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第四章『訪れる試練』
第二十五話『若き力』
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ただ白いだけの空間で、3人の若者、いや、少年と言っていいほどの年頃の3人が、禍々しく巨大な何かと戦闘を繰り広げている。
しばらく続いた戦闘で3人の疲労の色は濃い。
レンドの魔法による氷の刃が凄まじい勢いで眼前に迫るも右手に持った魔剣でそれを受け止め、さらにはそれをバリバリと噛み砕き、氷の飛礫として飛ばしてくる。
それをギリギリで掻い潜り、レーファほどの巨大生物すら数分で麻痺させるほどの毒が塗り込められた投げナイフを、3本足に命中させる。
しかし、もう既に10本は突き刺さっているにもかかわらず、未だに動きと止める素振りが見えないことに、ホリムは短く小さい舌打ちをした。
ホリム同様、氷の飛礫を回避したドレープは、ホリムとは逆方向から接近すると、岩すら穿ち貫くほどの必殺の突きを胸元に繰り出すが、それは左手の小盾で弾かれる。
弾かれた瞬間、極めて強大な魔力を秘めた刃がドレープの心臓めがけ突っ込んでくるが、この動きを予測していたドレープは文字通りの間一髪で回避した。
さらなる追撃をなんとか回避して体勢を整えるが、ドレープは肩で息をするほど疲弊していた。
懐からホリムが調合したスタミナ回復の丸薬を取り出し、噛む。
口いっぱいに渋さが広がるが、呼吸が徐々に整う。
「3!」
顔色悪く、唇が青紫色になっているレンドが叫ぶ。
まもなく精神力が尽き果てる兆候がありありと浮かんでいる。
「突!」
ドレープが叫び、ホリムと共に再び走る。
両側から対角線上に全く同時に攻撃を仕掛けるドレープとホリムだったが、それぞれ、右手の魔剣と左手の小盾で弾かれる。
その瞬間を狙って神の雷の魔法をレンドが放つ。
雷の轟音が響き渡り、空気とともに空間全体を震わせる。
回避不可能のタイミングの神の雷は、確かに魔王の胸を貫いたかに見えた。
が、魔王は一瞬にして姿を消すとレンドの後ろに現れ、レンドに巨木をなぎ倒す威力の蹴りを見舞う。
辛うじて攻撃無効の魔法が間に合い、蹴りのダメージを防ぐことはできたレンドだったが、壁まで吹き飛ばされた衝撃までは消すことができず、レンドは苦痛で息が詰まった。
魔王はニヤリと口角を上げた。
ようやく3人の連携に綻びが生じたのだ。
が、しかし、魔王の次の行動がまばたきほどの瞬間だけ遅れが生じた。
ホリムの毒が、ほんの僅かだけ効果を現したのだ。
魔王の、遅れとは到底言えない間が、ドレープの攻撃を許す隙となった。
ドレープは全身のバネを総動員し魔王の懐深くまで跳躍すると、右手首を斬りつけ、返す刀で右手を叩いた。
ドレープが得意とする剣術の1つ『斬り返し』だが、ドレープのそれは神速の域に達しているので、常人には、返しの部分すら見えない技となる。
魔王は右手を襲った激痛によって思わず魔剣を落としてしまい、ホリムはすかさず魔剣を蹴飛ばし、魔王から引き離した。
魔王は怒り、自身もダメージを食らうことを承知で極限爆破の呪文を唱え、直後、空間全体の壁に深いヒビを刻むほどの爆発が発生した。
不届きな人間は一掃されたと確信していた魔王だったが、ホリムの毒により本来の威力とはならず、また、レンドが最後の気力を振り絞って唱えた範囲守護の魔法の前に致命傷を与えるには至らなかった。
人間を仕留め損なったことと、爆発による自身へのダメージの深さに顔を歪めた魔王は、刹那、ドレープが投げた、自身が持っていた魔剣の一突きによって心臓を貫かれた。
「ふふ、に、人間よ。よくぞ我を打ち破った」
魔王は胸深く突き刺さった魔剣を引き抜くと、ドレープの足元へ投げてよこした。
「魔王よ、もう復活するな」
魔剣を拾い上げ、ドレープは魔王の元へと歩み寄った。
「人間よ、我は不滅だ。また蘇る存在なのだよ」
魔王は口から紫色の血液を吹き出しながら答えた。
「そうか……ならば、また我々人間はお前を倒す」
ドレープはそう言うと、魔剣で魔王の首を斬り落とした。
魔王の目から生命の色が消え、やがて魔王は消滅した。
ドレープは周囲を見回す。
ホリムが精神力を使い果たして動けないレンドに覆い被さってレンドを守っていた。
レンドとホリム、共になんとか無事なようだ。
ドレープもレンドの魔法がなければ命を落としていただろう。
こうして3人の若者は、魔王を討伐した英雄となった。
再び潜魔窟に入ったドレープは魔剣を見つめながら、3年前の死闘を思い出していた。
「ねぇドレープ。聞いてるかい?」
声に気付き、ドレープは慌てて顔を上げた。
先ほどからレンドに呼びかけられていたようだった。
「ごめん、聞いてなかった」
素直に言い、ドレープは照れ笑いを浮かべた。
「今回の目的はトインだから、2日で上層を抜けようって言ったんだよー」
さして怒る風もなく、レンドは先ほどの言葉を繰り返し言った。
