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記念ショートストーリー
SS3-1 文庫2巻記念SS:大人げない主従のティータイム〜伯爵令嬢は裏切った侍従におこなのです
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文庫2巻記念SS:大人げない主従のティータイム~伯爵令嬢は裏切った侍従におこなのです(1)
「ベル! 今日も来たわ。今日のおすすめは何かしら」
美しい赤髪の魔術師、シルケが溌剌とした声でカウンター越しに言うと、ベルは早速と手書きのメニューを差し出した。
「いつもご利用ありがとうございます! 今日のメニューはこちらです」
流麗な書き文字……プリン何食分かを代金として敏腕受付嬢ヒセラに頼んでいる……に反して妙に可愛らしい手描き絵が書き添えられているが、それは長い黒髪を垂らした童顔の娘ベルのもので、季節ごとにメニューが入れ替わっている。
ベルの前世である日本においては珍しい事ではないが、こちらの食事処と言えば、基本的に酒なら酒とその肴としてその日市場で入荷したもので煮込み料理などを作る程度だ。
そんなに多くの料理を置かないこの世界では、レギュラーメニューが常に三種もあるベルの店は大変に珍しい。それが、高価な砂糖を使った料理となれば尚更である。
高価な商品を扱う店とあって、それなりに豊かな蓄えを持った者……商人などが主な客層だが、他に魔法を扱う高ランク冒険者なども立ち寄る事がある。ともかく、ダンジョンの巣と言われるこの南の片田舎で開くにはおかしな店である。
「ベルのおすすめはどれかしら? 出来れば、あたくしの食べた事のないものが良いわ」
田舎に不似合いな店を開くに至った元凶である彼女は、そう言ってきらきらと赤い宝石のような目を輝かせる。
彼女は、シルケ・マルチェ・ボンネフェルト。名門ボンネフェルト伯爵家の娘にして宮廷魔術師というこの田舎に異彩を放つ才女だ。
ベルが趣味の一環で煮ていたベリーのコンフィチュールのにおいにつられてシルケがやってきた事がきっかけで、シルケ相手に出していた甘味が冒険者ギルド内で話題となり、商人らも加わってなんだかんだとベルが店を持つ事になった訳だが、その道のりは平坦ではなかった。
閑話休題。
伯爵令嬢がプロロッカなどという鄙びた田舎に居る理由は、いわば左遷というか、彼女の上司の僻みによる懲罰異動のようなものなのだが、今ではすっかり冒険者ギルドでも馴染んだものとなっている。ベルなどは、最早友達として接して欲しいなどと言われているぐらいで、案外捌けた貴族様なのだ。
「そうですねえ、どれもおすすめですけれど……」
わいわいと、馴染みの客と店主が盛り上がっているのをしょんぼりと見ている姿があった。
「あの、私めが注文を……」
そう弱々しく声を上げる彼は、青髪を三つ編みにし、モノクルを掛けた長身の男性魔術師にして伯爵令嬢の従者、ロヴィーである。
「あら、何か聞こえる気がするけれど聞こえないわ。ねえベル、おすすめを教えて頂戴」
シルケににっこり笑顔で重ねて聞かれたベルは、シルケの後ろの青年を気にしつつも内心主従のいざこざに巻き込まれたくないなあと思いつつ、メニューを指さしながら答える。
「……えっと、今日は蜂蜜がけホットビスケットですかね。丁度蜂蜜が入手出来たので。見たところお昼もまだでしょう? 小腹を満たすのにも丁度いい焼き菓子なんです。ホイップクリームもお付けできますよ」
「ではローズヒップティーとそれを頂戴な」
「はい! ではちょっとお待ちくださいね」
「シルケ様……」
ベルの返答に重なるよう、恨めしげな声が鬱々と響く。
ロヴィーの声は聞こえているだろうに、無視したまま注文を進めてしまうシルケに、ロヴィーのしょんぼりした感じは更に深まった。
思わず、同情気味にベルが声を掛ける。
「え、えっと、ロヴィー様のご注文は?」
「同じものを……二つ分下さい」
それは、ウェストゥロッツでの脱出劇より一月以上経った頃のこと。
ベルの店は、今日もなかなかの客入りであった。
領地にて色々と用事を終えたという主従が顔を出すようになったが、シルケは従者のロヴィーを無視しがちだ。
──何故かと言えば、シルケはロヴィーの専横を許してないのだ。
何でも、シルケの父である伯爵が、ベルを知るきっかけを彼が作ったらしい。
シルケは友人を泊めるとは言ったがベルがテイマーである事や目的を伏せた。だというのにロヴィーはシルケの言いつけを破りベルの詳細を話したのだという。
シルケの父がベルを三番目の兄の嫁にされそうになったのは、ロヴィーのせいだ、と。そう、シルケは考えているそうで。
一緒に来て、同じ卓を囲んでも始終無言。ちょっと見ていて怖いものがあった。
「かといって、私が仲裁するのも何か違うわよね」
「そうねえ」
と、カウンターの裏でベルたちはヒソヒソ話すのであった。
++++++++++
文庫二巻記念ということで、シルケ様がおこな様子をちょっとの間書いてみようかと思います!
隔日程度でいければなあ、と考えてますので、よろしくお願いいたします
「ベル! 今日も来たわ。今日のおすすめは何かしら」
美しい赤髪の魔術師、シルケが溌剌とした声でカウンター越しに言うと、ベルは早速と手書きのメニューを差し出した。
「いつもご利用ありがとうございます! 今日のメニューはこちらです」
流麗な書き文字……プリン何食分かを代金として敏腕受付嬢ヒセラに頼んでいる……に反して妙に可愛らしい手描き絵が書き添えられているが、それは長い黒髪を垂らした童顔の娘ベルのもので、季節ごとにメニューが入れ替わっている。
ベルの前世である日本においては珍しい事ではないが、こちらの食事処と言えば、基本的に酒なら酒とその肴としてその日市場で入荷したもので煮込み料理などを作る程度だ。
そんなに多くの料理を置かないこの世界では、レギュラーメニューが常に三種もあるベルの店は大変に珍しい。それが、高価な砂糖を使った料理となれば尚更である。
高価な商品を扱う店とあって、それなりに豊かな蓄えを持った者……商人などが主な客層だが、他に魔法を扱う高ランク冒険者なども立ち寄る事がある。ともかく、ダンジョンの巣と言われるこの南の片田舎で開くにはおかしな店である。
「ベルのおすすめはどれかしら? 出来れば、あたくしの食べた事のないものが良いわ」
田舎に不似合いな店を開くに至った元凶である彼女は、そう言ってきらきらと赤い宝石のような目を輝かせる。
彼女は、シルケ・マルチェ・ボンネフェルト。名門ボンネフェルト伯爵家の娘にして宮廷魔術師というこの田舎に異彩を放つ才女だ。
ベルが趣味の一環で煮ていたベリーのコンフィチュールのにおいにつられてシルケがやってきた事がきっかけで、シルケ相手に出していた甘味が冒険者ギルド内で話題となり、商人らも加わってなんだかんだとベルが店を持つ事になった訳だが、その道のりは平坦ではなかった。
閑話休題。
伯爵令嬢がプロロッカなどという鄙びた田舎に居る理由は、いわば左遷というか、彼女の上司の僻みによる懲罰異動のようなものなのだが、今ではすっかり冒険者ギルドでも馴染んだものとなっている。ベルなどは、最早友達として接して欲しいなどと言われているぐらいで、案外捌けた貴族様なのだ。
「そうですねえ、どれもおすすめですけれど……」
わいわいと、馴染みの客と店主が盛り上がっているのをしょんぼりと見ている姿があった。
「あの、私めが注文を……」
そう弱々しく声を上げる彼は、青髪を三つ編みにし、モノクルを掛けた長身の男性魔術師にして伯爵令嬢の従者、ロヴィーである。
「あら、何か聞こえる気がするけれど聞こえないわ。ねえベル、おすすめを教えて頂戴」
シルケににっこり笑顔で重ねて聞かれたベルは、シルケの後ろの青年を気にしつつも内心主従のいざこざに巻き込まれたくないなあと思いつつ、メニューを指さしながら答える。
「……えっと、今日は蜂蜜がけホットビスケットですかね。丁度蜂蜜が入手出来たので。見たところお昼もまだでしょう? 小腹を満たすのにも丁度いい焼き菓子なんです。ホイップクリームもお付けできますよ」
「ではローズヒップティーとそれを頂戴な」
「はい! ではちょっとお待ちくださいね」
「シルケ様……」
ベルの返答に重なるよう、恨めしげな声が鬱々と響く。
ロヴィーの声は聞こえているだろうに、無視したまま注文を進めてしまうシルケに、ロヴィーのしょんぼりした感じは更に深まった。
思わず、同情気味にベルが声を掛ける。
「え、えっと、ロヴィー様のご注文は?」
「同じものを……二つ分下さい」
それは、ウェストゥロッツでの脱出劇より一月以上経った頃のこと。
ベルの店は、今日もなかなかの客入りであった。
領地にて色々と用事を終えたという主従が顔を出すようになったが、シルケは従者のロヴィーを無視しがちだ。
──何故かと言えば、シルケはロヴィーの専横を許してないのだ。
何でも、シルケの父である伯爵が、ベルを知るきっかけを彼が作ったらしい。
シルケは友人を泊めるとは言ったがベルがテイマーである事や目的を伏せた。だというのにロヴィーはシルケの言いつけを破りベルの詳細を話したのだという。
シルケの父がベルを三番目の兄の嫁にされそうになったのは、ロヴィーのせいだ、と。そう、シルケは考えているそうで。
一緒に来て、同じ卓を囲んでも始終無言。ちょっと見ていて怖いものがあった。
「かといって、私が仲裁するのも何か違うわよね」
「そうねえ」
と、カウンターの裏でベルたちはヒソヒソ話すのであった。
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文庫二巻記念ということで、シルケ様がおこな様子をちょっとの間書いてみようかと思います!
隔日程度でいければなあ、と考えてますので、よろしくお願いいたします
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