緑の魔法と香りの使い手

兎希メグ/megu

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十五章:懐かしの村とプロポーズ

183.突然のプロポーズ!?

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章設定間違ってました。すみません。

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何でギルドの会議室に居るかも忘れてのんびりお茶していたら、やって来た詩人さん。
あいかわらず派手な帽子を目深に被り、地味だけど仕立てのいいチュニックに鮮やかなサッシュベルトをした彼は、王家の血を引くというその背景を感じさせるような優雅に歩みで私達の方へ向かってきた。
曰く、知り合いの商人に偶々道端で会って長話してしまったらしい。吟遊詩人って人気商売だし、まあ、そういう事もあるよねと私は笑って彼の謝罪を受け入れた。

そんな呑気な私を横に、アレックスさんは警戒気味。
「で? 何でオレらを呼び出したんだ、ドミニクス」
ああ、そうだった。詩人さんってドミニクスって名前だったね。
硬い表情で詩人さんに問うアレックスさんに、詩人さんは「まあまあ」 と笑顔でかわす。
「折角の再会なのですし、最初から疑って掛かるような真似は止めませんか、アレックス」

極めて柔和な笑みに、穏やかな口調ではあるけれど、何だか胡散臭く感じるのは、王都までの旅の間に彼が見せた人を煙に巻くような態度を散々見たからなんだろうなぁ……。
詩人さんの口が上手すぎて、何だか頷いちゃうんだよね。
旅の間には随分助けられたけれど、我が身を思えばアレックスさんが少し警戒しちゃうのは仕方ないのかも知れない。

「本来なら田舎に娯楽をもたらしてくれる吟遊詩人は歓迎したいが、お前は前科があるからなぁ……」
「前科だなんて、酷い言い草だ」
Sランク冒険者にジロリと睨まれても爽やか笑顔で受け流すんだから、何とも強心臓だね。

そんな会話を何だか懐かしいなと見る私と、耳をそばだて警戒しながら伏せの姿勢で眺めるぽち。
すっかり外野な私達に、詩人さんはふと顔を向け。
「ああ、そうでした。アレックスと旧交を深めている場合ではありませんね。ベルさんに大事な話があるのです」
「え、私に?」
アレックスさんに会いにきたんじゃなかったの?

突然の事にぱちぱちと瞬く私に、詩人さんはゆっくり頷き、私のすぐ前まで近寄るとおもむろに片膝を突いた。
「え?」
そうして、私の右手を細く長い優美な指先で持ち上げた。
指先から、体温が伝わる。それはここしばらく男っ気なしで過ごしていた私にとってはとてつもないことで、ただ手で触れただけなのに彼という存在をまざまざと感じさせた。
ドキドキする胸を自由な方の手で押さえて彼を見れば、その整った唇に近づける。
「……あ」
柔らかな感触が、ほんの一瞬指先をかすめる。彼は私の指先にそっと唇を触れさせるとすぐに離した。
く、唇が。指先とはいえキスされちゃったよ? 思わずかあっと頰が熱くなる。

動揺する私をよそに、詩人さんは片膝突いたままの姿勢で私を見上げ、古き詩を歌い上げるよう、その美声で朗々と言ったんだ。

「ベルさん、貴女は私の大地、私の湖。私の豊穣の女神たる貴女と、大地と大樹の間柄のように長く添いたいと願います。同意して頂けますね?」
「は?」

ええと、これって?
豊穣の女神とか何だか凄い事言われてる気がするけど、意味がわからないよ。
私はちらりとアレックスさんに視線を向ける。彼は苦笑しながらも頷いて、私に説明してくれた。
「今時の若者なら分からない奴が多そうだな。これは古い求婚の文句だ。っていうか、よくこんな古い文句知ってたな、ドミニクス」
アレックスさんの言葉に、彼は軽く苦笑して見せた。

ふーん、古い求婚の言葉、って。
「きゅ、求婚? ……求婚って、えええっ」
私、今プロポーズされたの? 詩人さんに?
ますます顔が熱くなるよっ。

「え、どうして? 私達、つい最近出会ったばっかりだし、特に詩人さんに好かれるような事してないよね?」
片手はひたすらぽちをもふりつつ、詩人さんに手を取られたままの姿勢で。
おろおろする私は、ついポロリと考え事を口に出してしまう。

