編み物魔女は、狼に恋する。〜編み物好きOLがスパダリ狼さんに夢と現実で食べられる話。

兎希メグ/megu

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六章 貴方と現実で抱き合う日

二話 貴方と現実で抱き合う日(2)

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 現実で、ベッドの上で、二人。
 その状況に改めて動揺し、自然と頬が赤くなるも、彼は相変わらずの無表情で、ほら、と水の入ったグラスを突き出す。
 差し出されたグラスを受け取り、伊都は乾いた喉を潤して、ひと心地つく。

 空になったグラスを伊都の手から回収し、サイドボードに置いた彼は片手を突いて、ずいと身体を近づけた。
 端正な顔が近づき、形の良い唇が開かれると、彼の赤い舌が伊都の水分で潤った唇を舐める。
 伊都は驚きに目を見開く。
「私を抱いて下さい、か。一体、誰にそんな殺し文句を習ってきたもんだか」

 彼は切なげに目を細めて、艶やかな低音を耳元に吹き込む。
「……あんな風に煽られたら、男は止まらなくなるぞ」
 淡い間接照明の中、よく見れば彼はその首に青銀色のニットを巻いている。
 それは、伊都が……魔女がジルバーへと贈ったネッカチーフをイメージして編んだものだ。

 伊都が編んだものを、彼が使ってくれている。
 こんな時だが、酷く嬉しくなって伊都は真っ赤な顔のまま微笑んでしまった。
 
 ずっと願っていたことだ。
 二人で夢を見始めたその時から……彼を想い、自分のポリシーを曲げてまで、無駄になるかも知れないそのネッカチーフを編み出したあの日から。
 伊都はきっとずっと、彼に何の代償もなく何かを、自らを差し出したかった。
 それは伊都という硬い性格の女性にしては珍しく、他の人と比べても、随分とハードルの高い試み。
 他者への依存を極力断つ事で人との諍いを回避し、日々を平穏に静かに過ごすことに腐心する。そんな、どこか達観した人間が、白銀から……恋する相手から、自らが作ったものを纏い喜ぶ姿が見たいと思う事自体珍しいのである。
(こんな事を考えるなんて、私も随分と恋愛脳になってきたみたい)
 全く本当に、伊都らしくない。
 らしくない事を実行しらしくもなく相手への依存を表に出してしまう。それが恋愛なのだと、伊都は知る。
 
「笑うなんて、随分余裕があるな」
 ぐいと身体を抱き込まれれば、上質なレース糸で編まれたそれが伊都の頬に触れる。

「だって……嬉しくて」
 白い指先を彼の首元に伸ばして、伊都は彼に「似合ってる」 と言ってまた笑う。
 彼はその言葉に、何故か動きを止めた。

「恐ろしいな、あんた。これが計算でなく素とはな……」
 壮絶な色気を放っていた筈の彼は、伊都を抱き込んだままため息を吐いた。


(ええと……本当に、どうしてこんな事になっているのかしら?)
 彼の脱力した姿に、少しばかり余裕を取り戻した伊都は、楽しかった筈の故郷ティエラナタルでの時間を思い返す。
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