緑の魔法と香りの使い手

兎希メグ/megu

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14章:楽しい? 王都観光です

164.大人の喧嘩は面倒くさいです。

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「あれって一体、何だったんだろう?」

 変質者に遭った次の日、私はホテルの部屋でご飯を食べながら考えていた。
 カリカリのベーコンっぽいお肉と、ポーチドエッグみたいな半熟卵が美味しい。
 じゃなくて。
 繁華街の端っことはいえ、照明も付いてる道を歩いてたらすぐ側の暗がりから手が伸びてくるとか。
 怖いよね、正直。
 ね、と足元のぽちに同意を求めると、そうだねとでも言うように小さくわんと吠えて見せる。

「うーん、古代技術で明るいとはいえ、夜はやっぱり危ないね。今日からは気をつけよう」
 とりあえず、細い道には近づかない! それから、暗くなる前に帰る!
 まあ、ちょっと不用心だったかも。
 王都は夜も明るく前世並みに便利なせいか、すっかり忘れてたけど、この世界は女性には厳しい所だったのでした。

「と言うことで、昨日の事を反省して、今日からは明るいうちに帰ります」
「まあ、それがいいな。幾ら陛下の在わす王都であっても、夜の浮かれた街はそれなりに危険だ」
 アレックスさんが重々しく頷いた。
「そうですか? でも、それではベルさんの観光にならないでしょう。私達が気を付ければ……」
「見え透いた偽善はやめろ、ドミニクス。俺の目を盗んだ所でぽちが黙ってないぞ。……とにかく、安全第一が一番だ」

 あれ。また二人が不仲になってる? また寝坊してて、こんな時に雰囲気を強引に壊してくれそうなオババ様も居ないことだし、うーんどうしたものか。
 折角のお休みに、不機嫌顔の人たちと一緒に居るのも、ねえ。

 首を傾げつつ、午前中は今後の観光予定をのんびり決める事にして。
 お茶菓子はあったかなー? とりあえずはドライフルーツでいいか。
 魔法袋の中身を探ると、あれれ。
 そろそろ旅の間に色々消費したから、お菓子や保存食も心許ないなぁ。帰り道の分もあるし、厨房でも借りないと。
 と、ソファに移動したのち、気分を変える為にオレンジフラワーをベースにしてお茶を淹れてみる。もう、ギスギスした空気とか嫌いだし、気合い入れて
 三階客室担当のメイドさんの使ってる小部屋をお借りして。
 水回りの物が揃った機能的なミニキッチンで、魔法のコンロでケトルに水を沸かし、備え付けのポットと茶器を温めて。
 オレンジフラワーは、ビターオレンジの花を乾燥させたものだ。柑橘系のさわやかなかおりが緊張や不安を和らげる効果があって、飲むとやさしい味わいがする。ちなみに、蒸留すればネロリという精油も取れるんだよ。
 後はレモングラスでも入れようかな……。
 お湯を捨てたポットに適量入れたら、五分ほど蒸らし。
「美味しくできますように」
 今日はお呪いを心持ち強めでっ。


「お茶が入りましたよー」
 ムスッとしたアレックスさんと、いつもの胡散臭い笑顔の詩人さんが並ん座ってる。
 何だかんだ、仲良いよねこの二人。
 
 お茶を注いだカップは借り物だ。結構高価そうなので、運ぶのはメイドさんにお願いした。
 ソファに座り直して、立ち上る湯気に香りを嗅いで。はあ、いい匂い。
「二人とも、冷めないうちに飲んでね」
「……ああ」
「ええ。いい香りですね」

 うーん、本当に困った二人だよ。こんな感じで、午後は大丈夫なのかなぁ。
 食材探しに市場にも行きたいし、友人たちのお土産と店の飾り付けに可愛い柄布も買っておきたいし、どうせなら冒険者ギルドや錬金術ギルドとかも冷やかしたいし、色々やりたい事あるのに。

 詩人さんは珍しく朝から出掛けないで、今日は観光に付き合ってくれる事になったけど。
 いつもは飄々としたアレックスさんが、何だか朝から荒れ気味なんだよねぇ。
 まるでそう、カロリーネさんに悪い虫が付きそうな時のような荒れっぷり。昨日の今日だから、心配してくれてるのかなぁ。何だか、私は身内だと思ってくれてるみたいだし。
 それ自体はとても有り難い事だけど、一応私も成人した女性ですので、危ない所にはわざわざ行きませんよ? 子供じゃなんだから……。
ぽちだけだと、土地勘ないから迷いそうだしなぁ。昨日の事もあるから一人では出歩きたくないし……うーん。

 今日は無理そうなら、キッチンお借りして保存食量産する事にしようかなぁ。
 なんて考えてると、静かにお茶を飲んでいた二人が、何だか気まずげにこちらをチラチラ見てる。
「? 何ですか」
「いや……その。何処か行きたいって話だっただろ。決めなくて良いのか?」
「アレックスさんが気乗りしないようなら、無理に出かけなくても良いかなって。今日は保存食でも作ろうかなぁって思ってたところです」
「……そうか。それも良いかもな」
 こくりとアレックスさんが頷くと、何故か結構な勢いで詩人さんが踏み込んでくる。
「ベルさん、素敵なお茶のお礼に、なんなら私がご案内しても……」
 にこやかな彼に、じゃあお願いしようかなぁなんて思ったら、アレックスさんが眉間にしわを刻んで頑として突っぱねた。
「お前はダメだ。信用ならない」
「アレックス、貴方が何を考えているかは大体見当が付きますが、ご心配なさらなくともそう連日危ない事など起きはしませんよ」
 肩を竦める詩人さんに、頑として首を振るアレックスさん。

 私は何だか面倒になってきた。
「ええっと、私はどっちでもいいですよ、うん。お手紙とか保存食作りとか、やる事なら沢山あるので……ぽちと一日ゴロゴロするのもありですし」
「わん」
 尻尾ふりふり。最近ぽちとまったりする時間もなかったしねぇ、うん、面倒くさい男子二人を相手するよりそれもいいな。というか、そうしようか。
 
「なら、今日明日ぐらいはホテルでゆっくりしよう」
「いえ、それはもったいないですよ」
「ドミニクス、お前なぁ」
「アレックス、貴方は心配性過ぎです」
 睨み合う二人にそろそろ呆れる。

 うーん、これは……いつもならお茶飲んで落ち着けば和やかに話し合うのに、何だか今回の喧嘩は根が深そうだよ。
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