潜魔窟物語

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第六章『廃都ゴルドワ』

第四十一話『廃都ゴルドワ』

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 山賊を退けた3人は、山頂でしばし休息を取ってから、ゆっくりと下山し始めた。

 登山時に比べ勾配はなだらかで、かつ、脅威となる敵も現れなかったので麓までスムーズに下りることができたが、それでも日はとっぷりと暮れていた。

ウルとナシャはカンテラ、ハーシマは魔法による灯光で足元を照らしているが、月明かりが雲により遮られているせいで、数ケージ先もよく見えない状態になっていた。

「おう、もうさすがに今日はここまでにしようや」
夜目が利くウルが、比較的周囲が安全そうである場所にたどり着くと、後続の2人に声をかける。

ナシャが暗闇の中とは思えない手さばきでテントを組み立て、手早く野営の準備を終える。

3人とも疲労が残るなか手作業で火を起こすのは面倒だったので、ウルがハーシマに目配せをして、ハーシマは魔法で薪に火を点けた。

パチパチと薪が燃える音が静寂に響く。
ナシャが塩漬けにした魚をぶつ切りにして、野菜と一緒に煮込み、スープを作る。
荒々しい見た目に反してウルも思わず唸るほどの美味だ。

一通り食事を終えると、ナシャは途端に睡魔が迫ってくるのを感じた。山越えの疲労がここにきてやってきたようだ。

「とりあえず、にぃちゃんとねぇちゃんは寝ておきな」
今にも閉じそうな目でウルが言った。

「ウ、ウルさんが、ね、寝てくださあぁぁ……」
ウルに負けず劣らず眠そうにしているハーシマが、ウルに寝るように伝えたものの最後があくびになっているので説得力がない。

「頼むから2人が寝てくれ」
ウルとハーシマの様子を見ていたナシャが深いため息をつきつつ、太ももをギュッとつねって眠気を覚ますと火の番をしようと決意した。



翌朝。
夜が明けそうになった頃にハーシマが目を覚ますと、ウルがお茶を飲みながら干し肉を食べており、ナシャが座りながら眠っていた。

「ねぇちゃん、起きたか。茶でも飲むか?」
焚き火をこねくりながらウルがハーシマに声をかけた。

「いた、いただきます」
ハーシマがそう言うと、ウルがお茶をカップに入れて渡してきた。
一口含むと、口一杯に苦味と渋味が広がった。
つい顔をしかめると、笑いをこらえているウルが肩を震わせていた。

「渋いだろ?でも目を覚ますには一番だ」
笑顔のウルがそう言った。
確かに目覚めの一杯としては悪くないな、とハーシマは思った。

その後、2人で他愛のない話をしながらナシャが目覚めるのを待ち、すっかり日が昇った頃に、再び廃都へと歩きだした。


昼に差し掛かる少し前に、3人の目の前に白木の柱が特徴的な大きなゲートが現れ、廃都ゴルドワに到着したことを示していた。

「さて、ねぇちゃん。ここで何を探すんだ?」
周囲を見回しながらウルが尋ねた。

「ちゅ、中心地に大きな建物があるので、ま、まずはそこに行きたいです」
ハーシマが持参した手帳をペラペラめくり、1つのページを指差して答えた。

廃都内に歩を進めると、白木造りの建物が整然と建ち並んでいた。
廃都と呼ばれているが、朽ちたようには感じられない。
そのためナシャは、常に周囲の敵の存在を探っていたが、その気配はなかった。
それどころか、生命の存在が感じられない。

「廃都、か……」
ナシャが独り言を呟いた。

「ゴ、ゴルドワは、はるか昔に魔術師達が集まって出来た都だそうです。で、でも、魔物とま、魔人の襲来で滅ぼされたそうです」
「魔人?」
「ま、魔人とは、ま、魔王の配下になることを条件に、つ、強い魔力をもらった人のことです」
「そうか。しかし、戦火にさらされたとは思えぬほど、ここの建物はしっかりしているが?」
「こ、この建物は全て魔力を込めて作られた素材なんです。そのため、燃えませんし、じょ、丈夫なんです」
ハーシマから廃都のことを教わりながら歩いていると、円環状の歩道の真ん中に、ひときわ大きな建物が建っている場所に出た。

一目で目的地と理解できるものだ。

大きな扉の前に立つとハーシマは、床にある窪みに杖を差して立てると、ブツブツと何かを唱えると、ゆっくりとゆっくりと扉が開いた。

中に入ると、灯籠がパッと灯った。
明かりに照らされた広々とした空間には、一見、何もないように見えた。
しかし、よくよく見ると、奥のほうにナシャの背丈よりも高い石板が立てられていた。

ナシャが石板に近づくと、石板に刻まれた文字が青白く光った。
が、見たこともない文字であるため、ナシャには読めなかった。

「ここには、光と闇の戦いの歴史が書いてあるそうだ。俺も読めんがな」
ウルがナシャに言った。

「そ、そのとおりです」
古の魔術師が使った文字が読めるハーシマが一文字一文字丁寧に読みながら、ウルの言葉を肯定した。

「これをハーシマ殿は見たかったのか?」
ナシャは石板を熱心に見るハーシマに遠慮がちに聞いた。

「こ、これも目的ではあるのですが、私が見た文献では、こ、この石板には秘密が隠されているらしいのです」
石板から視線を動かさず、ハーシマが答えた。


ハーシマが集中している様子を見たウルとナシャは、ハーシマの言葉を信じてしばらく待つことにした。
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