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六章 貴方と現実で抱き合う日
十二話 貴方と現実で抱き合う日(3)
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彼はゆっくりと確かめるように彼女に触れる。ふっと口端だけ上げる独特の笑みを見せる彼は、余裕のない目つきをしている。現実に見る黒い瞳はいつだって穏やかなものであったから、少し新鮮だ。
怖いくらいの強い眼差しに見つめられながら、伊都は与えられる刺激に震え、必死に彼にしがみつく。
間接照明のぼんやりとした光の中でも、端正な彼の顔はよく映える。
伊都はこの身体を愛撫するのは間違いなく彼であると刻み付けるよう、大好きな匂いと慣れた肌の感触を求めて、彼の肩元に頬を擦りつけた。
伊都の身体は快感のみでなく、怯えでかすかに震えていた。
しかし、優しく、あるいは強引に、口づけや愛撫で高められた身体は、男を迎え入れるべく自然に準備を始めている。
「しろ、がねさん……」
「どうした」
「こわい……の」
気持ちいいけれど、それが怖い。体は確かに感じているのに、怯えばかりが目立つようになっていく。
「怖いのか」
「痛い……記憶しか、なくて」
ベッドの上で、彼が覆い被さるように伊都を囲う。夢の中では散々に経験した距離だが、現実となってはやはり緊張が伴った。
(やっぱり……痛いのよ、ね)
狼の前では、これは夢だからと開き直れたけれど。
(彼でも、怖い、わ)
伊都にとって現実の経験は痛みを伴うものであり、一方的に奪われるもの、暴行でしかなかったから……この先に進む事を内心にためらっていた。
伊都はぽつりと、彼の声に応えた。
「だから、そう……怖い、わ」
「そうか。なら……もう少し、気持ちいい事だけするか」
「やっ……」
伊都は感触が違うそれにまた怯えを示すが、彼は容赦がなかった。
「痛いのは嫌なんだろう」
こくこくと頷けば、なら協力しろと彼は言うから、伊都は彼の身体にしがみついて必死に彼の行為を受け入れる。
現実ではいつだって痛い行為でしかなくて、伊都はだから性交渉が苦手のままで、嫌な顔をされたのに。
「ん……痛く、ないわ」
白銀は焦らなかった。
伊都の身体が十分に解れるまで、彼は自身を放ってでも、準備を続けていく。
そんな白銀に、ようやく伊都は怯えを忘れた。
(ああ、そうなんだ。本当に私って、性欲処理に使われていただけだったんだ)
それは過去の記憶だ。
現実の身体は、いつだって乱暴に扱われていた。伊都を男性不審に陥らせた、その男は。こちらが幾ら怖がっても痛がってもどうでもいいというように、乱暴に行為に及んだ。
だから心も身体も、いつだって痛くて辛くて怖くて。
……伊都は、自分の欲だけを解消する、男の身勝手に消費される身体が厭わしく、痛くて辛いだけの性交が、本当に苦手だった。
だからこんな風に、労られ、励まされ、大凡現実では初めて、身体が自然と開いていくのを感じて……。
(……もう、きっと私、彼となら怖くないわ)
伊都は身体も心も絆されていくのを感じる。
あれはきっと、本当の意味での愛の交感ではなかったのだ。伊都はそう納得した。
あれはただの暴力であり、一歩的な欲の解消で、情を交わした訳ではない。
だからこそ、気遣われ花開く為の準備をしている今は、これ程に満ち足りている。
じっくりと時間を掛け、彼は身体を開いてくれる。そんな中で芽生えた信頼が伊都の気持ちを押し上げ、悲観的な気持ちすらポジティブな心情へと変わっていった。
(相手が白銀さんだから……私を大事にしてくれる人だから。もう、きっと平気だわ)
怖いくらいの強い眼差しに見つめられながら、伊都は与えられる刺激に震え、必死に彼にしがみつく。
間接照明のぼんやりとした光の中でも、端正な彼の顔はよく映える。
伊都はこの身体を愛撫するのは間違いなく彼であると刻み付けるよう、大好きな匂いと慣れた肌の感触を求めて、彼の肩元に頬を擦りつけた。
伊都の身体は快感のみでなく、怯えでかすかに震えていた。
しかし、優しく、あるいは強引に、口づけや愛撫で高められた身体は、男を迎え入れるべく自然に準備を始めている。
「しろ、がねさん……」
「どうした」
「こわい……の」
気持ちいいけれど、それが怖い。体は確かに感じているのに、怯えばかりが目立つようになっていく。
「怖いのか」
「痛い……記憶しか、なくて」
ベッドの上で、彼が覆い被さるように伊都を囲う。夢の中では散々に経験した距離だが、現実となってはやはり緊張が伴った。
(やっぱり……痛いのよ、ね)
狼の前では、これは夢だからと開き直れたけれど。
(彼でも、怖い、わ)
伊都にとって現実の経験は痛みを伴うものであり、一方的に奪われるもの、暴行でしかなかったから……この先に進む事を内心にためらっていた。
伊都はぽつりと、彼の声に応えた。
「だから、そう……怖い、わ」
「そうか。なら……もう少し、気持ちいい事だけするか」
「やっ……」
伊都は感触が違うそれにまた怯えを示すが、彼は容赦がなかった。
「痛いのは嫌なんだろう」
こくこくと頷けば、なら協力しろと彼は言うから、伊都は彼の身体にしがみついて必死に彼の行為を受け入れる。
現実ではいつだって痛い行為でしかなくて、伊都はだから性交渉が苦手のままで、嫌な顔をされたのに。
「ん……痛く、ないわ」
白銀は焦らなかった。
伊都の身体が十分に解れるまで、彼は自身を放ってでも、準備を続けていく。
そんな白銀に、ようやく伊都は怯えを忘れた。
(ああ、そうなんだ。本当に私って、性欲処理に使われていただけだったんだ)
それは過去の記憶だ。
現実の身体は、いつだって乱暴に扱われていた。伊都を男性不審に陥らせた、その男は。こちらが幾ら怖がっても痛がってもどうでもいいというように、乱暴に行為に及んだ。
だから心も身体も、いつだって痛くて辛くて怖くて。
……伊都は、自分の欲だけを解消する、男の身勝手に消費される身体が厭わしく、痛くて辛いだけの性交が、本当に苦手だった。
だからこんな風に、労られ、励まされ、大凡現実では初めて、身体が自然と開いていくのを感じて……。
(……もう、きっと私、彼となら怖くないわ)
伊都は身体も心も絆されていくのを感じる。
あれはきっと、本当の意味での愛の交感ではなかったのだ。伊都はそう納得した。
あれはただの暴力であり、一歩的な欲の解消で、情を交わした訳ではない。
だからこそ、気遣われ花開く為の準備をしている今は、これ程に満ち足りている。
じっくりと時間を掛け、彼は身体を開いてくれる。そんな中で芽生えた信頼が伊都の気持ちを押し上げ、悲観的な気持ちすらポジティブな心情へと変わっていった。
(相手が白銀さんだから……私を大事にしてくれる人だから。もう、きっと平気だわ)
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