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五章 毎日、毎日、貴方を好きになる。
八話 彼は真相を語る(4)
しおりを挟む昨年の冬に彼と初めて会った。
春から夏へ掛けて、毎週末に二人で話し合ってきた。
商店街の祭りの広報。本来何の関係もないそんな役目、きっと巻き込まれた彼だって嫌々やっていただろうに。
彼はいつでも、どんな些細な事でも疑問を拾い上げ、導き、伊都を前へと進ませてくれた。
……そんな彼と一緒だったから、伊都にとっては楽しかったけれど、彼にとっては足手まといの辛気くさいだけの女だと、そう思われていてもおかしくなくて。
「どうして、何で。こんな私を好きだなんて言うんですか」
彼の腕に囲われたまま、伊都はまた自信なさげに自嘲する。
伊都が今こうして、間近に男性から暴力を受けたばかりだというのにトラウマから逃げずに男性の前へ立っていられるのは、男は怖いだけでないと示し続けてくれた彼の姿があったからだ。
次第に尊敬を抱き、その想いが恋に昇華した。だから自分の気持ちには自信があるのだけれど。
「私は白銀さんを、す……き……ですけれど、好かれる理由なんて思いつきません」
結局は、そう。自信がなくて。
言った途端、彼にぎゅっと抱きしめられてしまった。
伊都の苦手ないきなりの強い拘束だが、他の誰でもない彼にされては、恐ろしさより喜びが勝ってしまう。
「……あんた、それ素で言ってるんだよな?」
そんな事を、男の胸元で囁いたらどうなるかなど、二十五にもなって分かっていないから、手出しの仕様が無かったのだと彼はぼやく。
「好きな女にしおらしく好きなんて言われて、喜ばない男はいない」
その切なげな表情と。
その艶やかな低い声。
「なあ、本当に分からないか」
瞳に滲む愛情を感じたら、さすがの伊都も気づいてしまう。
ああ、彼は……。
「……本当、に?」
彼の目を至近から見つめる。殆ど表情の変わらない彼が、一番感情を示すもの。
それは真っ直ぐに、強いぐらいに伊都を見ていた。
綺麗な黒の瞳だ。夢に見た明るい青ではなく、白銀たるものを確証づける色。
「ああ」
短く、たった一言。
それで伊都には通じた。
おそるおそる、手を伸ばした。
彼の首に縋りつくようにしてぎゅっと抱きしめる。自分から、求める。
二人は、互いの体温を確かめ合うように、しばらくそうして抱き締めあっていた。
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