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第四章『訪れる試練』
第二十九話『ナシャの死』
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「おい、にいちゃん!」
目の前のあまりの光景にウルは叫んだ。
なおもナシャの首筋にかじりつくドーフェの鼻面を殴り、ナシャはドーフェを引き剥がす。
すぐさま傷口を左手で抑えて噴き出す血を止めようとしたが、みるみる手は真紅に染まっていく。
殴り飛ばされ顎が外れたドーフェに、ナシャはメイスを叩き込む。
『残り4匹......』
苦痛と多量の出血で意識が薄くなりつつあるナシャは、あらん限りの力を振り絞りつつ状況を把握した。
だが、身体が思うように動かない。
ウルが一匹仕留めたものの二匹がナシャに襲い掛かり、一匹が命を捨ててナシャにしがみついて動きを封じ、もう一匹がナシャの腹部装甲の隙間に短剣を滑り込ませた。
「ナ、ナシャさん!」
血まみれのナシャの姿に絶句していたハーシマは、さらに絶望的な状況を目にして、ついに悲鳴を上げた。
ナシャは、自分の死を悟った。
急速に身体から力が抜けていく。
それでも、ナシャは倒れなかった。
全身全霊で吼えたナシャは、しがみつくドーフェの首をへし折り、自分にとどめを刺したドーフェには、自分の腹に刺さった短剣を抜き取り、それを心臓深く突き刺した。
致命傷を与えても立ち続けるナシャに恐れを抱いた最後のドーフェは、せめてもの道連れにとハーシマに襲い掛かった。
ハーシマはナシャを討たれた悲しみと怒りで立ち尽くしていたが、すんでのところで回り込んできたウルによって何とか守られた。
「ボーッとしてんじゃねぇ!」
ハーシマを庇った際に左腕に傷を負ったウルが怒鳴った。
しかし、ハーシマはそれに反応せず、涙を流しながらドーフェを睨んでいる。
睨まれたドーフェは再度ハーシマに飛びかかろうとしたが、ナシャの最後の力で振られたメイスによって頭蓋を割られ、絶命した。
全てのドーフェが倒されたことを見届けたナシャは、そのままその場に崩れ落ちた。
「にぃちゃん!」
「ナ、ナシャさん!」
ウルとハーシマがすぐさまナシャの元に駆け寄った。
ハーシマがナシャを抱きかかえ、膝枕をするようにして寝かせた。
「い、今すぐ、今すぐ回復の魔法を......」
そう言い詠唱を始めたハーシマを、ナシャはハーシマの手に血まみれの手を添えて制止した。
潜魔窟を抜けるための力を残しておけ
ナシャの唇はそう動いたが、声は出ていなかった。
ハーシマはナシャの手を握り、「死なないで!お、お願いだから死なないで!」と泣き叫んだ。
二人を見るように立っていたウルは、無表情だった。
その表情のまま「にぃちゃん、どれだ?」とナシャに言った。
その声を聞き、ナシャは震える手でペンダントを胸元から出した。
いつしかナシャが話した、ナシャの妻と子どものペンダントだ。
「確かに」
ペンダントを受け取ったウルは、ナシャが不安を覚えないように、あえて平静を努めた。
泣きじゃくるハーシマに向け、ナシャは微笑むように口角を上げた。
そして、瞳から光が消えた。
ナシャ・オスロ。
潜魔窟12階層で死亡。
享年34歳。
目の前のあまりの光景にウルは叫んだ。
なおもナシャの首筋にかじりつくドーフェの鼻面を殴り、ナシャはドーフェを引き剥がす。
すぐさま傷口を左手で抑えて噴き出す血を止めようとしたが、みるみる手は真紅に染まっていく。
殴り飛ばされ顎が外れたドーフェに、ナシャはメイスを叩き込む。
『残り4匹......』
苦痛と多量の出血で意識が薄くなりつつあるナシャは、あらん限りの力を振り絞りつつ状況を把握した。
だが、身体が思うように動かない。
ウルが一匹仕留めたものの二匹がナシャに襲い掛かり、一匹が命を捨ててナシャにしがみついて動きを封じ、もう一匹がナシャの腹部装甲の隙間に短剣を滑り込ませた。
「ナ、ナシャさん!」
血まみれのナシャの姿に絶句していたハーシマは、さらに絶望的な状況を目にして、ついに悲鳴を上げた。
ナシャは、自分の死を悟った。
急速に身体から力が抜けていく。
それでも、ナシャは倒れなかった。
全身全霊で吼えたナシャは、しがみつくドーフェの首をへし折り、自分にとどめを刺したドーフェには、自分の腹に刺さった短剣を抜き取り、それを心臓深く突き刺した。
致命傷を与えても立ち続けるナシャに恐れを抱いた最後のドーフェは、せめてもの道連れにとハーシマに襲い掛かった。
ハーシマはナシャを討たれた悲しみと怒りで立ち尽くしていたが、すんでのところで回り込んできたウルによって何とか守られた。
「ボーッとしてんじゃねぇ!」
ハーシマを庇った際に左腕に傷を負ったウルが怒鳴った。
しかし、ハーシマはそれに反応せず、涙を流しながらドーフェを睨んでいる。
睨まれたドーフェは再度ハーシマに飛びかかろうとしたが、ナシャの最後の力で振られたメイスによって頭蓋を割られ、絶命した。
全てのドーフェが倒されたことを見届けたナシャは、そのままその場に崩れ落ちた。
「にぃちゃん!」
「ナ、ナシャさん!」
ウルとハーシマがすぐさまナシャの元に駆け寄った。
ハーシマがナシャを抱きかかえ、膝枕をするようにして寝かせた。
「い、今すぐ、今すぐ回復の魔法を......」
そう言い詠唱を始めたハーシマを、ナシャはハーシマの手に血まみれの手を添えて制止した。
潜魔窟を抜けるための力を残しておけ
ナシャの唇はそう動いたが、声は出ていなかった。
ハーシマはナシャの手を握り、「死なないで!お、お願いだから死なないで!」と泣き叫んだ。
二人を見るように立っていたウルは、無表情だった。
その表情のまま「にぃちゃん、どれだ?」とナシャに言った。
その声を聞き、ナシャは震える手でペンダントを胸元から出した。
いつしかナシャが話した、ナシャの妻と子どものペンダントだ。
「確かに」
ペンダントを受け取ったウルは、ナシャが不安を覚えないように、あえて平静を努めた。
泣きじゃくるハーシマに向け、ナシャは微笑むように口角を上げた。
そして、瞳から光が消えた。
ナシャ・オスロ。
潜魔窟12階層で死亡。
享年34歳。
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