42 / 81
第六章『廃都ゴルドワ』
第四十一話『廃都ゴルドワ』
しおりを挟む
山賊を退けた3人は、山頂でしばし休息を取ってから、ゆっくりと下山し始めた。
登山時に比べ勾配はなだらかで、かつ、脅威となる敵も現れなかったので麓までスムーズに下りることができたが、それでも日はとっぷりと暮れていた。
ウルとナシャはカンテラ、ハーシマは魔法による灯光で足元を照らしているが、月明かりが雲により遮られているせいで、数ケージ先もよく見えない状態になっていた。
「おう、もうさすがに今日はここまでにしようや」
夜目が利くウルが、比較的周囲が安全そうである場所にたどり着くと、後続の2人に声をかける。
ナシャが暗闇の中とは思えない手さばきでテントを組み立て、手早く野営の準備を終える。
3人とも疲労が残るなか手作業で火を起こすのは面倒だったので、ウルがハーシマに目配せをして、ハーシマは魔法で薪に火を点けた。
パチパチと薪が燃える音が静寂に響く。
ナシャが塩漬けにした魚をぶつ切りにして、野菜と一緒に煮込み、スープを作る。
荒々しい見た目に反してウルも思わず唸るほどの美味だ。
一通り食事を終えると、ナシャは途端に睡魔が迫ってくるのを感じた。山越えの疲労がここにきてやってきたようだ。
「とりあえず、にぃちゃんとねぇちゃんは寝ておきな」
今にも閉じそうな目でウルが言った。
「ウ、ウルさんが、ね、寝てくださあぁぁ……」
ウルに負けず劣らず眠そうにしているハーシマが、ウルに寝るように伝えたものの最後があくびになっているので説得力がない。
「頼むから2人が寝てくれ」
ウルとハーシマの様子を見ていたナシャが深いため息をつきつつ、太ももをギュッとつねって眠気を覚ますと火の番をしようと決意した。
翌朝。
夜が明けそうになった頃にハーシマが目を覚ますと、ウルがお茶を飲みながら干し肉を食べており、ナシャが座りながら眠っていた。
「ねぇちゃん、起きたか。茶でも飲むか?」
焚き火をこねくりながらウルがハーシマに声をかけた。
「いた、いただきます」
ハーシマがそう言うと、ウルがお茶をカップに入れて渡してきた。
一口含むと、口一杯に苦味と渋味が広がった。
つい顔をしかめると、笑いをこらえているウルが肩を震わせていた。
「渋いだろ?でも目を覚ますには一番だ」
笑顔のウルがそう言った。
確かに目覚めの一杯としては悪くないな、とハーシマは思った。
その後、2人で他愛のない話をしながらナシャが目覚めるのを待ち、すっかり日が昇った頃に、再び廃都へと歩きだした。
昼に差し掛かる少し前に、3人の目の前に白木の柱が特徴的な大きなゲートが現れ、廃都ゴルドワに到着したことを示していた。
「さて、ねぇちゃん。ここで何を探すんだ?」
周囲を見回しながらウルが尋ねた。
「ちゅ、中心地に大きな建物があるので、ま、まずはそこに行きたいです」
ハーシマが持参した手帳をペラペラめくり、1つのページを指差して答えた。
廃都内に歩を進めると、白木造りの建物が整然と建ち並んでいた。
廃都と呼ばれているが、朽ちたようには感じられない。
そのためナシャは、常に周囲の敵の存在を探っていたが、その気配はなかった。
それどころか、生命の存在が感じられない。
「廃都、か……」
ナシャが独り言を呟いた。
「ゴ、ゴルドワは、はるか昔に魔術師達が集まって出来た都だそうです。で、でも、魔物とま、魔人の襲来で滅ぼされたそうです」
「魔人?」
「ま、魔人とは、ま、魔王の配下になることを条件に、つ、強い魔力をもらった人のことです」
「そうか。しかし、戦火にさらされたとは思えぬほど、ここの建物はしっかりしているが?」
「こ、この建物は全て魔力を込めて作られた素材なんです。そのため、燃えませんし、じょ、丈夫なんです」
ハーシマから廃都のことを教わりながら歩いていると、円環状の歩道の真ん中に、ひときわ大きな建物が建っている場所に出た。
一目で目的地と理解できるものだ。
大きな扉の前に立つとハーシマは、床にある窪みに杖を差して立てると、ブツブツと何かを唱えると、ゆっくりとゆっくりと扉が開いた。
中に入ると、灯籠がパッと灯った。
明かりに照らされた広々とした空間には、一見、何もないように見えた。
しかし、よくよく見ると、奥のほうにナシャの背丈よりも高い石板が立てられていた。
ナシャが石板に近づくと、石板に刻まれた文字が青白く光った。
が、見たこともない文字であるため、ナシャには読めなかった。
「ここには、光と闇の戦いの歴史が書いてあるそうだ。俺も読めんがな」
ウルがナシャに言った。
「そ、そのとおりです」
古の魔術師が使った文字が読めるハーシマが一文字一文字丁寧に読みながら、ウルの言葉を肯定した。
「これをハーシマ殿は見たかったのか?」
ナシャは石板を熱心に見るハーシマに遠慮がちに聞いた。
「こ、これも目的ではあるのですが、私が見た文献では、こ、この石板には秘密が隠されているらしいのです」
石板から視線を動かさず、ハーシマが答えた。
ハーシマが集中している様子を見たウルとナシャは、ハーシマの言葉を信じてしばらく待つことにした。
登山時に比べ勾配はなだらかで、かつ、脅威となる敵も現れなかったので麓までスムーズに下りることができたが、それでも日はとっぷりと暮れていた。
ウルとナシャはカンテラ、ハーシマは魔法による灯光で足元を照らしているが、月明かりが雲により遮られているせいで、数ケージ先もよく見えない状態になっていた。
「おう、もうさすがに今日はここまでにしようや」
夜目が利くウルが、比較的周囲が安全そうである場所にたどり着くと、後続の2人に声をかける。
ナシャが暗闇の中とは思えない手さばきでテントを組み立て、手早く野営の準備を終える。
3人とも疲労が残るなか手作業で火を起こすのは面倒だったので、ウルがハーシマに目配せをして、ハーシマは魔法で薪に火を点けた。
パチパチと薪が燃える音が静寂に響く。
ナシャが塩漬けにした魚をぶつ切りにして、野菜と一緒に煮込み、スープを作る。
荒々しい見た目に反してウルも思わず唸るほどの美味だ。
一通り食事を終えると、ナシャは途端に睡魔が迫ってくるのを感じた。山越えの疲労がここにきてやってきたようだ。
「とりあえず、にぃちゃんとねぇちゃんは寝ておきな」
今にも閉じそうな目でウルが言った。
「ウ、ウルさんが、ね、寝てくださあぁぁ……」
ウルに負けず劣らず眠そうにしているハーシマが、ウルに寝るように伝えたものの最後があくびになっているので説得力がない。
「頼むから2人が寝てくれ」
ウルとハーシマの様子を見ていたナシャが深いため息をつきつつ、太ももをギュッとつねって眠気を覚ますと火の番をしようと決意した。
翌朝。
夜が明けそうになった頃にハーシマが目を覚ますと、ウルがお茶を飲みながら干し肉を食べており、ナシャが座りながら眠っていた。
「ねぇちゃん、起きたか。茶でも飲むか?」
焚き火をこねくりながらウルがハーシマに声をかけた。
「いた、いただきます」
ハーシマがそう言うと、ウルがお茶をカップに入れて渡してきた。
一口含むと、口一杯に苦味と渋味が広がった。
つい顔をしかめると、笑いをこらえているウルが肩を震わせていた。
「渋いだろ?でも目を覚ますには一番だ」
笑顔のウルがそう言った。
確かに目覚めの一杯としては悪くないな、とハーシマは思った。
その後、2人で他愛のない話をしながらナシャが目覚めるのを待ち、すっかり日が昇った頃に、再び廃都へと歩きだした。
昼に差し掛かる少し前に、3人の目の前に白木の柱が特徴的な大きなゲートが現れ、廃都ゴルドワに到着したことを示していた。
「さて、ねぇちゃん。ここで何を探すんだ?」
周囲を見回しながらウルが尋ねた。
「ちゅ、中心地に大きな建物があるので、ま、まずはそこに行きたいです」
ハーシマが持参した手帳をペラペラめくり、1つのページを指差して答えた。
廃都内に歩を進めると、白木造りの建物が整然と建ち並んでいた。
廃都と呼ばれているが、朽ちたようには感じられない。
そのためナシャは、常に周囲の敵の存在を探っていたが、その気配はなかった。
それどころか、生命の存在が感じられない。
「廃都、か……」
ナシャが独り言を呟いた。
「ゴ、ゴルドワは、はるか昔に魔術師達が集まって出来た都だそうです。で、でも、魔物とま、魔人の襲来で滅ぼされたそうです」
「魔人?」
「ま、魔人とは、ま、魔王の配下になることを条件に、つ、強い魔力をもらった人のことです」
「そうか。しかし、戦火にさらされたとは思えぬほど、ここの建物はしっかりしているが?」
「こ、この建物は全て魔力を込めて作られた素材なんです。そのため、燃えませんし、じょ、丈夫なんです」
ハーシマから廃都のことを教わりながら歩いていると、円環状の歩道の真ん中に、ひときわ大きな建物が建っている場所に出た。
一目で目的地と理解できるものだ。
大きな扉の前に立つとハーシマは、床にある窪みに杖を差して立てると、ブツブツと何かを唱えると、ゆっくりとゆっくりと扉が開いた。
中に入ると、灯籠がパッと灯った。
明かりに照らされた広々とした空間には、一見、何もないように見えた。
しかし、よくよく見ると、奥のほうにナシャの背丈よりも高い石板が立てられていた。
ナシャが石板に近づくと、石板に刻まれた文字が青白く光った。
が、見たこともない文字であるため、ナシャには読めなかった。
「ここには、光と闇の戦いの歴史が書いてあるそうだ。俺も読めんがな」
ウルがナシャに言った。
「そ、そのとおりです」
古の魔術師が使った文字が読めるハーシマが一文字一文字丁寧に読みながら、ウルの言葉を肯定した。
「これをハーシマ殿は見たかったのか?」
ナシャは石板を熱心に見るハーシマに遠慮がちに聞いた。
「こ、これも目的ではあるのですが、私が見た文献では、こ、この石板には秘密が隠されているらしいのです」
石板から視線を動かさず、ハーシマが答えた。
ハーシマが集中している様子を見たウルとナシャは、ハーシマの言葉を信じてしばらく待つことにした。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる