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第一章『潜魔窟に挑む者たち』
第六話『遺品回収者ウル』
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ウルは、遺品を渡した相手を悲しみを帯びた目で見つめた。
遺族から感謝されたものの、確実に蘇る保証はない。
お金をかけて徒労に終わる可能性があるのに感謝されることに、ウルは心苦しさを感じていた。
ウル・カカ。
ノーイス島の南に位置するストリ大陸出身で、現在51歳になる。
父親はストリ大陸で最も巨大な勢力を持つ盗賊集団の長で、母親は暗殺を生業としていた。
そんな両親から、ウルはサバイバル術を徹底的に仕込まれた。
が、ウルは、自分の置かれた環境が嫌いだった。
昔から、人々から恨みを買いながらも、悪事を働き高笑いする両親が嫌いだった。
欲に生き、欲に溺れる人々の姿がウルの目にはひどく醜く映っていた。
15歳になったウルは、家を出て交易船に忍び込み、なんとかノーイス島に流れてきた。
ノーイス島にある潜魔窟の伝説を幼い頃から耳にしていたウルは、冒険心が掻き立てられるまま潜魔窟を目指した。
ウェスセスに到着し、ウルは迷わずレンジャーギルドに所属した。
皮肉なことに、両親から叩き込まれた盗賊と暗殺の技術は、レンジャーとして申し分ないスキルとなった。
それから10年に渡り、謎に迫るために潜魔窟に挑み続けた。
仲間を失ったこともあればウル自身の命が危ぶまれることも多々あった。
それでもウルは生き残った、が、魔王の元まで辿り着くことはできなかった。
10年間で魔王は2度復活し、2度ともウル以外のパーティが魔王の討伐を成し遂げていた。
そのパーティから魔王戦の激闘の模様を聞くことはできたが、ウルが知りたかった魔王の存在の謎、潜魔窟の謎はわからないままだった。
倒されても復活を繰り返す魔王。
復活の度、幾人もの犠牲を目の当たりにしても、潜魔窟がもたらす富を得ようと四苦八苦する人々。
欲望をむき出しにした人々の姿に、かつての両親の姿を見たウルは、ウェスセスを離れ、ノーイス島全体を巡る放浪の旅に出た。
ウェスセスにウルが戻ってきたのは、5年後のことだった。
そして、誰ともパーティを組まずに遺品回収業を始めた。
それから現在に至るまで、幾度もの魔王の討伐と復活が繰り返され、幾人もの冒険者たちが潜魔窟で命を落とした。
ウルは、そのたびに一人潜魔窟に潜入し、かなりの確率で遺品の回収を成功させてきた。
そうしてウルは、遺品回収業としての名をウェスセスに広めていった。
ウルは、遠巻きに自分のことを見ている2人の視線に気づいた。
1人は中年に差し掛かったと思える戦士の出で立ちの男で、もう一人は引っ込み思案の魔術師だ。
あと一人、レンジャーの姿が見当たらないところを見ると、まだ潜魔窟に入る準備ができていないようだ。
「あの魔術師、ようやく潜魔窟に入る気になったんか……」
ウルはポツリとつぶやいた。
ウルはハーシマを見知っていたが潜魔窟に入っているのを見たことがなかったし、何より入りたいという気持ちが感じられなかったので、今、大量の荷物を持ち戦士風の男と潜魔窟前に居ることを考えると、とうとう入る気になったのかと感じていた。
しかし、ウルはそれがめでたいことだとは感じなかった。
今回遺品を回収したパーティは、手練れといって差し支えない実力の持ち主だったが、返り討ちにされている。
おそらく初心者といっていいと思われるハーシマと戦士風の男では、生き残ることができるとはウルには思えなかった。
ナシャはウルをじっと見つめていた。
壮年に見えるが、立ち振る舞いに隙がなく、なかなかの実力の持ち主であることがうかがえた。
軽量な革鎧を身に着けていることからレンジャーと思える。
一人で遺品回収をしているなら誰ともパーティを組んでいないだろうし、何より潜魔窟内部に精通しているだろうから、この男をパーティに加えることができれば心強い。
