110 / 220
六章 貴方と現実で抱き合う日
二話 貴方と現実で抱き合う日(2)
しおりを挟む
現実で、ベッドの上で、二人。
その状況に改めて動揺し、自然と頬が赤くなるも、彼は相変わらずの無表情で、ほら、と水の入ったグラスを突き出す。
差し出されたグラスを受け取り、伊都は乾いた喉を潤して、ひと心地つく。
空になったグラスを伊都の手から回収し、サイドボードに置いた彼は片手を突いて、ずいと身体を近づけた。
端正な顔が近づき、形の良い唇が開かれると、彼の赤い舌が伊都の水分で潤った唇を舐める。
伊都は驚きに目を見開く。
「私を抱いて下さい、か。一体、誰にそんな殺し文句を習ってきたもんだか」
彼は切なげに目を細めて、艶やかな低音を耳元に吹き込む。
「……あんな風に煽られたら、男は止まらなくなるぞ」
淡い間接照明の中、よく見れば彼はその首に青銀色のニットを巻いている。
それは、伊都が……魔女がジルバーへと贈ったネッカチーフをイメージして編んだものだ。
伊都が編んだものを、彼が使ってくれている。
こんな時だが、酷く嬉しくなって伊都は真っ赤な顔のまま微笑んでしまった。
ずっと願っていたことだ。
二人で夢を見始めたその時から……彼を想い、自分のポリシーを曲げてまで、無駄になるかも知れないそのネッカチーフを編み出したあの日から。
伊都はきっとずっと、彼に何の代償もなく何かを、自らを差し出したかった。
それは伊都という硬い性格の女性にしては珍しく、他の人と比べても、随分とハードルの高い試み。
他者への依存を極力断つ事で人との諍いを回避し、日々を平穏に静かに過ごすことに腐心する。そんな、どこか達観した人間が、白銀から……恋する相手から、自らが作ったものを纏い喜ぶ姿が見たいと思う事自体珍しいのである。
(こんな事を考えるなんて、私も随分と恋愛脳になってきたみたい)
全く本当に、伊都らしくない。
らしくない事を実行しらしくもなく相手への依存を表に出してしまう。それが恋愛なのだと、伊都は知る。
「笑うなんて、随分余裕があるな」
ぐいと身体を抱き込まれれば、上質なレース糸で編まれたそれが伊都の頬に触れる。
「だって……嬉しくて」
白い指先を彼の首元に伸ばして、伊都は彼に「似合ってる」 と言ってまた笑う。
彼はその言葉に、何故か動きを止めた。
「恐ろしいな、あんた。これが計算でなく素とはな……」
壮絶な色気を放っていた筈の彼は、伊都を抱き込んだままため息を吐いた。
(ええと……本当に、どうしてこんな事になっているのかしら?)
彼の脱力した姿に、少しばかり余裕を取り戻した伊都は、楽しかった筈の故郷での時間を思い返す。
その状況に改めて動揺し、自然と頬が赤くなるも、彼は相変わらずの無表情で、ほら、と水の入ったグラスを突き出す。
差し出されたグラスを受け取り、伊都は乾いた喉を潤して、ひと心地つく。
空になったグラスを伊都の手から回収し、サイドボードに置いた彼は片手を突いて、ずいと身体を近づけた。
端正な顔が近づき、形の良い唇が開かれると、彼の赤い舌が伊都の水分で潤った唇を舐める。
伊都は驚きに目を見開く。
「私を抱いて下さい、か。一体、誰にそんな殺し文句を習ってきたもんだか」
彼は切なげに目を細めて、艶やかな低音を耳元に吹き込む。
「……あんな風に煽られたら、男は止まらなくなるぞ」
淡い間接照明の中、よく見れば彼はその首に青銀色のニットを巻いている。
それは、伊都が……魔女がジルバーへと贈ったネッカチーフをイメージして編んだものだ。
伊都が編んだものを、彼が使ってくれている。
こんな時だが、酷く嬉しくなって伊都は真っ赤な顔のまま微笑んでしまった。
ずっと願っていたことだ。
二人で夢を見始めたその時から……彼を想い、自分のポリシーを曲げてまで、無駄になるかも知れないそのネッカチーフを編み出したあの日から。
伊都はきっとずっと、彼に何の代償もなく何かを、自らを差し出したかった。
それは伊都という硬い性格の女性にしては珍しく、他の人と比べても、随分とハードルの高い試み。
他者への依存を極力断つ事で人との諍いを回避し、日々を平穏に静かに過ごすことに腐心する。そんな、どこか達観した人間が、白銀から……恋する相手から、自らが作ったものを纏い喜ぶ姿が見たいと思う事自体珍しいのである。
(こんな事を考えるなんて、私も随分と恋愛脳になってきたみたい)
全く本当に、伊都らしくない。
らしくない事を実行しらしくもなく相手への依存を表に出してしまう。それが恋愛なのだと、伊都は知る。
「笑うなんて、随分余裕があるな」
ぐいと身体を抱き込まれれば、上質なレース糸で編まれたそれが伊都の頬に触れる。
「だって……嬉しくて」
白い指先を彼の首元に伸ばして、伊都は彼に「似合ってる」 と言ってまた笑う。
彼はその言葉に、何故か動きを止めた。
「恐ろしいな、あんた。これが計算でなく素とはな……」
壮絶な色気を放っていた筈の彼は、伊都を抱き込んだままため息を吐いた。
(ええと……本当に、どうしてこんな事になっているのかしら?)
彼の脱力した姿に、少しばかり余裕を取り戻した伊都は、楽しかった筈の故郷での時間を思い返す。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる