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三章 現実、月曜日。冷たい場所に閉じ込められました。
20話 現実、月曜日。大男に捕まりました。(3)
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唖然とするしか無かった。
それは余りに理不尽な言いようだ。
サキという個人を好いた訳ででなく、社長という席の為だけに「モノ」 として利用する。
サキの気持ちなど無視して、ただ会社を得る為に。
そう灰谷は言ったのだ。
(サキさんは物ではないわ。ここには、大事なものがあったのではないの。皆さんと信頼を築いてきたのではないの。どうして全てを壊すの、灰谷さん……)
狂える男を前にして、伊都は震え続けるしかない。
……そこでピッと、機械的な音がした。
ゆっくりと振り向けば……いつの間に来たものか、白銀がいつもの慇懃な笑顔のまま佇んでいる。
「随分と、狡賢い事を考えておられる」
録画しましたよ、と、彼は四角いものを振る。それは集音マイクを装備した大型画面のスマホ……ファブレットとも言われるサイズのものだ。
彼はゆっくりとした優雅な動きでこちらへ寄ると、伊都に「失礼」 と声を掛け、その手を取ってそっと立たせる。
「白銀さん、何故……」
「ご友人がたに、応援として呼ばれまして」
にこりと笑みを浮かべる彼は、常のように紳士な態度を崩さない。
彼は伊都を支えながら、優雅な獣のように視線を流して、その男の顔を睨みつけた。
「貴方が伊都さんを工場に連れ出したと聞いた時には、どうしてくれようと思いましたが。素直に計画を話して頂けて何よりでした……と、アップロード完了ですね。次は、と」
彼は慣れた様子で灰谷の犯行自白の一部始終を収録し、そして何処かのサーバーにそれを保存したようだ。「仕事柄、記録癖がありますので」 ……営業職兼デザイナーの彼は、常日頃から気になるものを写真や動画にして記録する癖があるのだと言う。
その、おかしなぐらいに落ち着いた様子に、伊都は忘れていた息を取り戻す。
深く息をする伊都を優しく見守る彼は慣れた様子で画面を操作し何かを終えて、灰谷に視線を戻す。
怒りに顔色を変えた灰谷は、身を震わせながら白銀の肩を掴んだ。
「おや、痛いですね。そんなに強く掴まれると、痣になりそうです」
近づいてきた灰谷に怯える伊都をそっと背に庇いながら、平然として彼は目の前の大男に対峙した。
「テメエ……っ」
灰谷はファブレットを掴み取り、振りかぶると工場の床に叩きつける。
「おや、最近取り替えたばかりなのですけれど、困りましたね。見事にバラバラです」
ついでに器物破損で訴えましょうか、と。余り残念でもなさそうに白銀が言う。
「……ふざけやがってっ。織部ぇっ! 手前ぇもこの男に庇われていい気になってんじゃねぇぞぉっ」
カッとなった灰谷は、胴間声で叫びたてながら、白銀を掴んでいた手を離し、陰に隠れる伊都を冷蔵室に押し込もうとする。
その手を阻み、伊都を横手へとゆっくり押し出した白銀は、伊都を巻き込むまいと自ら冷蔵室に踏み込んだ。
「ははっ、掛かった」
灰谷は、歪んだ顔で笑った。
大男は馬鹿力で分厚く重い扉を閉じに掛かる。伊都は、今にも閉じこめられそうになっている白銀を追って細い隙間から身を踊らせた。
……そうして、二人は内からは開かない、冷たい密室に閉じこめられたのだ。
それは余りに理不尽な言いようだ。
サキという個人を好いた訳ででなく、社長という席の為だけに「モノ」 として利用する。
サキの気持ちなど無視して、ただ会社を得る為に。
そう灰谷は言ったのだ。
(サキさんは物ではないわ。ここには、大事なものがあったのではないの。皆さんと信頼を築いてきたのではないの。どうして全てを壊すの、灰谷さん……)
狂える男を前にして、伊都は震え続けるしかない。
……そこでピッと、機械的な音がした。
ゆっくりと振り向けば……いつの間に来たものか、白銀がいつもの慇懃な笑顔のまま佇んでいる。
「随分と、狡賢い事を考えておられる」
録画しましたよ、と、彼は四角いものを振る。それは集音マイクを装備した大型画面のスマホ……ファブレットとも言われるサイズのものだ。
彼はゆっくりとした優雅な動きでこちらへ寄ると、伊都に「失礼」 と声を掛け、その手を取ってそっと立たせる。
「白銀さん、何故……」
「ご友人がたに、応援として呼ばれまして」
にこりと笑みを浮かべる彼は、常のように紳士な態度を崩さない。
彼は伊都を支えながら、優雅な獣のように視線を流して、その男の顔を睨みつけた。
「貴方が伊都さんを工場に連れ出したと聞いた時には、どうしてくれようと思いましたが。素直に計画を話して頂けて何よりでした……と、アップロード完了ですね。次は、と」
彼は慣れた様子で灰谷の犯行自白の一部始終を収録し、そして何処かのサーバーにそれを保存したようだ。「仕事柄、記録癖がありますので」 ……営業職兼デザイナーの彼は、常日頃から気になるものを写真や動画にして記録する癖があるのだと言う。
その、おかしなぐらいに落ち着いた様子に、伊都は忘れていた息を取り戻す。
深く息をする伊都を優しく見守る彼は慣れた様子で画面を操作し何かを終えて、灰谷に視線を戻す。
怒りに顔色を変えた灰谷は、身を震わせながら白銀の肩を掴んだ。
「おや、痛いですね。そんなに強く掴まれると、痣になりそうです」
近づいてきた灰谷に怯える伊都をそっと背に庇いながら、平然として彼は目の前の大男に対峙した。
「テメエ……っ」
灰谷はファブレットを掴み取り、振りかぶると工場の床に叩きつける。
「おや、最近取り替えたばかりなのですけれど、困りましたね。見事にバラバラです」
ついでに器物破損で訴えましょうか、と。余り残念でもなさそうに白銀が言う。
「……ふざけやがってっ。織部ぇっ! 手前ぇもこの男に庇われていい気になってんじゃねぇぞぉっ」
カッとなった灰谷は、胴間声で叫びたてながら、白銀を掴んでいた手を離し、陰に隠れる伊都を冷蔵室に押し込もうとする。
その手を阻み、伊都を横手へとゆっくり押し出した白銀は、伊都を巻き込むまいと自ら冷蔵室に踏み込んだ。
「ははっ、掛かった」
灰谷は、歪んだ顔で笑った。
大男は馬鹿力で分厚く重い扉を閉じに掛かる。伊都は、今にも閉じこめられそうになっている白銀を追って細い隙間から身を踊らせた。
……そうして、二人は内からは開かない、冷たい密室に閉じこめられたのだ。
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