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第六章『廃都ゴルドワ』
第四十五話『共闘』
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ナシャの安い挑発に乗ったジトルは、狂ったような叫び声をあげて、ナシャの頭上めがけて棍棒を振り下ろした。
そのまま当たれば頭蓋は簡単に潰されただろうが、流石にナシャはそれを許さず、ヒラリと回避して腹に一撃を見舞う。
ナシャの攻撃に構わず反撃を繰り出すジトルだが、獲物を喰らうのを邪魔された怒りから攻撃が単調になっているので全て簡単に見切られては追撃を許していた。
タフネスが自慢のジトルではあるが、耐久力は無限ではないので、徐々にだが疲弊していった。
その様子を見て取ったナシャは、山賊の様子をチラリと伺う。
山賊の長であろう筋肉男がなんとかもう一匹のジトルと交戦しているが、劣勢であるのは一目瞭然だった。
身体中から血を流し、まともに攻撃を振るうこともできないが、部下を殺させまいと必死の抵抗をしている。
部下たちも、なんとか筋肉男を援護したいのだが、ジトルの凶暴な一撃が縦横無尽に振るわれるので近づけずにいるようだった。
「ハーシマ殿、あやつらの援護を頼む。回復してから動きを鈍らせる魔法があればそれを」
ナシャがジトルと応戦しながら、ハーシマに指示を出した。
ハーシマはすぐさま反応し、筋肉男の傷を癒す魔法を唱えたのち、神経麻痺の魔法を唱えた。
強い力を持った魔術師が唱える神経麻痺の魔法であれば、ジトルを完全に止めることも可能ではあるが、現状のハーシマは動きをわずかに鈍化する程度の効果だった。
だが、それでも山賊たちの目に希望の光が宿った。
「まずは攻撃を誘ってから足を狙え!近づくのが恐ろしければ石でも投げて気を逸らせ!」
熟練兵から新兵まで従えていた歩兵団長としての経験が活かし、山賊に対して、ナシャは端的かつ有効的な攻撃指示を出した。
今までどう対処してよいかわからず右往左往していた山賊たちだったが、明確な行動が指示されたことで動きから迷いが消えた。
筋肉男を守るため、必死に攻撃と回避を繰り返し、ジトルを弱めていく。
すると筋肉男にも攻撃する余裕が生まれ、持ち前の馬鹿力でジトルにダメージを与えていく。
ナシャは後方で効果的な一撃を叩き込むタイミングを見計らっているウルに目で合図を送る。
自分より遥かに弱そうな男に追い詰められていることが許せないジトルは、ナシャに抱きつくように突進してきた。
これは意表をつく行動であり、効果的な攻撃だった。
ただ、遅きに失していた。
腹への攻撃はジトルが自覚するよりもダメージを内包しており、本来であれば怒涛の勢いとなる突進になっていたはずがジトルがイメージするものよりだいぶノロノロと動く程度のものに成り下がっており、ナシャはジトルを踏み台にするように軽々と飛び越すと、着地すると同時に回転しながらメイスをジトルの膝に叩き込んだ。
膝を完全に砕かれたジトルは痛みと屈辱の絶叫をあげたが、ウルの狙いすました短剣に喉を切り裂かれ、ヒューヒューと息を漏らすだけとなり、そして地に崩れ絶命した。
山賊たちが相手しているジトルも、ハーシマの援護のおかげもあって形勢は完全に逆転し、最後は筋肉男がジトルから棍棒を奪い取って首をへし折り勝負は決着した。
「すまねぇ旦那、今度は別の意味で命を助けられちまった。ありがてぇことこの上ないわ」
命からがらジトルを撃退できた筋肉男は、ナシャに感謝の言葉を告げた。
「なに、人間が魔物に襲われているなら助けるのが道理。礼には及ばん」
平然とした態度で返したナシャだったが、命を賭した戦いから解放されたからか、肩で息をしていた。
