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第四章『訪れる試練』
第二十四話『魔王の討伐者たち』
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「おっさん、死んでねぇか?」
ウルの家の扉を勢いよく開け放った若者が開口一番変な問いかけを口にする。
「うるせぇぞ」
老眼鏡を鼻にかけ、机の上で何やら作業していたウルが視線を動かさずに答えた。
「まだ大した金にもなんねぇ遺品回収なんかやってのんか?ってか、何やってんだ?」
若者はズカズカとした歩調でウルの元まで近付くと机を覗き込む。
ウルの手には針と糸、そして革鎧の一部分があった。
どうやら自分の革鎧の補修をしているらしい。
「遺品回収は金になるが、今はパーティ組んでる」
糸を通す穴が開かれた厚手の革2枚を器用に縫い合わせるウル。
「おっさんが?何で?」
若者の言葉遣いはずいぶんとぞんざいだが、ウルは気にした風もない。
「兵士のおっさんと魔術師のおばちゃん……いや、ねぇちゃんだな、その2人の夢の手伝いだ。ところでお前はどうしている?」
作業を中断すると、ウルが老眼鏡をずらして若者を見た。
若者の名はホリム。
戦士ドレープ、魔術師レンドと共に3年前に魔王を討伐したパーティでレンジャーを務めている。
年齢もドレープ達と同じく18歳だ。
黒装束に黒革の軽鎧、腰には妖しい光を帯びた小剣がある。
フードを目深に被っているので表情は伺えないが、赤茶色の顎髭だけが見える。
「あー、何かレンドが気になることあるから潜魔窟にちょっと入りたいらしいんだわ。なもんで旅を中断して、おっさんの生存確認を兼ねてここに来たわけよ」
声変わりしたての少年のような声色には若干の親しみが感じられた。
「まぁ、お前に殺されなかったから、まだ生きてるわな」
ウルはホリムに向けニヤリと笑って言い、ホリムもニヤリとした。
実はホリムは、ウルの両親が放った暗殺者である。
幼少の頃から暗殺者としての訓練を受けたホリムは、14歳でウルの母から、初任務としてウルの暗殺を命じられた。
少年であるほうが警戒心を抱かせないという理由もあるが、ホリムには天性の才があった。
が、しかし、ホリムは命令を無視した。
ホリムは人が好きだった。
訓練教官や訓練兵などと仲が良かったし、武勇伝を聞いたりするのが好きだった。
なので、ハナから命令を聞く気はなく、暗殺名目でストリ大陸を離れられることを利用して、暗殺者集団から逃げることにしたのだ。
とはいえ、そのままでは自身に暗殺者の追手が放たれるのはわかりきっている。
そこでホリムは一計を案じ、潜魔窟に入ることにした。
事実、ウルも潜魔窟に入っている間は暗殺者はウルを追えず、狙うようになったのは遺品回収として単独行動をするようになってからなのだ。
ウェスセスに到着し、ウルに事情を説明したところ、ちょうど同年代の戦士が潜魔窟に入るための仲間を探しているという話であったので、それに乗っかり、あれよあれよと言う間に魔王討伐まで成し遂げでしまったのだ。
魔王を討伐したことでホリムの名が世界に広く伝わったおかげで、実力と強大な仲間を得たホリムは迂闊に暗殺できる存在ではなくなった。
そしてホリムは自由を手にし、たまにウルに会うことで、ウルを守ることにしていたのだ。
ウルはホリムの意図を理解しており、妙に人懐っこいホリムのことが気に入っていた。
ナシャとドレープが乱取りした翌々日、ドレープ達が潜魔窟に入っていった。
ウェスセスの人々は、再びドレープ達が魔王討伐に挑むのかと思い、拍手を送った。
その旅立ちを横目に見たあと、ナシャ達は割符を使ってトインへと向かうことにした。
「んじゃ、その割符真ん中に穴を開けろー。それでトインまで転送される」
ウルが相変わらずの気の抜けた口調で割符の使い方を説明した。
