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第四章『訪れる試練』
第二十八話『大攻勢』
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謎の声とともに魔物の気配が周囲から消えたことから、ナシャ達は適当な場所を見つけて野営することにした。
火をおこし、ナシャが手持ちの食材で調理をした。
芳ばしい香りが辺りを漂う。
普段であれば食欲がかきたてられ、ハーシマの笑顔が弾ける時間になるのだが、この日は謎の声の言ったことが気になってしまっていたせいか、いつもより暗い雰囲気になっていた。
「にぃちゃん、相変わらず旨いな」
空腹を満たしたウルが、賛辞の声をあげた。
事実、ナシャの料理は簡素な食材と調味料で作られているはずなのだが、店で食べる料理と比べても遜色なく感じられた。
「ほ、本当に美味しかったです!」
ハーシマは、自身の気持ちが沈みがちであることに気付き、あえて明るめに振る舞った。
「自分でもコツなどはわからないが、料理は新兵のころの賄い担当のときから誉められていたな」
ほんの少しだけ、ナシャは照れる仕草をしながら、ポツポツと話し始めた。
「私は覚えが悪く、上官や仲間にいつも遅れをとっていた。そのことが悔しくて武器の操練、戦術理解など、人一倍、いや人の三倍くらいは努力した。その成果が自分でも実感できるようになったころ、私は偶然にも戦果をあげることができたので上官になることができた。それでも私は未だに自分の戦闘技術に不安がある。それなのに料理だけは、努力をしていないのに誉められてばかりだから不思議なものだな」
ナシャはそういって微笑んだ。
「にぃちゃん、兵隊さんより料理人になったほうが王様に喜ばれたんじゃねぇか?」
ウルの冗談に、ナシャが「そうかもな」と答え、久しぶりに3人の笑いが響いた。
本当、可笑しいわね......
突然、あの妖しい声が聞こえた。
次の瞬間、ナシャ達の周囲にドーフェの集団が出現した。
その数は20匹を超えていた。
ナシャ達は完全に虚を突かれていた。
ナシャは素早く周囲を見渡し、もっとも魔物が少ないであろう箇所に突進し魔物の包囲網を破った。
突然の魔物の襲来に驚き戸惑っていたハーシマであったが、ウルが背後から抱え込むようにして、ナシャが作り出した包囲網の穴を走り抜けた。
最悪な状況を脱したものの、依然として最悪な状況であることは変わりない。
ナシャは大きく舌打ちを打ちながら、ハーシマとウルを庇うように位置取りをしつつ、ドーフェとの戦闘を始めた。
ウルもナシャの背後が開かないように立ち回りながらドーフェと対峙した。
「ま、魔法を唱えます!」
ハーシマがそう叫び、詠唱を始めた。
魔物を背後から爆発火球で攻撃し、前回の戦闘と同様にドーフェを蹴散らそうとしたのだ。
しかし、詠唱時間が長くなるその魔法は、混戦時では相応しくなかった。
魔法が完成する前にナシャとウルの手から余ったドーフェがハーシマに襲いかかり、魔法が中断されてしまった。
ドーフェの攻撃はすんでのところでハーシマの前に回り込んだウルによって防がれたが、今度はウルがドーフェの攻撃に晒され、受けきれなかった刃がウルの左腕に傷をつけた。
すぐさまナシャによって、ウル達を攻め立てたドーフェは仕留められたが、今度はナシャが激しい攻撃に見舞われる。
「ハーシマ殿!簡易な魔法で牽制してくれ!」
ナシャが怒鳴った。
その声量に驚き肩をビクつかせたハーシマだったが、すぐさま反応して、爆発火球から石つぶてを飛ばす魔法に切り替え、ドーフェの気勢を削いでいった。
ドーフェがやや後退したことで、ナシャとウルは一気に攻勢に打って出て、ドーフェを一匹、また一匹と倒していく。
ナシャがドーフェのこめかみにメイスを叩き込んで、ハーシマの防衛に向かおうと視線を動かした。
が、しかし、絶命する直前にドーフェはナシャの足にしがみつき、ナシャの動きを止めた。
ナシャは足元のドーフェに止めを刺そうとメイスを振り下ろそうとした瞬間だった。
玉砕覚悟で飛び込んできたドーフェが、ナシャに生まれた一瞬の隙に乗じてナシャの首筋に噛みつき、頸動脈を切り裂いた。
