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三章 現実、月曜日。冷たい場所に閉じ込められました。
七話 現実、月曜日。昼休みの陰謀説の首謀者は私?(2)
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皆の注目が集まっているのが愉快なのか、楽しげな顔のウワサ好きな彼女は、ここで大きな爆弾を落とした。
「まあ、ここからが本題よ。これがねぇ、どう勘違いしたものだか、灰谷君がねぇ、『織部の嫌がらせだ、俺とサキの熱愛を壊したんだ! サキは俺を愛してたのにあの野郎が俺の悪口を吹き込んで俺達を引き裂いたんだ! ふてえ女なんだよ、あのクソ女は!』 とまあ、聞いた事もない恋愛破局を言い出した訳よ」
その言葉に、誰もが凍り付いた。
そしてゆるゆると動き出すと、それぞれ思った事を言い出す。
「……え、何それ。聞いた事無いんだけれど」
「サキちゃんと、灰谷君が?」
「あの二人、せいぜい親分と手下ってとこでしょ。勿論、サキちゃんが親分で。あたし、サキちゃんに顎で使われてる灰谷君しか見た事ないんだけれど」
「そうよねぇ、サキちゃんは灰谷君が尻尾振って寄ってきても、プレゼント持ってきても、告白しても、全く、これっぽちも相手してなかったし。いつでもハイハイお疲れーって。灰谷君が季節ごとにデートに誘っても、一度もオッケーしてなかったわよね?」
「あれ、塩対応って奴でしょ。何かの昼番組で見たわ」
サワサワと話し合うパートさん達は皆気まずいような、困ったような顔をしている。
当然伊都も、困っていた。
(灰谷さんとまともに話した事もないのに……何故私が話に出てくるのかしら)
突然、話に登場させられた伊都は、意味が分からないまま耳を傾けつつ、皆のカップに大きな薬缶でお茶を入れて回る。
「あら、伊都ちゃんありがと。まあ、灰谷君は高校卒業してすぐに気持ちを決めてたらしいけどね。ここを継ぐとか、サキを嫁にして俺が社長だとか何とか……サキちゃんの意思を全く無視して勝手に決めつけて、社長の直弟子で自称、時期社長として働いてるぐらいだから……男二人だけは、もう「そのつもり」 だったんじゃないかしらね」
ふう、と煎れたばかりのお茶に息を吹きかけつつ、情報通なパートさんは遠い目をしながら、灰谷の一途な恋と、社長の決定について語る。
「でも、あたしもう二十年はここに務めてるけど、サキちゃんは大学に入る頃には家を出てたし、東京の会社に勤めた時にも出ずっぱりで姿なんか十年ぐらい見てなかったし、サキちゃんが家出てから二人がひそかに会ってたなんて話しも聞かないよ? 灰谷君、サキちゃんの東京での住所も知らなかったっぽいし」
「そうだねぇ。サキちゃんの姿が見えなくなってからは、灰谷君も気落ちして始終ため息ばかりでさ。諦めたもんかと」
「小中高と、あたしもパート勤め長いからサキちゃんの成長は見てきたけど、他に恋人がいた話はちらほらあっても相手は灰谷君じゃなかったよねぇ……何人か、恋人の姿見たことすらあるし」
「灰谷君の事は、いつも困った顔で見てたわよね?」
かしましいパートさん達は過去を振り返りつつ、残酷な現実を語る。
「と言う事は、つまり高校卒業……十八歳として、足かけ十四年の片思いって事? それはそれで凄いわねぇ」
しみじみ、悲しい事を呟いたのは、いったい誰だったか。
お茶を配り終え、席に戻って弁当を片づける伊都も、聞こえてきた話に硬直していた。
(え、灰谷さんは、サキさんが好きだったの……? てっきり、社長の娘さんだから、丁寧に扱ってるだけだと思っていたのだけれど)
「まあ、ここからが本題よ。これがねぇ、どう勘違いしたものだか、灰谷君がねぇ、『織部の嫌がらせだ、俺とサキの熱愛を壊したんだ! サキは俺を愛してたのにあの野郎が俺の悪口を吹き込んで俺達を引き裂いたんだ! ふてえ女なんだよ、あのクソ女は!』 とまあ、聞いた事もない恋愛破局を言い出した訳よ」
その言葉に、誰もが凍り付いた。
そしてゆるゆると動き出すと、それぞれ思った事を言い出す。
「……え、何それ。聞いた事無いんだけれど」
「サキちゃんと、灰谷君が?」
「あの二人、せいぜい親分と手下ってとこでしょ。勿論、サキちゃんが親分で。あたし、サキちゃんに顎で使われてる灰谷君しか見た事ないんだけれど」
「そうよねぇ、サキちゃんは灰谷君が尻尾振って寄ってきても、プレゼント持ってきても、告白しても、全く、これっぽちも相手してなかったし。いつでもハイハイお疲れーって。灰谷君が季節ごとにデートに誘っても、一度もオッケーしてなかったわよね?」
「あれ、塩対応って奴でしょ。何かの昼番組で見たわ」
サワサワと話し合うパートさん達は皆気まずいような、困ったような顔をしている。
当然伊都も、困っていた。
(灰谷さんとまともに話した事もないのに……何故私が話に出てくるのかしら)
突然、話に登場させられた伊都は、意味が分からないまま耳を傾けつつ、皆のカップに大きな薬缶でお茶を入れて回る。
「あら、伊都ちゃんありがと。まあ、灰谷君は高校卒業してすぐに気持ちを決めてたらしいけどね。ここを継ぐとか、サキを嫁にして俺が社長だとか何とか……サキちゃんの意思を全く無視して勝手に決めつけて、社長の直弟子で自称、時期社長として働いてるぐらいだから……男二人だけは、もう「そのつもり」 だったんじゃないかしらね」
ふう、と煎れたばかりのお茶に息を吹きかけつつ、情報通なパートさんは遠い目をしながら、灰谷の一途な恋と、社長の決定について語る。
「でも、あたしもう二十年はここに務めてるけど、サキちゃんは大学に入る頃には家を出てたし、東京の会社に勤めた時にも出ずっぱりで姿なんか十年ぐらい見てなかったし、サキちゃんが家出てから二人がひそかに会ってたなんて話しも聞かないよ? 灰谷君、サキちゃんの東京での住所も知らなかったっぽいし」
「そうだねぇ。サキちゃんの姿が見えなくなってからは、灰谷君も気落ちして始終ため息ばかりでさ。諦めたもんかと」
「小中高と、あたしもパート勤め長いからサキちゃんの成長は見てきたけど、他に恋人がいた話はちらほらあっても相手は灰谷君じゃなかったよねぇ……何人か、恋人の姿見たことすらあるし」
「灰谷君の事は、いつも困った顔で見てたわよね?」
かしましいパートさん達は過去を振り返りつつ、残酷な現実を語る。
「と言う事は、つまり高校卒業……十八歳として、足かけ十四年の片思いって事? それはそれで凄いわねぇ」
しみじみ、悲しい事を呟いたのは、いったい誰だったか。
お茶を配り終え、席に戻って弁当を片づける伊都も、聞こえてきた話に硬直していた。
(え、灰谷さんは、サキさんが好きだったの……? てっきり、社長の娘さんだから、丁寧に扱ってるだけだと思っていたのだけれど)
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