青の向こうへ君と2人で

もう一つのプロローグ

君を見つけた日（side 鳥海玲音）

その日、満員のホールは立ち見客が出るほど盛況だった。

姉に無理やり連れて来られた定期演奏会の、上段の隅の席。

俺はやや足を投げ出すように座ったまま言葉を失っていた。

視線の先は、眩しいライトに照らされたステージ上。

一人立ち上がってお辞儀をする小柄な中学生に送られる、万雷の拍手。

「文句無しの素晴らしい演奏でしたねぇ」
「ええ、本当に。彼にはぜひこっちの世界を目指して欲しいものです。」

飛び交う賛辞は音楽関係者のものだろうか。


『只今のソロは、２年アルトサックス花岡蒼良でお送りしました』


紹介のアナウンスと共に再び鳴り響く、拍手と指笛の音。

その渦の中心に、彼はいた。



これが俺、鳥海玲音が彼…花岡蒼良を見つけた日。



大嫌いな父親を思い起こさせる、大嫌いな音楽。

その音楽に生まれて初めて心を揺さぶられたこの時
から、俺は既に捕らわれていたんだと思う。


惹きつけられて目を離せない、唯一無二の君にーー。