潜魔窟物語

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第六章『廃都ゴルドワ』

第四十二話『隠された部屋』

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「ウ、ウルさん、こ、この辺りに何か不審なところはありませんか?」
 しばし石板とにらめっこしていたハーシマが唐突に話しかけてきたので、床に寝転がってうたた寝していたウルは少し身体をビクッとさせてからノロノロと起き上がった。

「んー……どこのことだ?」
 頭をポリポリとかきながらウルがハーシマの近くまで寄ってきた。

「こ、この石像の辺りです」
 そう言ってハーシマが指差したのは、本と杖を持ちローブを着た老人の石像の足元だった。
 ハーシマの声に従い、石像や台座などをコツコツと軽く叩いたりして念入りに調べ始めたウル。
 だが「やっぱり何もねぇな」と期待外れの答えをした。

 ウルはここに足を踏み入れた時から、方々に潜んでいるかもしれない罠や隠し扉などの存在を探っていたが、それらの気配がないとの結論だった。

「そ、そうですか。でで、ではこれではどうですか?」
 そう言ってハーシマが呪文を唱える。
 ハーシマの持つ杖の先がパァッと明るく光ると、石像の杖も僅かに光った。

「ちぃと待っとけ」
 寝ぼけた表情が引き締まったものに変わったウルは、もう一度石像を調べ始めた。
 すると、今までは見えなかった小さな小さな窪みを石像の左足の先に見つけた。
 おそらく相当な手練れの者でなければ窪みとは察知できないほどの小ささだ。

 ウルは窪みに短剣の切先を差し込むと、短剣をグリグリと動かした。
 すると、カチッという音が鳴り、石像の杖の光が強くなって3人は眩しさのあまり目を閉じた。

 瞼の奥で光が落ち着いたことを感じ、ハーシマは目を開けた。
 ウルとナシャもそれに続き目を開けた。

 石像の杖から細く柔らかな一条の光が伸びている。
 そこに視線をやると、今までただの壁だった場所に、魔法の文字が刻まれた扉があった。

「これは……」
 魔法についてあまり知識のないナシャは、想像が及ばない事態に素直に驚き絶句していた。

「さて、お宝はあるかな?」
 ウルが両手をさすり、新たな発見に胸を踊らさせた。

 罠の有無を確かめ、扉を開けると、そこは何やら不思議な文字が刻まれた壁に囲まれた空間だった。

「こ、ここは古の魔術師達が魔法の研究を遺した場所、だと言われてます」
 ハーシマの声は緊張と興奮で上ずっていた。

「ねぇちゃん、読めるのか?」
 お宝がなさそうなので明らかに気落ちしているウルだったが、この壁に刻まれた文字が一般的な魔法文字とは違うことに気付き、ハーシマに聞いた。

「い、いえ。ま、魔術師ギルドでもけ、研究していたのですが、ほほ、ほんの一部しか解読されませんでした。そのほんの一部でもギルドの質はグッと上がったとのことだったので、ここにくれば、もしかしたらな、何か発見があるかも、と思ったんです」
 ハーシマは頬を紅潮させながら答え、まじまじと壁を見つめ、手帳に何やら書き始めた。

 その様子を見て、邪魔をしてはいけないと考えたナシャとウルだったが、周りには興味をひくものは何もないし、敵の存在も感じられないので少し離れたところで簡易テントを立てて順番に休むことにした。

 ナシャが周囲に火が飛ばないような小さな焚き火を付け、簡単なスープを作り、ウルはテントを立てると、すぐに寝始めた。

 カップに入れられたスープを飲みながら、ナシャも改めて壁を見てみた。

 文字はさっぱりわからないが、中には絵のようなものもあり、ナシャはそれをぼんやりと見ていた。
 戦いの様子のように見える絵には、巨大な魔物と光を携えた人間がいるようにナシャには見えた。

 ここにも潜魔窟の歴史が刻まれているのだろうか……と考えていたナシャだったが、不意に聞こえた「んん?」という声に反応して壁から視線を移した。

 いつの間にか起きていたウルが、床の一部を凝視している。
 不審げな表情を浮かべながら立ち上がり、凝視していた床に近づく。
 しまいには床に這いつくばるようにして調べ始めた。

 ハーシマは壁に意識を集中させているのかウルの行動に気付いていない。
 ウルの異様な雰囲気に息を飲みながら、ナシャが事の成り行きを見ていると、突然ウルと目が合った。

 ニンマリと笑みを浮かべたウルは「にぃちゃん、出番だ」と手招きをした。

 カップを置いて立ち上がり、ウルのそばまで向かうと、ウルが悪戯っぽい笑みを浮かべた。

「にぃちゃん、俺の予想だとここの部分は下が空洞だ。床材は厚いようだが、なぁに、にぃちゃんの渾身の一発ならぶち破れるだろう」
 と、床の一点をコツコツと叩きながら言った。

 ナシャは、ウルが言うなら……と呟きながら数歩下がりながらウルにも下がるように指示し、一度深呼吸をすると、メイスを両手で構えた。
 そのまま、くるりと2度回り、遠心力を付けてから気合いの雄叫びを上げて床にメイスを叩き込んだ。

 ガツン!と岩が割れるような大きな音が響き渡り、砂ぼこりが舞った。

 ゲホゲホと咳き込みながらウルがその場に駆け寄ると、ウルの予想通り、床材が割れ、その下から冷涼な空気が流れてきた。

 砂ぼこりが収まってからウルとナシャで割れた床材をよけると、人1人が通れるくらいの穴が開き、下へと続く階段が見えた。
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