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11章:喫茶店と人間模様です
131.この世界は年明けからもシビアです。
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何だかんだと年明け三が日くらいは休んだけど、この国の人は休むという事を知らないので、すぐにまた日常に戻っていった。
「うーん、まあ元気に働けるのはいいことだけど……ちょっと働き過ぎのような。あ、ぽち、ストーブに火を入れてくれるかしら……有難う」
当然、喫茶店も四日目から開店だよ。
私は何だか休んだ気にもなれずに首を傾げる。
そんな私の世間知らずぶりに、カロリーネさんが開店準備をしていた手を止めて呆れたように言う。
あ、ちなみにルトガーさんはお店の外の掃除をしてくれています。
「そうは言ってもね。あたし達みたいに当たり前に魔道具を使えるような人は少ないのよ。朝には井戸から水汲み、火熾ししたらすぐに食事の用意。次には畑の世話それが終わったら洗濯、そしてまた食事の用意……一般的な家では、毎日暮らしてくだけで精一杯なの」
「そうですよー。ベル店長はぽちっていう立派な契約獣が居るからか分からないみたいですけど、一日休んだら次の日がきついんですから。基本休みとか考えないですねー。まあ、ベル店長の世間知らずは今に始まった事じゃないですけど、外では言わない方がいいですよ。ヘタするとお嬢様の嫌味に思われちゃいますから」
すっかりお茶係となったティエンミン君も、カウンターでお茶器の準備などしながら子供の癖に達観しきったような口調で私に注意した。
二人によくよく注意されて、私は己の不覚を理解する。
「はい、ごめんなさい」
……成る程。
私はすぐに水や火を出してくれるぽちが居るから、最も大変なところを経験してない為に、一般的なご家庭の苦労が分かってなかったみたいだ。
そうか、水道もガスもないこの国だと、基本的に水は桶で汲んでくるもので重労働、火もマッチやライターなんてないから原始的な方法で熾す事になるわけで……。
洗濯機もないから、当然全て手洗い。これもとんでもなく時間が掛かるし冬は指が千切れるかってほど寒いし……。
森に住んでた時には、その辺り結構シビアに考えてた筈なんだけどなぁ。
私は足元で遊んでくれとばかりに目を輝かすぽちを撫で、しみじみ思った。
ぽちが居てくれて本当に良かった。彼が居なかったら現代社会に慣らされた脆弱な女子大生の私では、この世界に馴染めてなかったろうと。
感謝の意味も込め、丁寧に撫でていたらぽちは大喜びで尻尾を振る。
そうしてぽちを構っていると、話には続きがあったようで。
「それに、冒険者もギルドがずっと閉まってたら困るわ。日銭しか稼げないD級以下の新人達が素泊まり宿すら泊まれなくなっちゃうし」
「ですです。ダンジョンに潜り始める頃には少しは余裕が出来ますけど、その手前は基本雑用ばっかりですからねぇ。まあ、それも冒険者街を維持する為には重要な仕事なんですけど」
D級以下の仕事は、街の清掃や臨時作業員等、日雇い仕事みたいなものが多い。
それは勿論大事なものだけれど、でも危険な事のない単純作業が多い為か余り儲からないものが多いのだ。
だから、ギルドの早朝は少年達が必死に依頼ボードに群がって依頼を奪い合う事になるんだけど。
そこでふと、私を注意していた二人は顔を見合わせて。
「……そういえば、ベルは冒険者としても雑用を経験しないまま上位に上がった珍獣だったわ」
珍獣とか言うな。
「でしたねぇ。ええっと? アレックスさんが拾ってきた時にはぽちが居たんですよね?」
「そうそう。それで、上位契約獣連れのテイマーだからってギルド預かりになって」
「料理が作れたからヴィボさんの下に付いて……」
「保存食のつもりで果物の砂糖煮を作ってたら、シルケ様がそれを所望したんだったかしら?」
「それで、お菓子係になって……」
二人は指折り数えるように、私の今までの経歴を辿る。
「え、ちょっとやめて。恥ずかしいんですけど」
「まあまあ、もうすぐ終わりますし。……で、冒険者になって一年足らずなのに、集団暴走の活躍で冒険者ランクが上がったり、料理人としてもお菓子が評判になって店舗を持ったり。ついでに、薬師としても春には王都に試験を受けに行くとか……本当にベル店長って世にも珍しい存在ですね」