その瞬間、ハーシマの目には、大量の血を噴き出すナシャの姿が飛び込んできた。
火をおこし、ナシャが手持ちの食材で調理をした。
芳ばしい香りが辺りを漂う。
普段であれば食欲がかきたてられ、ハーシマの笑顔が弾ける時間になるのだが、この日は謎の声の言ったことが気になってしまっていたせいか、いつもより暗い雰囲気になっていた。
「にぃちゃん、相変わらず旨いな」
空腹を満たしたウルが、賛辞の声をあげた。
事実、ナシャの料理は簡素な食材と調味料で作られているはずなのだが、店で食べる料理と比べても遜色なく感じられた。
「ほ、本当に美味しかったです!」
ハーシマは、自身の気持ちが沈みがちであることに気付き、あえて明るめに振る舞った。
「自分でもコツなどはわからないが、料理は新兵のころの賄い担当のときから誉められていたな」
ほんの少しだけ、ナシャは照れる仕草をしながら、ポツポツと話し始めた。
「私は覚えが悪く、上官や仲間にいつも遅れをとっていた。そのことが悔しくて武器の操練、戦術理解など、人一倍、いや人の三倍くらいは努力した。その成果が自分でも実感できるようになったころ、私は偶然にも戦果をあげることができたので上官になることができた。それでも私は未だに自分の戦闘技術に不安がある。それなのに料理だけは、努力をしていないのに誉められてばかりだから不思議なものだな」
ナシャはそういって微笑んだ。
「にぃちゃん、兵隊さんより料理人になったほうが王様に喜ばれたんじゃねぇか?」
ウルの冗談に、ナシャが「そうかもな」と答え、久しぶりに3人の笑いが響いた。
本当、可笑しいわね......
突然、あの妖しい声が聞こえた。
次の瞬間、ナシャ達の周囲にドーフェの集団が出現した。
その数は20匹を超えていた。
ナシャ達は完全に虚を突かれていた。
ナシャは素早く周囲を見渡し、もっとも魔物が少ないであろう箇所に突進し魔物の包囲網を破った。
突然の魔物の襲来に驚き戸惑っていたハーシマであったが、ウルが背後から抱え込むようにして、ナシャが作り出した包囲網の穴を走り抜けた。
最悪な状況を脱したものの、依然として最悪な状況であることは変わりない。
ナシャは大きく舌打ちを打ちながら、ハーシマとウルを庇うように位置取りをしつつ、ドーフェとの戦闘を始めた。
ウルもナシャの背後が開かないように立ち回りながらドーフェと対峙した。
「ま、魔法を唱えます!」
ハーシマがそう叫び、詠唱を始めた。
魔物を背後から爆発火球で攻撃し、前回の戦闘と同様にドーフェを蹴散らそうとしたのだ。
しかし、詠唱時間が長くなるその魔法は、混戦時では相応しくなかった。
魔法が完成する前にナシャとウルの手から余ったドーフェがハーシマに襲いかかり、魔法が中断されてしまった。
ドーフェの攻撃はすんでのところでハーシマの前に回り込んだウルによって防がれたが、今度はウルがドーフェの攻撃に晒され、受けきれなかった刃がウルの左腕に傷をつけた。
すぐさまナシャによって、ウル達を攻め立てたドーフェは仕留められたが、今度はナシャが激しい攻撃に見舞われる。
「ハーシマ殿!簡易な魔法で牽制してくれ!」
ナシャが怒鳴った。
その声量に驚き肩をビクつかせたハーシマだったが、すぐさま反応して、爆発火球から石つぶてを飛ばす魔法に切り替え、ドーフェの気勢を削いでいった。
ドーフェがやや後退したことで、ナシャとウルは一気に攻勢に打って出て、ドーフェを一匹、また一匹と倒していく。
ナシャがドーフェのこめかみにメイスを叩き込んで、ハーシマの防衛に向かおうと視線を動かした。
が、しかし、絶命する直前にドーフェはナシャの足にしがみつき、ナシャの動きを止めた。
ナシャは足元のドーフェに止めを刺そうとメイスを振り下ろそうとした瞬間だった。
玉砕覚悟で飛び込んできたドーフェが、ナシャに生まれた一瞬の隙に乗じてナシャの首筋に噛みつき、頸動脈を切り裂いた。
その瞬間、ハーシマの目には、大量の血を噴き出すナシャの姿が飛び込んできた。
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