その間ずっと、ナシャの表情が普段より堅いことがハーシマは気になっていた。
ウルの家の扉を勢いよく開け放った若者が開口一番変な問いかけを口にする。
「うるせぇぞ」
老眼鏡を鼻にかけ、机の上で何やら作業していたウルが視線を動かさずに答えた。
「まだ大した金にもなんねぇ遺品回収なんかやってのんか?ってか、何やってんだ?」
若者はズカズカとした歩調でウルの元まで近付くと机を覗き込む。
ウルの手には針と糸、そして革鎧の一部分があった。
どうやら自分の革鎧の補修をしているらしい。
「遺品回収は金になるが、今はパーティ組んでる」
糸を通す穴が開かれた厚手の革2枚を器用に縫い合わせるウル。
「おっさんが?何で?」
若者の言葉遣いはずいぶんとぞんざいだが、ウルは気にした風もない。
「兵士のおっさんと魔術師のおばちゃん……いや、ねぇちゃんだな、その2人の夢の手伝いだ。ところでお前はどうしている?」
作業を中断すると、ウルが老眼鏡をずらして若者を見た。
若者の名はホリム。
戦士ドレープ、魔術師レンドと共に3年前に魔王を討伐したパーティでレンジャーを務めている。
年齢もドレープ達と同じく18歳だ。
黒装束に黒革の軽鎧、腰には妖しい光を帯びた小剣がある。
フードを目深に被っているので表情は伺えないが、赤茶色の顎髭だけが見える。
「あー、何かレンドが気になることあるから潜魔窟にちょっと入りたいらしいんだわ。なもんで旅を中断して、おっさんの生存確認を兼ねてここに来たわけよ」
声変わりしたての少年のような声色には若干の親しみが感じられた。
「まぁ、お前に殺されなかったから、まだ生きてるわな」
ウルはホリムに向けニヤリと笑って言い、ホリムもニヤリとした。
実はホリムは、ウルの両親が放った暗殺者である。
幼少の頃から暗殺者としての訓練を受けたホリムは、14歳でウルの母から、初任務としてウルの暗殺を命じられた。
少年であるほうが警戒心を抱かせないという理由もあるが、ホリムには天性の才があった。
が、しかし、ホリムは命令を無視した。
ホリムは人が好きだった。
訓練教官や訓練兵などと仲が良かったし、武勇伝を聞いたりするのが好きだった。
なので、ハナから命令を聞く気はなく、暗殺名目でストリ大陸を離れられることを利用して、暗殺者集団から逃げることにしたのだ。
とはいえ、そのままでは自身に暗殺者の追手が放たれるのはわかりきっている。
そこでホリムは一計を案じ、潜魔窟に入ることにした。
事実、ウルも潜魔窟に入っている間は暗殺者はウルを追えず、狙うようになったのは遺品回収として単独行動をするようになってからなのだ。
ウェスセスに到着し、ウルに事情を説明したところ、ちょうど同年代の戦士が潜魔窟に入るための仲間を探しているという話であったので、それに乗っかり、あれよあれよと言う間に魔王討伐まで成し遂げでしまったのだ。
魔王を討伐したことでホリムの名が世界に広く伝わったおかげで、実力と強大な仲間を得たホリムは迂闊に暗殺できる存在ではなくなった。
そしてホリムは自由を手にし、たまにウルに会うことで、ウルを守ることにしていたのだ。
ウルはホリムの意図を理解しており、妙に人懐っこいホリムのことが気に入っていた。
ナシャとドレープが乱取りした翌々日、ドレープ達が潜魔窟に入っていった。
ウェスセスの人々は、再びドレープ達が魔王討伐に挑むのかと思い、拍手を送った。
その旅立ちを横目に見たあと、ナシャ達は割符を使ってトインへと向かうことにした。
「んじゃ、その割符真ん中に穴を開けろー。それでトインまで転送される」
ウルが相変わらずの気の抜けた口調で割符の使い方を説明した。
その間ずっと、ナシャの表情が普段より堅いことがハーシマは気になっていた。
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