「本当に助かったでやんす!」
「仲間が誰も死なずに済んだべ!」
「おかげで無一文にならなかったー!」
部下の山賊たちも傷だらけになりながらも、誰一人欠けることなくジトルに勝てたことに喜んでいた。
「俺は礼をたんまり弾んで欲しいところだが、にぃちゃんが礼が不要ってんなら、まぁいいか」
「そそ、そうですね!」
ウルとハーシマも山賊たちが喜ぶ姿を見て気分が良くなっていたが、ウルがさり気なく尻に手を伸ばしたのを察知してハーシマは素早く逃げた。
「ところで筋肉、この辺りにあんな魔物が出るのであればお前たちも商売できないのではないか?」
ナシャがもっともな意見を言った。
「旦那、俺の名は筋肉じゃなくてスルトって言うんでさぁ。俺たちもリルンスのような魔物であればわけねぇんですけど、あんなのは初めてでさぁ」
スルトと名乗った筋肉男が、事の次第を説明した。
出会った時に話していたように、本来であれば準備万端な冒険者たちから荷物を巻き上げたり、弱い魔物を仕留めたりして得た物品を盗品商に売りさばきつつ自由気ままに生きていたが、ここ1週間ほどで強い魔物が現れるようになってきたので、命の危険を感じた山賊たちは一度ウェスセスに行こうかと話をしていた。
だが、今日までは何とか撃退できていたが、複数のジトルが一気に襲い掛かってきて命運が尽きたと思っていたところに、ナシャ達が現れた……とのことであった。
「そうか、であればウェスセスまで同行しよう。山賊だと思われるのは御免こうむるからウェスセスでは別行動となるが、そのほうが互いに安全に移動できるだろう」
「そりゃ、こちらもありがてぇ」
ナシャの提案に、山賊たちが一も二もなく同意した。
その後、ナシャ達3人と、山賊たちは無事にウェスセスまで到着した。
山賊たちは、ナシャ達と、特にハーシマとの別れを惜しんだが、それでもナシャ達に迷惑はかけまいとならず者たちが集まるスラム地区へと姿を消していった。
ナシャたちはそれを見送ると、次の旅に向けて休息をとることにした。
そのまま当たれば頭蓋は簡単に潰されただろうが、流石にナシャはそれを許さず、ヒラリと回避して腹に一撃を見舞う。
ナシャの攻撃に構わず反撃を繰り出すジトルだが、獲物を喰らうのを邪魔された怒りから攻撃が単調になっているので全て簡単に見切られては追撃を許していた。
タフネスが自慢のジトルではあるが、耐久力は無限ではないので、徐々にだが疲弊していった。
その様子を見て取ったナシャは、山賊の様子をチラリと伺う。
山賊の長であろう筋肉男がなんとかもう一匹のジトルと交戦しているが、劣勢であるのは一目瞭然だった。
身体中から血を流し、まともに攻撃を振るうこともできないが、部下を殺させまいと必死の抵抗をしている。
部下たちも、なんとか筋肉男を援護したいのだが、ジトルの凶暴な一撃が縦横無尽に振るわれるので近づけずにいるようだった。
「ハーシマ殿、あやつらの援護を頼む。回復してから動きを鈍らせる魔法があればそれを」
ナシャがジトルと応戦しながら、ハーシマに指示を出した。
ハーシマはすぐさま反応し、筋肉男の傷を癒す魔法を唱えたのち、神経麻痺の魔法を唱えた。
強い力を持った魔術師が唱える神経麻痺の魔法であれば、ジトルを完全に止めることも可能ではあるが、現状のハーシマは動きをわずかに鈍化する程度の効果だった。
だが、それでも山賊たちの目に希望の光が宿った。
「まずは攻撃を誘ってから足を狙え!近づくのが恐ろしければ石でも投げて気を逸らせ!」
熟練兵から新兵まで従えていた歩兵団長としての経験が活かし、山賊に対して、ナシャは端的かつ有効的な攻撃指示を出した。
今までどう対処してよいかわからず右往左往していた山賊たちだったが、明確な行動が指示されたことで動きから迷いが消えた。
