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第七章『テマスの闘技場』
第五十話『強者』
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控室に引き揚げたものの、次の戦いが終わった後すぐに出番が来ることから、入口近くまで戻り、観戦することにした。
ババイ評議員とギジマの各々の奴隷戦士同士の戦いであったが、実力差が明らかであり、ギジマの選出した奴隷戦士は相手に傷1つ付けられずに心臓を一突きにされ、観客はようやく訪れた残虐な結末に大きな歓声をあげた。
奴隷戦士の死体と、それが生み出した血だまりが奴隷たちにより片付けられ、再びナシャの出番がやってきた。
ナシャの次の相手は、ババイ評議員のもう一人の奴隷戦士であるフドであった。
フドは、小柄ではあるもののがっしりとした強靭な肉体と類い稀な鉱石加工技術を持つ種族であるギム族の1人である。
ギム族は、テマスに進出してきた人間の策略により多くが奴隷となった。
フドも同じく奴隷となり過酷な重労働を強いられていたが、ババイ評議員からダールで勝ち残れば奴隷から解放するとの条件を飲み、戦士となり闘技場での戦いに身を投じた。
そして今回、奴隷からの解放を実現すべく、評議員ダールに出場していた。
そんな事情をナシャは知る由もなく、試合開始の合図とともにメイスを構えた。
ギムがその小さな身体からは想像できないほどの素早さでナシャまで一気に接近すると、その屈強な身体に相応しい力強さで両手持ちの大斧でナシャへ横薙ぎの一撃を振るった。
当たっていれば上半身と下半身は永久に離ればなれになっていただろう一撃だったが、ナシャは後方へ飛んでそれを避け、着地と同時に全身のバネを利用してギムへと突進し、メイスを頭上へ振り下ろした。
こちらは、当たっていれば確実に頭蓋骨を粉砕していただろう一撃であったものの、ギムはそれを大斧の柄で受け止めた。
腕に伝わる衝撃が、これまで闘技場で相手してきた者のものとは比較にならないほどの威力であることにギムは驚き、かすかに目を鋭く細めた。
その後、矢継ぎ早に繰り出されるメイスの攻撃が、どれも急所を正確に狙っていたが、ギムは何とかそれを全て受け止め、一度距離をとった。
様子を伺うも、ナシャに表情はなく、感情が読めない。
『こいつ……』
心の中で、ナシャのことを「強い」と発言しそうになり、ギムはかろうじて堪えた。
相手の強さを認めてしまうと自分がそのまま飲み込まれるような気がしたのだ。
ギムは頭の中に芽生えた弱気を振り払うと、気合いとともにナシャに突進すると、自身の身体を回転させて大斧を勢い良く振り回した。
一度避けても回転の勢いは収まらず連続した攻撃がナシャに容赦なく襲いかかる。
ナシャはどれもが致命的となる攻撃を小盾の受け流しと体捌きで回避しながらタイミングを図り、巨大な刃が通りすぎた瞬間にギムに体当たりをした。
互いにもんどりを打ちながら倒れるも素早く起き上がり、再び距離を置いた。
ナシャは乱れ始めた呼吸を整える。
対するギムの呼吸はまだ乱れが見えない。
『私も歳を取ってきたな……』
呼吸を整えながらナシャは自嘲気味に微笑む。
そして、大きく呼吸をして力を溜め込むと、ギムとの距離を瞬く間に詰めて怒涛の連撃を始めた。
メイスを振り下ろし、横殴り、柄で払う。
メイスの場合、普通であれば重さに負けて連撃を見舞うことは困難なのだが、ナシャは、その重さに無理に逆らわず、上手く重さを利用して動かすことによって、流れるように振るうことができる。
ギムはナシャの重く連続するメイスの攻撃を辛うじて大斧で受け続けていた。
次第に腕が痺れる感覚がでてきたが、それでも反撃の機会を狙って猛攻に耐える。