「わかったよ、君に任せるよ」
ドレープがレンドに笑顔を向けた。
ホリムは既に罠の探索をしている。
ドレープは久しぶりの潜魔窟の冒険に胸を躍らせた。
しばらく続いた戦闘で3人の疲労の色は濃い。
レンドの魔法による氷の刃が凄まじい勢いで眼前に迫るも右手に持った魔剣でそれを受け止め、さらにはそれをバリバリと噛み砕き、氷の飛礫として飛ばしてくる。
それをギリギリで掻い潜り、レーファほどの巨大生物すら数分で麻痺させるほどの毒が塗り込められた投げナイフを、3本足に命中させる。
しかし、もう既に10本は突き刺さっているにもかかわらず、未だに動きと止める素振りが見えないことに、ホリムは短く小さい舌打ちをした。
ホリム同様、氷の飛礫を回避したドレープは、ホリムとは逆方向から接近すると、岩すら穿ち貫くほどの必殺の突きを胸元に繰り出すが、それは左手の小盾で弾かれる。
弾かれた瞬間、極めて強大な魔力を秘めた刃がドレープの心臓めがけ突っ込んでくるが、この動きを予測していたドレープは文字通りの間一髪で回避した。
さらなる追撃をなんとか回避して体勢を整えるが、ドレープは肩で息をするほど疲弊していた。
懐からホリムが調合したスタミナ回復の丸薬を取り出し、噛む。
口いっぱいに渋さが広がるが、呼吸が徐々に整う。
「3!」
顔色悪く、唇が青紫色になっているレンドが叫ぶ。
まもなく精神力が尽き果てる兆候がありありと浮かんでいる。
「突!」
ドレープが叫び、ホリムと共に再び走る。
両側から対角線上に全く同時に攻撃を仕掛けるドレープとホリムだったが、それぞれ、右手の魔剣と左手の小盾で弾かれる。
その瞬間を狙って神の雷の魔法をレンドが放つ。
雷の轟音が響き渡り、空気とともに空間全体を震わせる。
回避不可能のタイミングの神の雷は、確かに魔王の胸を貫いたかに見えた。
が、魔王は一瞬にして姿を消すとレンドの後ろに現れ、レンドに巨木をなぎ倒す威力の蹴りを見舞う。
辛うじて攻撃無効の魔法が間に合い、蹴りのダメージを防ぐことはできたレンドだったが、壁まで吹き飛ばされた衝撃までは消すことができず、レンドは苦痛で息が詰まった。
魔王はニヤリと口角を上げた。
ようやく3人の連携に綻びが生じたのだ。
が、しかし、魔王の次の行動がまばたきほどの瞬間だけ遅れが生じた。
ホリムの毒が、ほんの僅かだけ効果を現したのだ。
魔王の、遅れとは到底言えない間が、ドレープの攻撃を許す隙となった。
ドレープは全身のバネを総動員し魔王の懐深くまで跳躍すると、右手首を斬りつけ、返す刀で右手を叩いた。
ドレープが得意とする剣術の1つ『斬り返し』だが、ドレープのそれは神速の域に達しているので、常人には、返しの部分すら見えない技となる。
魔王は右手を襲った激痛によって思わず魔剣を落としてしまい、ホリムはすかさず魔剣を蹴飛ばし、魔王から引き離した。
魔王は怒り、自身もダメージを食らうことを承知で極限爆破の呪文を唱え、直後、空間全体の壁に深いヒビを刻むほどの爆発が発生した。
不届きな人間は一掃されたと確信していた魔王だったが、ホリムの毒により本来の威力とはならず、また、レンドが最後の気力を振り絞って唱えた範囲守護の魔法の前に致命傷を与えるには至らなかった。
人間を仕留め損なったことと、爆発による自身へのダメージの深さに顔を歪めた魔王は、刹那、ドレープが投げた、自身が持っていた魔剣の一突きによって心臓を貫かれた。
「ふふ、に、人間よ。よくぞ我を打ち破った」
魔王は胸深く突き刺さった魔剣を引き抜くと、ドレープの足元へ投げてよこした。
「魔王よ、もう復活するな」
魔剣を拾い上げ、ドレープは魔王の元へと歩み寄った。
「人間よ、我は不滅だ。また蘇る存在なのだよ」
魔王は口から紫色の血液を吹き出しながら答えた。
「そうか……ならば、また我々人間はお前を倒す」
ドレープはそう言うと、魔剣で魔王の首を斬り落とした。
魔王の目から生命の色が消え、やがて魔王は消滅した。
ドレープは周囲を見回す。
ホリムが精神力を使い果たして動けないレンドに覆い被さってレンドを守っていた。
レンドとホリム、共になんとか無事なようだ。
ドレープもレンドの魔法がなければ命を落としていただろう。
こうして3人の若者は、魔王を討伐した英雄となった。
再び潜魔窟に入ったドレープは魔剣を見つめながら、3年前の死闘を思い出していた。
「ねぇドレープ。聞いてるかい?」
声に気付き、ドレープは慌てて顔を上げた。
先ほどからレンドに呼びかけられていたようだった。
「ごめん、聞いてなかった」
素直に言い、ドレープは照れ笑いを浮かべた。
「今回の目的はトインだから、2日で上層を抜けようって言ったんだよー」
さして怒る風もなく、レンドは先ほどの言葉を繰り返し言った。
「わかったよ、君に任せるよ」
ドレープがレンドに笑顔を向けた。
ホリムは既に罠の探索をしている。
ドレープは久しぶりの潜魔窟の冒険に胸を躍らせた。
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