を知り、自らの死を経験し、闘技場で自信を取り戻したことで、ナシャは一回りも二回りも大きく成長していた。
気持ちを平静に保ち、ありのままの戦況から現在取るべき最善の手段を講じて敵を撃破する。
豊富な経験に裏打ちされたナシャの行動は無駄がなく、的確だった。
魔物の群れを傷一つ負うことなく片付けると、ナシャは出現した宝箱を蹴飛ばして罠の有無を確認すると、出てきた物についてはウルもハーシマもいない状況では価値判断がつかないので、無造作に背負い袋の中に突っ込んだ。
その後もロックターやジトルといった強敵が出現したが、これも問題なく退け続けた。
二階層目と三階層目に続く通路は、ハーシマからの合図より少し早く開くことができていた。
ウルからもすぐに反応があったので、ナシャは二人に後れを取っていないことに安堵した。
――――
ハーシマから野営の申し出があったころ、ナシャはちょうど死霊戦士を倒したところだった。
潜魔窟で散った冒険者は死体食いに遺体を食われる運命にあるが、一部は死してなお潜魔窟の呪いによって朽ちた身体のまま生かされ、潜入してきた冒険者へ恨みをぶつける存在となり果ててしまう。
強さは生前の冒険者に依存するものの、呪いの力によって肉体的な強化が図られているので、十分な強敵と言える存在だった。
ただ、ナシャは、これを事もなげに退けた。
ナシャは蛮族との戦闘に習熟しているため、人との戦闘に関する経験値は比類なきものと言ってよかった。
乱取りでドレープに敗北したものの、ドレープとて余裕のある勝利ではなかった。
ナシャが感じているより、魔王の討伐を果たした勇者との実力差はないのだ。
ナシャは簡易テントを建て、食事の準備を整えた。
ヤタガ王国に伝わる寒風を利用した乾燥食料の作り方をハーシマの冷却魔法により再現し、湯をかけることで調理した料理が再現できるようにしてみたが、ハーシマとウルの反応から、それが上手くいったことを知り、ナシャは一人微笑んだ。
食事を終えたナシャは、後片付け済ませると、ゆらゆらと揺れる焚火を見つめながら大きな気に背を預け、眠りについた。
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