筋肉男を守るため、必死に攻撃と回避を繰り返し、ジトルを弱めていく。
すると筋肉男にも攻撃する余裕が生まれ、持ち前の馬鹿力でジトルにダメージを与えていく。
ナシャは後方で効果的な一撃を叩き込むタイミングを見計らっているウルに目で合図を送る。
自分より遥かに弱そうな男に追い詰められていることが許せないジトルは、ナシャに抱きつくように突進してきた。
これは意表をつく行動であり、効果的な攻撃だった。
ただ、遅きに失していた。
腹への攻撃はジトルが自覚するよりもダメージを内包しており、本来であれば怒涛の勢いとなる突進になっていたはずがジトルがイメージするものよりだいぶノロノロと動く程度のものに成り下がっており、ナシャはジトルを踏み台にするように軽々と飛び越すと、着地すると同時に回転しながらメイスをジトルの膝に叩き込んだ。
膝を完全に砕かれたジトルは痛みと屈辱の絶叫をあげたが、ウルの狙いすました短剣に喉を切り裂かれ、ヒューヒューと息を漏らすだけとなり、そして地に崩れ絶命した。
山賊たちが相手しているジトルも、ハーシマの援護のおかげもあって形勢は完全に逆転し、最後は筋肉男がジトルから棍棒を奪い取って首をへし折り勝負は決着した。
「すまねぇ旦那、今度は別の意味で命を助けられちまった。ありがてぇことこの上ないわ」
命からがらジトルを撃退できた筋肉男は、ナシャに感謝の言葉を告げた。
「なに、人間が魔物に襲われているなら助けるのが道理。礼には及ばん」
平然とした態度で返したナシャだったが、命を賭した戦いから解放されたからか、肩で息をしていた。
「本当に助かったでやんす!」
「仲間が誰も死なずに済んだべ!」
「おかげで無一文にならなかったー!」
部下の山賊たちも傷だらけになりながらも、誰一人欠けることなくジトルに勝てたことに喜んでいた。
「俺は礼をたんまり弾んで欲しいところだが、にぃちゃんが礼が不要ってんなら、まぁいいか」
「そそ、そうですね!」
ウルとハーシマも山賊たちが喜ぶ姿を見て気分が良くなっていたが、ウルがさり気なく尻に手を伸ばしたのを察知してハーシマは素早く逃げた。
「ところで筋肉、この辺りにあんな魔物が出るのであればお前たちも商売できないのではないか?」
ナシャがもっともな意見を言った。
「旦那、俺の名は筋肉じゃなくてスルトって言うんでさぁ。俺たちもリルンスのような魔物であればわけねぇんですけど、あんなのは初めてでさぁ」
スルトと名乗った筋肉男が、事の次第を説明した。
出会った時に話していたように、本来であれば準備万端な冒険者たちから荷物を巻き上げたり、弱い魔物を仕留めたりして得た物品を盗品商に売りさばきつつ自由気ままに生きていたが、ここ1週間ほどで強い魔物が現れるようになってきたので、命の危険を感じた山賊たちは一度ウェスセスに行こうかと話をしていた。
だが、今日までは何とか撃退できていたが、複数のジトルが一気に襲い掛かってきて命運が尽きたと思っていたところに、ナシャ達が現れた……とのことであった。
「そうか、であればウェスセスまで同行しよう。山賊だと思われるのは御免こうむるからウェスセスでは別行動となるが、そのほうが互いに安全に移動できるだろう」
「そりゃ、こちらもありがてぇ」
ナシャの提案に、山賊たちが一も二もなく同意した。
その後、ナシャ達3人と、山賊たちは無事にウェスセスまで到着した。
山賊たちは、ナシャ達と、特にハーシマとの別れを惜しんだが、それでもナシャ達に迷惑はかけまいとならず者たちが集まるスラム地区へと姿を消していった。
ナシャたちはそれを見送ると、次の旅に向けて休息をとることにした。
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