青の向こうへ君と2人で

あさひてまり

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第二楽章 恋が芽生える音(side花岡蒼良)

29.話すこと

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「同じような事考えてたんだね」
「だな」

一頻り笑った後で蒼良がポツリと溢すと、鳥海が頷いた。

(気ばっかり使って、鳥海君が何考えてるか決めつけちゃってたな)

キラキラした彼や周りの友達と自分を比べて、勝手に自信を失って。

話さなければ分からない事なんて、沢山あるというのに。

(鳥海君がこんなに優しい人だって事も、実は結構気遣い屋さんだって事も、知らないまま終わらせるところだった)

そんな勿体ない事をしなくて良かったと心から思う。

そして、これを機にきちんと確認したい事もあった。

「鳥海君、サックスの練習してる事周りに言ってる?」
「いや、言ってない。」

やはりそうか…と蒼良は自分の勘が正しかった事を悟った。

芝に絡まれた時、安易にバラさなくて良かったと安堵する。

「それはこれからも?」
「ん、言うつもり無い。」

ほんの少し前の蒼良だったら、やっぱり自分と一緒にいるのが…なんて内心落ち込んでいたかもしれない。

(だけど今は、きちんと聞きたいと思う。)

彼が何を考えていて、どうしたいと思ってるのか。

「それは、どうして?」
「絡まれんのダルイ。特に田中。」

少し勇気が必要だった問いに、鳥海はあっけらかんと答えた。

「この事知ったらアイツら絶対騒ぐし、花岡にもチョッカイかけてくるから。このまま誰にも言いたくないんだけど…平気?」

最後は気遣うように言われて、蒼良は少し笑いながら頷く。

「うん、確かに田中くんもやりたいとか言いそう!」

ノリで生きている嵐のような彼なら、その場のテンションでグイグイきそうだ。

クスクス笑っていると、鳥海の視線を感じる。

「ん?何?」
「…言っとくけど田中、マジで碌な奴じゃないから。」
「うん?」

彼の言わんとしている事は良くわからないが、この流れで思い出した事があった。

「そう言えば、田中君とケンカしたって本当?」

しかも芝の告発によると、それが蒼良のせいだと言う。

「まぁケンカしたのはガチだけど、花岡が気にする事じゃないよ」
「え、でも…」
「つーか、田中とケンカなんてしょっちゅうなんだわ。3日に1度は何かしらでバトってるし。」

それは仲が良いのか悪いのか微妙だな、と思っていたのが表情に出ていたんだろう。

鳥海はやや渋面になりつつ言い足した。

「小1からの腐れ縁なんだよ。」

齎された新情報に目を丸くする。

「お、幼馴染…」「そんなイイもんじゃねぇって」

鳥海は嫌そうに否定するが、随分とレベルの高い幼馴染がいたものである。

「同中の奴なら俺とアイツが揉めてんの見慣れてんだけどさ、高校入ってから初めて見た奴が大袈裟に捉えたんじゃね?」

学年でもとにかく目立つ二人であるからして、それには納得だ。

「そっかぁ、仲直りはできたの?」
「……仲直りってワード、アイツとだと思うとキショイな。特にしてねぇけど、ケンカしたその日には田中家で夕飯食ってたわ。」
「へ?」
「田中母がさ、俺の母親の件知ってるからガキの頃から良くしてくれんだよ。」

鳥海の母親は入退院を繰り返していると言う話しだったが、どうやら昔からそうだったようだ。

姉が世話できない時などには、彼は田中家に預けられていたのかもしれない。

二人の関係性は、幼馴染兼・悪友兼・兄弟のような感覚なのかもしれないと蒼良は察した。

「仲良しだね」
「…話し聞いてました?」

兎にも角にも、彼らの仲に問題がないのであれば僥倖である。

ここ数日、一軍のグループに鳥海の姿がなかったがこの感じなら特に心配はなさそうだ。

(…なんて、また余計なお世話だな…)

ふいに、倒れる前のやり取りが頭に甦る。

(そうだ、あのルーズリーフの事も説明しないと)

自分のお節介な性格を晒すようで気が進まないが、このままでは他人の机に得体の知れない物を入れようとしたヤバイ奴である。

「あのね、鳥海君。教室での事なんだけど…」
「ごめん」

おずおずと切り出した耳に、謝罪の言葉が聞こえて驚く。

その意味を理解できずにいる蒼良の前で、アンバーの瞳が揺れていた。
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