そして、ナシャの攻撃は左の軸足を連動させていることに気付いた。
頭上から死を運ぶメイスの一撃を斧の刃をわずかに斜めに傾けて受け流し、柄を使って左足を払いにいった。
ギムも、戦闘に対し肥えた目を持った観客も、ギムの策は完璧に嵌まったかに見えた。
だが、ナシャはそれを狙っていた。
左足に向かってくる柄を足を上げて器用に避けると、そのまま踏みつけ、ギムの手から大斧を離すことに成功した。
そのままメイスを大斧の刃のど真ん中に叩き落として、粉々に砕くと、メイスをギムの目の前に突き付けた。
ギムは、ナシャの目論見にまんまと嵌まったことに気付かされた。
ギムは両手を上げ降伏の意思を示しつつも、ナシャに対して「殺すのか?」と尋ねた。
「逆に聞くが、生きたいと考えているのか?」とナシャは返す。
「俺は今は奴隷として生きているが、このまま奴隷として生きたいわけではない。俺の主人に復讐するまでは死ぬわけにはいかないのだ」
観客のギムの死を望む歓声にかき消されそうな声だったが、ナシャの耳には届いた。
「私はここでの殺し合いに興味はない。生きて君の望む道を進むといい」
ナシャはそう言うと、試合が終わったことを評議員に視線で告げると、ナシャの勝利が認められた。
またも凄まじい怒号と罵声がナシャに浴びせられたが、ナシャは心の中で「殺し合いを見て晴れる鬱憤であれば、その鬱憤の根源に怒りを向ければ良いのに」とつぶやいた。
ナシャに続く試合は、イビナル評議員の斧槍使いスロキノ、ミラル評議員の鞭使いライハ、そしてボンヤ評議員の双短剣使いキマーダがそれぞれ勝ち上がった。
前回優勝者のスロキノは圧倒的な力を示し、相手の首を事もなげに跳ね飛ばした。
妙齢の女性闘士であるライハは、身体の曲線美を活かした際どい革鎧を身に付け、棘のついた鞭で相手を血塗れにする戦いぶりで観客からひと際大きな歓声を浴びていた。
そしてキマーダは、素早い動きて相手を翻弄し背後に回り込むと、喉を切り裂いた。
いずれの相手も、一筋縄ではいかない強者であるように、ナシャの目には映った。
ババイ評議員とギジマの各々の奴隷戦士同士の戦いであったが、実力差が明らかであり、ギジマの選出した奴隷戦士は相手に傷1つ付けられずに心臓を一突きにされ、観客はようやく訪れた残虐な結末に大きな歓声をあげた。
奴隷戦士の死体と、それが生み出した血だまりが奴隷たちにより片付けられ、再びナシャの出番がやってきた。
ナシャの次の相手は、ババイ評議員のもう一人の奴隷戦士であるフドであった。
フドは、小柄ではあるもののがっしりとした強靭な肉体と類い稀な鉱石加工技術を持つ種族であるギム族の1人である。
ギム族は、テマスに進出してきた人間の策略により多くが奴隷となった。
フドも同じく奴隷となり過酷な重労働を強いられていたが、ババイ評議員からダールで勝ち残れば奴隷から解放するとの条件を飲み、戦士となり闘技場での戦いに身を投じた。
そして今回、奴隷からの解放を実現すべく、評議員ダールに出場していた。
そんな事情をナシャは知る由もなく、試合開始の合図とともにメイスを構えた。
ギムがその小さな身体からは想像できないほどの素早さでナシャまで一気に接近すると、その屈強な身体に相応しい力強さで両手持ちの大斧でナシャへ横薙ぎの一撃を振るった。
当たっていれば上半身と下半身は永久に離ればなれになっていただろう一撃だったが、ナシャは後方へ飛んでそれを避け、着地と同時に全身のバネを利用してギムへと突進し、メイスを頭上へ振り下ろした。
こちらは、当たっていれば確実に頭蓋骨を粉砕していただろう一撃であったものの、ギムはそれを大斧の柄で受け止めた。
腕に伝わる衝撃が、これまで闘技場で相手してきた者のものとは比較にならないほどの威力であることにギムは驚き、かすかに目を鋭く細めた。