ナシャがそう考えているところで、ナシャは突然ウルに話しかけられた。
「お前ら、潜魔窟は諦めたほうがいいと思うぞ」と。
遺族から感謝されたものの、確実に蘇る保証はない。
お金をかけて徒労に終わる可能性があるのに感謝されることに、ウルは心苦しさを感じていた。
ウル・カカ。
ノーイス島の南に位置するストリ大陸出身で、現在51歳になる。
父親はストリ大陸で最も巨大な勢力を持つ盗賊集団の長で、母親は暗殺を生業としていた。
そんな両親から、ウルはサバイバル術を徹底的に仕込まれた。
が、ウルは、自分の置かれた環境が嫌いだった。
昔から、人々から恨みを買いながらも、悪事を働き高笑いする両親が嫌いだった。
欲に生き、欲に溺れる人々の姿がウルの目にはひどく醜く映っていた。
15歳になったウルは、家を出て交易船に忍び込み、なんとかノーイス島に流れてきた。
ノーイス島にある潜魔窟の伝説を幼い頃から耳にしていたウルは、冒険心が掻き立てられるまま潜魔窟を目指した。
ウェスセスに到着し、ウルは迷わずレンジャーギルドに所属した。
皮肉なことに、両親から叩き込まれた盗賊と暗殺の技術は、レンジャーとして申し分ないスキルとなった。
それから10年に渡り、謎に迫るために潜魔窟に挑み続けた。
仲間を失ったこともあればウル自身の命が危ぶまれることも多々あった。
それでもウルは生き残った、が、魔王の元まで辿り着くことはできなかった。
10年間で魔王は2度復活し、2度ともウル以外のパーティが魔王の討伐を成し遂げていた。
そのパーティから魔王戦の激闘の模様を聞くことはできたが、ウルが知りたかった魔王の存在の謎、潜魔窟の謎はわからないままだった。
倒されても復活を繰り返す魔王。
復活の度、幾人もの犠牲を目の当たりにしても、潜魔窟がもたらす富を得ようと四苦八苦する人々。
欲望をむき出しにした人々の姿に、かつての両親の姿を見たウルは、ウェスセスを離れ、ノーイス島全体を巡る放浪の旅に出た。
ウェスセスにウルが戻ってきたのは、5年後のことだった。
そして、誰ともパーティを組まずに遺品回収業を始めた。
それから現在に至るまで、幾度もの魔王の討伐と復活が繰り返され、幾人もの冒険者たちが潜魔窟で命を落とした。
ウルは、そのたびに一人潜魔窟に潜入し、かなりの確率で遺品の回収を成功させてきた。
そうしてウルは、遺品回収業としての名をウェスセスに広めていった。
ウルは、遠巻きに自分のことを見ている2人の視線に気づいた。
1人は中年に差し掛かったと思える戦士の出で立ちの男で、もう一人は引っ込み思案の魔術師だ。
あと一人、レンジャーの姿が見当たらないところを見ると、まだ潜魔窟に入る準備ができていないようだ。
「あの魔術師、ようやく潜魔窟に入る気になったんか……」
ウルはポツリとつぶやいた。
ウルはハーシマを見知っていたが潜魔窟に入っているのを見たことがなかったし、何より入りたいという気持ちが感じられなかったので、今、大量の荷物を持ち戦士風の男と潜魔窟前に居ることを考えると、とうとう入る気になったのかと感じていた。
しかし、ウルはそれがめでたいことだとは感じなかった。
今回遺品を回収したパーティは、手練れといって差し支えない実力の持ち主だったが、返り討ちにされている。
おそらく初心者といっていいと思われるハーシマと戦士風の男では、生き残ることができるとはウルには思えなかった。
ナシャはウルをじっと見つめていた。
壮年に見えるが、立ち振る舞いに隙がなく、なかなかの実力の持ち主であることがうかがえた。
軽量な革鎧を身に着けていることからレンジャーと思える。
一人で遺品回収をしているなら誰ともパーティを組んでいないだろうし、何より潜魔窟内部に精通しているだろうから、この男をパーティに加えることができれば心強い。
ナシャがそう考えているところで、ナシャは突然ウルに話しかけられた。
「お前ら、潜魔窟は諦めたほうがいいと思うぞ」と。
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