あ、貴族絡みの事は流石にスルーしたか。
ほっとしたような、そこが一番問題じゃないかと言いたいような。
「うーん、まあ元気に働けるのはいいことだけど……ちょっと働き過ぎのような。あ、ぽち、ストーブに火を入れてくれるかしら……有難う」
当然、喫茶店も四日目から開店だよ。
私は何だか休んだ気にもなれずに首を傾げる。
そんな私の世間知らずぶりに、カロリーネさんが開店準備をしていた手を止めて呆れたように言う。
あ、ちなみにルトガーさんはお店の外の掃除をしてくれています。
「そうは言ってもね。あたし達みたいに当たり前に魔道具を使えるような人は少ないのよ。朝には井戸から水汲み、火熾ししたらすぐに食事の用意。次には畑の世話それが終わったら洗濯、そしてまた食事の用意……一般的な家では、毎日暮らしてくだけで精一杯なの」
「そうですよー。ベル店長はぽちっていう立派な契約獣が居るからか分からないみたいですけど、一日休んだら次の日がきついんですから。基本休みとか考えないですねー。まあ、ベル店長の世間知らずは今に始まった事じゃないですけど、外では言わない方がいいですよ。ヘタするとお嬢様の嫌味に思われちゃいますから」
すっかりお茶係となったティエンミン君も、カウンターでお茶器の準備などしながら子供の癖に達観しきったような口調で私に注意した。
二人によくよく注意されて、私は己の不覚を理解する。
「はい、ごめんなさい」
……成る程。
私はすぐに水や火を出してくれるぽちが居るから、最も大変なところを経験してない為に、一般的なご家庭の苦労が分かってなかったみたいだ。
そうか、水道もガスもないこの国だと、基本的に水は桶で汲んでくるもので重労働、火もマッチやライターなんてないから原始的な方法で熾す事になるわけで……。
洗濯機もないから、当然全て手洗い。これもとんでもなく時間が掛かるし冬は指が千切れるかってほど寒いし……。
森に住んでた時には、その辺り結構シビアに考えてた筈なんだけどなぁ。
私は足元で遊んでくれとばかりに目を輝かすぽちを撫で、しみじみ思った。
ぽちが居てくれて本当に良かった。彼が居なかったら現代社会に慣らされた脆弱な女子大生の私では、この世界に馴染めてなかったろうと。
感謝の意味も込め、丁寧に撫でていたらぽちは大喜びで尻尾を振る。
そうしてぽちを構っていると、話には続きがあったようで。
「それに、冒険者もギルドがずっと閉まってたら困るわ。日銭しか稼げないD級以下の新人達が素泊まり宿すら泊まれなくなっちゃうし」
「ですです。ダンジョンに潜り始める頃には少しは余裕が出来ますけど、その手前は基本雑用ばっかりですからねぇ。まあ、それも冒険者街を維持する為には重要な仕事なんですけど」
D級以下の仕事は、街の清掃や臨時作業員等、日雇い仕事みたいなものが多い。
それは勿論大事なものだけれど、でも危険な事のない単純作業が多い為か余り儲からないものが多いのだ。
だから、ギルドの早朝は少年達が必死に依頼ボードに群がって依頼を奪い合う事になるんだけど。
そこでふと、私を注意していた二人は顔を見合わせて。
「……そういえば、ベルは冒険者としても雑用を経験しないまま上位に上がった珍獣だったわ」
珍獣とか言うな。
「でしたねぇ。ええっと? アレックスさんが拾ってきた時にはぽちが居たんですよね?」
「そうそう。それで、上位契約獣連れのテイマーだからってギルド預かりになって」
「料理が作れたからヴィボさんの下に付いて……」
「保存食のつもりで果物の砂糖煮を作ってたら、シルケ様がそれを所望したんだったかしら?」
「それで、お菓子係になって……」
二人は指折り数えるように、私の今までの経歴を辿る。
「え、ちょっとやめて。恥ずかしいんですけど」
「まあまあ、もうすぐ終わりますし。……で、冒険者になって一年足らずなのに、集団暴走の活躍で冒険者ランクが上がったり、料理人としてもお菓子が評判になって店舗を持ったり。ついでに、薬師としても春には王都に試験を受けに行くとか……本当にベル店長って世にも珍しい存在ですね」
あ、貴族絡みの事は流石にスルーしたか。
ほっとしたような、そこが一番問題じゃないかと言いたいような。
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