青の向こうへ君と2人で

あさひてまり

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第一楽章 始まりの音(side花岡蒼良)

1.高校生活、始まる

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枝葉の隙間に残った花弁が舞い落ちる。

そんな桜を窓の外に見やって、花岡蒼良はなおかそらは溜息を吐いた。

儚い花の命を己と重ねて…なんて事はなく、至って健康な新高校一年生である。

視線を室内に戻せば、そこは独特の緊張感を孕んだ教室。

ポツポツとでき始めたグループでは、盛んにスマホで連絡先の交換が行われている。

(いいよなぁ、同中がいる人達は。)

入学して三日、まだ誰とも言葉を交わしていない蒼良は会話に飢えていた。

思わず恨みがましい目をしてしまうも、母校である中学から離れた高校を選んだのは自分自身だ。

(あぁ!あそこのグループ、今ワンピの話してる…!)

好きな漫画の話題が聞こえてきて心底羨ましい。

(参加したい…でも、いきなり入っていったら変だよな…)

蒼良はコミュ障と言う訳ではなく、単に人見知りなだけだ。

人と仲良くしたいし、何ならお喋りな方だと自覚もしている。

(これはもう行くしかない…?行くしかない…のか!?)

談笑するクラスメイトの方向に体を向けながらも、諦め悪く椅子に尻を付けていたその時。

「なぁ、花岡君ってどこ中?」

後ろから声をかけられた。

「俺、山下拓真やましたたくま。南中出身なんだ。よろしく!」

ガッシリした体格の、運動部っぽい見た目の男子が快活に笑う。

久しぶりの会話が嬉しくて、つられるように蒼斗も笑顔になった。

「俺は藤ヶ崎中だよ、よろしくね。」

そう言うと、何故か拓真が目を丸くする。

蒼斗は不思議そうに首を傾げるが、彼と初対面の人間は何故かよくこんな反応をした。

「LAIN交換しようぜ。おーい!お前らもこっち!」

良く通る拓真の大きな声に、数人の男子が集まって来た。

「コイツら全員南中なんだ。」

拓真の母校である南中はこの高校のご近所さんであり、同中勢力も随一。

「花岡蒼良です。家族は父母弟と柴犬のモチ。好きな食べ物はラーメン。よろしくね。」

自分以外が旧知の仲ならば自己紹介はこっちからだろうとスラスラ宣う。

最初の拓真と全く同じリアクションをした後で、全員が笑い出した。

「花岡君、めっちゃ喋るじゃん!」
「見た目とのギャップ…!」

蒼良が意図した訳ではないが何故か場が盛り上がって、全員と連絡先を交換した。

(やった、友達できた!!)

喜ぶ蒼良だったが、次に振られた問いに内心で息を呑んだ。

「花岡、中学は何部だったの?」

俺は陸上だと話す拓真のそれは、初めての会話としては至極当然。

むしろ、高校一発目の自己紹介においてほぼ百パーセントの確立で登場するものだろう。

だけど、蒼良にとっては最も身構えていた内容だった。

「えっと…俺は吹奏楽部だったよ。」

笑顔を作りながら、心の中で祈る。

(どうか経験者がいませんように…)

「へぇ、楽器は?」
「アルトサックス。」
「あ~、サックスってこんな形のやつだっけ?」

朧げな記憶を引っ張り出す面々に安堵した。

どうやら願いは通じたらし…「え!?ってか藤ヶ崎中の吹奏楽部って激強なんじゃなかったけ?」

山田と名乗った男子がそう言いだして、ヒュッと蒼良の喉が鳴った。

「そうなん?お前なんで知ってんの?」
「ほら、俺の姉ちゃん吹奏楽部だっただろ。『この地域なら藤ヶ崎中がナンバーワンだ』って聞いた事あんだよ。」

背中を嫌な汗がじっとりと伝う。

「マジかすげぇじゃん!じゃ、花岡は高校でも続けんだ?」

拓真の言葉に蒼良は机の下で拳を握りしめる。

(大丈夫、練習した通りに言えばいい)

「ううん、続けないよ。せっかく高校生になったんだからバイトしたくてさ。」
「あ、それ俺も!高校までサッカー漬けとか無理だし!」

考えてあった言い訳は、思いのほか共感を得られたらしい。

初バイトへの期待に逸れていく会話に胸を撫でおろす。

そんな中、先ほど吹奏楽部に関する知識を披露した
山田がポツリと呟いた。

「あれ…?確か、俺らの代の藤ヶ崎中吹奏楽部って…」

キーンコーンカーンコーン

「はーい、席つけー。ホームルーム始めるぞー。」

タイミング良く鳴ったチャイムと登場した先生に、心底感謝する。

そして、再び祈った。

どうか山田とそのお姉さんが、会話が無いタイプの姉弟ですように…と。

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