あ、しまった。
彼は私の言葉に傷ついたような顔をし、俯いて悲しげに言った。
「酷いですね。王都では何度も二人で出掛けたではないですか」
うわ、やめて。そんな表情されると私の鈍感ぶりが悪いような気がしてくるのだけど。
「あ、あれは観光案内でしょう。それに、一杯護衛の人が付いてましたし、二人きりではないですよね?」

てっきり私は第一王子が私の護衛のアレックスさんを連れ回してるから、その穴埋めに彼が観光案内を務めてくれてると思ってたんだけど……ええっと、違ったの?
あれって、デートだったわけ?

慌てて詩人さんに確認を取る。
「あの、あれってデート……だったんですか?」
「はい。未婚の男女が二人きりで出歩くという事は、つまりそういう事です。大体、貴族や重要人物の連れる護衛というものは、基本的には数に入れないものですよ」
きっぱり言い切られちゃったよ、うわぁ。

「ええっと、その。済みません、そういうお誘いとは知りませんでした……」
私はぺこりと頭を下げる。
それとあの、そろそろ手を離してくれないかな? ドキドキし過ぎて手のひらに汗かきそう。

「いいえ、二人の思い出はこれから作っていけば良いですから」
にっこりといい笑顔で詩人さんが言う。
いえあの、まだ私、付き合うとは言ってないのですけれど。
どうしよう、このままだと口の上手いこの人に転がされて、いつのまにか付き合ってることになりそうなんですが。

「思い出、はあ……。男性と二人で出歩くのが即デートという事なら、ちょっと二人で出かけるのは避けたいかなー……と思います」
私は務めて平静に言った、筈だった。
「おや、照れていらっしゃる? ははは、ベルさんは意外と奥手だったのですね。いや、お可愛らしい」
でも、詩人さんの方が上手だったんだよねー。
そうやってこちらの動揺を誘ってくるとか、ずるいなぁ。
「こ、告白とか男性にされた事がないので、たしかに照れてはいますが、それが即好意に繋がる訳ではないですよ?」
彼のからかいに、私はむっとして綺麗な顔を睨む。
「……大体、二日前に目の前でヒセラさんを口説いてた人に告白されても、いまいち信用ならないですし」

私は口に出して初めて気づく。
そうか、そこが引っ掛かってたんだ。
アレックスさんの家で会った時に、私には挨拶ぐらいだったのにヒセラさんは口説いていたものだから。
てっきり、この人も私の事は子供扱いで、関係としても知り合い程度なのかなって思って、そこで距離を取ってたんだと思う。

「そうだよね、ヒセラさんみたいな落ち着いた知性派美人が好みの人が私をって、いまいちおかしいなってなるよね」
一人でうんうんと納得する。

その隣で、アレックスさんが私の手を取ってた詩人さんの手をバシッと叩き落としたかと思ったら、鬼の形相で叱り飛ばしていた。

「ドミニクス! お前はまたか! 昔からそうやってあちこちの女性に色目を使って、刺されそうになった時に何度オレが助けたと思ってる!?」
「ははは、こればかりは職業病というものでして。女性を口説くのは詩人の務めと言いますか」
「浮気性の旦那なんて冗談じゃないぞ。いい度胸だな、オレの大事な妹分を誑かすなら、オレが相手をするぞ!!」
「いやあ、怖いですね。アレックスに私が敵う訳ないではないですか」

そう言いながら、にこにこ笑顔では説得力がないよ、詩人さん?

シスコンお兄さんの怒りの声にもめげずに、彼は私の方を向くと妙に艶のある声で言った。
「まあ、ともかく私は本気です。高位冒険者のベルさんを迎える為に、に貴族の名を譲り受けたぐらいには。ですから、ベルさんは覚悟して下さいね」
私をじっとみつめながら。
「本気になった私は、なかなかしつこいですよ」
……と。
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