潜魔窟物語

STEEL-npl

文字の大きさ
44 / 81
第六章『廃都ゴルドワ』

第四十三話『もう1つの入口』

しおりを挟む
 階段が見えているぽっかりと空いた穴に、ウルは焚き火から一本火の点いた木切れを投げ入れた。
 木切れは変わらず燃えていたが、ほどなくして燃え尽きた。

「特にガスはねぇみたいだな」
 ウルはそう言いながら中に入っていき、ナシャも焚き火から松明に火を移してからウルに続いた。

 階段は少し下がったところで重々しい扉の前で途切れた。

「ちと照らしてくれ」
 ウルがナシャに目配せして、ナシャは扉の前に松明を差し出した。
 明かりを確保したウルは罠の有無を詳細に確認し、ゆっくりと解錠した。
 ヒンジ部分に油を塗ることも忘れないところが、ウルらしいこだわりといえる。

「では、入って……ハーシマ殿を忘れていた」
「おう、そうだった」
 未知の発見に夢中になり、すっかりハーシマのことが頭から抜けていた2人は、慌てて階段を駆け登った。

 ハーシマは先ほどから変わらず、ずっと壁と手帳にせわしなく視線を動かしていた。

「ハーシマ殿、こちらに来てくれ」
 ナシャがハーシマに呼び掛けるが、ハーシマの反応はない。
 もう一度、少し声を大きくして呼び掛けたものの、やはり動きはない。

「おい、ねぇちゃん!」
 ウルも怒鳴るように呼ぶが反応がないので、ウルはツカツカとハーシマの後ろまで近づくと、尻をガシッと鷲掴んだ。

 次の瞬間、ハーシマは「ひゃああああああああぁっ!!」と大声で叫びながら飛び上がって転んだ。

「びびびび、ビックリさせないでください!」
 涙目になりながら後ろを振り向くハーシマだったが、ウルはいつの間にかナシャの後ろに逃げていて、手をヒラヒラと振っていた。

「あの、ハーシマ殿。隠された通路の先に何やら部屋があるようなのだ。一緒に確認してほしいのだが……」
 ナシャが『私じゃない』と表情で訴えつつ、用件を伝えた。

「か、隠された通路、ですか?何処にあったのですか?」
「そこの床だ、ねぇちゃんは穴開ける時に気付かなかったか?」
「え、え、何か音でもし、したのですか?」
「だいぶデカい音がしたのだが」
「ぜぜ、全然気付きませんでした」
 どうやらハーシマは集中すると物音に鈍感になるようで、照れるように顔を赤くするハーシマの姿に、ナシャとウルは顔を見合わせて苦笑した。



 ハーシマの杖の明かりを頼りに階段を下り、ナシャが扉を開いた。

 ハーシマが魔法で暗闇に光を灯すと、扉の先は10ケーブ(1ケーブ=1.8メートル)四方の部屋であることがわかった。

 中には、魔術師を模した石像が並び、その先には門のようなものが見えた。
 罠の存在に気を付けつつ門のそばまで近づくと、3人は驚き、その場に立ち尽くした。
 それは、3人にとって見覚えのある、いや、その言葉では足りないほど記憶に強くある門だった。

「これは……」
「せせせ、潜魔窟の入口……」
「にしか見えねぇな……」
 ようやく声を出した3人だったが、まだ頭を上手く整理できずにいた。

 それでも、ここで逡巡していても埒が明かないので、ナシャの号令のもと門をくぐり、中へと進んでいく。

 いつもの潜魔窟の入口のように、長い長い階段があり、その先は曲がり角になっている。

 曲がり角を抜けると、ナシャとウルは先ほどくぐった潜魔窟の門の前に出た。
 しかし、ハーシマの姿がない。
 2人が呆然と顔を見合わせていると、入口からハーシマの声が聞こえてきた。

 その声は次第に大きくなり、泣き顔のハーシマが勢い良く飛び出してきた。

「どどどどどど、どうして置いていくんですか!!」
 ハーシマがナシャとウルを恨めしそうな目で睨む。

「いや、私たちは間違いなく一緒に行ったがここに戻された。まるで誰かが入っている潜魔窟に入った時のように」
 ナシャも事態を掴めていなかったが、自身が初めて潜魔窟に入った時と同じ状況だったことをハーシマに話している時に思い出していた。

「にぃちゃんの言う通りだ、わざわざねぇちゃんを置いていくわけがねぇしな。やはりこれは潜魔窟の入口だが……」
 ウルは顎に手を当てて思案をする。

「も、もしかして、魔術師だけが入れるせ、潜魔窟なのでしょうか?」
「かもしれねぇな」
 ハーシマの仮定を確かめるため、もう一度3人で入っていったが、結果は先ほどと同じだったので、おそらく正しい仮定なのだろうと思えた。

「まぁ、とりあえず上に戻ろうや。考えることが多いわ」
 その言葉で3人は穴を出て、簡易テントを立てた部屋まで戻った。

 ナシャはスープを温め直して2人に渡すと、今後の方針を決めるべく話し合いをした。

 ハーシマは、この部屋で未知の魔法を知ることができたらしく、まずは自宅で魔法習得の儀式をしたいとのことだった。
 ナシャは一度死んだこともあり、急いで潜魔窟を探索するよりは地力を高めたいと考えていた。

 2人の考えを聞き、ウルは一度ウェスセスに戻ったうえで、次の目的地をノーイス島の西の端にあるテマスにすることを提案してきた。

 テマスには、各地から腕っぷし自慢が集まる闘技場があり、ナシャの鍛練にはもってこいではないか?とのことだった。

 ナシャはうなずき、ハーシマも同意したので、今日はここで夜を明かしてから、ウェスセスで次の旅の準備をすることにした。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

スライム退治専門のさえないおっさんの冒険

守 秀斗
ファンタジー
俺と相棒二人だけの冴えない冒険者パーティー。普段はスライム退治が専門だ。その冴えない日常を語る。

処理中です...