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第六章『廃都ゴルドワ』
第四十三話『もう1つの入口』
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階段が見えているぽっかりと空いた穴に、ウルは焚き火から一本火の点いた木切れを投げ入れた。
木切れは変わらず燃えていたが、ほどなくして燃え尽きた。
「特にガスはねぇみたいだな」
ウルはそう言いながら中に入っていき、ナシャも焚き火から松明に火を移してからウルに続いた。
階段は少し下がったところで重々しい扉の前で途切れた。
「ちと照らしてくれ」
ウルがナシャに目配せして、ナシャは扉の前に松明を差し出した。
明かりを確保したウルは罠の有無を詳細に確認し、ゆっくりと解錠した。
ヒンジ部分に油を塗ることも忘れないところが、ウルらしいこだわりといえる。
「では、入って……ハーシマ殿を忘れていた」
「おう、そうだった」
未知の発見に夢中になり、すっかりハーシマのことが頭から抜けていた2人は、慌てて階段を駆け登った。
ハーシマは先ほどから変わらず、ずっと壁と手帳にせわしなく視線を動かしていた。
「ハーシマ殿、こちらに来てくれ」
ナシャがハーシマに呼び掛けるが、ハーシマの反応はない。
もう一度、少し声を大きくして呼び掛けたものの、やはり動きはない。
「おい、ねぇちゃん!」
ウルも怒鳴るように呼ぶが反応がないので、ウルはツカツカとハーシマの後ろまで近づくと、尻をガシッと鷲掴んだ。
次の瞬間、ハーシマは「ひゃああああああああぁっ!!」と大声で叫びながら飛び上がって転んだ。
「びびびび、ビックリさせないでください!」
涙目になりながら後ろを振り向くハーシマだったが、ウルはいつの間にかナシャの後ろに逃げていて、手をヒラヒラと振っていた。
「あの、ハーシマ殿。隠された通路の先に何やら部屋があるようなのだ。一緒に確認してほしいのだが……」
ナシャが『私じゃない』と表情で訴えつつ、用件を伝えた。
「か、隠された通路、ですか?何処にあったのですか?」
「そこの床だ、ねぇちゃんは穴開ける時に気付かなかったか?」
「え、え、何か音でもし、したのですか?」
「だいぶデカい音がしたのだが」
「ぜぜ、全然気付きませんでした」
どうやらハーシマは集中すると物音に鈍感になるようで、照れるように顔を赤くするハーシマの姿に、ナシャとウルは顔を見合わせて苦笑した。
ハーシマの杖の明かりを頼りに階段を下り、ナシャが扉を開いた。
ハーシマが魔法で暗闇に光を灯すと、扉の先は10ケーブ(1ケーブ=1.8メートル)四方の部屋であることがわかった。
中には、魔術師を模した石像が並び、その先には門のようなものが見えた。
罠の存在に気を付けつつ門のそばまで近づくと、3人は驚き、その場に立ち尽くした。
それは、3人にとって見覚えのある、いや、その言葉では足りないほど記憶に強くある門だった。
「これは……」
「せせせ、潜魔窟の入口……」
「にしか見えねぇな……」
ようやく声を出した3人だったが、まだ頭を上手く整理できずにいた。
それでも、ここで逡巡していても埒が明かないので、ナシャの号令のもと門をくぐり、中へと進んでいく。
いつもの潜魔窟の入口のように、長い長い階段があり、その先は曲がり角になっている。
曲がり角を抜けると、ナシャとウルは先ほどくぐった潜魔窟の門の前に出た。
しかし、ハーシマの姿がない。
2人が呆然と顔を見合わせていると、入口からハーシマの声が聞こえてきた。
その声は次第に大きくなり、泣き顔のハーシマが勢い良く飛び出してきた。
「どどどどどど、どうして置いていくんですか!!」
ハーシマがナシャとウルを恨めしそうな目で睨む。
「いや、私たちは間違いなく一緒に行ったがここに戻された。まるで誰かが入っている潜魔窟に入った時のように」
ナシャも事態を掴めていなかったが、自身が初めて潜魔窟に入った時と同じ状況だったことをハーシマに話している時に思い出していた。
「にぃちゃんの言う通りだ、わざわざねぇちゃんを置いていくわけがねぇしな。やはりこれは潜魔窟の入口だが……」
ウルは顎に手を当てて思案をする。
「も、もしかして、魔術師だけが入れるせ、潜魔窟なのでしょうか?」
「かもしれねぇな」
ハーシマの仮定を確かめるため、もう一度3人で入っていったが、結果は先ほどと同じだったので、おそらく正しい仮定なのだろうと思えた。
「まぁ、とりあえず上に戻ろうや。考えることが多いわ」
その言葉で3人は穴を出て、簡易テントを立てた部屋まで戻った。
ナシャはスープを温め直して2人に渡すと、今後の方針を決めるべく話し合いをした。
ハーシマは、この部屋で未知の魔法を知ることができたらしく、まずは自宅で魔法習得の儀式をしたいとのことだった。
ナシャは一度死んだこともあり、急いで潜魔窟を探索するよりは地力を高めたいと考えていた。
2人の考えを聞き、ウルは一度ウェスセスに戻ったうえで、次の目的地をノーイス島の西の端にあるテマスにすることを提案してきた。