その後、矢継ぎ早に繰り出されるメイスの攻撃が、どれも急所を正確に狙っていたが、ギムは何とかそれを全て受け止め、一度距離をとった。
様子を伺うも、ナシャに表情はなく、感情が読めない。
『こいつ……』
心の中で、ナシャのことを「強い」と発言しそうになり、ギムはかろうじて堪えた。
相手の強さを認めてしまうと自分がそのまま飲み込まれるような気がしたのだ。
ギムは頭の中に芽生えた弱気を振り払うと、気合いとともにナシャに突進すると、自身の身体を回転させて大斧を勢い良く振り回した。
一度避けても回転の勢いは収まらず連続した攻撃がナシャに容赦なく襲いかかる。
ナシャはどれもが致命的となる攻撃を小盾の受け流しと体捌きで回避しながらタイミングを図り、巨大な刃が通りすぎた瞬間にギムに体当たりをした。
互いにもんどりを打ちながら倒れるも素早く起き上がり、再び距離を置いた。
ナシャは乱れ始めた呼吸を整える。
対するギムの呼吸はまだ乱れが見えない。
『私も歳を取ってきたな……』
呼吸を整えながらナシャは自嘲気味に微笑む。
そして、大きく呼吸をして力を溜め込むと、ギムとの距離を瞬く間に詰めて怒涛の連撃を始めた。
メイスを振り下ろし、横殴り、柄で払う。
メイスの場合、普通であれば重さに負けて連撃を見舞うことは困難なのだが、ナシャは、その重さに無理に逆らわず、上手く重さを利用して動かすことによって、流れるように振るうことができる。
ギムはナシャの重く連続するメイスの攻撃を辛うじて大斧で受け続けていた。
次第に腕が痺れる感覚がでてきたが、それでも反撃の機会を狙って猛攻に耐える。
そして、ナシャの攻撃は左の軸足を連動させていることに気付いた。
頭上から死を運ぶメイスの一撃を斧の刃をわずかに斜めに傾けて受け流し、柄を使って左足を払いにいった。
ギムも、戦闘に対し肥えた目を持った観客も、ギムの策は完璧に嵌まったかに見えた。
だが、ナシャはそれを狙っていた。
左足に向かってくる柄を足を上げて器用に避けると、そのまま踏みつけ、ギムの手から大斧を離すことに成功した。
そのままメイスを大斧の刃のど真ん中に叩き落として、粉々に砕くと、メイスをギムの目の前に突き付けた。
ギムは、ナシャの目論見にまんまと嵌まったことに気付かされた。
ギムは両手を上げ降伏の意思を示しつつも、ナシャに対して「殺すのか?」と尋ねた。
「逆に聞くが、生きたいと考えているのか?」とナシャは返す。
「俺は今は奴隷として生きているが、このまま奴隷として生きたいわけではない。俺の主人に復讐するまでは死ぬわけにはいかないのだ」
観客のギムの死を望む歓声にかき消されそうな声だったが、ナシャの耳には届いた。
「私はここでの殺し合いに興味はない。生きて君の望む道を進むといい」
ナシャはそう言うと、試合が終わったことを評議員に視線で告げると、ナシャの勝利が認められた。
またも凄まじい怒号と罵声がナシャに浴びせられたが、ナシャは心の中で「殺し合いを見て晴れる鬱憤であれば、その鬱憤の根源に怒りを向ければ良いのに」とつぶやいた。
ナシャに続く試合は、イビナル評議員の斧槍使いスロキノ、ミラル評議員の鞭使いライハ、そしてボンヤ評議員の双短剣使いキマーダがそれぞれ勝ち上がった。
前回優勝者のスロキノは圧倒的な力を示し、相手の首を事もなげに跳ね飛ばした。
妙齢の女性闘士であるライハは、身体の曲線美を活かした際どい革鎧を身に付け、棘のついた鞭で相手を血塗れにする戦いぶりで観客からひと際大きな歓声を浴びていた。
そしてキマーダは、素早い動きて相手を翻弄し背後に回り込むと、喉を切り裂いた。
いずれの相手も、一筋縄ではいかない強者であるように、ナシャの目には映った。
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