緑の魔法と香りの使い手

兎希メグ/megu

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17章:女神の薬師はダンジョンへ

202.女神の森のダンジョンにて

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新章公開です。今回はダンジョン回?
が、プロット修正しながらの更新になりますので、途中時間が空いてしまう時もあるかも知れません。
それでも、週一、二回は公開したいと思っていますので、よろしくお願いいたします!

再度のアナウンスですが、レジーナブックス様にてぽちのSSがアップされていますので、よろしければお読みくださいませ。

+++++++++++++

「さて、こんなもんでいいか」
急ごしらえの簡易かまどを直していたアレックスさんは、そう呟いて立ち上がる。
崩れかけていた石積みをきちんと積み直し、鍋を吊したりケトルを置いたりするトライポッドと呼ばれる三脚の調子を見たりしていた彼は、窮屈な姿勢でいたからか、大きく伸びをした。
「ごめんなさい、お手間を掛けちゃって」
夕飯の用意と、ぽちに大鍋に水を出して貰い、大量の具材を切っていた私は、キャンプテーブルの上にナイフを置いてぺこりと頭を下げた。
「いや、ベルの飯がないと、長丁場の楽しみがなくなっちまうからな。こんなのどうってことないさ」
大体、暖かい料理が出なきゃ酒飲みドランカーの奴らに怒られる、なんてアレックスさんは陽気に肩を竦めている。
私はその様子に、くすりと笑ってしまって。
「それなら、今日も頑張って料理を作らないといけませんね」
ニッと笑うアレックスさんに、私は笑顔を返した。


私達は現在、女神の森の中に居る。

ここは森の中心。

詳細な地図なんてないけど、森の魔力と同調する事で大体の位置は知れるので、それを頼りに森の中心を目指した。
この森、南側こそ海に面していて侵入が難しいけど、他の方角からは普通に歩いて入れるからね。
敵も、必ず北側から来るとも限らないし……まあ、用心もあって、深い所を目指したんだ。

そこで出会ったのが、ぽちの兄弟。
その銀の狼の群れは、今、この森のボスを務めているらしい。
あれ、狼のお母さんは? と思ったけど……ぽちの通訳を介して話を聞いたところ、彼女も高齢なので、息子にリーダーを譲って引退したんだそうだ。
世代交代ってやつだね。
交代したリーダーさんは、お母さんには体格は負けるけど、大きな銀の狼の群れはそれはそれは迫力があった。
けれど、ぽちが群れのリーダーと一騎打ちして勝った後は、割と協力的な感じ。

ともかく、ここが戦場と決めた私達は、狼の群れが巣を作る森の真ん中近くにキャンプを張って、敵が来るのに備えているというわけ。

ちなみに現在、森を覆う魔法のルールを変えていて、普通の人も女神の森の中に入れるようになっている。
とはいえ……。
まあ、こちらにも迎え撃つ準備があるもので、そう容易には突破出来ないように、主の権限で細工させて貰っているんだけどね。

「さて、料理を進めておきますか」
私は食欲旺盛な冒険者達の為に料理を再開する。

その時、大きな箱状の物体から、ざらついたノイズと共に男性の声が聞こえた。
『……こちら酒飲み班のヘリー、先程ローブ男を発見。奴さん、D地点を突破したようだ。これで、森の半分は抜けたな。たったの二日でここまで来れるとは、なんつーか、根性あるわ』
大きな箱状の通信魔道具を見つめる私の前で、それは見知った人の声を届けた。
事前に現在の仕様である、迷いの森を体験した酒飲みドランカーチームのヘリーさんが通信魔道具の先で嘆息する。
『あいつ、配下のモンスターの勘と物量でこのまま森の魔力を突破するみたいだぞ。森の魔法で迷ったり、侵攻速度についていけないモンスターは、そのまま切り捨てて速度優先でいくようだ』

私はその言葉に息を飲んだ。
そんな……ローブの男はテイマーなのでしょう?
なのに、自分を信じて力を貸してくれているモンスターを、捨ててまで先を急ぐというの?

ヘリーさんの報告は続く。
『……ま、正直なところ、この調子で配下を捨ててくれれば決戦で俺らの負担も減るし、そりゃいい事だが……噂の収集癖は本物らしい、数も質も揃ってやがる。はてさて、そっちに辿り着くまでに、どれだけ削れるもんかね。あ、どうやらおまけで付いてきたらしい暗殺者の方の処理は終わってる。奴らは普通に迷ってたからな』
そこでアレックスさんが親機を操作し、返答した。
「こちらキャンプ前のアレックス。男の動きは把握した。夕食を楽しみに、引き続き監視を続けてくれ」
『了解。ベルちゃんの飯を楽しみにしとくわ。通信終わり』

そして、大きな通信魔道具から音声が途絶える。

しんと静まったキャンプ地に居るのは、アレックスさんと、ぽちと、私だけ。
今の時間は狼たちも餌を探しに狩りに行ってるから、木々に囲まれたこの場所は、とても静かだ。

「……敵を待ち構えて、今日で三日目か」
私はキャンプグッズで夜ご飯を用意しながらぽつりと呟く。
それを拾ったのか、通信を終えたアレックスさんがこちらを向いて優しい声で言った。
「どうした、疲れたか? まあ、あんな変質者に命を狙われたら、気疲れもするよな」
じんわりと嬉しくなるような気遣いに、私は簡易かまどの火をぽちにお願いしつつ、笑顔で答える。
「ううん。アレックスさんも、ぽちも、兄弟達も居る訳だし、全然平気だけど。……ただどうしてこんな事になったのかなぁって思っちゃって。大事にしたい筈の森もぽちや皆も、結局巻き込んで……少しばかり、落ち込んでいるかな」
ぽちのふわふわの背を撫でながら、自嘲する。


何故今、私達がここに居るのか?
私は、一週間前の事を思い出す。
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