テマスには、各地から腕っぷし自慢が集まる闘技場があり、ナシャの鍛練にはもってこいではないか?とのことだった。
ナシャはうなずき、ハーシマも同意したので、今日はここで夜を明かしてから、ウェスセスで次の旅の準備をすることにした。
木切れは変わらず燃えていたが、ほどなくして燃え尽きた。
「特にガスはねぇみたいだな」
ウルはそう言いながら中に入っていき、ナシャも焚き火から松明に火を移してからウルに続いた。
階段は少し下がったところで重々しい扉の前で途切れた。
「ちと照らしてくれ」
ウルがナシャに目配せして、ナシャは扉の前に松明を差し出した。
明かりを確保したウルは罠の有無を詳細に確認し、ゆっくりと解錠した。
ヒンジ部分に油を塗ることも忘れないところが、ウルらしいこだわりといえる。
「では、入って……ハーシマ殿を忘れていた」
「おう、そうだった」
未知の発見に夢中になり、すっかりハーシマのことが頭から抜けていた2人は、慌てて階段を駆け登った。
ハーシマは先ほどから変わらず、ずっと壁と手帳にせわしなく視線を動かしていた。
「ハーシマ殿、こちらに来てくれ」
ナシャがハーシマに呼び掛けるが、ハーシマの反応はない。
もう一度、少し声を大きくして呼び掛けたものの、やはり動きはない。
「おい、ねぇちゃん!」
ウルも怒鳴るように呼ぶが反応がないので、ウルはツカツカとハーシマの後ろまで近づくと、尻をガシッと鷲掴んだ。
次の瞬間、ハーシマは「ひゃああああああああぁっ!!」と大声で叫びながら飛び上がって転んだ。
「びびびび、ビックリさせないでください!」
涙目になりながら後ろを振り向くハーシマだったが、ウルはいつの間にかナシャの後ろに逃げていて、手をヒラヒラと振っていた。
「あの、ハーシマ殿。隠された通路の先に何やら部屋があるようなのだ。一緒に確認してほしいのだが……」
ナシャが『私じゃない』と表情で訴えつつ、用件を伝えた。
「か、隠された通路、ですか?何処にあったのですか?」
「そこの床だ、ねぇちゃんは穴開ける時に気付かなかったか?」
「え、え、何か音でもし、したのですか?」
「だいぶデカい音がしたのだが」
「ぜぜ、全然気付きませんでした」
どうやらハーシマは集中すると物音に鈍感になるようで、照れるように顔を赤くするハーシマの姿に、ナシャとウルは顔を見合わせて苦笑した。
ハーシマの杖の明かりを頼りに階段を下り、ナシャが扉を開いた。
ハーシマが魔法で暗闇に光を灯すと、扉の先は10ケーブ(1ケーブ=1.8メートル)四方の部屋であることがわかった。
中には、魔術師を模した石像が並び、その先には門のようなものが見えた。
罠の存在に気を付けつつ門のそばまで近づくと、3人は驚き、その場に立ち尽くした。
それは、3人にとって見覚えのある、いや、その言葉では足りないほど記憶に強くある門だった。
「これは……」
「せせせ、潜魔窟の入口……」
「にしか見えねぇな……」
ようやく声を出した3人だったが、まだ頭を上手く整理できずにいた。
それでも、ここで逡巡していても埒が明かないので、ナシャの号令のもと門をくぐり、中へと進んでいく。
いつもの潜魔窟の入口のように、長い長い階段があり、その先は曲がり角になっている。
曲がり角を抜けると、ナシャとウルは先ほどくぐった潜魔窟の門の前に出た。
しかし、ハーシマの姿がない。
2人が呆然と顔を見合わせていると、入口からハーシマの声が聞こえてきた。
その声は次第に大きくなり、泣き顔のハーシマが勢い良く飛び出してきた。
「どどどどどど、どうして置いていくんですか!!」
ハーシマがナシャとウルを恨めしそうな目で睨む。
「いや、私たちは間違いなく一緒に行ったがここに戻された。まるで誰かが入っている潜魔窟に入った時のように」
ナシャも事態を掴めていなかったが、自身が初めて潜魔窟に入った時と同じ状況だったことをハーシマに話している時に思い出していた。
「にぃちゃんの言う通りだ、わざわざねぇちゃんを置いていくわけがねぇしな。やはりこれは潜魔窟の入口だが……」
ウルは顎に手を当てて思案をする。
「も、もしかして、魔術師だけが入れるせ、潜魔窟なのでしょうか?」
「かもしれねぇな」
ハーシマの仮定を確かめるため、もう一度3人で入っていったが、結果は先ほどと同じだったので、おそらく正しい仮定なのだろうと思えた。
「まぁ、とりあえず上に戻ろうや。考えることが多いわ」
その言葉で3人は穴を出て、簡易テントを立てた部屋まで戻った。
ナシャはスープを温め直して2人に渡すと、今後の方針を決めるべく話し合いをした。
ハーシマは、この部屋で未知の魔法を知ることができたらしく、まずは自宅で魔法習得の儀式をしたいとのことだった。
ナシャは一度死んだこともあり、急いで潜魔窟を探索するよりは地力を高めたいと考えていた。
2人の考えを聞き、ウルは一度ウェスセスに戻ったうえで、次の目的地をノーイス島の西の端にあるテマスにすることを提案してきた。
テマスには、各地から腕っぷし自慢が集まる闘技場があり、ナシャの鍛練にはもってこいではないか?とのことだった。
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